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4-12 バドは馭者を請負い、私は魚の樽を運ぶ

4-12 バドは馭者を請負い、私は魚の樽を運ぶ


 何度目かのブレンダン行。最初の頃はのた打ち回っていたバドだが、最近はすっかり慣れてきたようだ。主に……魔物の襲撃に。


 



 荷馬車が一台、二頭引きである。何かあった場合、二頭いる方が選択肢が増えるからという理由もあるが、私とビルの愛馬を運動させたいという理由もあります。あの、傭兵団から巻き上げた二頭ね。


 黄金蝙蝠商会の荷馬車隊の時には人間には襲われたが、魔物や獣に襲われる事はなかった。数が多いと、そういうものは避けるんだろうね。


「バド、良いところ見せなさい」

「……また俺かよ……」

「討伐実績の常時依頼になるからですよ。星三の我々では何の意味もない討伐ですから。弁えてください」

「……」


 最近はビルも辛らつなんだよ。


 エーベ川流域は氾濫原も多く、高い場所は森として残り、街道に死角も少なくない。川を物流の基本にするのは、大量輸送しやすいということもあるけれど、魔物に襲われるリスクが低いという事もあるんだね。


「出たわよー」

「バド、任せました」

「……おう……」


「土の精霊ノームよ我働きかけの応え、彼の欲する鋭さを与え給え……『尖鋭(burnishen)』」


バドの剣に鋭さを増す魔術を付与する。多分、十匹くらいならいけるはず。


 細い一本道の街道、両脇には木が生い茂り視界は良好とは言えない。聞こえてくるのはゴブリンの咆哮。数は……十ってところね。


『Geeehahaahaha……』

『Yahahaha¡!』


 襤褸馬車に私とバドの一見冴えない行商人と剣士の二人連れ。ビルは荷台で樽の影に隠れて背後を伺っている。


「後ろからは……送り魔狼ですねヴィー」

「そっちはお願いするわ」

「承知しました」


 前からゴブリン、後ろからは魔狼、ありがちな挟撃だ。私は……少し弓で手伝うことにする。


 ショートボウでも、魔術で威力を増せばダメージはかなり入るはず。


「土の精霊ノームよ我働きかけの応え、我の欲する鋭さを鏃に与え給え……『尖鋭(burnishen)』」


「風の精霊シルフよ我働きかけの応え、我の欲する力を矢に与え給え……『疾風(sturm)』」


 馭者台に立ち上がり、ヒョウと矢を放てば、バチコン!!と先頭のゴブリンの喉元に命中、抜けば出血多量で死ぬけど多分抜く前にバドが切り殺す。


 先頭が失速したのを見て、慌ててゴブリンが散らばろうとするけど、遅くない?


「はあぁぁ!!」


 カットラスは片手剣としても短い部類だが、剣身が分厚いので力でだけでなくその重さを生かして切り伏せる事も十分に可能だ。矢の刺さったゴブリンの腹を薙ぎ、その横のゴブリンを左手のバックラーのボスで叩きのめす。一気にゴブリンの集団の中に飛び込んだバドは、斬っては走り、殴っては走り、囲まれ無いように常に動いている。


 動きの止まったゴブリンを背後から弓で狙い撃ちするのが私の役割だ。矢が刺さっても動きは止まらないが、鈍くはなる。抜こうとあがく者もいる。逃げてもやがて致命傷となり死に至る。悪いことは……味方射ちくらいの問題だけだ。一度だけなら誤射という事もあり得るから、ワザとじゃないよ。ホントだよ☆


 バッサバッサとゴブリン相手に大立ち回りをするバド君。私もさりげなく弓で援護。背後ではビルがビルで……ビルのビルが魔狼を切断していく。冒険者のビルが私の昔使っていた長柄武器のビルで戦っているのです。


「はっ、はっ、どうだ!!」

「45点」

「……なんでだよ!!」


 いやほら、身体強化も使えてないし、水の精霊の加護が使えれば、目潰しとか霧で視界を塞ぐとか……色々できるはずなのに、未だに剣技に頼ってるからに決まっているでしょう。


