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S級冒険者で金髪美少女な幼なじみと一緒にいるD級冒険者の僕は「女頼りのクソヒモ野郎」と呼ばれています  作者: ふぉーせぶん
クソヒモ小探索・迷宮都市特別保護ダンジョン《フォーチュン・ガーデン》
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人は見かけによらないって言うけど服装って自分で選択するものだしそこがやばいなら人格もまあやばいと思う



 一般的な冒険者は、赤字が出ない範囲で徒党を組み、無理をしない範囲で冒険をする。

 僕が痛いのと怖いのが嫌なように、彼ら冒険者も──ほんの一部のはずの例外がなぜか沢山頭に浮かぶけど──できる限り、リスクは避ける。学もない、能力ステータスもない、選択肢がないから冒険者をしているのだ。


 そんな彼らが足を運ぶのは、既に何が出てくるのか、何を手に入れられるかがはっきりしたダンジョンになる。

 王国では、そういったダンジョンは国あるいは領主が管理しており、コアを壊したことが発覚すると重罪が科される。


 迷宮都市デロル・特別保護ダンジョン《フォーチュン・ガーデン》にて。

 僕は、特徴的・・・()をしたDランク冒険者パーティの一団と一緒に、迷宮資源を取りに来ていた。


「まだまだヒヨッ子のお前に、冒険者サマの働きを見せてやるからよ~~!」


「ヒャッハッハ! 報酬はたっぷり支払われるんだろうな~~!?」


「ええ、はい。そこはご安心ください。前金で銀貨3枚、五体満足で帰ったら金貨1枚。受付さんに既に渡してます。武器の新調とかできますよ」


「『普段の仕事を見せてくれ』なんてよぉ! こんな楽な仕事たぁ笑いが止まらねえなあ!! ヒャッハーッ!!」


 はあ……。いくらギルド側からの《指名依頼》だからって、不自然に高い報酬はまず疑ってかかるべきだろうに。

 だいたい何なんだよその肩パッド……。肩守りたいなら鎧着ればいいだろ……。

 雲行きが怪しい。いちいちヒャッハーうるさい。僕はメリーの髪を──いや、いま、僕の隣にメリーはいないんだった。


 僕の右手は二、三度空を掻いて、ふわふわやさしい感触などあるはずもない手をポケットにしまった。



・・・

・・



「ヒャッハーーッ!! 汚物は消毒だーー!」


「「「ヒャッハーーーーッッ!!」」」


 魔術師のトゲ肩パッドマンの叫びに合わせて肩パッドマンたちが叫んだ。

 これを人間の言葉に訳すと……『火を放ちます』『了解』となるのかな?

 これは耳寄りな情報だけど、人間は火に弱い。だから、複数名で行動している時に火を放つなら合図することが望ましい。


「……《火は燃える、よく燃える、強くてつよい……」


 そして、ぶつぶつと小声で詠唱を始める肩パッド。

 うん、やっぱり合図だったらしい。

 相手は《フォレストウルフ》が一匹、周囲は草原だ。


「ヒャッハッハ! 俺の斧の切れ味が知りたいか~~~~?」


 斧をベロベロ舐めていたモヒカンの人が、四つ足の獣とじっと睨み合う。


 魔術師を抱えたパーティの前衛に求められる動きとして『魔術を発動するまで相手の行動を抑制すること』というのがある。低ランク帯の一般的な魔術師は、戦士よりも殺傷能力が高い代わりに発動までに時間が掛かるという特性がある。

 つまり、視線を合わせるだけで発動できるステラ様たちの《魔眼》はかなりヤバいし、その一振り一振りすべてが致命の刃となるセツナさんの技量と人格はおかしい。


「……燃えろ!》 ヒャッハーーッ!」


 あ、詠唱終わったみたい。

 山なりの軌道で、人間の頭くらいの大きさの火球が狼に向かって飛んでいった。


 ちなみに、僕らの足下に生えている草は《爆発ナタネ》。薄茶色の──メリーのふわふわした金髪に少し土色を足したような色だ──穂、そこにくるまっている種には、加熱すると爆発し硬い殻を周囲に飛散させるという性質がある。皮膚にしっかり刺さるくらい痛い。丁寧に絞るとよく燃える油にもなるんだけどね。小さい家屋なら水筒一本分で全焼するくらい燃える。

 僕は二歩ほど後ろに下がった。


 ──ぎゃうぁあああう! ぎゃうぁあああう!


