4-05 荒んだ騎士は死なず、私はそいつを金に換える
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4-05 荒んだ騎士は死なず、私はそいつを金に換える
椅子取りゲーム大会は全員致命傷で済んだので、残念な結果となりました。商品の道を塞いでいる馬車は私たちの物になります。ラッキー
え、だって、今の馬車ボロすぎるんだもん。捨てようかどうかずっと迷っていたけど、こっちは戦場用に補強されているワゴンだから、とてもいいね。これは収納してしまいましょう。
「こいつらはどうしますか?」
私は街道上の障害物を全て土牢で地面の下に収納することにしました。とどめは刺さなかったので、後でゴブリンとか湧いて来るかもだね。
そして、プレゼン大会は佳境です。オッサン騎士が必死に言葉を尽くしているのに対し、荒んだ風騎士は一切口を開かない。早く殺せといわんばかりの姿勢だ。
「どうするのですか」
「うーん、おっさんの方が処分かな」
オッサン騎士が喚き出す。いやほら、明らかに話盛ってるでしょ?
「あのね、そもそもあんたの年齢でそんな話をするくらいなら、こんなしょうもない依頼を受けるわけないじゃない? どうせ、傭兵団の人間抱えて、首が回らないから受けたんでしょ?」
オッサン騎士の沈黙。沈黙は肯定とみなすというのは良く聞くセリフだね。
「黙っていても殺さないから。殺してほしいなら、死にたい理由を言いなさい」
「……」
どうしようかなー どうやらこの荒んでる騎士……略して『荒騎士』は、悪い事慣れしていないようなんだよね。慣れている奴は、オッサン騎士みたいにべらべら余計なこと話して、何とかしようと足掻くんだけど、それをしないって事は経験が少ないだろうね。
「この男、中々良い鎧を装備しています。ばらせば、どこかに職人のサインが入っていると思います。そこから遡れば、名前くらいは特定できるでしょう」
盗賊の類は、持ち物全て捕まえた人間の財産扱い。本人含めてね。
「面倒だから、二人とも連れて行こうか。オッサンも犯罪奴隷にすればいくらかお金になるだろうし、このだんまり君は買取希望が殺到するかもね。変態貴族夫人とか……色々ね」
「……くっ、殺せ!!」
おいおい、くっコロかよと思っちゃうよね。いやほら、美少女剣士とか女騎士でしょそういうの。現実にはいないけどさ。
「なんで、そんな情けをだんまり君に与えなきゃいけないのさ。馬鹿じゃないの。というか、馬鹿だね。あんた、私を含めて小銭貰って殺そうとしてたんじゃない。まあ、死にたがりなのかもだけど……生きて地獄を味わえばいい」
もしかすると、原神子教徒なのかもね。自殺は禁忌だから、原理主義者からすれば、あり得ないという事なのだろうか。まあ、普通に自殺するけどね。だって、川に落ちて溺れるのも入水自殺も変わらないじゃない? 周りが事故だと思うか、自殺だと思うか。自分で遺書でも書かなきゃ、単なる事故死になるんだよ。
いや、だから、睨んだって怖くないんだからね!!
面倒なので、馬に乗せる事もなく、馬車の荷台に紐で括り付け、牽いて連れて行く事にしました。自分の脚で歩けるじゃない。
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後片付けをしたものの、先行した荷馬車たちが休憩しているところで追いついたのは幸いだった。特にけがもなく、おっちゃんたちは口々に祈りを捧げてくれる。気持ち悪いので勘弁してください。
「で、あいつらどうなった?」
「生き残りはあの騎士二人だけだよ」
「……マジか」
「残酷な天使……」
いやほら、ちょっと条件設定が厳しかったかな。全員致命傷で済んだって感じだったのさ。連れてくるの無理そうだったから、そのまま埋めちゃった☆
「その二人はどうするんだ?」
「襲われたって事と、その証拠として連れて行く感じですね」
「依頼人を捕まえるってことか」
「それは無理だと思う。偉い人が間に噛んでいればその先は辿れないから」
おっちゃんたちは「また襲われるかも」と深刻そうな話になる。今後は、私たちで運ぶことで『ブレンダン』公爵家の納品は纏めれば、それほど危険ではないかもしれない。その辺りは、ベックのおっさんとの契約内容次第だろう。
流石に、毎回同じところの往復っていうのも嫌だしね。私とビルだけなら、片道二日もあれば何とかなるから気にしないけれど。でも、暫くは、この仕事続けないといけないかもしれないね。
その日の夕方、『ブレンダン』に到着。ここは、政治的な場所なので、街はそこそこの規模だけど、メインツみたいな落ち着いた雰囲気だ。先ずは、公爵様の城館に納品に伺う事になる。
