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3-18 アルノーは身の振り方を考え、私はある提案をする

3-18 アルノーは身の振り方を考え、私はある提案をする


 短いお茶会の後、私たちは数日後に再びメインツに戻ることを告げ、商会を後にした。


「もしかして、あの婚約者の失踪に、貴方様が何か関係しているのでしょうか」


 勘のいい魔剣は嫌いだよ……とは思わず、私は掻い摘んで、ビータとの出逢いと事件のあらましについて説明した。


「あの話の流れからすると、ビータ様ご本人もご家族も安心されているようで何よりですね」

「多分、あいつの実家でも親も含めて内心良かったと思ってるんじゃない?婚約者を凌辱して騙して結婚、その後、実家も含めて恐喝しようとか……頭がおかしいよね」

「いえ、少なくないですよ、その手の輩は」


 強盗騎士が当たり前の時代、似たことを考えるろくでもない商人がいてもおかしくない。家の都合と、自分の利益の為に幼馴染の側近騎士を殺そうとする貴族の当主もいるんだからね。


 二百年の眠りから覚めたビルからしても、当たり前の事らしい。


「そういえば、二百年前というと」

「ええ、あの騎士団が王国で異端として摘発された時代ですね」


 詳しい事は知らないけれど、異教徒との戦争で拠点を失った有力な修道騎士団が王国に拠点を移す事を嫌った当時の国王とその周辺の官僚が一斉に王国内の騎士団の支配地を制圧して、異端として騎士や修道会員を捕えたということだね。


「あれって、結局何だったの。異端と認めれば一応許されたのよね?」

「総長は異端と認め調書を作成し裁判に臨みましたが、裁判の場では一転調書の内容を否定しました。二度目の背信ということで、直後生きたまま火炙りにされています」

「え……」

「……当時の騎士団の王国内での資産は当時の王家に匹敵する、いえ、様々な街道や要衝、大きな都市で不動産を資産として保有する数か国に及ぶ大領主だったのです」

「それで異教徒相手の戦争に負けてれば……意味無いわね」

「意味がないので処刑されたのです。王国以外でも、一度異端として財産を没収した後、異端を解除して処刑を取りやめた国もあります」


 あからさま過ぎるわね。いまは、別の修道騎士団に吸収されているんだそうだけれど、王国は異端騒ぎの間に換金できる財産は全て売りさばいてしまったので、返されたものは大した価値が残っていなかったらしい。最初から、資産を処分し、上に教皇しか頂かない不穏分子を排除したともいえる。


「という事で、貴方様も権力者に目を付けられたり、逆らう事は避けるべきだと思います」


 ビルに言われるまでもなく、それを避けた結果として私は帝国で冒険者をしている。幸い、帝国はそれぞれの領邦ごとに裁判権・警察権が独立しているので、何か揉め事があっても別の国や街に移動してしまえば影響は直ちにはない。


 中には、帝国の様々な領邦で問題を起こし、帝国議会でアハト刑を宣告されるお馬鹿もいるようだけれど、私はそんな馬鹿じゃない。


「今回の護衛は失敗だったかな」

「仕方ありません。最初からそれとわかっていれば避けられたでしょうが、普通の護衛依頼にしか見えませんでしたから」


 でも、受付嬢は知っていたっぽいね。少なくとも、定期的に出される馬車の護衛とは少々異なるって事は知ってたんだろう。ある意味、コロニアのギルドで悪目立ちした結果なのだろう。あのギルドでの素材採取以外の依頼は受けないようにしようと思う。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 翌日、アム・メインに向け最後の旅程につく事になる。今まで通り、私が先行し、騎馬で二人が同行するのは変わらない。


「最後の一日になるだろうから、気を引き締めて行こうか」


 アルノーが私たちに声を掛ける。既に、パルドゥルと夫人、アルノーの間では話がまとまっているようだ。時間もあったし、充分に話し合えたのだろう。


「アルノーはこの後どうするか、決まっているの?」

「……いや、主家には戻れないから……冒険者にでもなるか、傭兵になるしかないと思っているよ」

「その場合、主家に暇乞いをするんでしょ?」

「無断で離れることはお互い不名誉だからね。親兄弟もいるから、余り不穏な事も考えられない」


 なるほど。その辺が、主家の側近で当主の幼馴染になるくらいの家格の騎士だとあるのだろう。死んでも生き残っても行き場がないんだね。


「夫人とパルドゥルとはどう話したの?」

「……夫人は実家の公爵家に仕えるのはどうかというのだが、主替えも不名誉に当たる。それはそれで、向こうの面子が傷つくことになる」


 騎士が見限って主を変えるというのは確かに不名誉だろう。残されたアルノーの家族も居づらくなる。


「なら……死んだことにすればいいじゃない?」

「……どういう意味だ……」


 つまりこうだ。野盗に襲われ、何とか撃退し、一部を捕えることができた。その時の傷が元でアルノーは死んだ。今ここにいるのは……改めてコロニアで募集した冒険者の「アル」だ。誰が何といおうと、騎士ではない。


