第17話 ゲームの歴史に介入しますよ
旅のドワーフ ガラバン。
確か、ゲーム内でとある鉱石が、新規実装された際に語られたフレーバーテキストで、『この鉱石の発見は、旅のドワーフであるガラバンの功績である』って一節があったんだ。
それを見て、ユーザー全員が『ダジャレかよ!!」って思いっきりツッコんだから、ただのフレーバーテキストと言えど、しっかり覚えてるんだよね。
ただ、ガラバンさんの存在はその一文だけで、今のところゲーム内ではお目にかかれていないが、実在することは確かなようだ。
ここまでお膳立てされて『赤の他人でした~』は無いだろう。
いや、そもそもゲームとリンクしてるって事自体が有り得ないんだけどね。
と言う事は、ガラバンさんの探している鉱石って……。
「もしかしてですが、それはアダマンタイト……ええと金剛石ですか?」
「おっ、おぬし! 金剛石を知っておるのか?」
ガラバンさんより先にその鉱石の名前を言うと、凄く驚いてる。
やっぱりアダマンタイトのことか。
アダマンタイトが追加されたのが、ゲーム内のストーリー時系列で第一章中盤開始の時期だ。
なら、目の前のガラバンさんが存在している時系列は、第一章序盤か、ギリゲームが始まる前ってところか。
しかし、リアさんも同じ時系列なんだろうか? 年号聞いとけばよかったな。
「どこだ? 何処にあるのだ?」
俺がリアさんの居た時代のことを考えてると、痺れを切らせたガラパンさんが、そのでかい顔をぬっと近付けて問い質してきた。
近い近いよ! 視界全部ガラパンさんの顔だよ!
「え~と、エトナ山って知ってます? バルト地方の」
「エトナ山は知らんが、バルト地方なら知っておる。ザラーン帝国の北の山岳地帯のことじゃろ?」
「そうです! そうです! そこです。そこにエトナ山って山があるんですよ。そこの南側の中腹に洞窟があるので、そこの奥を掘ってみて下さい。結構掘らないと出てこないので諦めずにガンガン行ってくださいね」
ゲーム内ではちゃんとした坑道だったけど、その坑道はガラバンさんが造ったって事になっている。
スゲェーーー!! これって要するに、ゲーム内で設定された歴史を、俺が導いたって事じゃないか。
なんか凄く興奮してきた!!
「……おぬし、なんでそんな事を知ってるんじゃ?」
ちょっと訝しげに俺を見るガラバンさん。
あっ、しまった! つい調子に乗っちゃったけど、異世界人の俺がそんな細かい事を知っているのは怪しいじゃないか。
『実はあなたの世界はゲームなんですよ~』とか真実を言おうものなら、普通なら怒り狂うか、若しくは自分が作り物だと嘆いて自殺しちゃう恐れがある。
何より、いま目の前にいるガラバンさんや、元の世界に戻ったリアさんも、プログラムされたゲームデータと思えない程、感情豊かで確かに生きている。
ゲームキャラだと言う言葉で悲しませたくなんかない。
「え~と、ガラバンさんが来た時代って帝国暦では何年になりますか?」
「うん? 帝国暦で、だと? ちょっと待て、普段使っとる暦と年号が違うんじゃ。ひぃふぅみぃ……確か732? ……いや、そうじゃ735年だった。それがどうかしたのか?」
ほうほう、ゲーム開始年が帝国暦740年。
と言う事は、ガラバンさんはゲーム始まる8年前から飛んできたのか。
わざわざ年号を聞いた理由だけど、ごめんなさいリアさん。
あなたの存在を出しに使います。
「あ~やっぱり~。最初にガラバンさんの前に来た人が居るって言ったじゃないですか」
「ふむ、神聖魔術師だったかのう?」
「そうです。実は彼女なんですが、ガラバンさんの時代よりずっと後の時代の人なんですよ。あぁなんで時代バラバラなんだとか言わないで下さい。そもそも異世界に飛ぶって段階でおかしな事なんですから、時間差なんて些細なことですよ」
ここまで言えば、分かるだろう。
そう『全部前来た人から聞きました作戦』。
これなら知り合い同士でもない限り分からないから、好き勝手に助言出来るぞ!
ガラバンさんも俺の作戦に引っかかったようだ。
ぽんと手を叩いて納得している。
「なるほど! その未来から来た御婦人に聞いたんじゃな?」
「えぇ、たまたま聞いた異世界話に金剛石の事が出てきててすね、産地を聞いといて幸運でしたよ」
「うぉぉぉ! これで念願の魔道具を量産出来るぞ~! 早く掘りに行きてぇ!!」
俺の言葉に、ガラバンさんは嬉しそうに吠えてガッツポーズをしている。
よし! 作戦成功だ。
しかし、ガラパンさんが気になる事を言ったな。
魔道具の量産?
アダマンタイトで作れるアイテムってなんだったっけ?
こんなに喜ぶようなアイテムが作れたなんてゲームでは聞いたこと無いんだけど。
「その魔道具って何なんですか?」
「他の奴には内緒だが、お前になら話してやろう……」
ドンドンッ!
「うぉっ! びっくりした!」
「なんじゃ? いまの音は?」
急に部屋に鳴り響いた音に、思わず大声を出してしまった。
一体なんの音?
ドンドンッ!
もう一度鳴った。
音の方に顔を向けるとそこには玄関がある。
えっ? もしかして誰かがノックした音?
いまこの部屋は石の中の影響で、外部の音は聞こえない筈なのに。
ドンドンドンドンッ! 「おーーーい、生きてっかぁ~~?」
激しいノックの後に、声まで聞こえてきた。
あっ、この低音ボイスはお隣さんじゃないか!
なんで? 俺いまは大きな音なんて出してないよ?
もしかして、逆に失恋を苦に自殺でもしてるとか思われたんだろうか?
となると、このまま無視するとヤバいな。
大家さんに通報されて、無理矢理部屋に乗り込まれる可能性も小さくない。
一体どうしよ~。




