4-14 騎士団長は覚醒し、私は公爵の騎士を捻り潰す
4-14 騎士団長は覚醒し、私は公爵の騎士を捻り潰す
じゃ、お疲れさまでした☆ と私たちが引き上げようとすると、何故か騎士団長から「お二人の腕も拝見したいものですな」と声が掛かる。何その無茶ぶり。
「……では、ビルがお相手をさせて頂きます」
「いや、是非、貴方様の腕も拝見したい」
「私は魔術師ですよ?」
「魔術と剣術の融合……拝見できませんでしょうか?」
丁寧な申し出ながら、その視線は挑発的。冒険者は舐められたら負けの商売。今後のビジネスの為にも、ある程度敬意を払われる程度には……腕を見せなければならないようだ。
「どうしますか?」
「バスタード・ソードで一対多数の剣を見せるというのはどう?」
「いい考えです。騎士ではなく、戦士の剣をお見せしましょう」
ビルは一対二の対戦を申し出る。騎士団からは憤りの声が聞こえるが、公爵閣下の「やらせてみよ」の一言で話はまとまる。
騎士は中年の筋骨逞しいベテラン騎士二人。バドの動きを見て、かなりの実力を持つ者を当ててきたのだろう。
「ビル! 恥ずかしく無いようにお願いね」
「勿論です、『ラウス』の看板が掛かってますから」
ビルは右手で剣を大きく振りかぶり、左手を前に突き出し抑え込むように掌を一人の騎士に向ける。まあ、片手で捻り潰せるくらい強いんだよビル。
「始め!!」
騎士は、ベテランらしく、ビルに時間差で死角を隙をつくように攻撃を絶え間なく加えていく。バドなら一分も持たないだろう。常に足を動かし、自分の正面に二人を置こうと絶え間なく剣を振るい、移動を繰り返す。巨漢と言えるビルが、少年のように走り回る姿は身体強化をしているとは言え、軽妙であり度肝を抜くものだ。
「騎士五人を一人で相手するだけあるわね」
「確かに、俺も一瞬で馬から叩き落とされたからな」
「……な……」
公爵閣下の言葉が出終わる前に、ビルが動いた。
左手の騎士の木剣を掌底で打ち粉々に砕く!
「げっ」
一瞬動きの止まった騎士に、剣を握った拳の裏拳でその腹を思い切り叩くと、背後に吹き飛ばされる。
転がる騎士に目を向けた残りの騎士の目の前に一瞬で移動したビルが剣を頭上から叩き落とし、その頭蓋を砕く直前で寸止めを決める。
騎士は、へなへなと力なく倒れ込んだのだった。マジ、本気出し過ぎだから。
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とても嫌な予感がする。ええ、とてつもない嫌な予感です。だって……騎士団長の笑顔がプルプルしているもん。プル……元気かな。あ、ビータとプル宛に手紙を書こう。そうしよう。
「ラウス殿……是非、貴方の腕前も拝見したいのだが。どうだろうか」
「い、いや、冒険者は手の内を見せないものですから。企業秘密です!」
なんか……逃げられそうにもないかもしれない。
「ヴィーはまじ凄腕だから。騎士団が束になっても敵わねぇよ団長」
「ほお、御曹司が言うほどですか。なるほど……」
あれ、バド、あんた庶子で半端などうでもいい子でしょ。何で『御曹司』に格上げされてるのよ。まあ確かに、公爵閣下と聖女の間に生まれた子が『覚醒』すれば、御曹司呼ばわりされるのは当然か。
「ラウス……余もそなたの実力を見てみたいのだ。一度だけで構わぬ、頼めぬか」
「……承知しました。では、希望者全員と……同時に一対多数でお見せします。冒険者は……舐められたら負けなので」
希望者……そこにいて意識のある戦闘可能な騎士全員(騎士団長含む)となりました。
「ヴィーちゃん頑張れー!!」