「そ、そうか……」

「但し、護衛の依頼を受けるには星二つ以上が必要だから、依頼はそうだね……夫人の身の回りの世話……ボディガードではどうだろう」

「騎乗の護衛はパルドゥルに変わってもらえばいいだろう。登録はほんの僅かな時間だぞ。君なら、武装もしっかりしているし見た目もどこから見ても『騎士』だからな。必ず冒険者の登録ができるだろう」


 ビルも合の手を入れる。後は、夫人とパルドゥルが協力してくれるかどうかだ。





 アルノーが私たちの提案に同意し、夫人とパルドゥルに自分の考えを伝える。


「……あなたはそれで良いのですか?」

「はい。騎士でなくとも、貴方様の安全を守る勤めを全うする事はできます」

「いや、冒険者『アル』を改めて公爵家で騎士として採用すればいい。勿論、試験は受けてもらうし、新人としての採用になるとは思うが……不可能ではない」


 夫人が意思を確認し、アルノーが答え、そしてパルドゥルが新たなる提案を行う。今までの夫人に対する献身、身分を捨てる事への償いを踏まえて、公爵閣下が配慮するに足りる存在になるだろう。


 何より、夫人の扱いに対する生き証人でもあるから、味方にしておくに越した事はないのだ。


「なら、決まりだね。騎士アルノーは怪我が原因で……この街についた後、手当の甲斐なく死んだ。新たに雇い入れた冒険者「アル」が同行する」

「では、早速……冒険者ギルドに行こう」

「ちょっと待って。騎士の紋章は消さないとだめでしょう。少なくともね」


 アルノーの鎧についている紋章を私は手持ちの塗料で黒く塗りつぶしていく。これで、主家とはさようならだ。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 冒険者登録を素早く済ませ、私たちはアム・メインに向け進む事にした。


「あれで良かったのかな……」

「殺されるよりはいいんじゃない。それに、あんた共犯者じゃない」

「そ、それはそうなんだが……いや、立場上、死ぬか家を離れるかしか無いからなぁ……」


 パルドゥルは昨日の失血で傷は治っているが体調は良くない。とは言え、短い距離だから、我慢してもらおう。


「それにしても、今回二人には良くしてもらった」

「公爵家で何か美味しい依頼があったら、ヴィとビルに依頼してちょうだい」

「パーティー名はまだないのか?」


 そういえば、依頼してもらうにしても等級が足らないし、パーティー名も決まっていないんだった。さて、なににしようか……


「あなたの姓でいいではないですか」

「ああ、『ラウス』ね……確かに、私たちの仕事は白でも黒でもない灰色の回答が好みかも知れないから……お似合いかもね」


 悪を倒す正義でもなく、正義に立ち向かう悪でもない。世の中そんな簡単に善悪二元論で考えられるわけないんだから。皆が少しずつ譲り合って成り立つのが世の中じゃない?


 結局、夫人の婚家と実家は争わねばならない状況に進んでいて、夫人の存在がお互いに不都合であり、それを解消するために一芝居打ったわけでしょ? 正面切って都合が悪いから離婚しろとは……言えないからね。


 今回の場合、婚家では十分に安全を確保できないので、しばらく実家で匿ってもらう……という建前で公爵家から護衛が付き、そのまま公爵領で生活することになるのだろう。子供さんいないのかな?


「夫人は……大丈夫なのですか?」


 ちょっと聞けないかもしれないと思いつつ、パルドゥルに様子を聞いてみた。


「……大丈夫とは言えないが、私とアルで御守りしていくつもりだ。それが、私の罪滅ぼしになるのだろうな。嫁いでもう、十余年になる。幼いお子もいるのだから、二つの家の関係が修復すれば元に戻れるやもしれん。それまで、御守りするだけだな」


 子供いるなら、跡継ぎとして正当な権利を要求できるのだろうね。今回は、おそらくエッセの修道院に預けたまま、夫人だけが向かう予定だったのだろう。実家で弟公爵とよく話し合って、子供さんとアルノー……じゃなかった冒険者アルの存在も身の立つようにしてもらえると良いな。


 そんなことを考えつつ、私たちは旅の目的地、アム・メインに到着した。思っていたより……ずっと大きいじゃない。なにこの街の真ん中に掛かっている両岸を繋ぐ橋は。確かに、帝国議会や戴冠式を行う街だけのことは有るね。




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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

ヴィーの友人ビータとプルのお話です。後編!年末年始集中投稿中☆

『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


― 新着の感想 ―
[一言] 子供がいるかどうかが気になってましたがいるのか~そうか~…… アルノーの行く末が決まってよかったです。 名前もついたので段々立派になってきましたね!
[気になる点] 最近テンプル騎士団に関する新書本を読んだらこんな所でそのネタが… 王国での騎士団拠点の跡地はどうなってるんだろう?
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