「魔力持ちが魔力を使えないなんて……とんだ怠慢だわ」

「ヴィー、討伐証明だけ確保しましょう」

「ええ、それでお願いするわ」


 ゴブリンは耳、狼は犬歯だったか、尾だったか……魔狼は毛皮にもならないから、穴掘って埋めておくかな。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 土魔術で穴を掘って、ビルとバドが魔物の死体を投げ込んで埋める。まあ、私は見ているだけです。魔術使うけど。


「バド、いい加減諦めて魔力操作の練習するわよ。いつまで星無でいるつもりなの」

「……わ、わかったよ……やりゃいいんだろ!」


 ゴブリンの血で汚れた手を洗って、さてと、馬車の上で馭者をしながら練習しましょうか。


「いい、私の両手を握るじゃない?」

「お、おう。まじ、手を握っても怒らねえよな」

「……あんた、気持ち悪いわよ……」


 いや、魔力の操作の練習って、魔力を流し込んで体感するところから始まるんだよね。だから、手くらい握るんだけど、そういう意識をされると……ほら……


「手汗がキモいわ」

「キモい……俺は……キモい元聖騎士の庶子……」


 はいはい、その通り。だから、真面目に魔力操作するよ。ビルは炎の精霊だから、調整したとしても水の精霊の加護持ちとは相性が悪い。最悪。なので、まだ多少マシな、私が相手するしかない。


「ほら、意識して魔力を感じなさい」

「……意識……感じる……」

「私、マザコンは対象外だから……」

「お、俺はマザコンじゃ『マザコンですね』『マザコンじゃない』……うう、二人が俺を虐める……」


 いやほら、事実を認めるところから進歩が始まるんじゃないのかな。マザコンかどうかがともかく、魔力を体の中で動かし、自分の体を支えるようにすることが必要なわけです。


「いいから、魔力を感じる! 私の右手からあなたの左手に魔力を流し、あなたの体を巡った魔力があなたの右手から、私の左手に流れ込む。それを……意識して」

「……」


 ポクポクと馬車は進み、ビルは周囲を警戒しつつこちらに気を配る。


「どう?」

「……うん……上手く言えないけど……体の中を巡るものがある……これは……」


 子供の頃、怪我をした時、病気の時、苦しい時、母親が手をつなぎ、体をさすってくれたことを思い出す。体の中を魔力が巡り、やがてその思いは徐々に心を和らげていったことを。


「……むかし……してもらったことを……思い出した……」

「そう。なら、あとは……ママにお願いしようかな『マザコンですね』……」

「マザコンじゃねぇ!」


 『水』の精霊の加護を持つバドママは優秀な治癒の魔術を用いる『聖女』であり、彼はその事を子供の頃から身を持って体験していた。まあ、思春期でこじらせてすっかり忘れていたけれど、元々、バドの魔力は母親からの物だから、公爵家に寄った時に、魔力の指導をしてもらう方が魔力の覚醒に容易に近づけると思うんだ。





 結局、この話をブレンダンでバドママに話したところ、「せっかくだから、二人も泊まっていきなさい。部屋はあるから」と言われる。親子水入らずの方が良いのではと言われたけれど、息子の成長を今日は祝いたいので、一緒に祝ってもらえないかという事になったのだ。


 残念ながら、正妻の手前、公爵自身を招くことは出来なかったが、バドが本来持つ癒しの能力に気が付き、その特性を覚醒させる気持ちになったというのは、バドママにとっても公爵家にとっても幸いなことなのだという。


「元々、私の癒しの加護を継ぐ騎士という事で……教会では聖騎士として取り立てることにしたのです」

「それなのに、加護は覚醒しないわ、出奔するわで困っていたわけですね」

「……」

「……はい……恥ずかしながら仰る通りなのです」

「恥ずかしいな、バド」

「本当に恥ずかしいわねバドったら」

「だから、俺はマザコンじゃねぇ。は、母親が有難すぎるだけであって……その、マジ、感謝してる……」


 母親に対する感謝の気持ちを素直に口にしたマザコン・バドは、その後直ぐに魔力を感じるようになり、加護も覚醒することになった。母に対する素直な感謝の心が、加護を導き出したのだと思われる。


――― マザコン覚醒!!! 


 


 翌日、体中を巡る魔力を腕や足、全身に用いることで、バドは聖騎士として十分な身体強化能力に目覚めることになる。そして、ビルとの立会を互角にこなすようになり……


 公爵家の騎士との立会を所望することになる。






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