4-15 バドの成長を実感し、私は公爵家と交流する
4-15 バドの成長を実感し、私は公爵家と交流する
さて、何故か騎士達にモテモテの私。あんたたち、殴られたり痛めつけられると、その相手を好きになる変態なんでしょ。変態は好きではありません。
「いや、ラウス殿」
「ラウス殿は……」
「是非、私にもラウス殿の……」
ラウス大安売りである。騎士団長の評価がパネェっす。って感じだね。
そして、何故身体強化の魔力操作に熟達したかという話は、私のド=レミ村時代の献身的孤児生活の話につながるわけで……
「自らを犠牲にしても、村の仲間たちの為に献身するというラウス殿の姿勢が、今の魔力につながっていると……」
「御曹司の覚醒も、その辺りの心の置きどころの変化が大いに作用しているのでしょうな」
「我らも、一意専心で騎士道を進まねば、大いなる成長に繋がらないということですね」
「ヴィーちゃんがバルドのお嫁さんに来てくれれば、私も安心なのだけど、どうかしらー」
なんか、最後変なコメントが聞えたが、空耳だよね。
「才色兼備の冒険者。そして、まだ若い成長期にある。先が楽しみとなる出逢いだな。バルドの成長と共に、大いに……期待したい」
閣下、覚醒したからもういいんじゃないでしょうか。お返ししますわよ御子息。
何故か、騎士達がガーデンパーティー風の食事会を始めてしまい……というか、公爵夫人のご配慮で、交流をさせてもらっているわけです。機を見るに敏な流石は高位貴族の妻です。
騎士たちが色々褒めてくれるのはこそばゆいが、正直、精霊の加護は生まれつきの部分もある。教会では精霊の加護は見てもらえないので、魔術を使わないと、その効果がはっきりしない。
わかったとしても、魔術を伸ばさないと効果がないので、加護持ちとしてはあまり評価されないのだ。魔力があって初めて生きる加護だからだ。
特に、火は攻撃、水は癒しの効果がはっきりしているから割と評価されるみたいだけれど、土とか「なにそれ」って感じじゃない。風も正直微妙だしね。私は、猟師するから便利だと思っていたけど、普通は穴掘りとか関係ないしね。
それに、魔力量が少ないと大した規模で影響を与えられないから、小さな穴なら自力で掘った方が早いし、風だってそよ風程度なら何の役にも立たない。魔力量と精霊との相性、加護を使える仕事に就いているという重なりで意味が初めて出て来るからね。
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そして、その夜は、何故か本館のダイニングで、公爵家の正妻の子弟とバド母子を含めた大人数での夕食となった。バドの魔力覚醒を祝う為の場だという。覚醒を促した私とビルに対するささやかな感謝の意も含まれているのだそうだ。
正妻の子供たちはかなり多い人数であり、その場にいない子たちもいるのだそうだが、十代前半の娘三人に十歳にならない次男が座っている。一応、私も手持ちのドレスを着ているし、ビルも騎士の服に着替えている。魔法の袋に全財産入っているのは便利だ。
「これは……見違えるほどの淑女ぶりだなラウス……いやオリヴィ嬢」
「畏れ多い事ですわ、閣下」
バド、何目が点になってるのかな? 私は乙女だよ、忘れてるんじゃないわよ。
「お前……いや、ヴィーは美少女だったんだな」
「ヴィーは常に美しい存在ですよバルド様」
「……ビル……マジでイケメンだな……」
それはそうですよ。最も騎士らしい騎士と言われた赤髭王の現身ですからね。閣下の御令嬢もぽーっと見惚れているじゃない。まだ小娘以下だから良いけど、十代後半とかなら、ヤバかったかもね。
「ビルは、理想の騎士という感じがするからね」
「「「本当ですわー」」」
同意する姫様たちに、公爵が納得いかないという視線を向ける。いや、あなたはもう少し痩せるべきでしょう。
食事はいわゆるコース料理。この文化は内海の先進地域から始まった文化だそうです。カットラリーも皿もとても立派な物。流石公爵家のものだ。
その昔、とはいっても聖王国が滅びた後くらいの時代、食器が貴重であった時代、自前で用意して宿や来客として訪問することが当たり前だったのだそうです。だから、その家の紋章入りの食器とか当たり前なのだと納得する。そりゃ、持ち込んだのは良いけれどパクられたらいやだもんね。
王冠を被った蛮族と揶揄される存在が当たり前だったわけだし。
豪華な食事に見合う食器を眺めながら、私はそんなことを考えつつ、半分聞き流しながら会話を重ねてた。
