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ダンジョン探索の醍醐味とかよく言われるけど僕はちっとも楽しくないしそもそも醍醐より蜂蜜の方が甘くておいしいと思う


 ダンジョンというのはとにかく教育に悪い。

 命のやりとりの連続はもちろん、それによって報酬が得られるものだから、暴力が物事を解決する手段として優れていると錯覚させるのだ。

 思うに、セツナさんはこの刷り込みの哀れな犠牲者なのではないだろうか。

 そう考えればセツナさんへの接し方も少しは──。


「こう鉄ばかり斬っていると、柔らかい肉が斬りたくなるでござるな。この鉄くれは斬りやすくてつまらぬ」


 あ、違うっぽい。

 これで15体目になるリビングアーマー(ラスティさんの付けた通称。《鑑定》でも読めない名前になってたらしい)をバラバラにした人の一言は、僕に警戒心を思い出させるのには十分すぎる要素を抱えていた。

 というかいきなり僕のそばに近寄らないでほしい。人斬りエチケットとして、その棒が届く範囲より近づかないでほしい。

 というかそれは僕が買った木の棒だ。僕のだ。


 ……はあ。どこかで折れることを想定してスペアを用意していてよかった。僕は《魔法の巾着袋》から、再びいい感じに長い木の棒を取り出した。

 まあ『折れる』っていうか『斬られる』だけど。想定よりはマシだった。



「げっ……」


 また宝箱だ……。

 なんかもうめんどくさくなった僕は足で蹴っとばした。錠前の穴から、毒針があさっての方向に飛んでいき、箱の中身がゴン、と鈍い音を立てて地面に転がった。

 うわ、この程度でも罠って反応することあるのか……。


 箱から転げ落ちたのは、箱よりも大きなサイズの金属の塊だった。


「これは……《リトル・ニューク》? やはり、鑑定名だけでは用途が掴めないですね」


 うーん、いまいちだなぁ。まあ一定程度貢献度が稼げれば──。


「だめ」


 メリーが突然飛び出して、金属塊を踏みつぶした。



《 《 《 世界に衝撃が広がる 》 》 》



メリーの細くて白い足が衝撃の中心にあった



⫷ 爆発音 ⫸


砕ける地面 ⫷ 衝撃 ⫸

大きく揺れてダンジョンの壁や⫷ 青白い光 ⫸床に走る亀裂はついに裂け目となって

白い壁は粉々に砕け天井は崩れ落ちて僕らは生き埋めには⫷ 熱 ⫸ならなかった透明な壁が覆っているようだった



「なにも。みなかった」


 メリーの囁き声。僕の意識は途絶えた。



・・・

・・



「……ん?」


 僕はダンジョンの廊下を歩いていた。

 ダンジョンは当然のように壁も天井も床も変わらず真っ白だった。

 ……あれ?


「きふぃ」


 ああメリー。僕はついさっき、なんか君が爆発物を自分から踏みに行った姿が見えたような気がして……いや、勘違いかな。

 なんでもない。


「たからばこ。ある」


 あ、ほんとだ。

 めんどくさいな……いっそもう蹴ってやろうか──いや、なんか嫌な予感する。

 僕はしゃがみ込んで解錠──しようとすると宝箱がひとりでに開いた。


「《ミミック》……!?」


 危険生物の存在を警戒し僕は棒を前に構える。

 絶対に宝箱の正面には立たない。横から棒でつついてみる。

 つん、つん……。反応はないな。



 僕は静かにのぞき込む。


「金貨?」


 そこには、大きく形の歪んだ金貨が大量に入っていた。



「鑑定名……《タイレル7世金貨》。なぜ、このような場所に……? とても強い力で潰れているようですが……」


 ラスティさんは怪訝な表情だ。

 宝箱に、あからさまに現在も使われてる金貨が詰まっているという話なんて僕も聞いたことがない。


「ほう! 金か! 我にも分けろ。分け前を希望する」


「すげえ……! けど師匠、それはどうだろ」


「冒険者として分け前を要求するのはごく当然のことだぞ、我が弟子よ。そうだな、女遣いの分は我がすべて貰うというのはどうでござろう」


 ふっかけてきた。


 ……確かに、セツナさんの言は一面的には正しい。

 パーティで行動するとして、やはり金銭問題は避けて通ることができない。

 自分の働きに対して不当に安い分け前を貰えば都合のいい相手だと食い物にされるし、高くしてももちろん不和を招く。武器を持った複数人を一度に敵に回すのは危険だ。自分に対して、適切な値段を付けなければいけない。

 だから僕はパーティとか極力組みたくないなーって思う。けど、一人でダンジョンに潜れるなんてのは本当にごく一部だから、冒険者やってくなら絶対に覚えておかないといかない技術ではある。


 けどこれ……、セツナさんが僕に因縁をふっかけたいだけですよね?

 削ったら『不当だ』と騒ぐつもりだ。絶対そうだ。そうに違いない。

 多分、本気でお金を自分のモノにしたいわけじゃない。だから尚更厄介なわけで、僕の選択肢は譲歩以外にない。


「僕は構いませんよ」


「む? なんだ、つまらん。では、そうだな。そこな化生の分と、ひ弱な眼鏡の分も我によこせ」


 こいつ……。


「し、師匠、流石にそれは……」


「メリー。メリー。なんかこのひと舐めたこと言ってるよ。一度メリーの手でシメた方がいいんじゃないかなメリー」


「めりは。よい」


 あ、いいの? いや、メリーがいいならいいんだけど。


「けど、ラスティさんがどう言うか……」


「宝箱の中身は、その世界の有り様を反映しているもの……。すると、タイレル7世の治世ではこのような施設が稼働していた可能性が……? 当方は歴史的瞬間を目撃しているのか……」


「あっ話聞こえてなーい」


 ええと、それじゃあ間を取って。

 ラスティさんの取り分を、僕の方から支払うというのはどうでしょう。


「ほう。言ってみるものだな。見たか弟子よ。冒険者はこうして稼ぐ」


「ひどく特殊なケースだから参考にしなくていいですよ。ガラ最悪になるよ。セツナさんはまっとうな人間関係を放棄してるからできるんだ。セツナさん。もしあなたが見ず知らずの人たちのパーティに入って、報酬が人数割で等分だって言われたらどうしますか?」


「斬り殺すが?」


「はい。わかりましたね」


 形の歪んだ金貨を渡すと、セツナさんはさほど大事でもなさそうに受け取った。

 両替商に頼めば2割から3割引くらいで普通の金に換えてくれるだろう。そこにセツナさんが不満を抱いて凶行に及ぶかどうかは僕の知るところではないとしておく。



 ……それにしても、この形の歪み方って。

 メリーが金貨をつまんだ時みたいな感じがするんだよなぁ。


「メリー?」


「…………。し、しらない」


 メリーがサッと僕から目を逸らした。

 不機嫌の時のそれとは違う気がした。



「すごいな、ダンジョン探索って……。なんていうか、フツーじゃないっていうか」


 カナンくんがぽそりと呟く。


「うむ。それが迷宮探索の醍醐味よな。我は普段は潜らぬが」


 僕がダンジョンに入るたびに飲んでるのは苦汁なのに、二人は醍醐を食べていたらしい。

 目を逸らすメリーを見ながら、僕はこいつら羨ましいなと思った。

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