3-03 コボルドは坑道に山ほどいて、私は蟻の巣穴を思い出す
3-03 コボルドは坑道に山ほどいて、私は蟻の巣穴を思い出す
今私は、コボルドのいる洞窟の幾つかある入口を片っ端から土魔法で塞いでいます。何日か封鎖すれば、弱るんじゃないかな? え、なんでそんなことするかって言うとだね、楽してここ掘れワンワンしたいからだよ。ポチって呼んでいい? 私は正直嬢ちゃんだから。誰、意地悪嬢ちゃんとか言ってるの!!
∬∬∬∬∬∬∬∬
魔銀鉱山はエッセの街からさほど遠くない場所にあった。が、周りをグルリと小高い丘に囲まれており、その丘も割と急峻な勾配を持つものなので、薪拾いに奥まで入るような里山ではない。街道からもそれており、恐らくは鉱山に鉱夫が通っていたり、また、飯場があった時代に造られたであろう
道の跡がかすかに残されていた。
私はそこから少し逸れて、森の中を疾走しましたよ。見張とかいたら一発で警戒されちゃうじゃない。
コボルドってのは、ゴブリンよりは性格が悪くないというか妖精に近い存在なんだよね。ゴブリンは悪そのものだけれど、コボルドは悪さをするが、取引や恩を受けたなら返す程度の善良さはある。とは言え、人間相手にする場合、かなり悪辣だけれどね。
今まで、普通にゴブリン同様討伐してきたんだけれど、今回は鉱山に巣食っているからちょっと考え方を変えようかと思うんだよ。
道の跡の果てに、見えてきたのは鉱山らしき大きな洞窟の入口だった。確かに、コボルドがいるね。コボルドは野鍛冶の真似事をするから、槍や斧のような割と作りやすいものは自作しているみたい。目の前にいる見張の奴らもショートスピアらしきものを持っている。まあ、粗悪な感じするけどね。
私は、ぱぱっと近づき、いつものお約束呪文を唱える。
「『土牢』」
もはや、詠唱破棄ですよ☆ 暇さえあればツチボコしていますからね。見張のコボルド二匹を首の高さまで地面に埋める。スイカ割りじゃないよ。
『Kyawawawa!!』
『Kyainn!!』
なんか、尻尾を股の間に挟んじゃう感じの叫び声が周囲に響き渡る。そして……洞窟の入口を少しだけ上を開けて塞ぎます。
『土牢』
『土壁』
壁の手前を大きく掘り下げ、その土で壁を作ったんだよ。これなら、簡単に壁を突き崩す事も難しかろう。
最近覚えた術も追加しておこうか。
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土を突き固め給え……『堅牢』」
これは、土魔術の創造物を堅固にする魔術。壁を硬化させたんだな。追加する魔力量に比例して、硬度と継続時間が大きくなる。この壁で大体、丸一日は有効だろう。さて、何箇所か坑道の入口を同じように塞がないといけないね。急ごうかな。
∬∬∬∬∬∬∬∬
詳しくは知らないけれど、コボルドって一応『ノーム』+『悪霊』+『狼の地縛霊』の組合せで成立する魔物らしい。先生の家の書物にちらっと書いてあったのを読んだ記憶があるけど、検証したわけじゃないから根拠は薄い。
暗視の能力はあるけれど、二足歩行だからそもそも鼻が犬や狼ほど効かない可能性が高い。え、だって、地面に残る臭いを追いかけるのに、コボルドさんだって地面に顔を近づけなきゃいけないじゃない? 四足歩行じゃないから、その辺無理があるよね。
それと、『コボルド・ロード』なるコボルドの親玉はかなり『人狼』に近い容姿になるらしい。全体的に大きくなり、オーガのような身体能力を持つんだって。まあ、私は見たこともないから伝聞だけれどね。このくらいの規模の巣であれば、ロードがいてもおかしくないから警戒しないとッてこと。
じつは、こんなこともあろうかと、今回は特別な装備をしている。それは……『狼の毛皮の被り物』です☆ これなら、うっかり坑道で鉢合わせしても、一瞬コボルドさんたちが「なんだ、仲間じゃん」って一瞬思ってくれると確信しています。
よく見ると……って見ている間に先制するから問題ないね。
鉱山の周囲をグルグルと見まわし、これは! と思う坑道の入口らしき横穴を片っ端から『土壁』で塞いでいく。遠くで首まで埋められた見張のコボルドの悲壮な鳴き声が山々に響いている……まあ、そう簡単に掘り起こせるとも思えないので、問題ないだろう。
