3-09 ビルは冒険者登録を行い、私は何故かおまけ扱いされる
3-09 ビルは冒険者登録を行い、私は何故かおまけ扱いされる
コロニアの冒険者ギルドはデカいという印象だけだったんだが、今回、ビルの冒険者登録を行うに当たって、トラスブルやメインツの冒険者ギルドと少々趣が異なるという事を知るに至った。
「では、ビル様は以前傭兵をされていたという事で御間違いないでしょうか」
「ああ。異教徒と戦う主人に仕えていたことがある」
そう、異教徒は我々側で、向こうからすればこっちが異教徒。仕えたのは騎士や兵士としてではなく、比喩じゃない本物の「剣」として従っていたわけなので、嘘は言っていない。
どうやら、過去に傭兵経験がある場合、星無しを免除して星一つにする事が可能なのだという。
「オリヴィ様の推薦で、この後実技の試験を受けて頂ければ、星一つとして登録することが可能となります」
「……相手はギルド職員の元冒険者の方がお相手ですか」
「はい。ベテランではありますが、現在でも定期的に依頼を受けておりますので、完全な引退というわけではありません。日々の鍛錬も義務付けておりますので、不足はないかと存じます」
ふわっとした笑顔で私とビルを見つめるお姉さん。ほ、惚れてまうやろーとは思わないが、戦争の影響で依頼を受ける中堅冒険者が減少している為に受付の判断で新人の登録時に見極めをすることになっているという。いいかも。
ビルは私に視線で確認すると「ではよろしく頼む」と答えた。
冒険者ギルドの中庭と思われるスペースに、その試合スペースは存在した。ちょっとした修道院ほどもある冒険者ギルドは、その中庭や付随する職員用宿舎と思わしき建物も立派だ。
「いい建物ですね」
「有事には簡易治療施設にも転用されますので、それなりの規模を維持して造られた宿舎です」
なるほど。豊かな街であるコロニアは攻撃の対象になりやすく、こうした形で防衛のための設備を確保するようにしているという事なのだろう。そこには、四十手前くらいの巌のような肉体を持つ縦横の比率がおかしい大男が立っていた。
「準備出来次第始めよう。得物は、そこにある試合用の木製の物を好きに使ってくれ。一応、寸止め可能であれば止めてくれ。こちらに遠慮はいらない。万が一そっちが怪我しても、ギルドからポーションを無償で支給するから安心して技を見せてほしい」
「承知した」
見た目に反して、とても親切な職員のおっさんだ。髪は少ないが、気持ちは優しいのだろう。毛根には優しくなかったんだね。
ビルが先ほど扱ったヴォージェに似たハルバードを手にする。先端の部分が金属ではなく木と皮で加工されているもののよう。振り回すと軽いから調子が狂うかもしれない。
何度か操作して、感覚の違いを修正している。
「いいか?」
「ああ、待たせた」
「では、私が審判を行います。始め!!」
お姉さん……貴方も冒険者上がりなんですか……見た目ふんわり美人なのに。試験官はキルティングの鎧下のような胴衣に籠手と脛当だけの装備。実際、長槍兵はこの程度の装備で戦うのが当たり前なので、それほど違和感はない。
ビルは積極的に前に出て、上に下に得物を振り、突き、薙ぎ払うが、弾かれ押し込まれ往なされる。あー これ良い経験になるな。ビルは私より数段上手のハルバードの遣い手と対戦し、どんどん技術を吸収していく。
「なっ、こんなに急激に手強くなるとは!!」
「手本が良いからな。そらそら!!」
徐々に押されていく試験官。ごめんね、そいつの耐久力は無尽蔵だから、短期で勝負をつけるのでなければ、多分体力負けするしかないんだよ。
やがて、十分ほどの応酬が続き、教官が「こ、これまで!」と肩で息をしながら試験の終了を告げる。当然、ビルは息一つ乱さない。てか、ちゃんと息しろ!!
