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3-19 アム・メインは思ったより素晴らしく、私はしばらく滞在したいと思う

3-19 アム・メインは思ったよ素晴らしく、私はしばらく滞在したいと思う


 アム・メインで無事依頼完了のサインをもらい、私たちは夫人一行と離れる事になるわけだが……


「これを持っていてくれ」


 パルドゥルから、紋章の刻まれたメダルを渡される。あ、もしかして何枚か集めると特別な装備がもらえるメダルとかでしょうか。


「これは、公爵家に連絡が付くメダルだ。もし、公爵家に訪ねてくることがあれば、私の名とこのメダルを渡してくれれば、必ず会う事ができる。今すぐ何か礼ができるとも思えないが、いずれ、力を貸せることもあるだろう」


 つまり、『借りが一つできた。後日必ず返す』メダルですね。ありがとうございます。





 アム・メインは最初北側にあった小さな城塞都市から始まった。人口増加と共に更にその二百年後に大規模な城塞が外側を囲み、さらにその二百年後現在の外城壁・架橋・対岸の市街が形成されたらしい。


「バルバロッサがこの地にいたのは二つ目の城壁の時代に当たるわね」

「それなら、見たことがあるかも知れませんね、私でも」


 二百年ぶりに目覚めた魔剣様は、恐らく、その古い小さな城壁の時代のアム・メインを見ているのだろう。とは言え、すっかり様変わりしているであろう街は定住人口が一万を超え、更に帝国各地からやって来る商人や貴族、それに……傭兵や冒険者、それを相手にする様々な職人や娼婦、吟遊詩人などが集まるので、実際の人口はその二倍を超えているのではないかと思うのだ。とにかく……人が多い。


 コロニアの猥雑な感じとも、メインツの秩序ある感じとも異なる……一種の言葉にできない圧力を感じるのは、この街が非常に政治的な存在である

からだとは思う。


「帝国自由都市で、毎年多くの見本市が開かれる商業の拠点でもあるから、常に様々な人の出入りがあるのです」


 ビルは前世? 前回活動していた時期の記憶を思い出しながら、この街がなぜこのように栄えているかを説明してくれる。住むならメインツだけど、買い物や新しい情報を得るならアム・メインが適切かもしれない。近いし、帰りは舟で下るだけだ。


 見本市という事は、ここで買い付ける大規模な商人や、大量受注を熟す工房なんて言うのが相手なんだろうね。私のような駆け出し冒険商人には関係ないか。


「あなたのような立場の商人は、酒保商人になるでしょうね」


 なにそれ? ビル曰く、傭兵団などの軍隊に同行し、略奪品の買取や武器や酒などの販売を受ける所謂マッコイ商会のような仕事とでも言えばいいのだろうか。嫌だな、盗んだ馬車で走り出すような傭兵相手に商売するのはさ……


「勿論、見本市の時にも商売のチャンスはありますよ」


 見本……を処分して荷を軽くすることもあるのだという。つまり、一点ものの見本をいくらか買い集めることができるのだという。それはそれで、面白い商売になるかもしれない。


「織物などは良い物が安く買えるでしょう。それを狙ってくる被服職人も少なくありませんから」


 つまり、街の衣装屋さんもその辺りで素材を安く仕入れて利幅を稼ぎたいという事なのだろう。貴族ならそれなりに原価と手間を考えて言い値で請求が出来るだろうけれど、都市の住人相手では限度があるからね。まあ、貴族が素直に払ってくれるかどうかってのも疑問だけどね。手付くらい貰っておかないと踏み倒されかねないね。


「それと、帝国内にあるあらゆる職人ギルドがこの街には揃っています。見本市が開かれるくらいですから当然ですね。コロニアも充実していますが客筋が異なります。アム・メインは貴族御用達の事が多いので、価格も高め、敷居も高めですね」


 敷居? はて、何のことだろう。


「帝国の百貨店都市と綽名されるくらいですからね」


 なるほど、ここで揃わない物は帝国のどこに行っても手に入らないとでも言うのだろうね。まあ、私にはあまり関係ないけれど、面子を大切にする貴族の皆様と、その人たちを相手にする大商人たちにとっては価値の高い街なんだね。


「さて、どこか泊めてくれる宿はあるのかな」

「勿論です。今は議会も開かれていませんし、貴族の従者や使用人が泊まる宿から、騎士達が泊まる宿や都市の代表者が泊る宿まで様々なグレードで用意されていると思います」


 私は、是非、個室で風呂付の宿を探す事にした。面倒なので、冒険者ギルドで完了報告してからそこで紹介してもらおうかな。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 アム・メインの冒険者ギルドは、コロニアのように大きな建物で、尚且つ石造りの重厚な佇まいのものであった。多分、貴族の依頼を受けることが多いから押し出しが大事なんだろうね。とは言え、当主が来るわけがないのだけれど、公爵あたりになれば、執事に子爵男爵がいるのはおかしくないので、その位でちょうどいいのかもしれない。


