パイドパイパー・オブ・レミングス
王都タイレリアから旧王都まで繋がる街道は、十分な整備をされていない。この10年で、旧王都まで訪ねる者は自殺者しかいないためだ。かつて、頻繁に行き交う駄獣の蹄が畳を平らに均した痕は残れども、草が茂り、獣道かと見まごうような有様だ。
石畳に深く刻まれた馬車の轍跡にも、何本もの背の高い草が生えている。これでは、馬車を走らせることも十分ではない。
この街道は、既に役目を終えていたのだ。
本日、日が昇るまでは。
陽炎のように揺らめく、災厄の城趾を前にして、10万の人数が集う。
すべては、旧王都奪還のために。
「──これは、絢爛たる王都、故国を取り戻すための戦いである」
拡声具越しの女王陛下の演説が一帯に響く。朝の陽光に照らされ、榛色の髪が輝いている。
蒼白な顔をしたヤドヴィガ・リコ・タイレル──この国に唯一残る王家の血、女王陛下が、懸命に声を張り上げて、大規模侵攻作戦に参加する者たちに語りかけているのだ。
王都タイレルの肉屋ギルドのアーノルドは、帝国民であると身分を偽って、最前線の戦列にてそれを聴いていた。
その行動はひとえに、熱意と忠誠心、そして愛国心から来るものである。
(そうだ。《壁沿い》のヤツらだって、おれたちの国に入るために、帝国って名乗ってやがるんだ)
ならば、王都の人間がそうすることも悪いことではあるまい。
陛下のお力になる。その一番槍として馳せ参じることが、アーノルドにとっての本望なのだ。
「愛とは……時に罪深きもの……」
アーノルドの隣にいた、同じく帝国組の──頭巾で顔を隠したガキを連れた別嬪の姉ちゃんが、よくわからん言葉を呟いている。
帝国の人間は陛下への敬意も薄いのだろう。あちらこちらから、囁くような話し声が聞こえてくる。
何を話しているかはわからないが、不敬極まりない連中だとアーノルドは思った。
「今から10年前。タイレル王国は、建国以来の王都グラン・タイレルを失った。其方ら、帝国と同一の現象──異界化が起こり、100万の民が、その身分や能力に関係なく犠牲になった。この悲劇の前には、平民も貴族もない。厄災という暴威の前には、あまねく人間は無力であった。
そして、それを免れた者たちが寄り集まり、新王都タイレリアを築き上げた……。その反映は、其方らも知っていよう。
しかし、その胸裡の痛みは今なお、消えずある。余の悔恨は目前の陽炎の中にあるのだ」
その言葉に、肉切り包丁を携えたアーノルドの胸にも悲しみが去来した。──もし、10年前の大禍に居合わせていたのなら……。アーノルドは、そんなことを夢想する。
今ここに並ぶ10万人の軍勢は、その女王陛下と騎士団長を除けば、大禍から逃げることすらできなかった者の集まりだ。
「だが……それは、敗北ではない。何故なら、今日これより反撃を行い、すべてを取り戻すからだ。
この国の……、人類の威信を懸けて。災厄に挑み、打倒し、真なる王都を遂に奪還するからだ。
そのために、余は、其方に命じる。戦えと。其方らの命。その使い途は、この一戦にあるのだと。我らは皆……そのために生まれたのだと!」
陛下のお言葉を傾聴する。
そうだ。アーノルドは、そのために生まれたのだ。
戦いの経験は、冒険者らに比べれば決して多くはない。しかし、ダンジョン内での生物資源の養殖と殺傷、それに伴う小規模戦闘を、肉屋ギルドで繰り返している。
命の奪い方は知っている。
「ここにいる者たちは皆、同じ痛みを知っている。
帝都の民よ。余は、才を重んじる。才有るものを尊び、才なき者を慈しむ。其方らが最前線に立つは、灰の平原を五体満足に抜けた、その才にこそある。これは、余が其方らに与える義務であり、栄誉でもあるのだ。
その言葉を、贋金としないが故に──余も、そこに立とう。無論、余の才は、其方らには及ばぬだろう。余は戦士ではない。魔術師ではない。余は、ただ……この国に、唯一残る王家の血である。
天蓋のない戦車で、余は、其方らの戦いを見届けよう。たとえ傷つき、斃れようとも、その魂は、余が戦いの果てに連れていこう」
帝国民などには勿体ない、畏れ多い女王陛下の演説に、アーノルドは感涙の涙を流す。
なんという慈悲だろう。いと貴きお方が、その場にいて、我らの尽力を見届けてくれるなど!
