2-09 婚約者は騒がしく、私は嫌な存在を消去する
2-09 婚約者は騒がしく、私は嫌な存在を消去する
冒険者と傭兵は本来親戚のようなものだ。金で雇われ、成功報酬につられて命をかけることもある。ギルドを通せば冒険者であるし、傭兵団の隊長に依頼をしてまとめて雇われれば傭兵となるだろうか。
小口が冒険者、大口が傭兵団と考えてもいい。
つまり、冒険者なんてものは半分以上は傭兵並みに碌な者ではないと思われているし、実際その通りであったりする。依頼の上ではギルドが仲介者として存在するので、傭兵のように突然依頼人に襲いかかったりする可能性は傭兵よりは低いが、やろうと思えばできる。
冒険者ギルドが等級を設けて、信頼を積み上げるほど良い報酬の依頼を得ることができるという仕組みになっているのは、傭兵との違いを認識させ、リスクリターンを踏まえて悪事を働かないようにさせる為でもあるだろう。
依頼人以外に対してはどうなのか? まるっと傭兵と変わらないと思うよ。『眞守』みたいな志ある冒険者ならともかく、この街で見かけるほとんどの冒険者は傭兵と何ら変わらない。自分の利益の為、金の為には悪事も荒事もそれなりにこなす。自分の得られる利益と危険のバランスを考えて受けるってことだよね。
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三人のおっさん傭兵風冒険者に囲まれ、私とビータは木を背後に睨み合っている。
「そっちの細い兄ちゃんは運が悪かったと思って諦めな。嬢ちゃんは、ちょっと楽しませてもらったら、家まで送ってやるからよ」
「ど、どういう意味ですか……」
ビータはそれなりの商家の娘で、親同士の取り決めた許嫁がいる。ここで、レイプされたとしたらどうなるか。
一つは、黙っていてやるから金を出せと脅される。そして、定期的に金をせびられ続ける。結婚できたとしても、実家と本人は延々とそれを断れず金を毟り取られる。お先真っ暗である。
もし、噂にでもなり事実確認をされたなら、結婚はビータ側の瑕疵で解消となり慰謝料も請求されるだろう。商売に影響も出るし、本人は本格的な修道院で一生生活しなければならないかもしれない。
そして、私が気になっているのが、男たちの背後に隠れ様子を窺っている男の存在だ。見た目は商家の若旦那風の優男で、こいつらとは雇用主の関係なのではないかと推測する。
つまり、許嫁らしき男が背後で仕組んでいるのではないかと思うのだ。婚約解消なら即座に金になり、後々分かれば、更に大きな慰謝料が取れる。金が無ければビータの実家の乗っ取りを試みるかもしれない。
さて、時間を稼ぎながら、相手の言質をとるとしましょう。
「さて、観念して大人しく……ゲェぁぁぁぁぁぁぁ」
鞘に収まったままの剣でリーダーらしきぺらぺらと話している男の胴を思い切り薙ぎ払う。男が脇腹を抑え、痛みに悶絶ししゃがみこむ。
「て、てめぇ!!」
「ぶっ殺す!!」
背後の革鎧を着た盗賊風の男たち二人の足元にズドンと穴が開き、地面に頭のてっぺんを残して沈み込む。
「……え……」
「魔術です。こう見えても土魔術と風魔術はかなり使えるんです」
「む、無詠唱じゃないですか!!」
「魔術は友達?」
いつも魔術は私と共にいてくれる親友なんだよ。地面にめり込んだ男の頭に鞘ごと剣を叩きつけ、さらに悶絶と絶叫が聞こえる。脇腹を抑えた男の顔を剣で容赦なく左右に何度も叩きのめす。歯が折れようが顎が砕けようがお構いなし。最後は殺すしね。
「さて、ちょっと行ってくるわね」
「ど、どこに!!」
「あそこに隠れている奴がいるでしょ?」
「へぇ?」
私は『疾風』を纏って一瞬で背後の木立の影に隠れている一人の男の前に移動する。
「なっ!」
「はーい ブリジッタの婚約者さん?」
「なっ、なんでそれを!」
「はい、ビンゴ。ではでは『土槍』!」
男を取り囲むように土の槍を張り巡らせ、動けなくする。さらに、『土壁』を築いて周りからの視界を防ぐ。ほーら、これから起こることは周りから見えませーん。
滅多打ちにされて気絶している男の足を両方斬り飛ばし、軽くなったところで顔面蒼白のビータを連れて、男を引きずりながら土槍で囲んだ男の所まで移動する。
「ブリジット嬢、この男性はお知り合い?」
「……はい……わ、私の婚約者のグラス・ヒュッファー様です」
ですよねー だらしない顔のやたら身なりに金を掛けている二十代半ばの男。あれか、酒場で愚痴ってたら悪い仲間に入れ知恵されて犯行に及んじゃったのかなー
