4-09 ベック氏は困り果て、私は専属配達人を請負う
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4-09 ベック氏は困り果て、私は専属配達人を請負う
「流石に臭いわね」
「ええ、お金を貸してでもまともな生活をおくらせますか」
「……頼む……」
「といちで良ければ貸してあげるよ。優しいな私」
十日で一割の金利。まあ、無担保ならこんなもんでしょう。だって、星無冒険者なんて、乞食の一歩手前だもんね普通。初期の生活費ゼロとか、まああり得ない。私は、狩人の収入で星無生活は問題なかったけど、普通、現金収入を手に入れるのってなかなか難しいよね。
バド君は、星無=雑用係という現実に打ちのめされていたのである。
「俺、一応聖騎士だったんだけど……」
「親のコネでね」
「グっ……」
毎日、素材採取生活が始まります。最初に、手に入れるべきなのは、薬草の見分け方ガイド。新人君にギルドで無料配布されています。でも、見ても良くわからないのが基本です。
面倒であるが、基本的な仕事を覚えさせるために、私はゲイン修道会にポンコツバド君を連れて行くことにした。
何故なら、シスター・クレスタは……騎士マニアだからである。まあ、多分、夜這いとかはされないと思うけれど、バド君は絶対面倒見てもらえると思う。
「ここは教会じゃねぇんだよな」
「ゲイン修道会は、俗人が活動する互助組織みたいなもんだね。ネデルとか所謂商人同盟ギルドの加盟都市で盛んな修道会。婦人会に近いかな」
「何でここに来たんだよ」
理由は二つ。一ケ月ほど逗留させてもらいながら、薬草畑の世話をさせる。その間に薬草の見分け方をマスターし、採取の常時依頼を受けて星一に昇格するというのが目標だ。住みかと仕事の習得を得られるって事。
「あと、俗っぽいけど修道会だから、あんたの前職のスキル、活かせるでしょ。
聖・騎・士・様☆」
「……お、おう……」
シスター・クレスタに挨拶をし、お世話になりたい旨を伝える。
「素性はお話できませんが、さる高貴な家の庶子で『バド』といいます。実は、聖職者を志していたのですが、悪い仲間に誘われ罪を犯してしまいました」
「……まあ、それは……罪深いことですね……」
シスター・クレスタ!! ヤサグレているとはいえ、公爵家の息子である美形のバドに目がキラキラしています。
「ですが、こう見えても聖騎士としての訓練を受けておりますので、役に立つ男ではあります。本人と親御さんの意向で、冒険者として社会勉強をすべきという結論に至りまして、先輩として私が預かっているしだいです」
「そう……聖騎士から冒険者ですか。戸惑う事も多いでしょうが、私で相談に乗れることがあれば、何でもお話になってください」
シスター・クレスタは超前のめりである。
クレスタさんはバドママより幾分か若い美女である。まあ、気が強そうだけどね。
「私も、貴族の家の端くれの出です。生きづらい事もあったのでしょう。ですが、この神の家で新しい門出を迎える事も、良い事だと思います。ええ、暫く滞在することを許可致しますわ」
「「「ありがとうございます」」」
私が幾ばくかの(大体大銀貨一枚)をシスターに差し出し、「あとはお任せ下さい」と私たちはドナドナされていく子牛のような目をしたバドに笑顔でさよならを告げ、修道会を後にした。
因みに、ゲイン修道会は圧倒的に女性の構成員が多いが、男性の修道会員も存在するし、男女別施設で活動している。大都会ではゲイン修道会=お見合いパーティー活動として機能している会もある。会ごとに微妙に異なる集まりなので、自分に合う会を選ぶのが大事らしい。
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さて、『黄金蝙蝠商会』に再び顔を出すことにした。既に、次の荷を運ぶ準備は始まるらしく、そこはかとなく活気がある。
「よお、無事だったかお前さんたち」
「おっちゃんも元気で何よりだよ。ベックさんいる?」
「ああ、頭なら奥にいるぞ」
口々に無事と、お礼を言われ、ちょっと仲良くなった感じがするのは悪くないね。
奥の商会長の席にはベックのおっさんが座っていた。
「お、ヴィーとビル。何だかいろいろと世話になったみたいだな」
「ちょっと公爵様に呼ばれて、戻りが遅くなったけど、無事、戻ったよ」
「なにか、大変だったんだろ? 詳しく聞かせてくれ」
ベックのおっさんは商会頭の顔になり、奥の応接室に案内すると、詳しい話を聞きたいと切り出した。
私は、「捕まえた賊の中に、公爵家所縁の者がいたので引き渡したのだが、本人の希望で冒険者として社会経験をさせる積りで預かった」という話をする。