「確かに、依頼完了ですね。では、こちらが支払いとなります」


 私は小金貨二枚と銀貨五枚を受け取る。正直、金貨十八枚貰っているからどうでもいいんだけどね。ビバ、身代金☆ いやー フェーデしちゃう盗賊騎士の気持ちよくわかるわー まあ、私は騎士じゃないからできないんだけどね。どこかで、騎士の権利売ってないかなー。


 とはいえ、帝国騎士って封建領主の末端だから領地の運営をしなきゃならないし領民の面倒も見なきゃならないなんて……しんどいだけね。好き勝手言う農民の話を聞くなんて、ド=レミ村時代に限界突破しているから、もう聞きたくないしね。


 まあ、冒険者の等級あげる方が簡単かもしれない。指名依頼も断れる物は断ればいいしね。一人なら無理でも、ビルと二人なら何とかなる気もするし、今回みたいに貸しが作れれば何かあった時に、情報収集の役に立つかもしれないじゃない?


 よし、気分を変えて、冒険者等級を上げる方向で頑張ろう。そして、プルが大きくなったら東に向けて旅に出よう。異教徒がどうなるか分からないけれど、ほら、ビルが異教徒風に変化すれば何とかなる気もする。


「とりあえず、紹介された宿に行きましょう」


 宿の名前は『虹の雫亭』……素敵な名前ではありませんか。





 宿は新街区にあるものの旧街区からさほど遠くない場所にあり、立地はいいような気がする。旧街区は重要な建物やギルドに所属する職人の工房が多い半面、狭く古い建物が多いからね。


 メインツでは計画的に街が配置されていたけれど、ここは旧街区が管理出来なくなったので外側に新しい街区を計画し、その部分を管理しているという感じなんだろうな。建物も新しいし、街路も広々だもんね。


 『虹の雫亭』は、高さを抑えた新街区においても周りと変わらず、その分、横に広々としている。五階建てくらい当り前の狭苦しい旧街区とはえらい違いである。


「流石帝都ってところかな」

「皇帝はいくつかある皇帝を輩出する家系から選挙で選ばれますので、ここは帝国議会の会場ではあっても帝都と言えるかどうかは疑問です」

「皇帝の居城と議会の会場は別って事?」


 古代の帝国が崩壊した後、いくつかの国が成立したが、一つの王家の元に帝国は纏まらなかったのだという。色々長生きの魔剣が説明してくれたんだけれど……


「王家でつながっていないから、割と帝国内ってそれぞれの領邦が好きにやっているって事ね。だから、自由都市となり君主に従わない自力で都市を守ろうとする者たちも多いから、都市と領邦が入り混じっていると」

「そんなところです。良い面もあり、悪い面もあります」


 そりゃそうだろう。調停役がいないから、対立した場合力で勝負しないといつまでも対立が続くことになるし、一度戦端を開いたら、決着がつくまで長い時間がかかりそうだ。


「ある意味、古い形態の国なのでしょうね」

「どういう意味?」


 二百年休憩していた魔剣としては、最近の状況を知るにつれ、随分と隣国である私のいた「王国」が強力になっているものだと感じていたのだという。


「私の知っている王国は、それは脆い物だったのです」


 王家は王都のある周辺を領地とする小さな権力しか持たず、他の主要な地域は独立していたり、他国の支配下にあったり、王家に従わなかったのだという。


「そうね、私のいた村もしばらく前は王の親族の公爵領の一部だったのが、戦争に負けたかなんかで公爵家が断絶して王家の直轄領になったって聞いた気がするわ」

「やはり、戦争して王家の優位を確立したのでしょうね。随分と貴族の家系も数を減らしているようです」


 戦争をすれば、当主が死んだり戦地に出ている分、夫婦関係もほら少なくなるんじゃない? 子供が少なく、いても死んでしまったり婚姻で王家や王の分家に相続されて随分と領土が変わっているみたいだね。


「帝国内ではその辺り、あまりないようですね。独立している都市が多くて、纏まり様がないというのもあります」


 確かに。王国は戦場になっていた期間がかなりあるので、その辺りも影響しているのかもしれない。人も死に、領主が変わって体制も変わっているのでしょう。


 あ、戦争に勝って王家の力が強くなったからって、勇者をゴリ押しで夫に迎えようとする王女の存在は認めないからね。まあ、未練はないが人生を変えられた想いは忘れません。いつか仕返ししてやりたい……できるならね。


 その日は、仕事も終え広々とした部屋でゆったりと過ごしてとても満足することができた。風呂も食事もとても素晴らしく、もし次にアム・メインに来ることがあれば、再び泊まりたいと思う宿だった。







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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

ヴィーの友人ビータとプルのお話です。後編!年末年始集中投稿中☆

『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


― 新着の感想 ―
ヴィーが本気になれば、ここの王家も一族郎党ごと…
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