「そして……すべて終えたその暁には、再び、このタイレルの同胞となろう。隣人となろう。家族となろう。
余らの──人類の起源とは、巨壁を築き上げて人類生存圏を確保した始祖ブーバと、彼から禅譲を受けた初代タイレルにこそ、あるのだから。
さあ──進軍を開始せよ! 災厄に、人類の力を示すのだ!」
(おれの姫様が尊すぎる……)
──敬愛する姫様の感動的な演説に目に涙を浮かべて聴きながら、レスターはここにいる連中全員死ねよと思った。
Sランク冒険者のうち一番話が通じると評判のレスターだが、彼もまた高位冒険者らしく、大切なもの以外を直ちに切り捨てられる人でなしの一面をしっかり持っている。
(最高のロケーションだ。が、姫様のお慈悲が勿体ねえゴミどもが前に並んでいる。こいつらがいなけりゃ、更にいい眺めだったろうに)
避難に成功した帝国民の数は、あの影武者が話すところによるとおよそ1万人程度だという。そこから傷病者や王国への反発心を持つ者などを除けば参加者は……なんとそれよりも多く、今この場には2万3000の人波が戦列を作っている。
ははあ、帝国の民には増殖する能力でもあるのか? それなら命の重さは軽く計算してよさそうだ。
(姫様の肉盾になれ、ゴミども。その死体で、俺たちの道を作れ)
どうせ、道中で小物を一つか二つくすねる気だろう。それだけで一獲千金のチャンスだ。どうでもいい人生に、何か特別が得られるかもしれない。冒険者に同行しようって連中には、どいつもこいつも、その手の打算がある。
更に悪いことに、この戦列の連中はその欲望を忠誠だとかの美辞麗句で完全に覆っちまっているのだ。レスターには、その涙が汚らしい汚泥に見える。
この連中は、何かを見た拍子にふとそれを思い出して、素知らぬ顔で汚らしいポケットに隠して、それから熱心で献身的な顔を作り直すんだろう。
だから、冒険者はダンジョンに素人を連れていこうとしないのだ。
身分偽って参加するようなのは死ね。普通に死ね。
あとは、まあ、帝国民も生きてると色々と都合が悪いからここで全員死んでくれ。キフィナスの言ったように、移民どもが文化とか作ったら面倒極まりない。
(そして、俺の後ろにもゴミが列を成している。10万のゴミの葬列だ)
最前列の帝国国民から、一番後ろの貴族の次男三男連中まで。
──こいつらは全員生贄だ。
絢爛なる千年王都という概念に対し、叛逆の移動都市という概念をぶつける為にかき集めた。帝国には反乱の歴史がある。ヒトの想念によって作られるダンジョンには、同じく想念で対抗するのは正攻法だ。
そして、それを果たす過程で、どれだけすり潰されてもいい。というより、ここにいる連中には死んでもらった方が都合がいいのだ。
侵攻にあたり水だの食料だのをかき集めた輜重部隊なんて資源の無駄遣いを必要とするのは、単純に適応が足りないからだ。少し適応を重ねれば、食事と睡眠なんてものは一週間に一度程度に切り詰められる。
適応を重ねていない──ダンジョン内外で生産を担当する役割がある人間には、可能な限りここに参加させないように配慮をしている。連中は食料を消費する。しかし、それは役割分担だ。しょうがないことだろうと、レスターも理解はしている。
一方、たとえ1000人揃えても寝起きのレスターより役に立たない、戦い以上に適した役割がない連中は、食料を与えて飼うよりも、一通りすり潰した後に《旧王都奪還記念通貨》でも発行して、死亡賜金を与えた方がまだ安くつく。
記念通貨には、王家の管理する《黄金郷》から採掘した金を多量に混ぜておけばいい。
