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5-19 メインツからトリエルへ、私は依頼の続きを承る

5-19 メインツからトリエルへ、私は依頼の続きを承る


 アンヌ姐さんに先生と師匠に別れを告げ、私とビルは馬でメインツに戻ることになった。先生には生活環境の改善と、一二年したらプルを連れて預けに行くことを重ねてお願いした。連れて行く時は、またトラスブルに来ることになるだろうか。


 馬車では数日かかった過去を思うと、馬での移動はその半分ほどの時間で済むので、三日目の夕方、私たちはメインツに戻ってくることができた。


 メイヤー商会に顔を出し、トラスブルのお土産を渡した後、先生にプルを預ける話を伝えた。


 ビータママは「まだ小さいのだから」とやんわりもう少し大人になってからで良いのではないかと言うのだが、既にビータに付き添って依頼を半ばこなしているプルを知っているビータパパは「それがいい」と賛同してくれた。


「プルちゃんがいると、ビータが自力で成長できないかもしれないからね」

「……そんなことありません……」

「いいえ、メインツでもプルちゃんの『小さな冒険者』の実力は鳴り響き始めていますから。あまり活動が長引くと、姉さんの嫁ぎ先に苦労するようになるのは明白です」

「……うそ……」


 幼児に頼るメイヤー商会の娘という話も噂になりつつあるのだそうです。いや、それは不味いんじゃない? 冒険者活動、逆張りになってるよね。


「それは半分冗談として」

「半分は本当なんだ……」


 そこ、自覚して欲しいんじゃないでしょうかメイヤー家的には。


「ビータも商会の仕事で街を離れる経験もさせたいと思うし、プルちゃんが先生のもとで修業している間、ビータも商会で修業をすればいいのではないかと思うよ」

「……嫁入りがまた伸びそうね……」

「いや、商会を手伝う間に出逢いもある。少なくとも、冒険者の仕事を受けるよりは良い出逢いだろう」


 それはあるでしょう。ビータもそろそろ十七歳……私もだけど、結婚適齢期だと思うよ。




 メインツの定宿『黄金の蛙』亭に泊まり、ゆっくりと過ごすことにした。いやほら、あんまり頑張ると、星五になっちゃったらどうするのよ。


「ラウス様、冒険者ギルドから遣いの者が来ております。お会いされますか?」


 冒険者ギルドには明日にでも顔を出そうかと思っていたのだが、やれやれ人気者は辛いよ……等とは思わず、なにやら面倒ごとを押し付けられそうな気配が漂っています。


 承諾すると、部屋に遣いの者が現れる。最初の頃に良く受付をしてくれた顔見知りの受付嬢でした。


「お、恐れ入りますラウス様」

「オリヴィで結構ですよ。どうぞ、おかけください」

「し、失礼します!!」


 いやほら、怖くないから。ビルがニヤニヤしてるのが腹立たしい。なに、何なの冒険者ギルド!!


 受付嬢さんが、「トリエル大司教猊下からの親書です」と言うと、蝋封した手紙を差し出される。確かに、何かのロザリオと同じ図柄の蝋印ですね。


 中を読むと「娘よ元気か」といきなりかまされる。確かに、娘同然と思ってくれるのは嬉しいけれど、わざわざ冒険者ギルド経由での『依頼』なのだから、まともな話なわけがない。


 どうやら、ジギン団に領地を荒らされた幾つかの貴族たちと『討伐軍』を起すことになるので、その為の情報収集を依頼したいという事のようだ。いや、ほら、その手の事なら教会関係者に協力してくれる者は沢山いるのではないでしょうか。


 ジギン団はメイン川上流域・帝国南西部の山深い場所の小領主が集ったもので、半ば帝国傭兵の幹部集団のようなものなのだという。やっていることは騎士じゃなくって傭兵だもんね……納得。


 そして気になる文言。が、受付嬢さんの前で口に出すのは憚られる。


「承知しました。明日、冒険者ギルドで依頼を受諾してからトリエルに向かいます」

「は、はい!! ありがとうございます!!!」


 飛び上がるように立ち上がると、凄い勢いで最敬礼され、受付嬢ははじけ飛ぶように部屋を後にしていった。ちょっと目に涙がにじんでいた……なにそれ。


「ヴィー私も手紙に目を通しても良いですか?」

「勿論だよ」


 気になる文言は『吸血鬼の策謀を探って欲しい』である。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 翌日早々にメインツを旅立ち、コロニアで一泊し、翌日トリエルに到着した。そして……何故か大聖堂で歓迎されています。うん、食事とか振舞われちゃってすっかりVIP扱いです。