一通り見回り、横穴を塞ぎに塞いだ私は、心おきなく元居た場所に戻る。声が枯れ果てたコボルド見張が耳もペタンとなって顔を下に向け悲し気に呻いている。
『煩く吠えると首チョンだよ!!』
『!!!!』
そうです☆ わ・た・し 土の精霊が関わる魔物とは言語で会話可能なんです。コボルドとかレッドキャップとか? 家に関わる精霊が多いかな。残念ながら、ゴブリン・オーク・オーガ辺りは無理です。あれは、『悪霊』そのものの影響が強いので、コミュニケーションはできない。
その点、コボルドは土の精霊ノームと狼の地縛霊で薄められているので、悪意が弱く、精霊としての素養が高いので交渉可能なのだよ。
壁を上半分ほど解除し、中の様子をちょっと見てみると……
「Gyawawawa!!!」
「Ku-nn Kuー」
「Hahahaha Hahahaha」
酸欠気味なのかね。もしくは、吠えすぎて喉が枯れているのかもしれない。
『あんたたち、このまま私に討伐されたくなかったら、ボスを出しなさい』
『……ナンダ、俺タチノ言葉……ワカル?』
壁から上半身が見えるようになり、明るく見える外の景色に目を細めながら十数匹のコボルドが壁と壕の向こうに林立しているのが見て取れる。
『皆殺しもありなんだけど、条件次第で助けてあげてもいいわよ』
『フフフ……ボスニオマエガカナウワケネェ!!』
『ソウダソウダ!!』
すると、坑道の奥から『ミチヲアケロ!!』と、頭二つは大きい……と言ってもオークか人間の男性騎士程度の大きさだけど……犬頭のバーバリアンが現れた。
『ボ、ボス!!』
周りを一睨みし、『アワテルナ』と告げ落ち着かせるでかいコボルド。中々、指導力がありそうな個体じゃない。コボルドの親分は『ナニガモクテキダ』と私に糾してくる。
『鉱山ですることと言えば、鉱石の採取に決まっているじゃない。あんたたちが勝手に占拠しているから討伐依頼が出ているのよ。死にたい?』
『フン、オマエノ如キ小僧ニ討伐デキルトデモ思ッテイルノカ!!』
ごめん、余裕で思っています。てか、この後の展開的に、コボルドを殺すより、群れを支配下におさめた方がいいと思うのよね私。この世界、弱肉強食だから、こいつらを私の下につけてしまえば……鉱石を掘らせて、尚且つ、他の魔物や冒険者から鉱山を護ることができるんじゃないかと思うんだよね。
そしたら、実質的に鉱山持ちと一緒でしょ? 私の土魔法である程度精錬もできるから、回収してもどこの鉱石かは分からないから。いい考えだ☆
その為にも、このボスを私の下に付けなきゃならないわけです。
『これで、私の支配下に入りなさい』
『……ナンダコレハ……』
見て分からないのかね? 高級なペットフード『モン・プッチ』だよ。王国でも貴族の家の猫は大概これを食べさせている。
『あ、もしかして……ペディグリー・チャンの方が良かった?』
『我ラハ愛玩動物デハナイ!!』
『おいしいは正義でしょ?』
あ、モン・プッチは猫用だった。なんだっけ、ドッグフードのブランド。結構、犬は好き嫌いしないで何でも食べるからね……思いつかないな。
『食べ物でつられないなら、力を示しましょう』
『Whoooooo バカモノ、チンチクリンノ貴様ガ我ニカテルトデモオモウテカ!!』
いや、そんなちっさくないよ私、165㎝くらいあるし。女の人で180㎝くらいある人もいるけど、狩人はあんまり大きいと隠れたり木に登るのも大変なんだよ。マウンテンゴリラはメスで160㎝の体重100kgだから、マッチョだね。私の体重は……内緒だよ☆
さて、私は洞窟入口の『土壁』を撤去、飛び出してくる雑魚コボルドに向かって……
『土牢』
『土牢』
『土牢』
『土牢』
『土牢』
『土牢』
「「「「「「「Gyawawawa!!!」」」」」」」
おーほっっほ!! みんな地面にめり込んでいなさい。うっかり首を刎ねちゃいかねないからね。大事な労働力なのだから、安易に殺さないようにしないとね。
『……一対一ノ勝負ダ!!!!』
OK、私は掌をクルクルと回し、手招きをするのだ。いっちょ、揉んでやろうじゃないの。死なない程度に撫でまわしてあげる。よーしよしよし!!




