第22話 また来やがったよ
「う~ん……。なぁ、取りあえずレベルアップについて教えて色々教えてくれよ」
いきなり核心突いて『なんでこの部屋に現れたのか?』とか聞いても、壮大な連想ゲームを繰り広げなければならないのは目に見えてるし、そもそもこの訳の分からない現状に対して、こちらから質問出来るネタがほぼ無い状態では、想像力を膨らませて質問を搾り出するにも限界があるだろう。
何より質問する度に毎回『(σ゜∀゜)σソレナ』とか『(乂'ω')ダメー』とかやられると、さすがの俺でも多分途中でキレる自信がある。
それならば、レベルアップの事を理解して、こいつと会話出来るレベルにまで上げた方が早いんじゃね?
出現した理由を考察するよりかは、ゲームで培った知識が反映出来る分、レベルアップ方法について楽に答えが得られるだろうしな。
そう思い至った俺は、まずはレベルアップした項目について聞いてみることにしたんだ。
『(๑•̀ㅂ•́)وバッチコーイ』
……こいつ、本当に普通に喋られないのか?
なにげにレパートリー多くね? てっきりさっき使ってた『୧(˃◡˂)୨イイヨー』で返ってくると思ってたぞ?
まぁ、なんにせよ答えてくれそうなので、お言葉に甘えさせていただこうか。
めっちゃ低い能力値やスキル、そしてそれが誰に対して付与されたか? って事も気になるけど、まずはどうやったらレベルアップが上がるのか? だな。
「どうやったらレベルが上がるんだ?」
『ガンバッテ!٩(๑•̀ω•́๑)۶』
「……何を?」
『(ˊo̴̶̷̤⌄o̴̶̷̤ˋ)イロイロネ❤』
「…………」
……ダメだ、キレそう。
ここでキレても誰も俺を責めないだろう。
……だろうけども、ここでキレたら多分負けだ。
ただでさえ朝飯食ってないってのに、これ以上無駄なカロリーを使って脳ミソのエネルギー消費するより、答えが返ってきそうな質問を虱潰しにぶつけるしかないな。
「……はぁ。なぁ能力値上がってたが、一体何に対しての数値なんだ?」
俺が知ってる能力値はリアさんだけだが、少なくとも全部桁が一つ以上は多かった。
ガルバンさんのは見てないから分からないけど、あの筋肉ダルマのような体躯からするとかなり高かったんじゃなかろうか。
順当に考えたらこの部屋の能力値って事なんだろうけど、部屋の能力値にだとしたら名称が意味不明過ぎるんだよな。
力や体力については、建物の耐久度的な感じで理解出来なくはないけど、知力とか素早さとかは訳が分からない。
数値の低さ的に、このボロアパートにはお似合いっちゃ、お似合いなんだけどもさ。
『m9(^д^)プギャー』
なんて思っていたら、掲示板にはこんな絵文字が現れた。
……これはどう言う意味なんだ?
確実にバカにされているように思えるんだけど。
しかも、俺が。
なんで、俺の事を笑うん……え?
「もしかして……俺のなのか?」
『( ≖ᴗ≖)ニヤリ』
「ニヤリじゃねぇんだよ! ぜってー煽ってるだろお前っ!!」
『ヾノ゜∀゜*)ィヤィヤィヤ』
さっきキレたら負けだと言ったのにキレてしまった。
けど、これは仕方無いよな。
くそ~、最初の頃の顔文字の印象から純真無垢でちょろい奴と思っていたが、なんかだんだん調子乗ってきやがったぞ。
「ちっ! けど、俺の数値って言われても、全く上がった感じしないし、何よりここに来た人達と比べてもそこまで差があったようには思えないぞ」
腕力的にもガルバンさんはさておき、リアさんとも桁が違うレベルで差が有ったんだけど、俺の何倍強いってことはなかったと思う。
もしそうなら割り箸やらカップ麺の容器やらバッキバキにされてただろうしな。
まぁ壁殴ってた時の音はかなり強そうだったけどさ。
『ρ(._.)コレコレ
能力値説明:神格ランクで補正された戦闘時
の最大値が表示されます。
神格ランク説明:レベル上昇によってGから
始まりSSSまで上がります。
ランク上昇に伴い、能力値
補正が加算されます。』
「おおぅ……、な、なるほど」
急に普通の言葉になったじゃないか。
ただマニュアル的な説明だから、もしかして開放されたと言う『情報閲覧機能』ってやつのお陰かもしれん。
なんでレベルアップの時にこれを表示してくれなかったんだよ……って、これもレベルが低いからなのか? くそ!
まぁ説明的に、要するに戦闘時には補正が入り強くなるってことか。
まぁLV1とLVMAXの能力値差問題はたまにネットとかでも議論になってた。
『これだけ差があったら日常生活困難過ぎでしょww』とかね。
なるほどなぁ、戦闘時だけ適用されるのかぁ……。
ただ、この解説には若干の疑問がある。
「なぁ、これゲームの仕様と違うんだが?」
そうなんだ、ガラバンさんの件で、てっきり俺がやっているネトゲの世界と繋がったと思ってたんだけど、ゲームの中にはいま表示された説明にある神格ランクとか存在しない。
勿論他のゲームでは、そういう仕様もあるだろうが、このゲームは能力値を任意で振れる自由度が売りだ。
そのお陰で見た目がロリキャラだろうがバリバリのパワーキャラにだってなれるし、ゴリマッチョが最強の魔導士にもなれる。
そもそもなんだよ『神格』って、ちょっと中二病が疼くじゃねぇか。
『(゜Д゜)ハァ?』
「は? 『ハァ?』って、なんだその反応は? ここに来た人達はゲームのNPCなんだろ?」
『─━─━─【ソンナン鉄道シリマ線】─━─━─』
だからレパートリー広いな、おい!
しかし、本当にゲームとは関係無いのか?
いやでも、ガルパンさんは俺の知っている歴史の中に存在していたのは間違いない。
地名や年号がただの偶然の一致だったとでも言うのか? んなバカな。
いや、こんな状況自体バカな話なんだけどさ。
これ以上つついても答えは出てこなさそうだし、頭を切り替えるか。
「もういいや、それじゃ次はスキルについても教えてくれ。それも俺のだったりするんだよな?」
『 ( ・∋・)コクリーヌ』
やっぱりこいつふざけてるのか?
肯定なら普通にさっき使った『(*・ω・)コクリコ』でいいだろ。
一回使ったAAは二度と使っちゃいけない決まりでもあるのか?
まぁ、もうツッコんでも疲れるだけだから声にしないけどさ。
「じゃあスキルもさっきみたいに一覧でバッと表示してくれ……って、え?」
ツッコむのを諦めた俺が大人しく他のスキルについて聞こうとした途端、突然音も無く目の前から青く光る掲示板が消えた。
それと共に近所からの環境音が聞こえ出す。
と言う事は、どうやら石の中状態が終了したようだ。
「まじか……。どんなタイミングだよったく」
俺は出鼻を挫かれた形で何もない空間に向かって愚痴を吐いた。
まぁいいや、今度出て来たら聞けば良いし、二度と出て来ないならそれはそれだろう。
少し寂しくもあるけど、出現をコントロール出来ない以上どうしようもないしな。
なんてことを思いながら朝食選びに戻ろうとした時……。
ドンドンドンッ!
突然玄関のドアを叩く音が部屋に響く。
朝っぱから誰だ? なんて驚かない。
だってこの叩き方はよく知ってるから。
「おーーい! 起きてっかぁ? 美人な隣人が来てやったぞ~」
やっぱりな。
また来やがったよ、ったく。




