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血塗れのレインコート


 善隣友好はいい言葉だ。誰もが誰もに優しくすれば世界はもっと優しくなる。世界にはまだまだ優しくなる余地が沢山ある。

 そんなヤバめの妄想を本気の本気で語るアイリーンさんに対して、僕は時々、尊敬の念を覚えたりする。

 何もかもまったく賛同できないってワケじゃないのだ。

 ただまあ──到底実現できない手合いがいるってことを除いて、さ。





 宵闇に融ける黒檀の矢が縦横から無尽に飛ぶ。


「くッだらないなぁッ! Fラン弓師の方がまだマシな矢を射る! ここはもう、僕の巣だッ!」


 宣言の通りに糸で容易く絡め取れる。


 都市の一角螺旋のように張り巡らせた糸巣に、僕目掛けた矢もそうでない矢も諸共に捕まえる。

 この粘着質な横糸は──名称を《比良坂蜘蛛の粘性横糸》という──両手十本の指に繋がっていない伏線含めてこの周囲には何十万本と張り巡らせいる。一矢たりとも着地させない。


 ……勿論この矢が狙うのはこちらに位置を悟らせないことと僕を消耗させることだ。僕はこれだけの準備してもなお最低限を達成できているに過ぎない。

 王都冒険者ギルドの処刑人は一手一手詰めるような戦いをする。指を一本ずつ丁寧にへし折るようなその手口を僕は知っている。



「死ねや……! あんたが一分一秒と呼吸を続けてることがっ、全身が沸騰しそうなほど! 腹立たしくてしょうがないんだよ……ッ!!」



 一本二本の《糸鋸刃》を動かしたところで奴には通じない。それでも位置を把握し攻め手を疲弊させるためには絶え間なく数本の糸を動かさざるを得ない。

 迷宮都市に張り巡らせた縦糸横糸。鋭利な縦糸は廃屋を傷つけながら押し寄せる波濤のように絶え間なく動く。粘着質な横糸は泥濘や砂礫を舐めるように絡め取る。

 しかし奴を捉えることができず、時に暗闇で動く影を視認できても躱され返し矢を射られる。


 糸という武器が使われないことには多くの理由がある。

 まずはコストの問題。次いで事前準備に時間が必要であること。それ以外にも大きな欠陥がある。


 相手は位置を自由に動かせる一方、糸を張った側は容易に動けない。その糸が複雑なものであればあるほどに。

 指先を動かすだけでしなたわみだれる綱糸を構えたまま走ろうとすれば絡まるのは自分自身。滅茶苦茶に動かせば直ちに指が複雑に歪曲骨折するだろう。


 ──初手でれなかったのはつくづく痛い。そもそも初手で殺れる相手ならこうなってはいないだろうが。


 潜伏して隙を窺うグレプヴァインと糸を張り続けなければならない僕。

 この体勢を続ける限り奴の矢は僕まで届かない。かといってこちらの糸も奴には届かない。

 さっきから脳内を駆け巡るアドレナリンが全身にバカみたいな量の汗を垂れ流すことを命じている。汗で指が滑ることがないように指の肉を糸で裂いて引っ掛けた。



「そーら見せてみろよ! 醜い内面がこびり付いたような黒紫の火傷痕をさぁっ! それとも気が引けるかな!? だって醜いもんなぁ、元王都の受付担当様よッ!!」


「キフィナス。君は私には勝てな」



 ようやくした声の方向に糸を幾重にも流して、何かを真っ二つにした感触があった。

 この手応えは……ああ、《録音石》だ!


「クソがよ挑発がだな! 下手下手下手ヘタっ!

