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3-11 黒い流星は地に落ち、私は用事を済ませて街を出るはず

3-11 黒い流星は地に落ち、私は用事を済ませて街を出るはず


 私に間接的に絡んできたバインちゃん(恐らくレンジャー系の冒険者。露出多し)と、黒っぽいハードレザーの装備で固めた剣士風のクロちゃんに絡まれた私は、ドキドキワクワクしながら話の流れに身を任せていた。これは……実力を見せろ!! とかいうんじゃないのか☆


「馬鹿な、俺たち『黒い(Schwarz)流星(Meteor)』が、こんな餓鬼に負けるだと……あり得ない。断る口実だとしても失礼過ぎる」

「そうよ! そんな貧相な餓鬼にうちらが負けるわけないっしょ」


 何だか、人相の悪いあんちゃんが出て来た。多分、リーダーはクロちゃんでバインちゃんが補佐役。後ろの盗賊っぽいガラの悪いあんちゃんと、置物みたいな如何にも盾持ちっぽいおっさんがメンバーなんだろう。ビルが前衛に入ると、手数が倍になるだろうなこの場合。


「どうしましょう。貴方様の実力をこの者たちに知らしめる事が後々面倒を避けられるのではないでしょうか」

「えー 嫌だよ、ビルが適当に始末してよ。私、指名依頼とか受けたくないから昇格しないように依頼受けてるのに、実力とか見せるの面倒じゃない?」

「「「はあぁぁぁぁ?」」」


 クロちゃん、バイン、チンピラの三人が声を上げる。何だか仲良しだね。


「ビルも私も星二つの冒険者なので、普通に依頼受けて行けるんで、特に仲間は募集していません。それに、私たちはコロニアには旅の途中で立ち寄っただけなので、移動しますし」

「はっ、どこだよ」

「色々です。メインツに知り合いが多いので、拠点にするならメインツですね。客筋もいいですし、余り大規模な集団に参加したくないので」

「俺たちとこいつが組めば、デカい依頼も受けられるんだよ。お前は邪魔だからすっこんでろ。どっかいけ」


 えー どっか行くのはお前らだろ? 面倒だな……受付さんを見ると笑顔でサムズアップされた。


「面倒だけど、相手しましょう。裏の訓練スペースを借りれるか、ビル、聞いてみてもらえる」

「はっ、承知いたしました」


 一礼すると、ビルが受付さんに許可を貰いに行く。もうこの時点で、普通ならただならぬ関係であると理解できるはずだ。が、自分の視点でしか考えられないクロちゃんたちは「さっさと決着つけるぞ」とイキっている。


――― 彼我の戦力差ぐらい推察できないと長生きできませんよー




∬∬∬∬∬∬∬∬




 ギャラリーが集まってまいりました☆ えー面倒だから、首まで土に埋めて終わらせようと思っていたのに……その手が使えないじゃない!!


「おチビ、誰から先に相手するか決めろ。俺たち三人全員を相手にするまで泣いても許してやらねぇぞ」


 どうやら盾持ちの人は参加しないようだね。まあ、盾で殴るだけってのも微妙だからかもしれない。殴られませんけどね。


「いや、全員同時で構わない。相手するのも面倒だから」

「はあぁ! なに調子くれてんだお前!!」


 チンピラ君が大声を出し、周りが囃し立てるので更にテンションアップする。


「いや、君と穏便に彼を別れさせようと思っての立会だから、喧嘩腰では不本意なんだよ」

「まあ、手加減しなくていいのなら、三対一でもうちらは良いけどね」


 クロちゃんはなんだかいいこと言っているけれど、単なる我儘ゴリ押しを一見相手を立ててます風に言ってるだけだから。


「ビルは私がパーティーを組むため登録させた従者なんだよ。馬鹿にはそれが理解できないみたいだね。主人を勝手に変える従者がいるのか?」


 クロちゃんがしかめっ面になる。おう、ハッキリ言ってやるよ理解できるように。


「ビルと私なら、私の方が強い。それに、あんた達じゃ私の供にするには荷が重いだろうから、言葉でなく体で分からせてやるから、とっととかかって来るが良いよ」

「なっ、得物はどうするんだ。木刀か」

「そちらはお好きに。私は……素手で良いから」


 顔面真っ赤なチンピ君とバインちゃん。クロちゃんも顔を顰めている。


「不本意だが、三対一、君は素手で僕らは……普通に剣を使わせてもらう。不慮の事故があっても正式な立会だから、責任は負わないよ」

「そっくりお返しする。さっさと始めよぉー」


 三人は私を半円形に囲みながら、剣をそれぞれが抜く。恐らく、バインちゃんは少し魔術が使えるんだろう。チンピラ君は何か良からぬことをしてくると思われる。毒霧とか……そういう仕掛けだね。


