2-05 修道院は思ったより世俗的で、私は所属しても良いかと思う
2-05 修道院は思ったより世俗的で、私は所属しても良いかと思う
『ヴォージェ』ヘッドを大人買いした私は、浮かれ気分で、さらなる新しい装備を買うことにする。素手で殴るのはどうかと思うんです。なので、『盾』で殴るのはどうでしょうか?
騎士の装備する……していた凧のような形の盾や、古代の兵士が装備していた半身を隠せるほど大きな盾ではなく、鍋の蓋のような丸い小さな盾を用いるんです。今までの活動の中で、そんなものを持つという発想が無かったわけですが、今後は斬りかかられて回避するのに片手剣を用いるのなら、空いている左手で盾を持つのは悪くないと思うんだよね。
「これって握って使うんですか?」
「ああ、これは回避するための盾だからな。逸らす若しくは受け止めるのが目的だから、強く叩きつけられるような場合手首が折れる可能性もあるから、注意が必要だね」
体の左側を隠すように構える騎士の盾と異なり、この小さな盾は牽制の為に突き出すように構えるか、左胸の当たりに肘をまげて拳を向けるように構えるのが基本だという。
「弓矢を防ぐための装備じゃないんだ。受け用の短剣の代わりに装備する盾だから、パーリングするつもりで使うんだよ」
勿論、それで殴りつけるのもありなのだと。そういえば、冒険者じゃないけど武装している人でこんなの持っている人を見かけるなとは思っていた。
「街によっては剣と同様に持ち歩きを禁止している場合もあるから注意が必要だ。歩兵も持っている事が少なくないから、悪い装備ではないけれど、剣術を習って使い方をマスターしてから装備する方がいいと思う。ちょっと癖のある装備だからね」
とはいえ、銀貨一枚程度の物なので、気軽に購入する。いらなければ袋の肥やしになるだけだし。バックラーも購入。腰に吊り下げる金具も揃えることにする。
私は、武器の買い付けと情報の収集という二つの目的を達成し、意気揚々と宿に引き上げた。
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さて、前日の買い物の後、黄金の蛙亭で一人満足のいく夕食を部屋で頂いた私は、ゆっくりゴロゴロしようかと考えていたのだが、着替えてシスター・テレジアの紹介してくれた知人のいる修道院に足を運ぶことにしたのである。
一年間着ることのなかったワンピースを身に着け、ダガーを腰に装備して私は街へ出る事にした。少々、女性用の都会でもおかしくない服も調達したかったのである。
フロントに立ち寄ると、前日の受付をしてくれた従業員が少々驚いた表情を隠しきれずにいる。
「……オリヴィ様……お出かけでしょうか」
「ええ、知人の所に挨拶に行くつもりなの。この街の『ゲイン修道会』の修道院がどこにあるか教えて頂けるかしら?」
と、ちょっと気取った言い回しで話を聞くことにする。宿泊客と従業員ならこんな感じの距離感で問題ないよね。感じ悪くないよね!
「それと、女性用の普段着を購入できるお店を教えて頂けるかしら。この宿の客に相応しい程度で華美でないものがいいのだけれど」
「それなら……」
幾つかの中流市民の婦人が着ておかしくないお店を紹介してくれる。
「それと、蛇足かも知れませんがゲイン修道会の会員の女性は職業を持つ女性や商会の幹部の子女も少なくありませんので、参考にされると良いかと存じます」
「助言、感謝します。では、行って参ります」
私はにこやかに挨拶すると、表通りに向かい歩き始めた。
さて、オリヴィもヴィも少々王国寄りの名前なので、トラスブルならともかく、帝国ど真ん中を行くことを考えると、帝国風の呼び名を考えた方が良い気がするのだ。どう思う?
