4-16 不出来な傭兵と接触し、私はやっぱりなと感じる
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4-16 不出来な傭兵と接触し、私はやっぱりなと感じる
「そういえば、バドの凶相、少し和らぎましたよね。陰とか隈とかなくなって柔らかいというか……柔和な感じになりました」
ビルの言う通り。捕まえた当初は、トゲトゲしい荒れた感じであったけれど、ゲイン修道会で修行して、冒険者の下積みをして、色々思うところがあって、自分の愚かさに気が付くことが出来たからかもしれない。
「修道会、意外といいのねー」
「聞くところでは、ヴィーの村での生活は修道生活そのものですから、あなたの場合、ぴんと来ないかもしれませんけれどね」
確かに、無私での奉仕が当たり前のド=レミ村ライフであった。まさに、修道女のように十四年間? 生きてきたんだと思う。まあ、お陰で、すっかり魔力も加護も発現したわけで、悪いことばかりじゃなかった。そう思いたい。
襤褸馬車で少し高くなった街道を行く二人。ビルと並ぶと圧迫感を感じるので、馭者台には私、荷台後方にはビルが座り背後を確認する。
ハベルの街が見えなくなるころ、周りの空気が変わるのを感じる。そう、何だかとても『臭い』のだ。村や焼討に会っているとかじゃない。死臭……そんな臭いがする。
「ビル、気が付いている?」
「何やら不審なものが追跡してきているということでしょうか?」
精霊擬き……いや大精霊であるイーフリートが人化しているビルには、この臭いはあまり縁がないのかもしれない。
前方にも、こちらの様子を伺う人影。ゴブリンやコボルドではない、武装した人間のように思える。
「前に四人……いいえ五人かしら」
「背後には二人ですね。傭兵でしょうか」
冒険者ギルドで見かけた調査・討伐依頼の対象かもしれない。なら、ハベルの街に協力者かそのものが潜伏している可能性も高い。だって、私たち、さっき街を出て来たばかりだもんね。
確か、特定の商人同盟ギルドに加盟している自由都市の商人をターゲットに誘拐をして身代金ビジネスに勤しんでいる有名な帝国騎士の率いる傭兵団があったような記憶がある。でも……あいつ確か、何年か前に収監されてまだ檻の中のはず。
「どうしますか?」
「この馬車じゃ逃げ切れるわけないから、やるしかないんじゃないかな?」
「生かしておきますか」
「賞金首なら、次の街で引き渡してもいいかなって。まあ、全員じゃなくていいわ。一番偉そうなのと、装備が良さそうなのだけで」
「承知しました」
捕まえた盗賊は本人含めて身包み捕まえた人間の取り分だから、装備も汚いオッサンは生かし損じゃない?
私は馬車を止め、ビルは荷台からゆっくりと後方に降り立つ。街道の上に、前方の五人が現れ、背後二人は走り寄ってくる。
「おう! あんたら『ハベル』の商人だな!!」
男たちの中で、比較的ましな装備の男が、声を掛けてくる。
「違うわよ! 私たちはルベックからブレンダンに荷物を運んだ帰りの運送屋。荷台はからだから、無駄よ!!」
「いや、あんたは若い女で、後ろの男は良い装備をしている。売れば荷物より高く売れる。身代金でも構わねぇ」
「……ハベルの商人関係ないじゃない!!」
もしかすると、模倣犯かも知れない。下っ端が勝手に判断して余計なことを始めた可能性もある。
でも、最近、星三になったので、女であることを隠す必要もなくなったって事もあって髪の毛を伸ばし始めたしそれなりに年相応に見られるようになってきたのかもしれない。女の魅力☆的な感じで。
「女は無傷で、男は殺さないように捕まえろ」
「こんな餓鬼、どうしようってんですか。まあ、いいですけど」
「馬鹿野郎、変態貴族はこういう子供に悪戯するのが大好きな奴がいるから、高く売れるんだ!!」
「へぇー じゃあ兄貴は味見はパスですね」
「いや、俺も一応、楽しませていただこう。お嬢さん、まあ、目を瞑っている間に用は済むから、大人しく捕まってくれねぇか!」
いや、その最初の評価でガッカリからの憤りですわ。
背後では、ビルが二人を相手に、時間を稼いでいるようである。じゃなきゃ、瞬殺だからね。
「わ、私をどうするつもりですか……ひ、酷い事しないでください……」
「こんなちんけな商売じゃ直ぐにババアになって誰も相手にされなくなるだろ。今なら、金持ちの愛人? 妾になれるかもしれねえぞ。俺たちが良いようにしてやるから、黙って捕まんな!!」
裕福な商人の愛人……位が庶民の女の望める玉の輿のレベルだったりする。王太子の恋人? 学園の特待生の平民からの成り上がり? 学園なんてあるわけないでしょうこの文化水準で。あるとすれば神学校くらいなものですわよ。
「い、いやです。村に帰してください!!」
心のふるさと ド=レミ村。何年か経ったら、こっそり先生と師匠に会いにいこう。トラスブルの姐さんもその前に顔を出してさ……一流の冒険者になりましたって、お礼言わないと。でも、商人として一人前になってからかな。なんて考えていると、ジリジリと男たちが私を囲もうとする。
「いや、酷いことしないで」
一人の男が剣を突きつけ、もう一人が縄で縛ろうと、近寄ってくる。残り二人は武器を構えずその背後に続いている。つまり、今すぐ攻撃できるのは目の前の剣を抜いている男だけだ。
――― 全員死刑で良いかな……小汚いし。
あ、こいつらの生き残り縛り上げるために、持っている縄は切らないように気を付けなきゃ!