 今夜の勝利条件は──あんたが惨たらしく死ぬことだってのにさあっ!」


 頭は()え切っていた。

 怒りの感情が先行して上手く口が回らない。回す必要もない。殺す方策を手段をやり方を考えて考えて考えるだけだ。


「死ね! 死ねっ!死ねよっ!」


 頭が沸騰しそうになって僕は叫んだ。感情と理性が綯い交ぜになる。格上の相手にどう勝つ。〈なんで僕の前に今更出てきやがった〉万に一つの勝ち目もないのはよくわかっている〈王都で大人しくしてる分には構わなかったのに〉それでもこいつはここで殺さないとならない冒険者ギルドの量刑官なんて存在はこの迷宮都市にはいらない不要だ必要ない! 接近戦ショートレンジ──万に一つの勝算もない。僕の体術は不意打ちに特化している。互いに近づく選択肢がない。中距離戦ミドルレンジ──今やってるがお互いに決定打がない! このままだとジリ貧で朝になったら都市の誰かを巻き込んでしまう、タイムリミットは夜明け薄明までだそれなら長距ロングレンあああ論外! どうする。どうするどう殺す。殺せ殺し方を考えろそうだ山ほど持ってる魔道具をどうにか取り出して──。



「──使わないのか。《灰燼》を」














 その言葉で、思考が空白になった。



「…………、あんたが! 自由に口を訊くことは許可しちゃいない!」


 ピンと張り詰めた糸が四本五本と間中で破裂し、跳ね返ってきた糸が僕の頬を深く裂いた。

 ……張りすぎてしまったことが原因だ。縦糸の張力は相手の骨肉を切り落とす時に最大にする。僅かに弛ませておかなければ相手にも容易く切られてしまうし、今使っている《水晶蜘蛛の一本縦糸》は闇の中で視認が不可能なほどに──生粋の戦闘者は視覚情報のみに依存しないため、小手先の小細工でしかないことは理解している──細く、そのため非常に脆い。


王都あのときのように。使わないのかと訊いている」


「黙れ……っ!」


「敵対者を無辜の民ごと焼き尽くそうとした、あの時の怒りは、今の君にはもう無いのか?」



「……黙れって言ってるだろ……!!」



「そうか」


 何を一人で合点してやがる?

 闇から躍り出たグレプヴァインは矢を番え、そのやじりは暗闇を裂くように赤く燃えて──、



「なっ……、何してんだ、あんた!?」



「戦闘の基本は、相手の弱点を突くことにある。『この迷宮都市を火の海に変えてやる』。

 こう宣言するだけで、君は満足に動けなくなる」


「……はぁ? なーーに言ってんだよ。この街が燃えようが、僕には何の関係もないっての。それに、王都に卸す食料の問題がある。あんたには燃やせない理由があるだろ。僕に嫌がらせをするためだけに、王都に集った人間から餓死者を出すのか? そいつは勘定が合わない。

 つまらないハッタリは止めろよ。あんたのジョークは笑えないんだ。ま、その醜い面で多少は笑えるかもしれないけどな」


「そうか。ところで君は先ほど、『ここは自分の巣』だと言っていたな。個人の言動の真意とは、末端にこそ現れるものだ」


「──ッ!」


 ぱつん、ぱつんと音を立てて、両手の指に繋げた糸が次々に切れていく。だが関係ない。止めなきゃだめだ。

 声の主の首元めがけ、闇の中燃える鏃めがけて糸を無理くりに動かす。より速くよりしなやかに。どれだけ糸が切れても、一本でもあいつの弓に届けばいい! 指は第二関節から先が既にズタズタで爪だって三枚ほど根本から剥げている。だからどうした!

 ──そんな痛みが些細なことだと感じるくらい、目の前の女は許されないことをしようとしている!



