2-18 ビータは自立すると言い、私はちょっと戸惑う
2-18 ビータは自立すると言い、私はちょっと戸惑う
ビータが予想以上にポンコツとご両親に思われているのは想定外で、完全に後頭部を殴られたよ私は☆
「預かるのは構わない。プルちゃんが良いのであればね」
「……」
「ありがとうございます」
「但し、ビータと君には条件を付けたいと思う」
メイヤー氏曰く、私にはプルの生活費を負担すること、(一週間に銀貨一枚)半年に一度は顔を出し、メイヤー氏の仕事の助けとなる情報や頼みごとを熟すこと。それと……
「これからも、娘の友人でいてくれることだ」
「……もちろんです。一生の友人となることを誓います」
「ヴィー……『あー 感動しているところすまんが、我が娘よ。お前には沢山の課題がある。それを伝える』……ええぇぇぇぇ!!」
どうやら、自分の身を処すことも不十分な娘が安請け合いしたことはパパ的に思うところがあるようで、様々な課題を与えられるのである。
「……という事がまずお前自身の課題だ」
「……はい……」
「それと、プルちゃんの面倒を見ること」
「!!はい!!」
メイヤー氏は彼女の部屋の隣にプルの部屋を用意するので、朝起きてから寝るまで共に行動し、プルが自分のことが自分でできるようにするまで育てることを課した。無理難題?
「それと、修道会に伺う時は一緒に連れて行きなさい。そこで、お前の手伝いをさせる。それと、読み書きと簡単な計算も教えていく。これは、今すぐで無くて良いが、少なくとも一年後には始め、旅に出るまでには習得させることだ」
「う、うん、わかった。私、やる。一緒に頑張ろうねプルちゃん!!」
「……プルは早起き。ビータは自分で起きられるようになるのが先」
「う、う、う、で、できるよ! 私、プルの先生でお姉さんだもん」
下の二人の弟が兄弟で切磋琢磨し、大人びた少年に育ったのに対し、のんびりぼんやり育ったビータはメイヤー家では問題だったらしい。その辺り、踏まえて、預かってくれるというのだ。教材か?
「勝手に話を進めて悪いけど、今の状態じゃ旅は出来ない。だから、もう少し大きくなるまでここで準備をするのがプルの仕事」
「……わかった。旅に出られるようにがんばる……」
半分ぐらいは分かっていない気もするが、この街で色々学んで旅の仲間になれるように頑張るということだよね。ビータママは「今日からこの家の娘ヨ♡」とプルにべったり……ビータ曰く、自分や弟たちにもこんなにべったりした事はないという。気持ちは分かる、プルは可愛いからな。
え、ビータも可愛かったんだと思うよ多分。でも、まあ、第一子だから厳しく育てたんじゃないかな? 効果は今一つだったようだけれど。弟たちは甘やかす間もなく商人の修行に突入しているから、多分甘やかしたくてしょうがないんだろう。自分の子供たちにできなかった分、思いが募っているんじゃないかと思う。ビータ、多分、朝起こされなくなったら愛されると思うよ。
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私はプルとお礼を言い、一先ずメイヤー家を後にすることにした。プルには泊まっていくようにママさんが言ってくれたのだけど、パパさんが「これからの事を二人で話す時間が必要だから」と話してくれたので、二人で宿に戻る事にしたのだ。
「プル、私の旅の仲間になれるように色々準備してね」
「……わかった……」
私は、これからの事について色々話した。定期的に会いに来ることや、来るたびに新しい課題を与えたり、成果を確かめていくことを伝える。
「まあ、三か月か半年ごとに、この街に戻ってくるからね。それに、私は薬師で錬金術師だから、ビータの薬草畑の手伝いだってできるようになれば、役に立つんだよ」
「……わかった……」
それから、歩き続ける為には体力も必要だからしっかり食べて手伝いも頑張って体を強くすること。大人の話に耳を傾けて、世の中の事を色々知ること、文字や数の勉強をして商人になれるようにすることも大事だ。
仮にプルがお貴族様の娘であったとしても、貴族の妻が領地経営の手伝いも出来ないようでは嫁の貰い手がない。顔が良いだけじゃダメなんだよ。ベッドの上以外でも相手に認められないと……ふん、ベッドの上だって大事だよね。ええ、大事ですよ。どうせ、私は婚約破棄されましたよ!!
