第20話 効果音って著作権フリーらしいけど、これはさすがにアウトだろ
これはアレだな、死にかけのセミが仰向けで転がっている所謂セミファイナルってやつ。
たまに階段の途中や玄関の前に転がってるけど、ただの死骸だと思って近付くと突然やかましく暴れ出すから、地味に怖いんだよ。
まさにいまの俺はそんな気分。
「南無三!!」
俺は気合を入れて素早く床に転がる玉を掴みにいく。
また突然動き出しても怖いけど、放置していて気付いたら位置が変わっているとかも嫌だしね。
動く前にガシッと掴んじまえば、逃げられる事もないだろ。
掴んじまえばこっちのもの。
段ボールに詰めて、次来た異世界人にプレゼントですって押し付けよう。
「あれ?」
そんな事を思っていたのに、俺の予想に反してあっさりと玉を掴めてしまった。
暫く掴んで様子を見たが、それでも特に動く気配はない。
やっぱり勘違いだったのかな?
それだったら良いんだけど。
改めて、手の中の玉をジッと見る。
相変わらず虹色の表面は光を反射してキラキラと輝いて見えた。
触り心地も見た目通り硬くてツルツルしてるな。
温度も特に熱くもなく冷たくもない、外気温と大差ない。
少し振ってみたが、中に何かがある感じもしないか。
鑑定魔法でも分からなかったとか言ってたけど、普通に未発見の鉱石とかじゃないの?
まぁ、俺もこんな素材は見た事ないけどさ。
「なんか一気に気が抜けたわ。ふぁ~あ、ちょっと眠くなってきた」
ただの綺麗な玉って事が判明し、緊張が解けた俺は、自分がとても疲れている事に気付いた。
始めての来訪者に、言えなかったさよならと喪失感、そして二人目の来訪者。
昨日と今日のたった二日で、色々な事が有りすぎた。
元気で居られたのはリアさんの魔法のお陰だった訳だし、その効果ももう切れている。
そりゃどっと疲れが来るはずだ。
今からゲームにログインして、来訪者達の痕跡を探す旅に出る気力も無いや。
……それに、いつ次の来訪者が来るか分からないからね。
まだ日は変わってないけど、寝れる内に寝ておこう。
俺はベッドのヘッドボードの棚に、貰ったメダルと玉を置いてベッドに転がった。
そして、数分と経たない内に、意識が遠のいていき…………Zzzzz……。
◇◆◇
「ピコン」
またもや、あの電子音が鳴り、俺は慌てて飛び起きた。
まだ少し寝ぼけているが、顔を上げ掲示板に目を向ける。
夢ではなかったようだ、ガラバンさんの帰還と共に消えていた掲示板は、確かにそこに姿を表していた。
だけど、少し違和感。
「あれ? 何も書かれていない……?」
俺の言葉通りに青く光る掲示板は存在しているのに、そこには何も書かれていない。
短い間ながらも、今まで見た掲示板には必ずメッセージが書かれていた。
何もない時でも、わざわざ『新しい通知は有りません』と表示されてたくらいだしな。
辺りを見回すと既に日は高くなっているようで、カーテンの隙間から日光が差し込んでいた。
時計を見ると現在AM11:00。
と言う事は久し振りに10時間以上寝たってことか、よほど疲れていたんだな俺。
耳を済ましてみたが、一応外からの環境音は聞こえなくなっている。
掲示板の存在が示す通り、現在俺の部屋は『石の中』状態になっているのは間違いないようだ。
コツン。
「ん? なんだ?」
布団の中で、何かが手に当たってる感触があるのに気付いた。
なんだろうと捲ってみると、ヘッドボードの棚に置いておいたはずの謎の玉。
それがまるで俺に寄り添うような感じで存在していた。
……うん、これは俺が寝返りをうった際に、その振動で転がってきたんだろう。
けっして、勝手に動いて布団の中に入り込んだんじゃないはずだ。
ゾッとする背筋を、正論で誤魔化して、そう納得することにした。
「まぁ、いいや。取り敢えず腹減ったからカップ麺でも食うか」
謎の玉を再び棚に戻すと、俺はベッドから立ち上がり台所に向かう。
何も書かれていない掲示板が気になるけど、その理由なんて俺に分かる筈もないので取り敢えず放置だ。
さて、何を食べるかと買い置きの袋を広げようとした途端、背後から激しい光が瞬きだす。
それを三度目になる異世界召喚ガチャの演出かと思って、慌てて振り返ると、その光源は光の扉ではなく、掲示板自体の輝きだった。
「な、なんだ? 一体何が起っ……」
「パラララッパッパラーー!!」
俺の驚きの言葉に被せるように、突然何処かで聞いた事が有るような謎のファンファーレが部屋に鳴り響く。
苦しい旅の途中、激しい戦闘を終え、安堵している時に聞こえてくると、とても嬉しい気分になるあの効果音だ。
おいおい、いまの効果音って……?
この軽やかな旋律に対する、しっかりとした確かな心当たりは有るのだけれど、なぜそれが今のこの場面で流れたのかが分からない。
と言うか、著作権的に使用していい効果音なのか?
なんて、誰に対してしているのか不明な心配をしていると、今度はいつもの「ピコン」と言う音が聞こえてきた。
そして何も書かれていなかった掲示板にメッセージが流れる。
『レベルが上がりました! LV:- →1 New!』
そのメッセージを皮切りに、次々とレベルアップ内容が流れていく。
俺はただ呆気に取られて、それを眺めていた。




