4-01 ルベックは大きく、私は大いに驚く
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4-01 ルベックは大きく、、私は大いに驚く
海を見ようと思い私は『帝国の女王』と称されることもある『商人同盟ギルド』の盟主『ルベック』にやって来た。それはメインツでビータやプルと別れ、エッセで魔銀の剣を受け取った後の事だった。
暫くはこの場所で勉強を兼ねて使いっパシリの仕事をするつもりなんだ。なにせ、商人としてのノウハウなんて全然ないからね。ビータパパが「うちで見習いすればいいじゃないか」と言ってくれたけど、私の目指すのは冒険商人。ビータパパの商売は手堅く決まった取引先とのやり取りをするタイプだから、帳簿だ在庫だって勉強にはなるけれど、実際の駆け引き的な物はわからないんだよね。
なので、ギルドで護衛や商売の手伝いの依頼をこなしつつ、コネや伝手を育てようと思ってます。
帝国には皇帝に直接税金を払う事で、他の君主から独立した都市運営を行うことを認められた『自由都市』というのがある。その相互ネットワークが『商人同盟ギルド』なんだ。職人や商人のギルドの都市版だと思ってください。
『商人同盟ギルド』(以下『同盟』と略)は東外海を中心に帝国商人が作った商業のネットワークである。
この地域の大きな都市はこれに加入しており、『同盟都市』と称される。法的自治権を有し、経済力による裏付けを持ち同盟内で軍を編成、国家と戦争を行った事もある。
その昔、都市に定住する事無く『遍歴商人』とも呼ばれる、所謂行商人が主な商業の形態であり、古の帝国時代のような大商人は存在しない時代が長くづついたのは、蛮族により都市が略奪されその後再建されることが少なかったからだと言えるかもしれない。
当時、冒険商人として武装し東外海で覇権を握っていたゴット島の蛮族から帝国の遍歴商人を守るために作られた組織が『同盟』である。 蛮族には自分たちの身内以外に財産を保護する権利を認めておらず、略奪し放題ということで非常に危険な存在であったが、帝国との取引を行う為には、帝国の『同盟』商人にも同じ財産権を認めさせることで、略奪を防ぎ安全を守ることをゴット島の冒険商人団に認めさせることが出来た。
また、遍歴商人として帝国を離れる『同盟』の団長に独自の司法権が与えられたことは、帝国の勢力外での活動を前提としたためである。
当初、同盟の主な活躍場所はゴット島にある都市『ビスビ』であり、東外海の東端にある降国の『ノブゴ』から、西の端連合王国の『首都』に『領事館』を設置した。
因みに、ランドルの『ブルジェ』にも同盟都市以外で『領事館』が設置されている。同盟都市内では『商館』と呼ばれる。
『ベック系』都市の建設と興隆は遍歴商人の一部を「定住」させることへと繋がる。都市の理事会で指導者として振舞う有力者が台頭する。それまで、『同盟』は遍歴商人を守る存在であったが、これら定住商人同士での取決めが増えるなか、都市間同盟へと変貌する。
つまりだね、冒険商人たちが助け合って作った街がこのルベックを始めとする帝国の自由都市ってやつなんだよね。
今まで住んだことのある『トラスブル』も新進気鋭の職人たちが沢山いて、活気のあるいい街だったし、『メインツ』は落ち着いた空気の流れる良い街だった。『ルベック』は……「異国」って感じの街。
大きさはメインツやトラスブルと変わらないと思うんだけれど、帝国の外から沢山の人が物を売りに来ているから、知らない言葉や見たこともない異装の人達が珍しくない。だから、私がちょこっとやらかしても……多分バレない。そこが気に入っているところでもある。
もう一つは、ルベックには商人が多い事もあるし、衛星都市を抱えているってことからもいわゆる「本店」で経営者の妻子が住んでいることが多い。つまり、お金持ちが沢山住んでいる。
この街の『ゲイン修道会』は帝国最大規模で、五ケ所もあり、最大六百人も滞在できる。シスター・テレジアの友人もいらっしゃる。
「シスター・クレスタ、ごきげんよう」
「ごきげんよう、オリヴィ・ラウス。今日は仕事を探しに行くのですか」
「はい。その為にルベックに参りましたので。いささか、街に馴染むのに時間がかかっておりますが、そろそろ本格的に始めたいのです」
「……そうですか。他の街のゲイン修道会に何か物資を運ぶ仕事があれば、頼んでも良いですか?」
「はい。その場合、一応行商人ギルドを通してもらって、正式に契約書を結ぶ事になりますが、よろしいでしょうか?」
シスター・クレスタは一瞬考えたものの「そうですね」と答えた。安くはするが、無料では依頼としてギルドを通せないので、多少の手間賃を貰う事になる。この人、悪い人じゃないんだけど、商家の娘らしく利害に敏感なのだ。
