17 ゴブリンは無駄な抵抗に努め、私は巣穴に薪をくべる
17 ゴブリンは無駄な抵抗に努め、私は巣穴に薪をくべる
さて、ゲルド君は槍のままだが、アドルさんはユリアさんにメイスを借りる事にし、ブルーノさんはウォーピックを用いて頭を叩き割る事にしたようだ。割り切りって大事ですよね!
周囲のクリーニングを終え、待機する四人を呼び寄せると、何匹かは壁の上に手をかけつつあった。おっと危険。
「行こうか」
「「「おう!!」」」
素早く壁に飛びあがると、手を掛けて頭を出すゴブリンの頭を片端からピックで叩きのめしていくリーダー! メイスを振り下ろすサブリーダー、私はビルを振り回し首を刈り、ユリアさんは私以外の三人に水魔術で『水壁』を展開している。私? 水の精霊と相性が悪いので自前の風の精霊による防御を行います。ぐすん。
「おらおら!!」
掛け声だけが立派なゲルド君ですが、槍で頭を突いても余りダメージは入りません。刃物で切るなら骨のない腹の部分を傷つけないと難しいのですが、高い場所からでは腹を突くのはかなり難しい。首も角度的には死角になる。すまんね、見習戦士よ。
巣穴の入口付近にいたゴブリンの騒ぎを聞きつけ、中から新たなゴブリンが次々と現れる。ゴブリン大漁祭り!
「弓持ちが出てきました」
「ヴィー、頼んだ!」
アドルさんは弓が使えるがそれほど上手ではないので……私に話が廻って来る。一旦ビルから弓に武器を変える。
『Geee!』
『Gyaahaha!!』
緑色の醜い小鬼が子供のおもちゃのような弓を構え、粗末な枝から作った矢で正面のブルーノさんに狙いをつける。ピュンととんだ矢がそのままブルーノさんの足元のゴブリンの頭にあたり、ゴブリン激怒☆ 知らんがね。
ゴブリンの弓手の胸にタンタンと矢を打ち込み、矢の当たる衝撃で後ろに倒れ込んだ者がピクピクと痙攣している。
そして、中から上位種と思わしき大柄なゴブリン……恐らくはホブが登場。どうやら村で奪った木槌を握りしめている。その背後には襤褸布のような薄汚れたローブを纏ったシャーマンらしきゴブリン。既に呪文を唱え始めている。
『GgyaraGoarararororoa……』
呪文を唱え終える前に『小火球』を数発乱射する。いくつかがローブに着弾し、ローブが燃え始め、それに驚いたシャーマンが詠唱を中断する。シャーマンは、元ノームである故に精霊に働きかけることができるのだろうかと頭の片隅で考察しつつ、燃え上がるローブを身に纏い踊るように逃げまどうシャーマンに数発の矢を射込む。
その勢いで倒れたシャーマンが断末魔の叫びを上げながら焼かれていく。肉の焦げる臭いが辺りに立ち込める。
首領の一人を失ったゴブリンが驚いて巣穴の奥へと逃走を開始する。ホブも壁を壊そうと木槌を壁に叩きつけるが、思ったほど壊れず奥へと逃走していった。
∬∬∬∬∬∬∬∬
一息ついた私たちは、水を飲んだり、怪我がないかお互いに確かめ合ったりした。幸い、外から分かるような怪我はなく、問題なく討伐は継続できるようだ。既に、十数匹のゴブリンは討伐されており、中に逃げ込んだのはほぼ同数だろうと思われる。
畑で五匹、今日の壁を作ったのちの周辺のクリーニングで三匹、ニ十匹以上を討伐し、残りの数を考えると群れは40匹ほどであったと考えられる。
「ヴィーの弓の腕前、流石だったぞ」
「弓の能力に負けない腕で感心したわ」
「魔法も弓も長柄も使えて、索敵も出来るんだから、先が楽しみな冒険者だな。アンヌさんが目を掛けるのも分かるな」
「……ゲルド君も頑張ってましたね」
皆さんが私をべた褒めなので、気まずくなった故にゲルド君に水を向けるのだが……
「まあ、経験だな。複数の武器を選択して使えないと冒険者としては半人前だ。今は槍の腕を磨くことだが、こういう時に経験の差が出るな」
「……頑張るっす……」
フォロー上手くいきませんでした、残念!
皆が休憩している間、私は次の仕事の準備を始める。既に城塞の中のゴブリンはいなくなり、出てこれないように洞窟の入口は半ば塞いでいる。壁の内側には『土槍』を魔術で展開してあるので、こっそり出てきて壁をよじ登る事も出来ません。対策済みです。
「そんな木切れ拾ってきてなにすんだ」
「入口で焚火をします。これは、良く燃えて煙が出る油脂分の多い木です」
松や杉はパチパチと良く燃える。松脂が出るくらいなので油脂分が多く、おまけに燻蒸に使えるくらい煙が出る。風魔法を使って強制的に洞窟の中を燻すことにする。洞窟の出口には『土槍』を展開して簡単には出てこれないようにする。どうでしょう?
