第26話 この流れさっきもやったよな
「二人共分かってます? いい大人が人の家で暴れるとか知り合いじゃなかったら通報ものですからね」
「はい……」
「わーってるよ。ふんっ」
今二人は台所兼居間であるこの部屋で正座して俺の説教を聞いている。
お隣さんは少し不満気だけど、それでも大人しくしてるんだから、まぁは反省しているんだろう。
いや、無理矢理正座しろって言ったんじゃないよ。
俺の大声で動きが止まった二人は、「しまった」って顔した後、何故か二人して俺の前に並んで正座したんだ。
戦い振りから二人共なにかの武術をやっているみたいだし、もしかしたら道場での修練を思い出して、師匠から説教された時の条件反射で正座しちゃったのかもね。
なので下手に高圧的に出て、俺なんかの説教を受けてる現状に気付かれたりなんかしたら、我に返ったこの人達からどんな目に合うかわからない。
だから、ゆっくりと言い聞かせながら喧嘩を止めるようにお願いしよう。
「面倒臭いことに巻き込まれるのは嫌なので詳しくは聞きませんが、二人共知り合いだったんですか?」
「あぁ、小さい頃から知っている。まぁ私の周りを煩く集るハエみたいなやつよ」
上司の口調が、いつもの固い感じから外見相応な女性的な口調に変わっている。
なんだかずっとガミガミ怒られていた記憶しかないので、こんな上司の姿はめっちゃ新鮮だ。
……と言うか、ハエって口悪いな、おい。
「へッ! 何がハエだよ。あたしがハエってんなら、あんたはウンコかっての」
思わずブホッと吹き出しかけた。
お隣さんやるなぁ、一瞬怒りだしてまた喧嘩が始まるかと身構えたけど、そんな切り返しするとは思わなかった。
「な、なんですってぇ! あんたは昔からそうやってあたしんちに因縁をつけて来て! 今日こそ引導を渡してやる」
ちょっ! 怒り出すのはお前なのかよ! 引導渡すって沸点低いな上司!
お隣さんの煽り返しにキレた上司が、またもやどこから取り出したかわからない細長い針を構えてお隣さんに向けて突き刺そうとして、それを迎え撃つべくサッと距離を取ったお隣さんが……。
「わぁーーー!! だから喧嘩はやめてくださいっって!」
俺の声でまたもやその場でちょこんと正座する二人。
もうやだ、なんなのこいつら。
俺は溜息を吐きながらどうやってこの二人を追い出そうかと二人を見下ろしながら悩んでいると、上司が目を見開いた顔してある一点を凝視していた。
上司のこんな表情自体は初めて見るものの、なんかこう言う表情自体にはとっても既視感がある、それもほんのついさっき。
もしやと思いその視線の先を追っていくと……やっぱり。
「え~と出雲課長? その玉の事ですが……」
「な、お前っ! あれがなにか分かっているのか! あれは! あの大妖の!」
あの大妖ってどの大妖ですか? いや、そもそも大妖ってなんですか?
お隣さんと同じようなことを言って、とても驚いて……いやどっちかと言うと怯えている上司。
本当にこの二人はこの玉とそっくりな物にどんな目にあったってんだよ。
色々と疑問は湧くけど、取り敢えず俺がつい先程お隣さんに話したこの玉入手の経緯を伝えようとしたら、それより早く上司はキッとお隣さんを睨みつけて大声を上げた。
「永理っ! 貴様、魔道に堕ちたな! それとも白神一族の企みか! よもやこんな場所で大妖復活を目論でいるとはな! 封魔殿を裏切り、この国全ての祓魔師を敵に回すとは愚かなり!」
なりってなんだよ、なりって。時代劇かよ。
上司はお隣さんに向かって、これまた一般人じゃ俺以外聞いたこと無いかのような厨二病の言葉を捲し立てるように羅列していく。
そんな食って掛かられているお隣さんはと言うと、ついさっき自分がした勘違いの様を更にヒートアップした形で見せつけられているからなのか、ちょっと恥ずかしそうな顔をして目を逸らしていた。
「なぜ目を逸らす! なんとか言え永理っ! 情けないぞ、お前がそこまで腐れ外道だとは……くっ。お前は口は悪いが、根は良い奴だと思っていたのに……」
なんか上司は涙目になりながらお隣さんの胸ぐらを掴んで恥ずかしいことを言っている。
けれども、俺としては口の悪さよりパンクロッカーそのままな格好のほうが気になるんだが。
ただ上司の言葉的にどうやら、お隣さんのことをそこまで嫌っているわけじゃなさそうな感じがするな。
いきなり殺し合いが始まりそうな雰囲気だったのも、所謂ネコとネズミで仲良くケンカしな的な関係だったんだろうか? ……どうでもいいけど。
とは言え、お隣さんが上司の自分に対する熱い想いに照れて顔を真っ赤にして笑いを必死堪えて困っているし、このままじゃ話も進まないので仕方なく止めに入ることにした。
何より早く止めないと上司が暴れだしそうなんだしな。