 クロちゃんが合図をし、三人は距離を取りながら死角に死角に移動し始める。この場合、正面の担当がクロちゃんで、受け流しながら左右の二人が死角から攻撃するのだろう。


 それにしても、慣れてるなこいつら。闇討ちとかしているのかもしれない。


「行くぞ!!」


 わざとらしく掛け声をかけ、クロちゃんが斬りつけてくる。思い切り振り下ろす剣を踏み込んで腕を跳ね上げ前蹴りを喰らわせる。


「グワッ!」


 後方に転がりながら吹き飛ぶクロちゃんに一足飛びに追いかけ、左右の二人は一瞬の動きに攻撃のタイミングを失ったようだ。


「次は頭を踏み潰す!!!」

「ああああああぁぁぁ……」


 頭の横に思い切り踏み足を入れ、地面が数センチ……十五センチくらいめり込み勢いで顔が跳ね飛ばされるクロちゃん。横に首が捻じれる。


「ちくしょう!!」

「リーダーの仇だ!!」


 クロちゃん死んでないから。まだ生きてるから。


 背後から何かを投げつけられた気配を感じたので、振り向きざま無詠唱で『風壁(sylphwand)』を展開する。どうやら、スローインダガーのような物であったようで、私を避けて後方に飛んでいき、ギャラリーから悲鳴が上がる。


 ほら、スリリングで楽しいでしょ? 立ち会う者同士も自己責任、見ている人間も自己責任だよ。


「ば、馬鹿な!」

「馬鹿はお前だ!!」


 無詠唱で『疾風(sturm)』を発動し、勢いをつけたままチンピラ君の胸に推手を叩きつける。


「グハッ!!」


 受け身も取れずそのまま後ろに吹き飛びながら地面を回転していくチンピラ君。多分まだ息があると思う。


「ち、ちきしょう!! お前何なんだよ!!」


 バインちゃんがお色気をかなぐり捨て、えらい勢いで怒鳴り始める。


「だ・か・ら・ 通りすがりの星二つの冒険者。で・も、師匠たちは『帝国の華』ってパーティーのメンバーだよ。死にたいみたいだから、教えておくね☆」

「まっ、マジで……わ、私ら喧嘩売っちゃいけない相手に喧嘩売ったんじゃないのおぉぉぉ……」


 そうみたいだよ。帝国の華、思ったより有名人らしいね。後で受付嬢さんに聞いてみようかな。バインちゃんはお漏らししちゃって昏倒したので試合終了。


 盾持ちさんが謝りに来て「止められずに申し訳ない」って頭下げてくれたので、自分の都合を押し付けるのは良くないよって窘めるようにお願いしておいた。まあ、女の人を殴らずに済んでよかったよ。




∬∬∬∬∬∬∬∬




「どうりでお二人はお強いはずですねー」

「いや、たまたまですよ、たまたま」

「たまたまで『帝国の華』の弟子にはなれませんでしょう。今度会ったら、トラスブルのアンヌに聞いておきますね」


 いや、怒られちゃうからやめて。トラブル良くない。


「確かに、今の年齢で星二つでも驚異的ですけれど……見た感じ星三つ半くらいの実力が今の時点でありそうですから。あまり力を誇示したく無いっていうのは分かります」


 美人受付嬢(ふんわり腹黒系)が後片付けをした後に話しかけてきたんだが、どうやら、上手く処理するから、お願い聞いてという事らしい。間接的な指名依頼って事なんだろうか。この前、魔銀鉱納めたので良くない?


「今すぐにでは……」

「いえ、先日達成していただいた魔銀鉱の納品だけで十分です。コボルドは討伐されたんですか?」


 え、手下にしました☆ そこはノーコメントです。


「ちょっと、トリックを使って上手くかわしました。土魔術が得意なので」

「なるほど、上手く誘導して、その間に採取することができたんですね」


 色々聞かれても教えないよ。





 という事で、一旦ほとぼりを冷ますべく、私たちは川上に移動する事にした。剣が仕上がるのも、コボルドたちが採掘するのも一月くらいかかるだろう。その間に大きく動かずに済むようにしようと思う。


 帝国の中心として戴冠式を挙げる街でもある『アム・メイン』に向かう事にする。メインツを通過することになるけれど、帰りには立ち寄るつもりだ。ビルをビータやプルに紹介したいし、旅の話もしたいしね。






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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

ヴィーの友人ビータとプルのお話です。後編!年末年始集中投稿中☆

『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


― 新着の感想 ―
チンピラ冒険者…ギリ死んでないよね?
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