あ、いかんいかん、心に刺さった棘が疼いてしまう。まあ、いいや。
「という感じでね、プルの育った場所は帝国から東に行ったところだと思うの。そこは、異民族が近くまで攻めてきている場所だし、今はちょっと危険な時期だから時間をおいて情報を集めてから向かいたいんだよ」
「……わかった……」
プルはさっきからワカッタしか言わないが……本当に大丈夫なのか心配になってきた。
「絶対に戻ってくるから。まあ、最初は隣の街までだし、そんなに間を開けずに戻ると思うから。心配しないで大丈夫だよ」
「うん……だいじょうぶ。ご飯がおいしいおうちだから……」
「そっか。ビータの家は大丈夫だと思う。問題は……」
「ビータがポンコツなこと……」
おい! 美幼女だからって言って良い事と悪いことがあるんだぞ☆ 勿論、これは言って良い事です。
「ビータが独り立ちできれば、プルもあの家で役に立っているってことだから、安心して生活できるよ。私もお金はちゃんと払うし、メイヤー商会は商売も上手くいっていると思うから大丈夫」
「……わかった……」
その日私たちは、一緒のベッドで寝た。寝ながら今まであった事の話、一緒に旅に出たらおいしいものをたくさん食べる事や、大人になったらどんなことをしたいかって話をした。
私? 私だって自分のルーツを探す旅をするんだよ。当り前じゃない。でも、まあ、この出会いに感謝だよ。
次の日から、私は午前中に修道院に向かいビータと合流し、しばらくプルとビータの二人と薬草畑の世話をすることにした。プルは思っていた以上に器用で、教わったことは一度で身に着けてしまう。
「……天才……」
「普通。ビータが不器用なだけ」
「うう、お、お姉ちゃんと言いなさい」
「早起きできるまでは無理……ビータで十分」
意外と容赦ないわね。一回りも年下の幼女に侮られるビータっていかがなもの?
二人と一緒に薬草畑の世話をしていると、思わぬ人が現れた。院長であるシスター・エリカがそこには立っていた。
「ご無沙汰しております院長様」
「オリヴィア・ラウス、話があります。どうぞこちらへ」
ビータとプルに断り、私はシスター・エリカと共に院長の私室に移動することになった。なんだろう。
修道院という場所柄故か、個人的な来客ということだろうか、院長自らお茶を入れてくれる。
「さて、今回の件は力になれなくて申し訳なかったわ」
「……いいえ。幸い、ビータのお家で面倒を見てくれるようになりましたのでご心配なく」
「そう。なら、安心……なのかしらね」
シスター・エリカは何かはっきりしないもの言いだ。しばらく考え込んでいたが、思い切ったかのように、彼女は話し始めた。
「あの子は所謂「白子」なのですね」
「……恐らくは。血管が透けるほど色が白いですし、目も赤いように見えますから、そういう事だろうと思います」
「私が居留守を使って修道院であなた方に会わなかったのは理由があるのです」
院長として孤児を預かってほしいと言われ、それがたとえ街の外部の人間であったとしても、冒険者が保護した場合は受け入れるのが慣例なのだという。冒険者自身が面倒を見ることはできないだろうし、冒険者を「街の人間じゃない」と規定することが街にとって悪い影響を与えるからだという。
「魔物や盗賊に街が襲われたとき、冒険者には強制依頼が為されます。街の人間じゃないから保護しない……とは言えません」
その時に、反対にカードを切られ冒険者が逃げ出さない為の方便だというのだ。なるほど、世知辛いね。
「彼女が孤児院で多くの子供と同じように生活することが難しいと思います」
「……外見が異なるから……でしょうか」
「それもあります。小さな違いは、大きな差別を生みます。特に、貧しい世界においては、それが多数の正義につながります。私たちは善悪を教える事ができますが、異なるものを理解することを教えることはできません」
自分が多数派であることで安心したい、マイノリティーを蔑視することで自分がより良いものだと思いたいという感覚を否定するのは難しい。子供は大人より自分の感情にずっと正直であるし、孤児院のような閉鎖的な環境では真っ先に虐めのターゲットにされかねない。そういうことだろう。
「孤児院で預かることができないのは申し訳ないわ。預かる事で、あの子が不幸な目にあう可能性を考えるとね」
それは良くわかる。だって、ド=レミ村での私がそうだったから。兄さんが騎士になる為に家を離れてからは特にそうだった。あれは、もう十年くらい前の話になるのかな。だから、役に立つ存在になる為に、必死に色んなお手伝いをした。出来る事は何でも笑顔で喜んで手伝った。はず。
だから、自分の為になる薬師や狩人の仕事は嫌じゃなかった。他の仕事? 村で生きていくためには必要なんだよ、嫌でもね。大人ってそういうもんでしょ?
「いいえ、お心遣いいただいただけで十分です。それに、あの子は見た目よりずっと大人なんです」
「それでも、我慢はしていると思うから、それは分かってあげて欲しいわ」
うん、全然わかるよ、凄く良くわかる。あの子は私で、私はあの子なんだからね。