「どうだ、俺は合格か」
「はぁはぁ、も、もちろんだ。俺の権限で星二つでスタートさせる」
「……そうですね、試験官との対戦で一歩も引かず、尚且ついつでも倒せるように見えましたので、星二つが適切だと思います。彼はこれでも星三つの冒険者に勝てる技量の持ち主ですので」
そうですか。元星四つって事かな? いやー 超一流の教官に余裕で勝てるビルって凄い。私? 穴掘っていいなら余裕ですわ、オホホホホ……
∬∬∬∬∬∬∬∬
金髪碧眼の美丈夫であるビルは、受付嬢(新人担当さんは除く)や若い女性の冒険者の視線を滅茶集めている。こいつ、本当は浅黒髭禿ですわよみなさん。騙されてはいけません。
金髪碧眼の美形という記号は、帝国を確立させた『赤髭王』のイメージであるといわれる。彼は、独特の赤みがかった金髪故に『赤髭』と呼ばれる。決して赤毛であったわけではありません。
因みに、だれ、赤禿って言ってる人は。不敬だよ不敬。手足が長くすらっとして、胸板厚く手も美しい。顔は整い物静かな表情で常にほほえみを絶やさず、色白で血色良く、目は輝き真っ白な歯を見せて笑顔を送る……なんて、どこの
王子様……いえ皇帝様です。
まあ、多分、この剣はどこかで実物を見た……いや手にされたということなのではないかと私は思う。つまり、彼の赤髭皇帝の若かりし頃に瓜二つということなのかもしれない。
「……あの、もしよろしければ、この後、一緒にお食事でもどうですかぁ?あ、もちろん、お連れの少年も同席して構いませんからぁー♡」
ちょっと色っぽい表情のお姉さん、変身しちゃうよ浅黒髭禿に。擬態だから、それに私が主人だからね☆
「いや、この後予定がある」
「そ、そうですかぁ……」
勇気をもって声を掛けたお姉さんを一蹴し、冒険者登録証は明日の発行という事で、私たちは一旦ギルドの外に出た。
「お疲れ様」
「いえ……あれで良かったのでしょうか?」
「良いよ、試験官に怪我もさせず、当初より上のランクでスタートできるんだから。私が星二つでビルが星一つよりずっと仕事がとりやすいからね」
「……ならば良かった。それと……」
お誘いの件は「もう少し慣れたら好きにすればいい」と言ったんだが、魔神とどうこうなるってありなのだろうか。本人はその気がないみたいなので、面倒なら、髭禿でも私は構わないんだけど。むしろ、そっちの方が仕事の依頼は受けやすいかもしれない。記憶に残りやすいからな……金髪碧眼美男子は。
一先ず、今回はコロニアの宿に泊まることにする。風呂のある宿というともう上級のものに自動的に決まる。まあ、構わないけどね。
冒険者ギルドで『冒険者でも大丈夫な風呂有宿』を紹介してもらっている。『銀枝亭』……金枝篇でないのがちょっと安心。金の枝っていうのはヤドリギの事だよ。なんで金の枝なのかは知らないけどね。
一先ず、風呂付二人部屋に入る。夕食までは少し時間があるので、先にビルに入浴させることにする。
「明日は街でいろんなものを試着してもらうし、私の形態模写もしてもらうから良く体を洗ってちょうだい。風呂に入ったことは有るのよね」
「一応」
「石鹸使ってよく洗ってね。あ、タオルでゴシゴシ洗うのよ」
「……あまり洗うと……錆が……『出るわけないわよね、魔剣なんだから』……勿論です!!」
そんなのどうでもいいから、はよ風呂に入りなさい。
風呂に入っている間に、私の服を魔法の袋から出しておく。まあ、私の姿に変身してもらってから着てもらうわけだよね。一度着ればそっくりに化けられるなら面白いことが考えられるよね。完全犯罪とか?
当然のごとく、水をびちゃびちゃに滴らせ出て来る金髪美男子、もちろん前も隠していません。
「ビル、女性の前で全裸を見せるのはマナー違反よ」
「承知しました。ベッドの中でもでしょうか?」
「相手が全裸なら、それに合わせればいいわ。私は服を着て寝るから、貴方も服を着てちょうだい」
「なるほど。相手を見て合わせる、剣術と同じですな」
はっはっはって何が面白いんだよ? いいからそれ隠せ!! 乙女の前で見せていいもんじゃないんだから。
一応、タオルで隠したビルが、「では」と言いつつ、私の手を取る。なにこのシチュエーション? 押し倒されちゃうんじゃないわよね。
「貴方様に擬態しますので、御許しを」
「……ええ、どうぞお願いするわ」
金髪碧眼が黒目黒髪に、背も小さくなりほっそりとした手足となる。えーと、私ってこんな感じなんだ。いやー こんなにはっきり自分の姿を見るのは初めてだよー でもさ、も少し胸は大きいんじゃないかな?
「では、この服を順に着ればよろしいでしょうか」
「あ、最初に下着を付けて覚えてね。あと、声も似せられるんだよね」
『ん……あー』
ビルが喉元に手を当て、声の調整をする、ん、お、私の声ってこんな感じか。
「……失礼しました。これでいいかしら?」
まあ、なんて可愛い声なんでしょう私☆