「信じていますからヴィー」
「まあ、母ちゃんが癒してくれるから、心おきなくボコられろ」
「ラウス師、お手並み拝見ですわね」
「……む、これは……どうなるのであろうな……」
無責任な観客の歓声を浴びつつ、目の前には十数人の騎士達。そりゃ、穴掘ったり、土塁で囲んだりすれば一瞬で勝利だけど、それじゃ納得されないだろうね。
私は、木剣と魔銀の盾ボスを取り出す。両手使わないと、無理だから。怪我なしで戦闘力だけ奪うって、結構難しいよね。鎧付けていないから、即、致命傷だし。
「さあ、どこからでも参られよ!!」
ちょっと自棄になってまいりました。
「風の精霊シルフよ我働きかけの応え、我の欲する力を与え給え……『疾風』」
これで、ブースト1.5倍、更に身体強化の魔術で二倍にブーストアップ。小さな体で踏み込んで、下から顎をかちあげる。
同士討ちを避けるために、距離を取ろうとするが、私は相手から離れず、左右にステップし木剣で脇の下を突き上げる。
「があぁあぁ!!」
鎧の継ぎ目、剣や槍で腕の付け根や脇の下を突くのは常道。足を止めず、騎士の集団の中を駆け回る私を、おじさん騎士達は……お兄さんでも止める事は出来ない。
「土の精霊ノームよ我働きかけの応え、砂塵を生み出せ、風の精霊シルフよ我働きかけの応え、我に仇為す者に襲いかかれ……『砂塵』」
集団戦に取っておき、目潰しです。
「め、目があぁぁぁ……」
「ひいぃぃぃ……」
「く、来るなあ!!」
人間、視力を失うと冷静でいることは意外とできない。だから、この手の魔術や仕掛けは意外と効果的だ。
脇をザクザクと突き倒し、あっという間に数が半分となる。それでもまだ、数人残っている。
「まだやります?」
「なんの、ここからよぉ!!」
筋肉量の多い騎士達が残っている。その筆頭が、騎士団長。この人の魔力操作、少し学んでみたい。魔力操作は使えるけれど、先生も師匠もそこまで身体操作に熟達していたわけじゃないから、剣や槍を操る高位の魔力遣いは手本にしてみたい。
その辺り、公爵閣下のご配慮と受け止めて、私は筋肉の壁に突撃する。
巨漢の騎士が振り下ろす剣に敢えて自らの剣を合わせて受止める。筋力も凄いが、纏う魔力も相当のものだ。
「よく受け止めた」
「いい魔力です」
剣を合わせると、剣を通して相手の魔力の動きが伝わる。一瞬先の動きが私に伝わる。これって……
「貰った!!」
「どうだ!!」
剣を合わせた私たちの側面から、別の騎士達が剣を振り下ろす。味方ごと切り倒す気なんだろうが、そんな手には乗ってやらん。
『風壁』
無詠唱でも、短い時間なら有効、二人の剣は風の壁に弾かれ、体が泳いだ所を、手加減無用の剣で胴を薙ぎ払う。
勢いよく転がっていく騎士二人、その隙に、剣を合わせたマッチョ騎士が必殺の斬り降ろしを加える。
『風壁』
風の盾で剣をいなし、空いた胴に同じように剣を叩きつける。
「があぁぁ」
騎士団長とあと一人という状態で、どうやら薙ぎ払われた騎士達がピクリとも動かない事に気が付いた公爵閣下の「それまで!!」の掛け声で立会は終了となった。
「引分けですね」
「勝負は次回にお預けだな。しかし……よくぞ、その歳でこれだけの魔術と魔力操作を身につけたものだ。貴公の冒険者としての姿勢に、深く敬意を表する」
「「「「……」」」」
意識あるもの、立てる者が騎士団長に倣い私に礼をする。
「騎士団長が騎士の礼を捧げるとは……すげぇなお前」
彼の騎士団長は当主であるブレンダン公爵にも歯に衣着せぬ物言いをする硬骨漢であるという。いや、私は乙女なんですよ騎士団長様。バド、あんたも忘れてるんじゃないわよ!!