今晩は、マザコンだからという理由ではなく、バドはバドママと『魔術』と『加護』の話をする為に過ごすのだそうだ。鉄は熱いうちに打てというわけです。
「最後の方は、魔力が巡るのが見えるくらいだから、後は実際にその加護を持っている『聖女』様に手ほどきを受けるのが一番だよね」
「では、次回の納品まではこちらに滞在する……という形でしょうか」
「バド次第じゃない? 多分、ギルドで常時討伐の依頼を提出すれば、星一には昇格すると思うわよ」
奉仕依頼も十日ほどはこなしている(というか、住んでいるから。こまめに達成している)のだし、討伐も問題なく行える腕がある。これで、魔力を使った討伐依頼を少しこなせば、星二には数回の依頼達成で昇格可能だろう。私たちと組めばなおさらだ。
今は懐かしい『眞守』のメンバーにも、星一の少年がいたじゃない? 名前は忘れちゃったけど。バドの方が年齢も経験も腕も上だから、スムーズにいけると思う。星無は、素行の悪い傭兵を振るい落とす為の方便の面があるから、問題なく上がれるだろう。
「では、ハベルまで同行して冒険者ギルドで昇格の手続きを確認してから、バドは公爵家に戻り、我々はルベックに戻るという事ではどうでしょうか」
「そうだね。それで良いと思うよ」
食事を堪能し、ふかふかのベッドに身を預け、私はとても良い気持ちで眠ることが出来た。
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翌日、冒険者ギルドで昇格の確認をしたら、暫く別行動はどうかとバドに提案したのだが、「いや、ついて行く」と頑なに反対する。
「いやほら、本気で……マザコンだと思っているけどさ」
「母君と魔術の訓練をする事も大切ですよバド」
「……お前がどう俺の事を見ているのかよく分かった。だから、俺はマザコンじゃねぇ!!」
いや、どう見てもマザコンでしょ。褒めて褒めてってオーラが昨日出まくっていたじゃない。まあ、男はマザコンが普通らしい。義兄さんはどうだったろうか?
「ヴィーちゃん、バルドも頑ななのよー。あなたについて行きたいみたいでー」
ん、なんか変な含みを持たせるのは止めましょうお母さま。ほら、なんか口汚くあなたの事責め始めましたよお宅の息子さん。
「冒険者としての先を急ぎたい気持ちはわかるけど、今の状態を生かして魔力の操作、魔術の基礎をしっかり身に着けるのが優先だよ。それに、バドの『水』の加護は冒険者としても騎士としても仲間の生存確率を高める良い物なのだから。優先順位を間違えないで」
「お、おう」
「私もヴィーもバドの成長に期待しているのです。ですから、次の納品までの一月ほどはこちらで修行するべきです」
「……修行……そうだな。これは修行だ!!」
そうです。ママに甘える為に残るんじゃないから。騎士団長にもぶん殴られて転がらない程度には遣えるようになってもらいたい。
私は笑顔で「毎日騎士団の訓練にも参加できるように、閣下と団長殿にお願いしておくね♡」と伝えることにした。母親の前なのでええかっこしいのバドはグヌヌとなっていた。
一先ず、三人は『ハベル』まで移動し、バドの常時依頼達成と、昇格条件の確認を冒険者ギルドで行う事にした。
やはり、条件は達成できていたようで、とりあえず『星一』の冒険者となることが出来た。立派な駈出しの冒険者である。
「ゴブリン討伐、この辺りでも依頼があるのか」
昇格の手続き完了待ちの間、バドと私たちは冒険者ギルドの依頼を確認していた。その中に、星三つ以上の条件で、調査・討伐の依頼で不穏な物を目にする事になった。
「……なんだこの、不審な傭兵団ってのは」
どうやら、旅人や近隣の村落を襲撃し、人間を皆殺しにする盗賊団が存在するのだという。その拠点を探して欲しいというような依頼だが、これは公爵家の騎士団の任務・治安維持の範疇なのではと思う。
「被害者が『ハベル』の商人や住人、関係する村だけが対象なのです」
疑問を受付嬢に確認すると、そう答えが返ってきた。商人同盟ギルドに加盟する自由都市である『ハベル』は、公爵領から独立した存在であることから、問題が発生しても干渉しない、させないという関係なので、騎士団に依頼することが出来ないのだという事だ。
冒険者が多数いる時期ならともかく、今は、各地で紛争が起こりつつあり、帝国の南で他国と戦争も行っているので、傭兵は冒険者より本業で稼いで
いる最中なのだ。
この依頼、いまではなくてもいいならバドの成長の為に受けるのも良いかもと私は思った。