「君は合理を重んじる。多少不合理な振る舞いをしてみようと見せても、その本質は変わらない。そして、接する相手も合理的に物事を考えているなどと思い込む悪癖がある。

 ……あれから三年だ。君が変わったように、私が変わったとは思わないのか?」



 グレプヴァインは、火矢を番えた弩を、ゆっくりと虚空に向けた。


 アドレナリンが、世界を、スローモーションに変える。




 世界が/

 コマ送りに/

 なる/


 宵闇の/肌切る冷涼な風の中/

 不吉な熱気が/肌を暖める/


 血塗れの/黒紫の火傷の/創傷面が/

 焔に照らされ/てらりと光り/


 火矢を放つ/放たれる/

 街中めがけて/無表情に/

 無造作に/当然のように/



 僕は/僕は/僕は/ぼくは/ぼくは/ぼくは、




 燃える鏃に/蜘蛛糸を/絡めて──。



「やはり、な。──詰みだ。キフィナス」



 決着は一瞬だった。


 ……僕の糸は、可燃性だ。


 螺旋状に組み上げた粘着糸は容易く燃え上がり、糸から糸へと伝わり、端から端まで灰へと変わっていく。

 指先に残っているのは、なんとか火を逃れた僅か四本の糸だけだ。もう感覚さえ残っていない。

 ……だが、まだだ。まだ四本ある。ほんの数本だけでも、確かに残っている!



「君には、夜明け前までに張り巡らせた糸を取り除く必要がある。君の難儀な性格なら、その作業をメリスには頼らないだろう。私と独りで対峙するほどだからな。……君の能力で、朝までに君一人で片付ける方法は、そう多くはない。

 あの時の君は、燃えた糸を繰っていた。そして現在の私には、都市を焼くという選択肢を取らない理由がある。相手を殺す武器に、このように燃える材質を選んだのは、リリ・グレプヴァインの思考の陥穽を期待してのことだろう? ……君は、本質的に戦士ではない」



「ああッ!? 説教とはずいぶん余裕だな!?」



 壊れた蛇口みたいに鮮血を撒き散らす指に頓着せず、僅か数本の糸のために僕は手を振り回した。手からはめきめきと嫌な音が鳴っている。

 だからどうした。余裕ぶっこいてる相手の頸動脈を引きちぎるには、一本あれば十分だ。ラッキーヒットでいい。当たりさえすれば、当たりさえすれば、当たりさえすれば──!



「……君は、自分のことでは怒れないはずだが。その虚勢は、誰のためだ?」


「なんだよそれは。あんたが僕を語るな。そんなもんどうだっていいだろ……!」



 しかし相手は、回避の体勢すら必要ないらしい。すんなりと自然体の動きで僕の糸を見切ると、矢も番えずにグレプヴァインは僕に近寄ってくる。

 ──殺されるのだろう。冒険者ギルドの処刑人に。

 自分の弱さが嫌になるくらい、圧倒的な差が僕とこの火傷女の間には広がっている。



 近寄ってくる。少しずつ。徒歩で。僕のことを侮っている。

 あと三歩。無防備だ。

 あと二歩。歩みは等速に。

 あと一歩、一歩、残り半歩分……。

 さあ来いよグレプヴァイン。僕はまだ辛うじて動く指で《切り札》を取り出した。



「──ゼロ!」

 僕の命で、こいつをここで殺せるなら──!!



「《影縫い》だ。手にした《タランテラ》の瓶は使わせない」


「……ッ! 甘いんだよなあ!! 僕の動きを今止めようが、もうモノを握ってすらいられないんだからさ! 滑り落ちた瓶は止まらな──」


「無駄だ。《飛来式拘束具・八条錨(キッドナッパー)》」


「がっ……!?」


 声を合図に、8本のワイヤーアンカーが僕の腕ごと瓶に巻き付いた。

 指の一本さえ動かせない状態で、僕は壁へと拘束される。アンカーが穿った穴が廃屋の内にある埃を舞わせた。



「私にも仕事がある。残念だが、君と心中するわけにはいかない」


 僕は奥歯を噛──、


「つくづく諦めが悪いな。君は」


 人差し指と中指を口に突っ込まれて、噛みついてやったが全くびくともしない。そのまま口内を二本指が這い回り、隠していた爆信管は取り出された。



「そろそろ敗北を認めてもらおう」



「…………殺せよ……」


 誰が、誰が負けを認めたりするもんかよ……!