「我が娘よ、料理の味はどうだろうか」

「……大変おいしゅうございます、師父様」

「うんうん、お父さまか。呼ばれて嬉しいぞ」


 いやほら、教皇とか大司教って『父』扱いじゃない? 私だけの父親じゃないからね。「オヤジ」って年上の尊敬する人物を呼ぶのと同じです。


 前回は戦争直後で慌ただしく、それはいまだに続いているのだが、改めて包囲から救ってくれた礼と、その後の依頼を兼ねて食事を供にしているのだそうです。それと、星四見習には猊下が相当尽力されたのだそうです。何故なら……


「オリヴィは既に、吸血鬼の率いる傭兵団を一つ潰しているのだろう?ジギン団の背後には……それがいると推測されているのだよ」


 餅は餅屋、吸血鬼は『灰色乙女団』へってことでしょうか。まあ、私とビルしかいない乙女団だけどね。ビータとプルが加わるとかなり乙女団度が上がる。





 ジギン自身は退却戦のさなかに傷を負い、今は居城であるベレン城に逼塞しているのだという。来春、大司教軍と幾つかの大貴族の討伐軍が帝国南西部に遠征し、ベレン城を落すのだという。


「だが、それでは終わらない。帝国騎士団と称す叛徒共がその後、機会を見て戦争を始めるだろうからだよ」


 ジギンは前線指揮官であり、実際に彼を使嗾しているものが存在するのだという。その昔赤髭王から帝国騎士に任ぜられた「ハルト・フォン・クロン」を称する十二代目当主。


「帝国南西部の小領主たちの盟主を務めている男で年齢は三十代半ば。奴が……いや、奴の奥方が今回の騒動を……いや、これまでの騒動を引き起こしていると推測されている」

「つまりそれが……」

「奥方が吸血鬼である可能性が高い」


 なにやら、私のヴァンピールの血が騒ぐ気がする。もし自分が『半吸血鬼』であると知らなかったら、この血の滾りは感じなかったのだろうか。しかし、確かに山奥の居城に忍び込み、その中で吸血鬼を討伐するというのは、限られた人材しか行う事は出来ないだろう。


「まあほれ、『星四』の冒険者となったお祝い依頼のようなものじゃよ」

「お祝いにしてはとても重たい依頼内容ですわ師父様」

「いやまあほら、あの後、ブレンダン公にも手紙を書いて話を伺ったのだよ。ブレンダン公の領内にはそれほど多くの小領主はいないのだが、東方殖民に参加した騎士達が大原国との戦いに敗れ西に敗走してきておるからの。帝国は西も東も南も戦乱が続いておる。故に、力ある冒険者に速やかに混乱の原因を排除してもらい、帝国を落ち着けたいのだよ」


 どう考えても、正面から討伐するのは大変だから、冒険者を使って安く済ませようという魂胆が見え見えです。包囲戦もそうだもんね。私が来て一週間もたたずに包囲が解除されて、ジギン団は潰走しちゃったからね。まあ、今回はしっかりお代を頂きますわよ大司教猊下。


「手付金じゃ」


 革袋の中身は金貨百枚。成功報酬は残り金貨四百枚の計五百枚。軍を動かす事を考えると、端数みたいな金額だが冒険者の報酬としては破格なのだろう。これが星四の指名依頼の威力か☆


「猊下、この依頼謹んで承ります。それで、この依頼のために私を星四の冒険者として推挙して頂いたのでしょうか」


 はははと声を上げ笑う大司教。何が可笑しいんだよと思うのだが、人好きのするほほえみをたたえながら明け透けにモノを言った。


「なに、星四(vier)となれば帝国内では少なくとも『伯爵』として扱われるのでな。選帝侯であるトリエル大司教と会いやすいようにしたまでなのだが。気に入らないか」


 いいえ、どこかのタイミングで上げられるのであれば猊下の推挙で昇格したという事は何よりの後ろ盾になりますのでありがたい事です。だからといって、面倒ごとを押し付けて良いってわけじゃないんだからね!!勘違いしないでよね!!





 トリエル大司教の推挙で昇格したという事は、私の冒険者としての立場を選帝侯が保証したことになる。つまり、グダグダ行ってくる木っ端貴族どもに対して「トリエル大司教猊下の推挙にケチをつけるのですかそうですか」

と言い返すことが出来る。


 メダルもありがたいが、みなしごな私にとってはとてもありがたい『加護』になる。少なくとも帝国内においては大いに役に立つプレゼントだと言えるだろう。


「しかし、アム・メインをさらに遡るのは、時間的にかなりかかりそうですねヴィー」


 そうです、山道は馬も大変なので私は徒歩で行こうかと思います。


 え、だって面倒なことはさっさと終わらせたいじゃありませんか。




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本作とリンクしているお話。王国側の50年後の時間軸です。 『妖精騎士の物語 』 少女は世界を変える

ヴィーの友人ビータとプルのお話です。後編!年末年始集中投稿中☆

『就活乙女の冒険譚』 私は仕事探しに街へ出る


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