お陰で『ルベック気質』というのが何となくわかる。最初に利害の判断が頭にくるのだ。ド=レミ村では利害より長期的人間関係が重要だったし、トラスブルやメインツでもそれはあったと思う。貸し借りというか、人間的にどうなのかって判断が先に来る。
ルベックではそれはそれ、これはこれなのだ。つまり、貸し借りはその都度事が終われば契約終了となってリセットされる。だから、個々人の関係も割とビジネスライク。損したり得したりするけど、遺恨を残さない。貸し借りはその都度清算されるドライな関係……に今のところ見える。
田舎者には馴染めないかもだけど、気が楽ということもある。今まで住んだ街には友人と呼べる人たちが出来たが、ここではちょっと難しい気がする。そこまで心を許せる存在は出来そうにもない。
「都会に疲れましたか我主」
「……今まで住んでた場所もたいがい都会よ」
ビルは特に気にならないようだが、それは人間じゃないからだよね。それでも、これがいるお陰で、多少孤独感は感じずに済むから感謝するけどね。
今は前だけ向いているから、割り切りの人間関係も悪くないと思う。
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冒険者ギルドと商人ギルドに私は所属している。所属しないと、お仕事紹介してもらえないからね。行商人ギルドは商人ギルドの下部組織なので、その仕事も勿論受けることが出来る。
元々この街は『遍歴商人』の街だからと言うだけでなく、商売の起点としてルベックに海外から持ち込まれた『魚の塩漬け』などを売り歩く商売も存在する。また、ここに買い付けに来る帝国の商人もいるので、その購入後の輸送や護衛の仕事も少なくない。
だって、買う前に護衛はいらないじゃない? ここで雇ったほうが安くつくよね。まあ、信頼関係のある護衛を最初に帯同し、追加で護衛を雇って同行させるような使い方が多いのかな。
「さてと……冒険商人向きの依頼は……」
商人ギルドで依頼を探す。私の好みは「輸送+護衛」の依頼だ。つまり、自分で運んで自分で護衛するという手合いだね。これは、自前の馬車と護衛を持っている商会などが、自分で使っていない間に手間賃をもらって自分の馬車と馭者と護衛を他の商会に貸し出す案件だ。
私も馬車を持っている……という事になっている。え、そんなの無限に広がる魔法の袋に入れて運ぶから、馬車なんてどうでもいいんだけどね。見た目さえ『馬車』であれば。
馬車も収納させているので、馬だけ借りて馬車の馭者と護衛としてついていくだけの誰にでもできる簡単なお仕事です。
「あ、ラウスさん。今日はお仕事お探し中ですか?」
商人ギルドの顔なじみのお姉さんが声をかけてくれる。多分、ショタコンでは無いと思うが、私に優しい。
「こんにちはバネッタさん。いえ、いつもの輸送と護衛の依頼を探しています。お奨めは有りますか?」
バネッタさんは金髪にプラチナブロンドの「北国の美女」という雰囲気の二十代半ばのお姉さんだ。因みに既婚者です。故に、イケメン『ビル』にも全く反応がありません。
「いいですよ。どこまでですか?」
「ちょっと遠いの。ブレンダンよ」
ブレンダンというのは、ここから南東にある公国の首都の事だと思われる。七人の選帝侯の一人ブレダン大公の治める領の中心の街だ。
普通はここからエーベ川まで運び、水運で運ぶのも考えられるが、いくら塩漬けとは言え川を遡るのは時間がかかり商品も傷む。故に、時間の読める馬車での輸送を依頼したいのだろう。その分、魚は高くなるが、それでも良いというお客は存在する。
「承知しました。では、依頼を受けてその足で紹介先に向かいますね」
「ええ、そうしてもらえるかしら。今、受注書を作成して紹介状を渡すわね」
バネッタさんは親切で優しい美人さんだ。友達とは言えないが、シスター・クレスタよりは余程親身にしてくれている。あ、シスター下げじゃないからね。彼女の性格とか、修道会の規律的な物も反映されているから。悪口じゃないよ。それに、親身にするのもバネッタさんにとっては仕事のうちかもだしね。
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紹介されたのは『黄金蝙蝠商会』という、魚の塩漬けを扱う商会だった。買い付けた魚の塩漬けを、ブレダンに配送する輸送団に同行し運び、同時に護衛をこなすという、いつぞやのトラスブルから出る時の依頼に近い。
あの時は馭者だったけど、今は一応駈出し冒険商人にランクアップだよ。
さて、紹介された場所に行くと、如何にも塩漬けの樽を積んだ馬車が沢山並んでいる。
「ギルドの紹介で、魚の樽を運ぶ馬車と馭者に護衛を連れてきました」
ギルドの紹介状と受注書を見せ、責任者の人を呼んでもらう。
「おお、お前らか。魚はこっちにあるから積み込んでくれ。詳しい話はその後だ!!」
どこから見ても『賊』にしか見えない毛むくじゃらのデカいオッサンがそこにはいた。うん、この人が先頭の馭者台に乗れば、問題ないんじゃない?