 よりにもよって、あんたに負けることなんて──認めるくらいなら死んだ方がずっとマシだ。


「……君は、相変わらず自分の命を軽く見積もっているな。私には、君を殺す理由がない。もし君を殺せば、メリスは下手人を決して逃がさないよう、世界すべてを一度に握りつぶすだろう」


「メリーはここにいない。……あんたと戦うことを承知してくれたんだ。だから、僕の命の責任は、僕だけにある」


「いや。メリスのスキルには、時間も距離も関係がない。君が誰かに殺されれば、メリスは世界を終わらせるだろう。一枚のビスケットを砕くように、容易く。

 ……それは、想定される世界崩壊シナリオの中でも最も、意味も救いも無い終わりだ」



 ──あんたにメリーの何がわかる。

 僕は何度目かわからないくらいブチ切れた。



「まーーーーた世界セカイ崩壊ホーカイかよッ!! 知るかっ! どいつもこいつも! そんなくッだらねえことを誰も彼もがマジメくさった顔で語る! それがどうしたッ!!

 空が墜ちるコトよりも目先の心配しろよ! なあ! 僕は、あんたを殺すぞ!」


「巨視的なモノの見方を苦手としている点も、君の大きな欠点だな」


「……あんたは! あの《哲学者カスども》の仲間だろ!」


「所属していることは認めよう。しかし、あらゆる理念に共感するわけではない。現に構成員の内の何人かは、活動を許せば当ギルドの権益を大きく損なうために殺している」



 ……そう。

 この女は、そんなつまらないことを理由に他人を殺せる。



「……だからッ!! だからあんたは死ぬべきなんだよ! じゃなきゃ……あの子たちに、会わせる顔が……!」



「…………何か、勘違いをしているようだな? 私は、君とその周囲の人間に危害を加える気はない」



 ……は?

 勘違い?



「最初の矢。君は撃たれることを予知していたように動いていたが……、殺意を剥き出しにした人間とは対話できないからな。君と話をするために、まず、君の動きを止める必要があった」


「対話ぁ? それはいつもの隠語だろ? あんたの辞書には『暴力を伴った手段によって、相手に承伏をさせること』って意味しか載ってないだろうよ。僕には、あんたと話すことなんてない。今更和やかに仲良く世間話をするぅ?僕は絶対に御免ゴメンだね。

 それに、だ。『複雑な問題はその渦中にある人間を殺せばシンプルに解決する』、あんたはそう考えるはずだ。暴力的で乱暴で非人道的な、いかにも冒険者らしい考え方をするはずだ。まるで、どっかの人斬りみたいにな」


「あれには合理がない。人の形をした獣だ」


「あんたもそうだって言ってるんだよ」


「違う。私は取り得る選択肢に暴力があっても、行使する相手は十分に選ぶ」


 選択肢に暴力なんてものが出てくる時点でロクなものじゃない。理性ある人間として恥ずかしくないのか? ま、ないんだろうな。

 目前の相手は正しく冒険者ギルドの処刑人なのだと改めて認識させられる。



「レベッカ・ギルツマンから状況は聞いている。この地の次期領主ステラ・ディ・ラ・ロールレアが、冒険者ギルドで活動を開始するそうだな。それも、迷宮資源の多くを、冒険者ギルドまで卸さずに自分たちで取り扱うという」


「……そうだ。正確にはレベッカさんが保有する株券の分は納品する。だいたいは、外に回したら混乱を引き起こしかねない迷宮資源をギルドまで卸すことになるだろうけどな」


「我々冒険者ギルドは、その活動を阻害するものではない。『タイレル王国冒険者ギルド規則』には、「冒険者が取得した迷宮資源の取扱いの権利は、社会に混乱を生じない範囲に於いて、取得した冒険者が持つ」と規定されている。君たちの活動は、該当の規定に反するものではない」


「……メリーがいるからか?」


「違う。君がいるからだ」


 ……何を言っている?