 火球が無事、目標に命中。

 炎は脂の染み着いた毛皮へと延焼し、《フォレストウルフ》が叫んだ。

 僕はほっと胸を撫で下ろす。


「ヒャッハー!! よく燃えるなァ~~!?」


 しかし表皮が焼かれただけでは即座に致命傷とはならない。魔獣はその生命力で、火を放った魔術師の肩パッドに飛びかかり──。


「《パワースマイト》ッ! ヒャッハッハ! てめぇの血は何色だぁ~~?」


 構えていた斧に横合いから弾き飛ばされ、きゃいんとすっ飛んだ後、ぎゅ、とまぬけな断末魔を上げて動かなくなった。

 血の色クイズの正解は赤色です。まあ魔獣には青とか黄とかいるけどね。

 しかし、これで戦闘行動は終わりじゃない。


「水だ水だ~~~~ッ!!」


 次いで魔術師の肩パッド二号が、がぼがぼ水を被りながら叫んだ。

 魔術によって生じた発火現象は、発火点の魔力を消せば消火できる。しかし、他のモノに延焼した場合は話は別だ。魔力を失っても消えないという性質がある。


 お得な情報になるけど、人間は水に弱い。

 触れていれば体温を奪うし、口に含めば窒息の危険がある。気候が不安定なダンジョンも多い。


「新鮮な水だぜぇ~~~~!!」


「ヒャッハーーーーッ!!」


 だから、間違っても探索中に被ってキャッキャするものじゃない。汗や血を洗い流すのは安全な場所に着いてからだ。

 僕は頭を抑えてしぶきを浴びないように気をつけた。


「剥ぐぜぇ~~!! 毛皮を剥いでカネは山分けだぁ!!」


 なるほど、そこのナイフ持った肩パッドさんは毛皮の処理を担当か。軽装なのは動くことを重視しているのかな。皮を剥ぐ手際も悪くない。まあ──多分僕なら指を切るかな。

 ……でも焦げてますけど? せっかく剥いでるところにあれですけど、多分これじゃ商品にはならないですよ?


「どうだぁ~~!? 俺様たち《世紀末連合会》の連携は~~!?」


 どう、と言われましても……。

 ヒャッハーがうるさいな、としか感じないというか……。


「ぼ……私はギルドから紹介されただけなのでー。判断ができないですー」


 普段より2オクターブほど高い声で無難なことを答えた。

 今日の僕は変装をしている。髪も薄緑に染めた。体の線が出ないローブを着込んで、フードも被った。更には一人称まで変えた。

 今日の僕はDランク冒険者のキフィナスじゃなくて、見習いダンジョン学士でフィールドワーク希望の……偽名、なーんて言ったっけ……? レベッカさんに貰ったような、貰わなかったような……、あー、まあ、なんでもいいかな。聞かれたら考えよう。うん。


 あー、そんなことより、一点だけ伝えることがありました。


「ところでですね。これは是非知ってほしい情報なんですが、《フォレストウルフ》は群れを作るタイプの魔獣なので──」


 さっきの、一対一で睨み合う連携は使えないんじゃないでしょうかね。

 僕は茂みに隠れていた影を棒で示しながら、のほほんと答えた。








 スキル《鑑定》で表示されるところによると、《フォレストウルフ》は、Eランクの魔獣ということらしい。僕はスキルなんて胡乱な能力を使えないけど、そういうことだという。

 それは、単体戦闘能力の低さと、爪と牙という単純な攻撃手段から見積もられている。ただ、大きな群れを作ったり、誰がより脅威かを判断することができるだけの知能はある。

 命の危険がある。怖い。でもEランクだ。僕より低い。

 つまり──めちゃくちゃ怖いし痛いのだけど、僕でも対応はできなくはない。


 できなくはない……んだけど、今日の僕はダンジョン学士さまだ。手足より頭を動かすタイプの職業を自称できているので、わざわざ手足は動かしたくない。

 だからこの人たちに任せたんだけど──。



「はあ……、はあ……、手こずらせやがって……」


「ああ、くそっ! 噛みやがった!」



 その、こんなこと僕なんかが言っていいのかわからないんだけど──弱い!

