2-03 隊商と目的地で別れ、私は冒険者ギルドへと向かう
2-03 隊商と目的地で別れ、私は冒険者ギルドへと向かう
予定通りメインツの街に到着し、私は隊商の人達とお別れした。冒険商人としての第一歩を踏み出した私だが、なんちゃってコボルド盗賊団を討伐し、懐事情も改善された時にふと思いついたことがある。
塩は人間にとって必要不可欠なものだが、今一つ、必要不可欠な物が存在する。そうです、武器です。この物騒な世の中、良い武器を手にしたいという想いは誰もが思う物。とは言え、都会の職人が作った武具と、村の野鍛冶の作る鋳物では品質が全く違うんだよね。
なので、最初の行商は『塩』と『武器』を扱う事にしようかと考えている。幸い、メインツの周辺には武具で有名な街がいくつかある。勿論、商都コロニアは帝国最大の武具職人を抱えた街でもある。
最近、帝国で剣の生産で注目されている『ベルク』という都市が現れている。メイン川の支流を南に遡った場所にある伯爵領の領都にあたる街なのだが、歴史はさほど古くはないという。開拓された森の中の村が時間をかけて成長し、都市となったのは百年ほどだという。
街を有名にしたのは、簡素な作り乍ら刀身から柄までを一体で形成した『バゼラード』と呼ばれるショートソードとダガーである。ストータ式バゼラードと称されるそれは、量産性と堅牢な作りの両立を為している。ダガーは薄刃で鋭く堅牢なため、工作具や戦場での生活用具としても重宝されている。安価であることも魅力だと言われる。
このショートソードとダガーを主な売り物にして、護身具の延長で塩とセットで辺境を売り歩くというのが一つの考えだ。ついでに言えば、盗賊討伐で回収した武具を農村で再販するのも良いかもしれない。鉄は希少品であるし、武具となった金属は村の野鍛冶のものより良い鉄だろう。
ということで、先ずはメインツで武具屋、冒険者ギルド、そして教会を訪ねる事にした。というよりも、今後は大きな街ではこの三か所は必ず赴かねばならない気がするね。
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街に入る時に、片手剣は魔法の袋に収納する事にした。護拳の作りがしっかりしているので、腰に吊るしているととても目立つからだ。行商人が目立ってはいけません。冒険者なら、『ここにいますよ』と目立つ必要がある人達もいる。『帝国傭兵』と呼ばれる存在は、衣装や装備で目立つ必要もあるみたい。
彼らは『戦いは数だよ兄貴』という古代の勇将の言葉を具現化したような存在であり、鎧を着た乞食とか、枯れ木も山の賑わい等と称される食い詰めた帝国南部の農民の子弟が貴族出身の傭兵隊長に言葉巧みに戦場に連れ出された悲しい存在に過ぎないのだが、本人たちは自己主張に一生懸命なのである。目立たないと、給料がもらえないのだろうかと疑問に思う。
隣国の集団就職傭兵の方が断然好みなのだが、鎧も付けずに長槍だけで戦場を駆け回る狂気の集団なのでそれはそれでどうなのかと思うのだ。良い装備は大切だが、鎧もぜひそこに加えてほしい。褌に太刀を背負った海賊みたいで怖いんですけど。
まず、冒険者ギルドには入らず、前で冒険者の姿を観察する。トラスブルと変わらなければいいのだが、差異が大きいと目立ってしまうと面倒だ。ここには『眞守』のメンバーも頼れる受付嬢兼サブマスのアンヌさんもいないのだ。
冒険者は目立つ装備を意識的に装備しているような気もする。背中に咄嗟に構えられないような大剣を背負った黒い鎧で身を固めた戦士とか、魔術師も如何にもという三角帽子に変な形に歪んだ杖に派手な魔晶石がデコされているようなものを持っている。斥候職なのだろうか、怪しげな葉っぱのような色のマダラの模様の服を着ていて、街中では思い切り目立っている。その、頭に被った頭巾のネットに刺さっている木の枝とか邪魔じゃないでしょうか?
「……普通が一番……地味こそ全て……」
ギルドの前で見ていても感じたのだが、冒険者の『質』に明確な違いがある気がする。元々、盗賊騎士であるとか傭兵団の管理を行うために依頼という形で仕事を紹介し、成功報酬とランク付けによる査定評価をする仕組みを加え、雑多な傭兵を冒険者という形で登録させ管理することを目的として設立されているのが冒険者ギルドなのだ。
アルスの場合『眞守』のパーティー名が示すように、数十年前に王国から流れてきた傭兵による集団略奪の被害を忘れずに、傭兵から街を護るという意志のある冒険者が少なくなかった。傭兵とは一線を画す姿で、レンジャー系の戦士が多かった。私も、革鎧で山野を軽快に移動する方が好きだ。
メインツで見かけるそれは、所謂。『帝国傭兵』寄りの装備であるし、魔術師や治癒師のような後衛や斥候のような遊撃・偵察に特化した軽装の戦士も見かけない。
衣装は、切り紙細工のような膨らませた布にスリットを多数入れたような奇抜な衣装に金属の部分鎧を付けている。歩兵なので、膝までの部分鎧などで歩きやすさを優先のものを身に着けている。
剣は特徴的な片手剣で『カッツバルゲル』と称される。護拳がS字もしくは八字の形をしているのが特徴だろうか。刀身の幅は5㎝ほどあり、やや厚め・広めで突きだけでなく斬撃にも対応できると思われる。その昔、傭兵隊を皇帝が編成した時に揃えて作った剣が元になっている為、帝国傭兵の身分証明書のようなものなのだが……冒険者がそれってどういうこと?