「商業と貴族と冒険者。互いに権力を分割する三者をそれぞれ連携させようという発想。そしてそれを実現しようと働く者の存在を、この規則はそもそも想定していないのだ。

 冒険者ギルドが本当に護るべき権益とは、目先の利益のような些末事ではない。力ある者が社会から排斥されず、また力を濫用しないよう監督すること──それこそが、この組織の存在理由なのだ。


 キフィナス。君の行動は、冒険者という存在を大きく変えうるものだ」


 知るかよ。

 そんなものを変える気はない。

 僕は冒険者ギルドが嫌いだ。冒険者という存在が嫌いだ。

 ただ、この肩書きを利用することで、ステラ様とシアさんの力になることができるから使ってやってるに過ぎない。



「……王都の冒険者ギルドは、君にとってあまり居心地のよい場所ではなかったかもしれないな」


「そうだな。あんたの顔を毎日拝むことになったからな。そりゃあ不快だよ」


「それは残念だが。君がどう思おうと、君の行動がこちらの利になるのならそれで良い。君がよく口にしていた、内心の自由というものを私は保障しよう。そもそも、冒険者全員が組織に忠誠を誓うなど到底不可能だ。量刑執行官という役職が必要とされるのは、それを大きく逸脱した相手を罰するためにあるのだから」


「ハ、あんたに保障される自由なんて願い下げだよ。だいたい、いつそんな立場になった」


 僕がそう言うと、グレプヴァインは僅かに沈黙した。

 何かを言いたげだが、訊くべきことは何もない。



「……いずれにせよ、だ。君の危惧することは何もない。冒険者ギルドは、君たちの活動を否定しない。しかしその一方で、一切の支援をすることもない。

 ──なぜなら、君たちは現時点では迷宮都市デロルの代表ではないからだ。

 当主を騙る簒奪者か、それとも君たちの狂言なのか──真偽もまた、重要なことではない。いずれにせよ、ギルドは勝者を後継者と認めるだろう」



「そうかよ。そいつは調子がいいな。勝ち馬に乗りますってなッさけない発言を、それだけカッコつけて言えるのには感心しかしないな」



 ……ま、いいさ。

 冒険者ギルド(あんたら)は、せいぜい暫定ビジネスパートナー様と食料支援の交渉でやりあってくれりゃあいい。

 食料支援の契約を反故にするしないで面倒な協議をさせるためだ。


 グレプヴァインを味方に付けるなんてのは冗談にしても全く笑えないが、冒険者ギルドが僕らに味方しなきゃいけない理由は既に撒いている。

 ──蜘蛛糸が暴かれようと、こちらの線は切れさせはしない。






「敵を知り己を知り、準備に準備を重ねれば、菲才の身でも一合二合は打ち合える。

 ……惜しいな。あれがもし、ほんの僅かでも才能を持っていれば。いずれかの一撃で、私を打倒し得ただろうに」



 リリ・グレプヴァインは先の油断ならない戦闘じゃれあいを思い、感想を独りちた。

 彼女が知る限り──キフィナス以上に才能があり、才能スキルがない人間はいない。

 彼はアンカーを解いてやると、指先に僅かに残っていた糸を使って屋根伝いに逃げていった。見るに堪えない状態になった手の治療に断固として抵抗しつつ、悪態と捨て台詞を吐きながら。


「……変わったな」


 王都を離れた今もなお、彼は相変わらず数奇な運命に絡め取られているらしい。

 だが、その目にはかつてと違って光があった。



「……再び弟子と呼ぶことを。あれはもう、赦してはくれないのだろうな」



 グレプヴァインの小さな呟きを聞いた者は、月をおいて誰一人いなかった。


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