 飛びかかったナイフの人は毛皮の隙間で刃が止まってて反撃を受けているし、斧の人は斧の人で魔術師を守り切れていない。

 そこの斧の人は腕相撲したらまあ僕の腕を2秒でぽきっとへし折るだろうし、僕は魔術とか使えない。この時点で、彼らより身体能力で僕はずっと劣っている。だけど、彼らはまだ、狼の群れを打倒できていない。

 ええと、Dランク冒険者パーティって話だったけど……、まあDはダメ野郎のDだからしょうがないかなぁ……。



「おい! お前らッ! こんな時だからこそ笑えッ!!」


「ひ……ひゃ、ヒャッハーー!!」



 ……あーあ。見てられないな。死ぬまでヒャッハー言うつもりかよ。それは何とも馬鹿馬鹿しいったらない。

 僕は《魔法の巾着袋》から一人分の鼻栓──顔全体を覆う、どこかの鉄錆都市で貰ったガスマスクだ──と《腐敗血液のカクテル》瓶を取り出した。



「あのー。鼻、しっかりつまんでてくださいねー。今からすっごい臭いので」



 僕は瓶をひときわ大きな個体に投げつけた。


 周囲に、えた、吐き気を催す、ザクと鼻を刺すような臭いがぶちまけられる。

 獣はきゃうん! と高く吠えた。

 僕はけらけらと──おっと。いつもの調子で笑うのは控えた。


「げほっ……、ぐ、なんだこのにお……、おげええええっ!」


 肩パッドさんのうちの一人も臭気で吐いている。その目からは涙がこぼれていた。キツすぎる臭気は目にくるのだ。

 まあ、元々対人用だしね。いやー、若干申し訳ない。ごめんなさいね。僕は心の中で謝った。

 ただでさえ臭いゴブリンの血は、腐ると更に独特の臭いになる。そこにいくつかの血とかを混ぜると本で読んだ化学兵器みたいになるのだ。

 これだけで動けなくなる相手は多い。というか適応を重ねて身体能力の上がっている優秀な冒険者ほどよく効く。あ、一応嗅ぐだけなら無害です。肌に触れると糜爛びらんを起こすけど、薬草使えば二日で治りますよ。毒はないと言っていい。


「おふぇえはにほ──」


「はーい注目。狼の動きが止まっていますねー」


 鼻を赤くなるまで摘まんでいるモヒカンさんに、僕は狼を見るよう促した。


「この魔獣に『血の臭いを嗅ぎ分け、遠くから追跡してくる』という習性があることはご存じですか? これはつまり、嗅覚が発達しているんです。彼らは僕らが目と耳で世界を認識する以上に、鼻で世界を嗅ぎ分けている。

 しかし、それは弱点にもなるんですね。この薬品はゴブ──いや悪用されたらまずいな──あー、人間ですら、嘔吐するくらいよく効く。だから、群れの長にかければ、これだけで大混乱しちゃうんですねー」


 大混乱どころか、失神している個体も沢山いる。群れの長っぽい大きな個体もそうだ。

 爆心地から少し離れて失神しなかった個体も、きゃんきゃんと吠えて喚いて、統率は乱れに乱れている。

 そして、遠巻きに囲んでいる狼の群れも、臭気をぶちまけた場所には近づこうとしない。


「大事なのは、長を狙うことですねー。弱そうなのを潰しても、群れの中の一匹を切り捨てて逃げ、その後再襲撃するって選択肢を選ばれるかもしれませんのでー。

 わかりましたか?」


 僕はモヒカンさんに声をかけると、鼻を真っ赤にしながらこくこくと頷いた。

 ……そうじゃない。

 モヒカンさんに声かけたのはその地面に置いてる斧で首を落としてほしいからだったんですけど? 両手で鼻を摘まんでる場合ではないですよね?


