4-17 不気味な傭兵と接触し、私はやばい物を感じる
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4-17 不気味な傭兵と接触し、私はやばい物を感じる
『兄貴』とビルの相手をした二人は、生きているのである。他の四人は、残念ながら地面の下で来世に期待してもらう事になった。
「ヴィー、少々容赦がありませんでしたね」
「……女性を侮るような男には相応しい最後だったでしょう。それに、生まれ育ちを言い訳に悪さをする人は、死んでやり直す方が本人の為だと思うわ」
「そこは否定しません。神の救済を前倒しでお手伝いしたわけですね」
いやほら『兄貴』、そんな目で見ないでちょうだい。私は悪くない、お前らが悪い。
『兄貴』が口にしていた「やばいあいつら」の隠れ家について、凡そ見当も付くという話で『兄貴』だけは逃がす事にした。え、二人は……賞金になってもらいたいじゃない?
「とりあえず、『ハベル』に戻って、二人を引き渡すわ」
「そうですね。今日は、宿はどうします?」
時間的には戻って引き渡して報告を書くなどすると……時間がかかる。それに、冒険者ギルドで調査依頼を受けておく方が良い。
「『兄貴』は馬車泊と野営のどっちがいい?」
「……野営でお願いします……」
ビルが調書作成に協力している間に、私がギルドで調査依頼を受け、食料を買い込んで出立する感じだろうか。目標を確認後、『兄貴』は解放する事にしようか。
「あんたが、傭兵団にタレ込んだりしないでしょうね」
「しねぇよ……一人で顔出したら……生きて戻れる気がしねぇ」
そんな感じで、私たちで戻る事にした。
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ビルが街の守備隊に捕まえた野盗の生き残りとして二人を引き渡し、調書を作成している間、予定通り冒険者ギルドで『謎の傭兵団』の調査依頼を私は引き受けることにした。
冒険者証を見せ、「本人ですか?」と失礼な受付嬢の質問に魔術で軽く応えて上げる。まあ、天井まで風魔術で持ち上げてあげれば、涙目で『大変失礼いたしました』と大いに謝罪された。
――― 最初から、疑わなければ怖い目見ずにすんだのにね。
なんとなく、街の人の気質と冒険者が寄り付かない理由が透けて見えたが、依頼に色は付いていないので、特に問題は無い。
「因みに、この依頼、他の冒険者も受けているんでしょ?」
その依頼書はやや色あせて変色し始めている。掲載日が掛かれていないので断定はできないが、一ケ月やそこらではないだろう。
「……は、はい!! 実は、もう半年も依頼が滞っておりまして……」
受けた冒険者が皆帰ってこないので、地元の冒険者は誰も受けないのだという。最初は星二つの調査依頼が三つに格上げされたのでなおさらだ。それなのに、成功報酬のみ、尚且つ価格据置らしい……依頼主は自分で行けばいいと思う。
「何か、情報はないの? 襲われた場合の規模とか」
受付嬢は小声で申し訳なさそうに話し始める。
「……実は……生存者の証言が皆無なのです。足跡などから、かなりの規模……三十人以上と推定されています。騎乗も十人くらいは含まれているので、小隊規模以上の傭兵団だと思われます……」
つまり、四十人から五十人は稼働戦力であり、拠点の警備や武具のメンテなんかに更にその半分ほどの人間が関わっている可能性があるということだ。伯爵家程度なら騎士団規模だね。
「じゃあ、こちらも本格的に傭兵雇って討伐するしかないんじゃない?」
「街の評議会が結論を先延ばしにしています……被害はまだ、小さな商会が中心で、自分たちは余り被害にあっていないので……」
傭兵を雇うには金もかかり、税金も増える。自分たちに被害が出るまで、支出は抑えたいってところだろうか。世知辛いね。
場所は皆目わからないわけではない。街の前を流れるエーベ川の対岸は別の貴族の領地であり、以前は家士であった下級貴族の城塞が放棄されているという。恐らく、そこが調査対象の傭兵団のアジトとなっていると思われている。
「『兄貴』に案内してもらいましょうか」
「ヴィー、守備隊から奇妙な情報を聞きました」