私は、一瞬で剣を持つ男の目の前に移動すると、掌底で顎をしたからかちあげた。
「がっ!!」
「なんだ!! どう……があっ!!」
かちあげるついでにオッサンの持っていたショートソードを奪い取り、その剣を縄を持つ男の首に突き刺し、引き斬る。首から勢いよく血を噴き出し、男が首を抑えてしゃがみこむが、直ぐに動かなくなる。
「なっ」
「てめぇ!!」
「おい、殺しても構わねぇ、やっちまえ!!」
手下二人が一瞬で無力化されたのを見て、一瞬で方針を転換。なかなかやるではありませんか兄貴!!
顎をかちあげた下っ端の背中から肺の部分に剣先を突き刺し、首の後ろに斬り込みを入れる。これでもう、動く事は出来なくなるだろう。それにしても、余りいい装備ではないね君たちは。胸当も前だけだし、その下の鎧下も大した装備じゃない。
「金に困ってるんですねー」
「や、やかましい!!」
真実は人を傷つける。ラビ人の警句にこんな話がありますね。
<この世には、人を傷つけるものが三つある。悩み、諍い、空の財布――。三つのうち空の財布が最も人を傷つける>
私は、自分の利益の為に安易に他人を虐げる人間に対して、優しくする必要性を全く感じない。生まれ育ちに恵まれないって事は有るだろう。では、恵まれない人間が全員悪人になったのかと言えば……そんなことはないわけです。
つまり、圧倒的に世の中恵まれない生まれの人が多いわけで、それが悪事を働く理由になるなら、世の中は悪事だらけなんじゃないかな?
なので、私は、悪人を救済することにします。
「さよなら、次の人生では自分の甘さに流されず、真っ当に生きてください」
「げぇ」
「グフッ」
喉元に剣を突き刺され、断末魔の声を奏でる。
剣に付いた血を振り払い、私はズンズンと『兄貴』の元に向かう。背後からビルが制圧を完了したと告げる声が聞こえる。生死は別にして、抵抗することが出来るのは目の前の『兄貴』しかいない。
「さて、あなた一人が残っているみたいですが、他の奴らの後を追いますか?」
「た……助けてくれ……」
男は剣帯を外し、両手を上にして抵抗する意思のない事を示しているのだが……
「頭の後ろで手を組んで跪きなさい。おかしな動きをしたら、この剣で仲間の後を直ぐに追いかけさせてあげます。多分、まだその辺であなたの事を待っているんじゃないかと思うので、私はどちらでも構いませんよ」
『兄貴』は涙目である。ガチ泣きである。
「そ、そ、そ、そんなことしねぇよ。こ、殺さないでくれ……」
「まあ、そう言って命乞いをした相手、今まで助けた事……ないんじゃありませんか?」
「そんなことねぇよ。抵抗しなきゃ、普通に捕まえて売り払うくらいしか俺たちはしていねぇ」
「……俺たちは?」
その言葉が引っ掛かった。言葉の綾かもしれないけれど、じゃあ、誰ならそうではない事をするのか。どのような事をするのか……私は気になる。
「俺たちゃ、金に困った傭兵崩れだが、精々強盗までだ。殺しはしねぇ。後味悪いし、銅貨一枚にもならねぇ。でも、あいつ等は喜んで殺しをする。俺達は関係ぇねえんだ。嘘じゃねぇ、あいつ等は異常だ!!」
何か思い出したかのようにガタガタと震え始める『兄貴』は、既に私が殺意を向けているかもしれないという事などどうでもいいという雰囲気になっていた。
あいつらって……あいつらの事なのだろうか。