街の入口で一行の責任者のおっちゃんがルベックから公爵家に魚の塩漬けを納品しに来たことを伝える。そして、馬車につながれた騎士風の男二人のうちの一人を見て驚く者がいる。
「……その若い騎士はどうしたのだ」
衛兵長らしき中年の男が問うので、『ハベル』の街を出たところで、二十人ほどの賊に襲われ退治した際の生き残りであることを伝える。
「その若い騎士は、自分の事を何も話さないのでわからないのですが、お知り合いですか?」
衛兵長は急いでどこかへ伝令を走らせるらしい。
「一先ず、捕えた護衛の冒険者はこちらに留まってくれ」
そう言われ、騎士二人と共に、詰所に移動する。幸い、おっちゃんたちが襤褸馬車の分の納品を一緒に済ませてくれるという事もあり、馬車は預けることにした。魔法の袋の中身は、明日にでも再度届ける事にしようかと思う。
門の横に設けられている詰所はそれなりの広さもあり、休憩施設も兼ねているようである。お茶を出され、簡単な聞き取りと調書の作成をしたいので協力して欲しいと言われ承諾する。
途中の街で何度か下見をされた事。商会の同業者から『ブレンダン』公爵家との取引を妨害される可能性があるので、今回商業ギルド経由の依頼で馬車の提供兼護衛として『黄金蝙蝠商会』に雇われた商人兼冒険者である事を説明した。
「その若さで星三の冒険者とは……すごいな」
「魔術を少々使えるので、そのお陰です。それに、相方に恵まれていますので」
金髪碧眼の美形の戦士をちらとみて、納得する衛兵長。そして……この事は内密にと言われ、この後起こるであろうことを説明してくれた。
「あの若い騎士は公爵家に所縁のある御仁です。姿をくらまされていたので、我々にも探すように指示が為されていたのだ。幸い、命を取らずにいてくれたようで感謝している。恐らくは、明日、公爵家で面談の申し出がなされることになると思うので、今日はこちらで用意する宿に泊まり、明日に備えてもらいたい。二人は、こちらで預かる。明日の面談の際に、報奨の件もあるから、それで納得してもらいたい」
私は「馬二頭を自分たちの物にしたいので、それを預けられる宿をお願いしたい」
と説明する。若い騎士の馬は公爵家の馬なので、それは渡せないが、残りの四頭は私たちの物であると承知してくれた。明日にでも、状態を見て二頭は売却する事にしようかと思う。
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衛兵長に案内された宿は……街一番の宿屋であり、『黄金の蛙亭』をさらにグレードアップしたような宿であった。平民では最上級の宿だという。
商会のおっちゃんには衛兵長から連絡をしてもらい、先にルベックに戻って貰って構わないと伝えてもらう。馬は返却し、馬車はこの宿に回してもらう事を伝えてもらう事にした。
「ラッキーとは全然思えないんだけど」
「面倒ごとに巻き込まれましたね。あの若い騎士……」
殺しておけば良かったとは思わない。けど、明日の事を考えると憂鬱だ。
「ビル、あなた元皇帝陛下の剣だったわけじゃない? 立場は違うけれど最悪、選帝侯閣下と会うんだけど、気を付ける事ってある?」
私の人生史上、最も世俗的地位の高い身分の人に会う。精々、ギルドマスター位しかあった事が無いので、どう接したらいいのかわからないのだ。因みに、ギルマスは都市の評議員を兼任するくらいの有力者ではあるけど、公爵と使用人くらいの差はある。
「そうですね、へりくだり過ぎる必要はありません。敬意をもって堂々と会いましょう。会いたいと願ったのは公爵閣下ですから、用件を聞き出来る出来ないははっきり伝えれば良いと思います」
「断って拘束されたりするかな」
まあ、土魔術で穴掘って逃げるのは簡単。それに、この公爵領を出てしまえば、司法権はないから、言いがかり付けられて拘束されることもない。帝国万歳!!
「大丈夫でしょう。あなたを賓客として扱うという事は、願い事があるか礼がしたいのどちらかです。断られたからと言って投獄する事は、公の評判から言って考えにくいですね」
当代の『ブレンダン公爵』は英明と言われている。四十代前半で、選帝侯としての治世も二十年を経て円熟の領域に入っているとの評価を得ている。
私たちに対して危害を加える要素はないだろう。たぶん、証拠はないが、印象では確実だ。
ちょっと高めのワインと、宿のおすすめディナーを頂き、数日ぶりに風呂に入った私は、明日の事は明日考えようと一先ず熟睡することにした。