「襲った相手は分からねぇんだよな」
「間に色々人を挟んでいるので、公に賊の首領らしき騎士風の男は預けてきましたけれど、判明しないと思います」
と所見を伝える。今回の目的は『護衛』だから、十二分に及第点を貰えるので、おっさんは文句のつけようはないだろう。
「どうすればいいと思う?」
「取引をやめるのが簡単ですけど、それ以外でですよね」
「ああ、勿論だ」
取引量を減らさせてもらい、元の商会と取引をシェアするというのが一つ。全く取引が無いから問題なわけで、多少でもつながれば、「御用達」の名前は残るので、その線で調整するのが無難だと思う。
「なるほどな。相手は察しが付くんだけどな。交渉に乗るような奴だとは思えないんだ。お前ら手を引けって言い方するんだ。難しいだろ?」
では、折衷案。何度か襲撃を受けた上で、依頼する金額が高止まりするまで今の体制を続ける。失敗が続けば、その場の依頼料は手付だけで済むけれど、規模を大きくすることを考えると、手付も多く取られるだろうし、引き受けてもどんどんと減っていくことになるだろう。
「……そこまで危険なことをしないと無理か」
「さあ、相手がわからないので私には何とも。でも、今回は二十人以上の傭兵で街道の進路上を封鎖して前後から挟み撃ち。騎士も五人投入していますし、弓使いもいましたから、それなりの規模の傭兵団に依頼して殺しに来ていたと思います」
「だよな……」
おっさんが頭を抱えるのは分かるが、手打ちをするか、とことんやるかの二択しかない。間に入ってくれる人間を探すしかないだろう。その場合、公爵家の窓口の人に相談するのも一つの手だ。数を揃えるのが難しいので、出来れば、以前の取引先と扱いをシェア出来ないかという話をこちらからして、公爵家から先方に話をしてもらうのだ。
「……それか……それしかないか……」
「正直、護衛を付けるくらいなら、うちに依頼して、おっちゃんたちは公爵家以外の納品に専念すればいいのでは?」
「なるほど。おまえさん達なら、馬車一台でも全部運べるだろうし、鮮度も良い状態でお渡しできる」
「商会の馬車ではないですから見つけにくいですしね。何とでもなります」
おっちゃんたちの命を考えると、私とビルの『ラウス商会(仮)』で運ぶ方が良い気がする。バドもいるしね。
結局、取引を公爵家以外に広げる事がおっちゃんたちを他に回せるなら可能という事と、取引の回数を間をあけてもらうという事で、私たちの専属の依頼として定期的に引き受けることになった。大口取引成立☆
前回は一樽大銀貨一枚だが、今回から二枚とすることになった。凡そ五十樽運ぶので、金貨十枚の売り上げとなる。そこから、宿泊代とか色々掛かるので、手元に残るお金は少し少ない。けど……大儲け。金貨十枚毎月稼げるなら、行商人としてはとても儲かっています。
「この売上なら、ランクアップ間違いなしだね」
「それはよろしいですね。数か月も繰り返せば、襲う者もいなくなるでしょうし、襲わせた依頼主も尻尾を出すでしょう」
いやー 楽しみだな。討伐すれば馬車や馬が手に入り、さらには賞金首だって討取れるかもしれない。ウハウハだな私の行商人ライフは。
「月一で公爵家に立ち寄るのなら、バドも親に合わせられるから、悪くないよね」
「……彼は、少し親離れすべきだと思いますが……」
「生きているうちに、親孝行させたいと思わない?」
あれだけ愛情をかけている母親なら、今頃心配で夜も眠れないかも知れないじゃない。公爵は他に子供もいるし、相応の愛情だろうけど、母一人子一人の母なら、やっぱ、会いたいと思うんだよね。会いたいときに親は無しとか……なんか違うけど、そういう事だよ。
商業ギルドにベック氏が私たちと継続的に『ブレンダン公爵家』への配送依頼を受ける契約を結んだ。これは、一度結んだ内容で、その都度依頼を受け、ギルドを通して仕事を発注するものだ。手数料を5%ほど徴収されるが、『遍歴商人ランク』に反映されるので、ランクを上げる為には必須なのだ。
名前こそ遍歴商人となっているが、実際は行商でも店舗を持ってでも商売する上で必要なランクとなる。冒険者ギルドより条件が厳しいのは、仕入れや店舗の借り受けにギルドが保証人となるシステムがあり、売上の一定割合を供託金として積み上げ、そのお金で仕入れの代行や店舗を借りる際の相手への補償を行う仕組み故であったりする。
そう考えると、職業別ギルドの中で、冒険者ギルドが一番適当だなと思う。だって、下のランクで失敗しなかったら昇格。失敗二回で降格とか、アバウトな基準だもんね。傭兵の取り締まりの為という名分があるとはいえ、死んだらお仕舞いの冒険者に失敗を許容するのはどうかと思うのよね。