(いやまったく、悪辣なことを考えるヤツもいたもんだな。……まあ、俺には都合がいい)
これはレスターの同僚、《占術》を持つ近衛騎士ニザリエンの提案だった。
そして、その同僚はといえば先日人斬りセツナによって既に殺されている。
レスターはいい気味だなと思ったし、何ならセツナを割と応援もしていた。ニザリエンを筆頭に金剛石の円卓に座ってる連中は、姫様への忠誠というよりも近衛騎士という立場自体に重きを置いているし、何より犠牲者を大量に出す作戦の責任者には遅かれ早かれ死んでもらう必要があった。タイミングが少し早まっただけだな。
姫様の肉盾、旧王都攻略の生贄というのは、近衛騎士だって例外じゃない。
そんな肉盾たる近衛騎士──金剛の円卓に座る騎士の数は、先日のセツナによる死者2名を除けば11名全員が参戦している。
最前列にレスターを含む7名、水魔術を使える者や食料品を保管している輜重部隊の護衛が2名、貴族の子弟がいる後列に2名だ。
レスターは、近衛騎士にしても邪魔なので半分になっていいと思っている。
(あの女には、道を歩く途中に灰の髪を笑うやつがいたら直ちに殺すという明確な行動原理があるからな。ニザリエンのヤツは迂闊だった。まあ、俺もあいつが笑われていたなら、それくらいはしてやってもいい)
高位冒険者とは、事実上の殺害権を持っている。災禍で政治・商業の力が大きく荒廃したタイレル王国において、強者の暴力行為を咎めきることはできない。セツナの指名手配は、最終的には王族の傍系血族である公爵殿下をぶち殺したことに起因する。勿論レスターは小躍りした。あの狸爺は姫様にとってクソ邪魔だったからだ。
もちろん、あいつが姫様まで殺そうとしていたなら、あの激重感情雨女ではなくレスターが殺していたが……。
まあ、全ては終わった。今はどうでもいいことだ。
レスターは即座に思考を切り替えた。
(まあ……そうだな。あいつがやる気を出しすぎないように、ってところは懸念点だな)
先行する友、キフィナスの斥候としての能力をレスターは信頼している。あいつはスキルを持たないが、同行者の安全を最優先に考える。不運な事故で自分の分け前を少し多くしようという、斥候やってるヤツなら大抵一度は考えることを、考えたこともないんだろう。
心から嫌そうに振る舞いながら、どうにかしてレスターたちの探索を安全にしようとしているに違いない。
ありがたいことだ。実にありがたいことである。
姫様が通る分にはどこまでも安全であるべきだ。
が、他の連中にはできれば大量に死んでほしい。
「──進軍を開始せよ! 災厄に、人類の力を示すのだ!」
旧王都全域を覆う、巨大な次元の歪みを見据えながら。
レスターは自分の考えを腹の底に押し込んで、慈悲深い貴人に向かって笑顔を作った。
* * *
* *
*
重力を操作する終末装置を回収してもなお、周囲の光景は逆さまになったままでいる。この尖塔の正しい入り口が見えるところまで来たが、その扉は、僕らの背よりもずっと上に位置したままだ。
その力の残滓だろう。一度ねじ曲げたものは、元には戻らない。
それは、世界に爪痕を残すことは案外容易いのだと示しているように僕には思えた。……まあ、本来であれば、王都の禁忌収蔵庫にでも納められるべき物品であり、その辺に転がってていい代物ではないわけだけど。
「本格的な進軍が開始する前に、終末装置を可能な限り回収する。無用な犠牲を増やすことに繋がるからな」
「…………」
意見には同意するが発言者が気に入らない。その態度が気に入らないのだ。