似たような中で個性を出すという仲間意識の現れなのかもしれないが、冒険商人としては明らかに商売にならなくなりそうなので今までの路線で行くことにしようと思う。
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一先ず、冒険者の依頼達成の報告を行いに受付へと向かう。小柄な少年が一人で受付にやって来たので、周りの注目を若干浴びている。ヒソヒソとした声が聞こえてくる。
受付嬢がニッコリ微笑んで、バリバリの帝国語で話しかけてくる。も、勿論全然大丈夫!
「ようこそ冒険者ギルドへ。依頼の申し込みですか」
「……達成の報告です。どこで行えばよろしいでしょうか」
受付嬢は「えっ」と驚いた顔を隠すことができていない。商会の依頼票と達成の書面を確認してもらう。
「トラスブルからの隊商の護衛依頼……確かに。では、手続きいたしますので、冒険者証を提示してください」
私は、ささっと見えないように出したのだが、受付嬢が再び『えっ、ツヴァイ……』と口にしてしまったのが聞えたのか、背後の雰囲気が剣呑なものに変わる気がした。
手続きを待つ間、依頼の内容について貼りだしてあるボードを確認していると……背後に立つ人の気配を感じる。
「おい、坊主。ここは子供の遊び場じゃねぇんだぞ」
振り返ると、髭面に如何にもな黒っぽい金属の鎧を着た剣士風の男が立っていた。その背後に、ニヤニヤと笑う仲間らしき数人の男。
「はい、私もそれは存じています」
「存じているだとよ!!育ちが良さそうな餓鬼だぜ」
いやいや、育ちは孤児だし拾われっ子だし、育った村を追放された戻れる場所も……あんまりない可哀そうな子だから私。
「冒険商人を目指しておりますので、丁寧な言葉遣いを心掛けております。それで、どのようなご用件でしょうか?」
「はぁ、ナンダてめぇその口振りは。先輩冒険者の俺が、小僧に冒険者のいろはを教えて……『一年以上トラスブルで冒険者をして星二つの私に?行きがけの駄賃に、野盗の群れを単独で討伐して騎士団から感状を貰った私に?何を教えてくださるのですか』……ちっ、ムカつく餓鬼だぜ……」
と、私の肩を小突いてきたので、ナチュラル身体強化で対応。その腕は岩でも叩いたかのようにジンジンと痺れる。『ィテッ!!』という声がフロアに響く。
「あ、では手続きが済んだようなので、これで失礼しますね。声を掛けていただきありがとうございました」
私は営業スマイル全開で挨拶すると、受付嬢さんに向かった。
「では、こちらに受け取りの署名をお願いします」
私は護衛一日辺り銀貨二枚で引き受けていたので、七日分十四枚を受け取り確認すると書類に署名をする。
「オリヴィさんは、しばらくこの街に滞在されるんですか?」
「はい。コロニアに向かうつもりなのですが、こちらでしばらく滞在してから向かうつもりです」
「そうですか……もしよろしければ、いくつか依頼を消化していただけると有難いです」
どうやら、採取系の依頼が滞っているそうで、今ならプレミアム価格らしい。とは言え、加工して薬やポーションの形で納品した方がお得なので、「努力します。今日はこれで」と立ち去る事にした。さっき声を掛けてきた連中の気配も気になるし、明日、昼前くらいの暇な時間に出直そうと思うのだ。
「それと、冒険者ギルドでお奨めの商人の泊まる風呂付の宿を紹介して頂きたいのですが」
「……それなりのお値段ですけれど、大丈夫でしょうか?」
「駆け出し行商人ですが、上の方の姿を拝見して励みになればと思って今日はちょっと奮発するつもりなんです」
「なるほど……では、この辺りがお勧めでしょうか」
いくつかの候補と、凡その場所を教えてもらう事になった。街の中心でギルドからほど近い場所ばかりである。街の一等地というか、良い場所に宿を構えているのだと感じる。大丈夫か……私。門前払いされるんじゃね?
「冒険者証にライニンゲンでの盗賊討伐の記録が表記されているので、恐らくはそれで宿も歓迎してくれると思いますよ」
なるほど。盗賊退治ができる冒険者が滞在しているという事は、安心材料の一つとなるわけですか。客を用心棒代わりに考えないでほしいものですが、入口でそういう人がキッチリ入店チェックとかしてるんだろうなと思うと、安心です。
さて、先に宿に向かって、泊めてもらえるかどうか確認してから街に出るとしましょうか。