「……俺たちはその間、見学でいいのか」
私は同意をする為頷く。討伐自体は時間がそれなりに掛かるがまさか、洞窟の中に黙って入って討伐するような命知らずではありません。安全、確実に討伐を勧めます。ゴブリンの燔祭ぇ……
洞窟の入口に束ねた木の枝などをポンポンと放り込む。蠢いているゴブリンもそろそろ死にそうです。
「始めますよ!」
私が『小火球』を何発か木の束に命中させると、パチパチという音と共に枝や枯葉が燃え始める。『風』の魔術で燃えている木の枝に風を送り込むと、パチパチと更に大きく燃え上がり、時折ゴーと燃え上がり始める。あまり派手に燃えると煙が立たないので気持ち弱めたり、水球を放って水蒸気や煙を洞窟内に送り込む。
「俺たちに手伝えることはないか?」
ブルーノさんが声を掛けてくれたので、「木の枝を集めて束ねてください。ドンドン追加します」と告げる。ベテラン二人は「任せておけ!」とばかりに離れていくが、若干一名が「何でだよ」とぐずっているのでお姉さんに一喝されトボトボと歩いていく。
「はぁー ヴィーちゃん魔術で色んなことできるのねー」
「いいえ、壁を作ったりするだけですから。ユリアさんの治癒の魔術の方が凄いじゃないですか」
水の精霊と相性の悪い私は治癒とは縁がない。自分自身は怪我もすぐ治るから特に必要性を感じていないけど、パーティーには必要な存在だろう。
「そんなことないって。攻撃には参加できないし、今回の討伐だってついてきて後ろで呪文飛ばすだけの楽な仕事だし」
「いいえ、前衛が怪我せずに済んでいるのは、ユリアさんの防御魔術のおかげですから。小さな差が大きな怪我につながる冒険で、すごく大事な事だと思いますよ」
「ふふ、なんだか他の冒険者から言ってもらえると嬉しいわ」
ユリアさん、最初の同世代で組んだ冒険者のパーティーでは前衛偏重の集団だったらしく、役立たず扱いされていたらしい。それを見かねたブルーノさんとアドルさんが誘ってくれたらしい。元々二人は星三つ、ユリアさんは星一つだったそうなのだが、治癒のできる冒険者のいるベテランパーティーという事で、護衛や討伐の依頼をどんどん受けて二年とたたずに星三つに昇格できたのだという。
「因みに、元のパーティーはどうなったんですか?」
「星二つになった後、無理な討伐依頼を受けて死ぬか冒険者を辞めて、もうトラスブルにはいないわ」
やはり冒険者に大切なのは、「命大事に」の場面で徹しきれるかどうかなのだろう。今の枝集めだってそいつらなら絶対に協力をしていなかっただろうと思われる。
中からゴブリンの怒りの咆哮が聞こえてくる。やがて、出口から見える場所にゴブリンが現れる。
「ほい、どんどん足して良いのか?」
「お願いします!」
土の槍衾の前で泣きわめくゴブリンの目の前にドカドカと新しい薪を足してやる。ほらほら、熱いだろ? どんどん行きますよー
『Geyaeee!!』
『Gyaiyyyy!!』
熱風を浴びながらも土の槍を叩き壊そうとするゴブリンたちだが、その土の槍も熱された土の塊なのだ。足元に落ちれば大火傷をするし、持てば手の皮が焼け爛れる。奴らは『間抜け』ではないが『馬鹿』だ。つまり、朝三暮四が成り立つ程度に知能が低い。故に、臨機応変の対応ができない。
『GAAAAAAAA!!!!!』
木槌を構えたホブゴブリンが土槍を叩きこわし始めた。熱いのも最初だけだから、踏みしめればそのうち温度が下がってしまう。
「ヴィーどうするんだ?」
「任せてください!」
私は鎧通し型の鏃をつけた矢をつがえ、ホブゴブリンに向けて射ち放った。胸、右太腿、左大腿、痛みと苛立ちで大きく咆哮する。そして、崩れた土槍の間から火傷を負ったゴブリンが出ようとすると……
「土の精霊ノームよ我の働きかけに応え、我の欲する土の槍で貫き給え……『土槍』」
燃え盛る枝の束の間から、新しい土槍が飛び出し、ゴブリンの足や太腿を貫きその場に刺し止めたのだった。燃えるゴブリンは良いゴブリンだよね☆




