2-13 オークは私に驚き、私は鎌の如き剣で薙ぎ払う
2-13 オークは私に驚き、私は鎌の如き剣で薙ぎ払う
『オーク』は『醜鬼』とも言われるが、その戦闘力、組織力は人間の傭兵団に匹敵すると言われる。簡単な言語で意思疎通を行い、小さな村や隊商を襲いオークの住まうといわれる北の辺境に財貨や人間を連れ去るという。
『オーク』は人間に『エルフ』の悪霊が憑りついたものではないかと言われている。『オーク』は古代において北に住まう『エルフ』のある部族を他の部族が襲い拷問の果てに殺害したことに端を発すると伝承されている。
やがて、その地に人が訪れるようになった結果、『悪霊』に憑りつかれた人間が『オーク』に変化したと言われる。また、エルフがその場所を訪れ知らぬ間に『悪霊』に憑りつかれた場合、『ハイ・オーク』もしくは『トロル』に変化するとされる。
行動様式は訪れた人間の行動を踏襲するとされており、つまり、北の民である悪名高き船乗りたちの活動をベースとして、いまだに略奪を繰り返しているのではないかと思われている。
――― もう、五百年は前の話だけど、その間、進化していないのか、若しくは、北の国から豊かな帝国に送り込まれたのかは聞いても分からないんだろうね。だって『醜鬼』だもん。
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あー どうしようかなー オークって暗視できたっけ? 戻って冒険者ギルドに報告した場合、案内人として討伐隊に組み込まれるのが目に見えている。そうすると、不用意に私の活動が目に触れてしまい、楽々星二つ冒険者ライフに危機が訪れる。冒険者は副業で、本業は錬金術師なんだから、この街で冒険者として目立つのは非常に不本意なんだよ。
出来れば、この場で殲滅してもらえる物を貰って、捕らえられた人を解放して、出来れば持っている船も自分のものにしたいね。多分、『ロングシップ』タイプの船をどこかに隠しているでしょうからね。一人では扱えないから、買い取って貰えるといいかな。
オークの上前を撥ねるのも冒険商人としては当然の事なのだよ諸君。
さて、暗視できるのなら夜まで待つ理由はない。入口から正々堂々と名乗りを上げてばっさばっさと皆殺しにしてしまう方がいい。呪術師か精霊術師がいると厄介だが、余り気にしなくていいだろう。何故か、毒や魔術が私にはかかりにくいのだ。先生も「まあ、体質だから気にしなくていいよ」って言われたけれど、回復の魔術も一定の確率で弾いちゃうから困るんだよね。
城門に続く道にそっと歩き出す。門は閉じられており、厚そうな木の柵で塞がれているのは、引き上げ式の杭を束ねた物のようなものだろうか。
さて、どうしたものか……なんて悩む必要はそれほどありません。だって、杭を支えているのは地面でしょ? 地面を下げてあげればいいじゃない!!若しくは、越えられる程度に地面を押し上げてしまってもいい。どちらでも構わないか。
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土の牢獄を築き給え……『土牢』
門を塞ぐ杭束の周囲を数mほど掘り下げる。落し穴の底には杭束が落ちている。そして、空いた門の向こう側へひょいと飛び越えた後、門の空いた穴の外側に……
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土の槍で貫き給え……『土槍』」
飛び越えても土の槍が地面から乱杭のように生えており、飛び移ることはマッチョなオークでも多分無理だろう。
『Beigei!!』
『BuaBuaBua!!!!』
私の姿に気が付いた数体のオークが叫び声をあげる。非常呼集のような物だろうか。やがて、割れ鐘のような音が鳴り響き、手に武器を持ったオークがあちらこちらから現れる。あれだ、夜襲を受けた兵士が天幕からおっとり刀で飛び出してくるってのに似ているかもしれない。
私は、『鎌剣』を一本取り出し右手で持ち引き斬れるように脇に構える。これで、相手は剣の柄頭しか見えていないはず。それは剣とは思えないに違いない。だって、飾りゼロだもの。只の鉄の板を折り曲げた柄頭だからね。
『Bhaaahaa!!』
『ByiByi !!!』
なんだか、「うまそうな小僧だな」「いや、俺は娘の方が美味いと思うぞ」みたいな会話をしながら斧を持って現れる二体のオーク(並)。革鎧も着けず腰布だけの舐めプ装備だ。
「行くわよ!!」
サイドステップして二人の真ん中に飛び込む。一瞬、同士討ちを恐れて斧を振り下ろす事を躊躇した右側の一体の腹を鎌剣の切っ先を差し入れて骨に当たらないように引き斬ると、内臓がドバっと前に出て膝をつくオーク。
『Bhhhhaaa!!』
情けない叫び声を上げる仲間をしり目に、私に向けて斧を振り下ろすもう一体。剣の腹で受け流し、斧が地面を叩いたところで右腕を下から上へ斬り上げる。
『Bgyaaaaaa!!』
煩いので、首元に切っ先を入れ跳ね上げると、首の後ろの部分を支点に頭が後ろにのけぞるように千切れる。腹を裂かれたオークがしゃがんでいるので、首の後ろに剣を叩き込み黙らせる。意外と手間取ってるな私。
今度は、切っ先で引っ掛けるように斬るんじゃなくって、堂々と断つ方向で切り結んでみよう。今までの剣より、ずっと手ごたえがある。これで質の高い鋼で作ってもらえたら、斧のような剣になるんじゃないかな。ヴォージェとかビルの方がコスパ良さそうだけれど、柄が折れるからね……本気で殴ると。金属で作っても棒なら曲がるかへし折れるだろうし……剣の方が断ち切る方向には強度があるからいいよね!