「おっさん、生きてる?死にたくない?」
「……」
両足を斬り飛ばされたおっさんは、虚ろな目で頷いている。まあ、殺すけど。だって、殺そうとするって事は、殺される覚悟があるってことだよね?だいたい、死にたくない?って聞いただけで、助けるなんて一言も言ってないからね。
「誰に今回のこと頼まれたのかなー 頼んだ人がいたら、指さして教えてー」
「ば、馬鹿者、俺はこんな男知らん!! か、勝手に推測するな!!」
「……」
おっさんはグラス氏を指さす。ですよねー
「そ・れ・で、このお嬢さんをレイプすれば金をやる。その後も、何度でも家を訪ねて脅して金が取れるって言われたんですかー」
「そ、そんなわけないだろ! お、俺にそんなことする必要があるわけ……」
「……」
はい、確定。お疲れさまでした。目の前で魔法の袋からこんなこともあろうかと柄を付けておいた『ヴォージェ』を取り出し、頭を叩き割る。おっさんは静かになったが、ビータとグラス氏は絶叫し始めた。
「あらら、こいつら私を殺すって言ってましたからね。当然殺されるでしょ?あと二人証人もいるし、ビータ、どうします? 面倒だけれど全てを明るみに出して犯罪を処罰してもらうか、速やかに何の問題もなく婚約を解消するか……どちらか選んでいいですよ。あー、あんたには選択肢ないから」
婚約者様がワーワーなんか騒いでいるけれど、私は無視をする。どうやら、仕事がらみで婚約を解消するのは難しいし、犯罪の処罰をして取引先である彼女の実家が影響を受けるのも困るという。
「じゃあ、簡単な方で」
ビータの結論を確認し、私たちは一歩、いや五歩ほど土槍に拘束されて身動きが取れないグラス氏から離れる。
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土の牢獄を築き給え……『土牢』
土の槍をそのままに、地面が陥没し周囲2m四方ほどが3mほど沈み込む。いい感じじゃないですか。
「ど、どうするつもりだ俺を!」
「全てを無かったことにします」
「……無かったこと?」
ブリジット嬢に婚約者であるグラス氏が行方不明になったらどうなるのかと聞いてみる事にする。
「……駆け落ちでもしたのかと思われるので、婚約は白紙に、それで仕事の関係は問題なく継続すると思います」
「そうそう。あんたがいなかったことになれば、家同士の関係もこじれず、ブリジット嬢も傷つかずに済むってもんなのよ!」
「お、俺は?」
「地面の下に消えちゃう? あ、この足無しのおっさんの死体を一緒に入れてあげるから、寂しくないよー」
なんだが、止めろーとか叫んでいるけれど、ブリジッタ嬢がレイプされて蹂躙されている姿を遠目で眺めながら自分のポッケに金貨を入れようとしているような男の声は聞こえません。
「ブ、ブリジッタ!! お前のような女が、俺以外と結婚できると思っているのか!! 今なら許してやる。そ、その魔術師に言ってやめさせるんだ!!」
「……いやです……お断りいたします」
今まで聞いたことのない冷たい底冷えのする声でビータは答えた。
「そもそも、ご実家のおじ様やお店の使用人の方達もあなたの存在に大変頭を悩ましておりましたわ。私の父は、あなたのお父様をお助けする為に私との縁談をお受けしたのですよ」
「し、知らん、俺はそんなこと聞いていない!!」
二人の父親は商売の仲間として共に商会を経営してきた友人同士なのだそうだが、自分の後継である息子に不安を感じ、彼女の父に相談した結果、後見人として彼女の父親が付き、娘を妻にさせるという約束なのだという。ビータの父親は若い頃グラス氏の父上に助けてもらったことがあり、その恩に報いるための縁談なのだという。
「貴方様が消えてしまえば、代替わりした時に今の使用人の方達何人かで合議で商会を運営すればよろしいのです。父も私も、あなたの実家の商会をフォローすることくらいはできると思います。それが、皆にとってよろしいでしょう」
グラス氏は「俺は?」と聞きただすので「人数に入っているわけないでしょ」と答えておいてあげました。こうして悪人四人は仲良く土の中で暮らしましたとさ。
ビータの婚約者が失踪し、一人で街をこっそり出ていく姿を見られていたこと、様々なところから遊び金欲しさに借金をしていたこと、もうすぐ纏まった金が入ると周りに吹聴していたことから、街を逃げ出したのではないかとしばらく後に言われることになるのはまた別のお話。