 僕はダンジョン学の見習い学士で、戦闘能力はないってレベッカさん説明してたでしょ。『適応してなくて魔術も使えないカスですけど怪我させないでくださいね』って。……あれ、けっこう酷い言いぐさだな? 事実だけど。

 はあー。わかりました。わかりましたよ。僕がやります。やればいいんでしょ。……面倒だなぁ。


「よっ……、と」


 僕は、失神した狼のうちの一匹に、杖として使っていたいつもの10フィート棒を目玉に突き刺し、脳天をかき回して殺した。

 びく、と跳ねて、緊張していた筋肉が完全に弛緩するのが絶命のサインだ。


「それから、お節介かもしれませんけど、毛皮はこうすると損耗がないかなって。冒険者さんから『素材をギルドから買い叩かれた』という不満はよく聞きますが、ギルドの立場からすると『商品に満たないものを持ってくるな』となると思いますね。綺麗な形でしとめた方が値段をつけてくれますよ。たぶん」


 その点、僕が納品する薬草はその辺けっこう気を遣っていたんですけどね……?

 そんなことを考えながら、僕は2体目3体目と目玉から脳を破壊していく。

 4匹5匹6匹っと……こうなると薬草摘みと変わらない作業だ。腰を気にしなくていい分、薬草摘みの方が大変まであるな。


 《フォレストウルフ》たちは、僕の作業を見ながらも手を出せない。

 そのまま、じりじりと交代していく。


「あー、これで去りますかね」


 この臭気に慣れて襲いかかってくる可能性もあったので、そのまま去ってくれると助かる。

 僕は痛いのと怖いのは嫌いだ。戦いは危ない。

 四つ足の動物の爪と牙ならまあ問題なく避けられるけど、もしかしたら怪我するかもだし最悪死ぬし。

 弱者にとって、戦いという選択肢は割に合わない。



「だから、戦いのための連携セットアップを考えるより、作業(戦い)するため(しないため)のやり方を考えた方が有効かなーって」


 弱っちいなら弱っちいなりの立ち回り方、ありますよね。


 ……ん? あれ、反応悪いな。あれだけうるさかったヒャッハーがないぞ?

 まあいいや。この死体あげますね。報酬の足しにしていいですよ。あと出血はただちに薬草とかで止めるべきです。

 それから、場所を変えることを提案します。僕もこのマスク脱ぎたいし、異臭に釣られてこいつら以外の魔獣がやってくる可能性もある。『ここで魔獣を殺すのがいつもやってること』と言うなら、それでもいいですけど。


「お、おう……。場所を変えるぞぉ!」


 モヒカンさんは鼻を摘まみながらフォレストウルフの死体を担いだ。

 やっぱりヒャッハーはなかった。



「あ。わかってると思いますけど、ぼ……私はしろうとダンジョン学士です。改めて、戦いとかできませんからよろしくお願いしますね」



 僕の右手がまた空を掻いた。

 痛みがないのはいいけど、ちょうどいい手の置き場がないのは困るなと僕は思った。





 冒険者ギルドカウンター奥、事務室内にて。


「アッめりすさんアイツ待ってる間にお茶飲みますかっ!?ねえライラお茶!二人ぶんお願いっ! えっとそういえば二人っきりでゆっくり話せたことってあんまりなかったなって思ってわたしメリスさんのこと憧れというかファンというかすきです!!!」


「めりは。きふぃがすき」


「……う。しってます」


「れべかは。きふぃ、すき?」


「嫌いです。……あ!いやその、別にあの、メリスさんの気分を害する気はないんですけどっアアア言葉が出てこないっ!ちがくてまあ嫌いだけど嫌いじゃないと言いますかいや普通に嫌いだけどそうじゃなくて──」


「きふぃは。れべかのこと。すき」


「えっアイツが? え……いやー、困るな……。ほ、ほんとです? えー……どうしようかな……、顔はよく見れば悪くないんだけどとにかく性格がな……、断るにしても返事を……」


「ん。よき」


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― 新着の感想 ―
[良い点] やばい世紀末の人たちがなんか可愛く見える [気になる点] そして始まる地獄の特訓? [一言] レベッカさんの対応が憧れのアイドルを前にしたみたいな感じ........... しかもこっ…
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