と、短いながら鎌剣の使い勝手を検証し、次の課題に移ることにする。
既に目の前には十近いオーク、半ば革鎧や兜をつけ、斧や槍を構えて私を囲もうとしている。が、しかし、君たちは甘いよ。
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土の砦を築き給え……『土壁』」
背後と左右に回り込まれないように壁を構築する。そして……
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土の牢獄を築き給え……『土牢』」
目の前のオークの足元が沈み、地面から首が生えているように見えるほどとなる。
「あーこれならヴォージェだな……。でも、鎌剣で行ってみよう!!」
私は、振り下ろすように首元に向け鎌剣を叩きつける。一瞬にして足元が沈み、動けなくなったオークたちは、次の瞬間、振り下ろされる剣を首に叩きつけられ、半ばまで切断された痛みに絶叫が響き渡る。
「あーこれは作業だわー」
オークの首をパンパンと軽快に叩き切り、一分と経たずに目の前のオークを仕留めていく。さて、本命の強者はどこにいるんだろうか。
いきなり、火の玉が飛んできて私に命中……するはずもない。大体、弓矢でも回避できる私の身体能力に、火の玉なんて当たるわけないじゃない。『火球』とか叫んで注意喚起してくれて有難いね!
攻撃方法を叫んで攻撃しないとポイント貰えないゲームみたいじゃんね。あれだ、「カーブ!」とか叫んでから打たないとヒットにならないルールにすればいいんじゃないかな☆ あれ、何の話なんだろう。
『Bfire!!』
有刺鉄線を身に纏ったやや小柄なオークが現れた。有刺鉄線……なんの事だろう。私に近づいてくる火の玉を剣で次々斬り落としていく。爆散、というか「ぽん」という感じで消えていく火の玉。なにこれ、マジック?
『Bfire!!Bfire!!Bfire!!Bfire!!!!!……』
火の玉が次々来るのをパンパンと消していくと、とうとうBfireは飛んでこなくなった。マジックアイテムの魔力切れだと思うんだ。あれだ、略奪した中にあったんでしょ、その便利グッズ。
覚悟はできたか! 御祈りは済んだか! 仲間に別れは告げたか!!!
『Bu,Bu,Bu,Bfire!!!!……』
無駄無駄無駄無駄!! 私は『疾風』を纏って一瞬でBfireの前に移動すると、胴を横薙ぎに一刀両断してみた!!
肉を切る感触は手に伝わり、一瞬骨を断つ抵抗を感じたが、大きくひしゃげる事もなく、鎌剣は太いオークの胴を骨ごと斬り裂いた。えーと、刃の長さ的に結構ギリギリだった気がする。
Bfire 氏が幹部であったらしく、他のオークたちは更に弱かった。掘っ立て小屋(三匹の子豚の藁の家風)を除き、特に中に目ぼしいものが無かった建物は……面白くないので燃やす事にした。討伐の証明をするのに、
オークの首でも持って帰るか面倒だが。魔法の袋があるので問題はあまりないけどね。
ハイ・オークも見当たらないし、隠れていたとしても鼻息の荒いオークを耳ざとい私が聞き逃すわけがない。あんなにハアハアしているんだから、聞こえない方がおかしいでしょう?
幾つかの小屋には溜め込んだ武器やお宝が多少入っていた。食料とかいらんがね。魔法袋に金目の物や武器を放り込み、そして最後にシクシクと泣き声が聞こえる小屋へと向かう。
「……中に誰かいる? 悪いオークは皆殺しにしたヨ!」
泣き声が止まり、扉の外の気配を探っているのだろうか、扉の前に気配が移動した。
「私はメインツの街の冒険者ギルドから調査を頼まれてきた冒険者のヴィーだよ。今から扉を開けるから、大人しくしていてね」
「……」
扉を開けると、そこには白い髪赤い目の小さな子供が立ち尽くしていた。