この女が犠牲を避けようとする理由は、ただ一点、効率的でないという理由だけだろう。人道というものはない。だって冒険者だしこいつ。そうなると結局同意するのも憚られた。
「尤も、終末装置がどこにあるという目星はない。旧王都の禁忌目録は、既に散逸している。それぞれの特徴も、その総数も不明だ」
「なんだそれ。まるで頼りにならないな」
「そうだな。この旧王都は、非人類生存圏に位置付けられる。君は、私の能力を過大評価しているかもしれないが……私は、多少の機会に恵まれただけの、ただの人間だ。
私の能力の範囲で君を護る。それだけは約束するが、それ以上のことは保証できない」
「そんな約束はいらないよ。余裕がない状況で他人を気遣うフリを見せるのは、なんだ?あんたの精神にいいものがあるのか?ストレスの解消とか、娯楽とか、満足とかさぁ? ハッ、そいつはよかったな。実にいい趣味だと思うよ?僕以外でやるならな」
迷惑なんだよ。
こっちは、許さないって言っているだろ。
「……ああ。そうだろう。しかし、今、君の感情は重要ではない。
君の現在の立場は、王家に次ぐ力を持つ迷宮伯家の代表者だ。それだけでも十分に保護されるに値する」
「ああ。僕自身には何ら価値がないもんな。立派なカタガキだけで護ってくれるとは、ありがたいもんだね」
「……そうかもしれないな。異論はあるが、今は重要ではない。これからの探索方針を確認しよう。
これより、この部屋の上部、星見塔の床を破り、地下墓地を中心に調査をする」
僕はそれを聞いて、何だかイラッとした。……別に、いいだろ。
何だよ、そこの扉から地上に出ればいいじゃないか。
「これは、君を気遣っているわけではなく、合理性の問題だ。魔力にせよ探索資材にせよ、無限のリソースではない。そして、屋外は接敵を警戒すべき角度が増える。無駄な消耗は避けるように探索の順路は設定すべきだ。
……加えて言えば、迷宮深度の高いダンジョンでは、魔術や魔道具に不調が出る可能性があるからな。法則定義力が、我々よりも優越している場合、最悪、それらが使用できない可能性もある」
あーそうかよ。悪かったね、そういうの全然興味なくてさ。あんたからダンジョン学の講義を聞く気はない。その眉唾理論がどこまで正しいのか、とか議論するつもりもなければ、あんたの持つリソースがどうとかに至っては全く僕の知ったことじゃない。
まあ、それなら、僕は僕でやらせてもらうさ。あんたの顔も見飽きたからね。
僕は、扉に向かって熊手の付いたロープを投げて──この女の前で噛みつき草のツタを使うのは、何だか気乗りしなかった──そのまま垂直壁登りを始めよう……としたところで、僕の影に杭状の矢が刺さって僕の身体は動けなくなった。
「《影縫い》だ。キフィナス。その行為には何の意味がある? 登り終えた後、天地が反転した王都で、どのように探索を進めるつもりだ。安定した足場の確保、魔獣からの襲撃。最低限の課題だが、解決手段は君にあるか。
それとも、そこで浮遊しているメリスに抱きついて探索をするつもりか?」
「はぁッ!?ンなワケ──」
「よい」
メリーが喋ると、僕の影に刺さった矢がなくなった。
なんか動ける。
「とてもよい」
僕の影に向けて投擲される矢は、どれもこれも中空でかき消えた。
というわけで自由になったワケだけど……まあ、うん。
僕はそそくさとロープをしまい、登るのをやめた。
「してもよい。すべき」
「しません」
別に、火傷女の言うことを聞いたわけではない。
ないが……まあ、その。うん。
……僕にも羞恥心というものはあるのでね……!
「のぼる。のぼらない? のぼらせる?」
背中押すのやめてね……!!