「リア」「ピア」……「シルヴィア」も悪くないよね。女性の時はシルヴィア、男性の時はシルバーと名乗ろうかなぁ。ギルドの登録名はオリヴィだからかけ離れた呼び名も良くないか。そもそも、オリヴィも本名じゃなくってオリヴィアなんだけどね。
商人の屋号のようなものではどうだろうか。それなら、勝手に名乗っても嘘にはならない。なら……古代語で『灰色』を意味する『ラウス』と名乗ることにしようか。個人的には『ヴィ』で、公に名前を呼ばれる時は「ラウス氏」と呼ばれるようにしようそうしよう。
なんで灰色かって? 髪が黒で肌が白いから混ぜたら灰色というのもあるし、自分の存在が白黒はっきりしないからというのもあるよね。灰色っぽい存在だね。 という事で、今から私の名乗りは「オリヴィ・ラウス」となりました。帝国でド=レミも通用しないからね。駆け出し商人のラウスさんです。どぞよろしく。
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街の中心部から離れた西側の区画、そこには城壁で囲まれた都市の中にあるとは思えない「街の中の森」を有する広大な修道院が建っていた。トラスブルの修道院も施療院や礼拝堂を持っているそれなりの大きさのものだったけれど、ここは小規模な城塞かってくらいの規模がある。
私は、シスター・テレジアの紹介状を携え、彼女の知人であるシスター・エリカを訪ねて着た旨を門番に告げる。待合でしばらく待機した後、奥から現れた同年代の修道女らしき女性に案内され、私は奥へと進む。
私は修道院をたいして知っているわけではないが、ここは離宮かと思うほど閑静で優美な建物だと感じる。ようは、金持ちが作った感の強い修道院風の別荘にしか見えないってことです。ほんとにここって修道院なんだろうか。
施療院や礼拝堂、中には工房なども見てとれる。山の中の修道院では自給自足が基本なので職人の類もそれぞれ得意な修道士が担うので工房の類は珍しくないと聞くが、帝国一の司教座都市で必要なのかと言うと供給側からいえば否であろう。手慰みと言うか、修行のための施設なのだろうか。
「こちらで院長がお待ちです」
「……失礼ながら、シスター・エリカは……」
「院長をなさっております」
一礼をし、私は名乗りを上げ中に入る。
「突然の訪問をお許しいただき、感謝しております。私は、オリヴィア・ラウスと申します。駆け出しの商人でございます」
「丁寧なごあいさつをありがとうございます、オリヴィアさん。私がシスター・エリカです。テレジアから久しぶりの手紙をもらって嬉しいわ。彼女、元気かしら」
二人は、娘時代からの親友で縁あってこの修道会に長い間所属している間にそれぞれが幹部となってしまったのだという。もう何年も合う事はないが、時に手書きのやり取りをし、旧交を温めているのだという。
「テレジアが随分と褒めていたわ。とても熱心に仕事をする稀有な者だと。でも……女性であるとは書いてなかったから会って少々驚いたわ」
「今日は冒険者の姿で伺うのは失礼かと思いましたので、着替えて参りました。トラスブルでは冒険者として奉仕依頼を受けていたので、男装しておりましたから、見た目は男性のように見えたのだと思います」
「そうかもしれないけれど、こんな可愛らしいお嬢さんを男性だと見るとは思えないわね」
実直なシスター・テレジアと比べると、シスター・エリカは世俗的な普通の女性に近いように感じる。
「修道院らしくないと思っている?」
「……正直に言えばその通りです」
シスター・エリカは彼女たちが所属する『ゲイン修道会』について説明を始めた。
「当修道会は、半聖半俗の修道会です。修道士として修業をして信仰の道を極めるのではなく、規則正しい生活を通じて女性が質実剛健に生きることができるように育てる環境を整えることに力を注いでいるのです」
帝国北部の都市を中心に始まった活動で、緩やかな連帯はあるものの、統一する修道会則や総長のような統率者・幹部会も存在しないのだという。都市における婦人会のような存在であり、会により会則も様々なのだという。
とは言え、都市の富裕な階層の子女の教育の場としても活用されており、また、寡婦や貧しい女性が職を身に着けたり支援する事も活動の一つなのだという。互助の関係も存在するのだという。
「冒険者の会員はあまりいないのだけれど、あなたも入会してみてはどうかしら」
「……少し見学させていただいて、私も参加できそうであれば……」
「ふふ、慎重なところはとてもいいわね。勿論、何か拘束するようなことはこの会ではないわ。でも、同じ街に複数会が存在するような街だと、本格的に修道士のような生活をしている会もあるから気を付けた方が良いわね」
一つの会毎に会則が異なるので、戒律の厳しい会も存在するのだという。普通は、女性が一人きりで男性に会って間違いが無いように、必ず二人組で活動するようにという程度の縛りしかないのだという。特に清貧を尊ぶような事もなく、男性とお見合いパーティーのような交流もあるので、本当に婦人会の役割を担っているのだと思われる。
正直、冒険者ギルドは単なる『口入屋』業に過ぎないし、パーティーを組めるほど信頼できる冒険者仲間と邂逅できるかどうかは未知数。そう考えると、修道会に所属して、訪れる先々でコネクションを生かすのは良い事かもしれないと計算しちゃったりする。
この会の存在意義自体が、女性の互助なのだから、そういう事を期待してもいいだろう。なんなら、一宿一飯の恩義で薬やポーションを卸したり、魔術で簡単な補修程度は行えると思うので、共生するのも良いかもしれないね。
「是非、参加させてください」
「ありがとうね。早速お願いがあるのだけれど……」
素材採取の直接無償依頼ですか……いいですよ、冒険者ギルドで類似の依頼を見つけて、一緒にこなしちゃいましょうかね!