傭兵団の首領は男だが、幹部に女がいるという。可能性としては、首領の愛人、若しくは魔術師ではないかというのだ。
「この街ではないが、別の街でそれらしき集団が買い物に来たことがあって、それを見た住人の情報だそうだ」
「なんでそいつらが傭兵団? この辺りで商人襲っているってわかったのかな」
隠す気もないらしく、盗品を堂々と下取りさせているらしい。この街の官憲は公爵領や隣の貴族領でつかまえること等できない。故に、冒険者への依頼をするしかないという事なのだろう。
馬車に戻ると、早速移動を始める。暗くなる前に目的地に着きたい。『兄貴』に確認すると、調査依頼の場所に案内することになるようだ。
「大きさはどのくらいの場所なの?」
「一周200mは無いと思う。昔、蛮族が襲ってきた時に築かれた砦を聖征の後で改修したものだからそれほど大きくはないけど、傭兵団にしたら十分な広さだと思う」
五十人以上の人間を養うということで、勿論普通の傭兵としての依頼も受けているのだが、小遣い稼ぎに隣接する自由都市の商人を襲うのだという。公爵領の人間を襲わないのは、流石に公爵家の軍を事件を起こした傭兵団が自領にいるからと拒む事は爵位的にも国内の関係的にも隣接の領主にはできない為、その心配のない『ハベル』の商人を襲う事にしているのではないかという。
妥当なんだろうね。
馬車は街に預け、徒歩と川を自分の船で渡る。三人くらいなら、なんとかなるから狭いけど。
「……魔法の袋に、船までしまってるのか……」
「内緒にしておきなさい。あなたの命を奪いたくないから」
「お、おう。余計なこと、俺は言わねぇ。絶対だ」
一応釘をさしておくことも忘れない。
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確かに少し高くなった丘の稜線沿いに城は築かれていた。メイン川の両岸に立つ地方領主が建てた石造りの砦のような城と比べればかなり大きい。
「あそこね。ここまででいいわ、もうこれに懲りたら中途半端に真似事をするのは止めた方がいいわよ」
「あ、ああ。すまねぇ、まともに傭兵稼業する」
傭兵稼業がまともかどうかは論を要するところだが、真面目に働いて欲しいものだ。
「あの男をここで戻したのはやはり不穏な物を感じるからですか?」
「ええ。この時間に炊煙もたたないなんて、おかしな拠点でしょう。それに、歩哨も立てていないわ」
既に夕方に近い時間。暗くなる前に炊事をする事を考えると、五十人以上が活動する拠点に生活の気配がない。
「その割に、この辺りは巡回ルートになっているみたいなのよね」
城からの死角にあたるこの場所は、定期的に人が歩いたような踏み均されたような形跡が残っている。歩哨を必要としないが、周囲への警戒を怠らないちぐはぐな対応が気になる。
「遠征に出ているのでは?」
「そうかもしれないけれど、定期的に被害が出ているのは何故かしらね」
先ずは砦に向かおうかと思っていると、不意に背後に気配がする。死臭……そんな臭いがする。襲われる前に感じたものに似ている。
すると、そこには二人の傭兵らしき男が立っていた。
「お、姐さんの言う通りだな。そっちのちっこいのは女だな」
「男は……手強そうだ」
「まあ、人間相手に苦戦するわけないだろ?」
「それもそうか」
ははは、とこちらをたいして気にも留めずに二人は話をしている。
「抵抗しても無駄だよお嬢ちゃん。まあ、少々細っこいが顔は良い。まあまあ楽しめそうだな」
「兄ちゃんは装備だけ残して、あとは……」
何か言い始めた男に、ビルがバスタードソードで斬りつける。男は自分の剣で受け流し、斬り返す。
「おっと、話は最後まで聞くもんだぜ兄ちゃん」
「聞こうが聞くまいが関係あるめぇ。最後は喰われちまうんだからよ」
「はっ、違いねぇ」
今喰うって言った。ビルを食べると、お腹がボワッと燃えちゃうよ! だって炎の精霊さんだから。
「そっちは殺して良いわ、私の方が生かして捕まえるから」
男たちは「はっ」という顔をしたが、私は良い顔で呪文を唱えた。
「土の精霊ノームよ我が働きかけに応え、我の欲する土の牢獄を築き給え……『土牢』
胸まで地面に埋まった男は唖然としていた。