「……すぐに道を作る。少し休んでいろ」
グレプヴァインの空飛ぶ万能鍵は、ガガガガガ!と爆音を立てながら天井をブチ破り、その上の地殻を容易く貫通し、大きな空洞へと繋がった。
グレプヴァインは鉄製の義手から小石程度の大きさの偵察用魔道具を飛ばして──どうやら視界を共有できるらしい。その分集中力が要るんだとか。知らね──先行させ、周囲に危険がないということで先に進むことになった。
暗くて狭い入り組んだ道からは、むわっと鼻にこびりつくような酷い悪臭がする。ランタンを付けると、僕らの頭上には泥のような水が溜まっていて……いや、下水道じゃねえのここ? いや下水道だろ。
普通言わないか? そういうことって。というか……、落ちてこないよね、これぇ……?
「どうした? 安全だろう」
どうした?じゃねーよ。……いや、いい。そうだよな。生物資源を狩るときなんか、カモフラージュのためにってことで、獣のフン身体に塗ったりするようなヤツだったわ。
僕は象のようなホースの付いたガスマスクを──遠い昔、カルスオプトで貰ったものだ──被った。
──快適である。臭くない。
ざまあみろグレプヴァイン。
メリーは……壊しちゃうから、ええと……。
「へいき。きかない」
「溝浚いは、下級冒険者の習わしだ。君とて、王都の頃に経験はあるだろう。都市機能を維持するためには必要不可欠な業務だ。……衛生という知識は、社会の下層部にはあまり行き渡っておらず、君のように熱心に作業に従事する者は少ないがな」
そりゃあそうだろ。僕だって、選択肢がなかったからやっただけだ。当時だって、こんなの二度とやるかって思ったさ。……だって、メリーがついてくるし。
社会に必要不可欠な業務だってんなら、責任ある人間がやればいい。それを、適当な相手に任せて安く使い潰そうとするから、安いなりの仕事しかしないんだ。誰もやりたがらないことを押しつけようとするからそうなる。
まあ、あれ以来、僕は基本的に王都では持ち込んだ水……魔術由来の水しか飲まない。そういう意味では、悪い経験じゃなかったかもな。
しかし、骨とか浮かんでる様子を見てると、やたらと賞賛されてる旧王都とやらも、どうやら今の王都タイレリアと同じような感じだったんじゃないかな。
「人の営みなど、そう変わらないものだ」
……そんなものを取り戻したところで、何かいいことあるのかな? 犠牲に見合うものなのか?
僕にはよくわからない。そんなものに命を張る必要はないと本気で思う。だから、減らすためにお節介をしてやっている。
「それはそうだろう。君の故郷は、隣にいつも立っているからな」
グレプヴァインが何度か壁をぶち抜いた先には、等間隔に横たわった人骨が並べられている回廊に繋がっていた。
結局、汚水は降ってこなかった。よかった。本当によかった。
しかしながら今現在の僕の頭上には、ずらっと人骨が浮いているわけで……。今度は、これが落ちて来やしないかを心配することになるわけで……。
「着いたな。ここが地下墓地だ」
彼らは皆一様に、黒い頭巾の付いた服を着ている。その表面は風化して、ちょっと触ったら朽ち果ててしまいそうだ。
……骸骨が服を着てるの、なんか、余計に不気味だな。
「死装束だ。……そういえば、君は見たことがなかったか。この国では、戸籍さえあれば埋葬は平等に行われる。都市の中で死ぬことができた冒険者も、集団墓地へと埋葬されるのだ。中には、それを救いだと捉える者もいる」
付き合いのある冒険者と、ある日を境に顔を合わせなくなったという経験は、別に一度や二度じゃない。
だけど、どんな風に葬られているのかは知らなかった。……それは、『他人の死』というイベントを自分に関係するものとして受け入れるほど、はっきりとした人間関係を僕が築いていなかったとも言えるかもしれない。
「都市とは、多くの死を経験するものだ。人間の営みには、結果としての死がある。それは、ここ旧王都でも変わらないことだ。
……そして、想念も蓄積される。構えておけ、キフィナス」
地面に横たわっている骨、その頭蓋骨に、グレプヴァインは黒檀の矢を撃ち込んだ。
カタカタカタと髑髏は歯を打ち鳴らした後に、ころんと転がって、それっきり動かなくなった。




