第14話 新しいお客さん……なんか思ってたんと違う
「ふむ、なるほどのう。これは不思議なこともあったもんじゃわい」
目の前に居る、俺の倍はある顔面に冗談かと思う量の口髭、ノースリーブの上着からモリっと出ている両腕は、俺の太ももより確実に太い、けれどこれまた太い足の長さは俺の肘から先くらいの短足だ。
身長は俺の半分ちょっと、二頭身は言い過ぎか? ちょっとおまけして三等身としておこうか。
その恰好は、厳つい角が付いた鉄兜、手には柄の短い両刃の戦斧、背中には大きなリュック、そしてノースリーブの上着だけど、革製の生地に所々に金属製の板が張り付けられているので、服と言うより鎧と表現した方が正しいのかもしれない。
……そうだよ、ファンタジー物で欠かせない、頑固で堅物、生まれながらにして鍛冶の技術に優れた職人気質、男でも女でも髭もじゃな赤ら顔、力は強く酒癖悪い事で有名なドワーフさんだ。
いや、最近は女ドワーフは見た目幼女なのが増えて来てたんだっけ?
俺のやってるゲームはどうだったっけ? プレーヤーキャラの種族は人間固定なんでよく分からない。
エルフの里でのイベントがあるエルフ族と違って、ドワーフ族なんて鍛冶屋の店主か、ストーリーイベントのスポット参戦NPC程度でしか登場しない。
それらは皆、いま目の前にいるおっさん姿なので性別考えたことなかったよ。
そう言えば、たまに髭を三つ編みとかおしゃれしていたドワーフが居たがアレって……?
まぁ、そんなことはどうでもいい。
問題はこのドワーフのおっさん。
なんだか物分かりのいい好々爺みたいに、したり顔で口髭を摩りながら、まるで悟ったような事を言っているが、こうなるまで本当に大変だったんだよ。
リアさんの痕跡を探そうと、PCを起動しようとした時だ。
また、あの電子音が部屋に響いた。
慌てて顔を上げると、そこには昨日帰宅後からずっと消えていた、青く光る伝言板が浮かんでいた。
俺は思わず歓喜の声を上げたよ。
だって、最初に思ったのは、リアさんが帰ってきてくれたんだって事だもん。
けれど、すぐにあれ? これちがうんじゃね? って思った。
リアさんが現れた時の、あの神々しい感じのガチャ演出みたいなエフェクトがあったけど、うん、アレね。
多分『みたいな』じゃなくて、ガチャ演出確定だわ。
だって今回は鈍い赤茶けた銅色の光が降って来たかと思うと、リアさんの時みたいに部屋いっぱいに光が溢れる訳でもなく、パンッと一瞬眩しく弾けてドワーフのおっさんが出現したんだ。
リアさん出現が高レア演出だとすると、これ絶対ノーマルレアとか★1とか、そう言う残念なガチャ結果でしょ。
いまだに課金ガチャで最低レア出すゲームなんて滅べ! と思ってしまうわ。
いや、最低限SR保障! とかのゲームも有るけど、SRとか言われてもそんなキャラどこで使うん? 重ねて限界突破の育成材料とか言われても、そもそもどれだけ重ねても使わないってのっ‼
……ふぅ、余りにものがっかり具合に今まで溜まっていた悲しき過去を色々と吐き出してしまった。
それだけ、リアさんとおっさんドワーフとの落差にショックが大きかったんだよ。
で、このやって来たドワーフのおっさん。
気が付くなり俺の事をモンスターと思ったのか、いきなり手に持った両刃の戦斧を振り回して来たんだよ。
こんな狭い部屋でそんなもの振り回された日にゃ、俺の部屋なんて一瞬でズタボロだ……と思ったんだけど、なんか大丈夫だった。
ガンガンと壁やガラス戸、パソコンやテレビに戦斧が当たったんだけど、不思議な事に全くの無傷だったんだよ。
なんでかなと思ったんだけど、戦斧が部屋の物に当たる度に、ピロンピロンと電子音が鳴っていたので、ちらっと浮かんでる掲示板に目を向けたら『この部屋に対しての物理攻撃は無効です』ってメッセージが連続で表示されてた。
多分異世界人の攻撃は『石の中』に設定されたこの部屋には通用しないみたい。
なぜ? とか言う考えは既に捨てているので、ただ部屋が壊れなくて良かったとホッとしたよ。
まぁ、攻撃無効なのは多分メッセージ通りに 『この部屋』のみで、俺に対しては普通に有効そうだから、もうやけくそに「俺は敵ではありませーーーん! 善良な一般市民ですーーーー!」って大声で叫んだんだ。
間一髪だったよ、攻撃から逃げ続け、とうとう台所の隅に追いやられてしまい、文字通り逃げ場がなく、今まさにその太い腕によって振り被られていた戦斧が、俺の頭上に叩きつけられようとしていた瞬間だったからね。
そこで我に返ったんだろうね、ここは先程まで潜っていた迷宮の中じゃないって事に。
一応俺が敵じゃないって分かったら、ちゃんと謝ってくれた。
そして、事情を聴かれたんだけど、詳しい理由は相変わらず不明な状況とは言え、もう二回目だし、理屈に関してはある程度理解しているので、リアさんの時に話したような事を、もう少しまとめて説明したのが、今さっき。
それで飛び出たのが、おっさんのしたり顔ってわけ。
「ふむ、おぬしが言った通り、儂も魔族との戦闘中、うっかり悪魔の転移罠に掛かってしまったのじゃ。そして気付いたらここにいた。石の中とはのぉ。こんな事は500年生きておる里の族長からも聞いたことがないわい」
「俺もこんな事なんて聞いた事もありませんでしたよ。こうなったのも昨日からで、なぜ俺の部屋がこうなったのかまでは、巻き込まれただけの住人である俺にも分かりませんので聞かないで下さい」
これは最初に言っておかないとな。
俺の部屋がおかしいだけで、飛ばされたのは俺のせいじゃないからね。
責任追及されても、俺だって困ってるんだから。
可愛い女の事が来るなら歓迎するけど、おっさんじゃねぇ?
「ふむ、お前さんも災難じゃったのう。まぁ、儂としては元の世界に戻れるっちゅうので安心したわい。先程話してくれたお嬢さんの場合と違い、浅い階層だったから短い付き合いかもしれんが、折角不思議な縁で出会ったのじゃ、まずは自己紹介といきながら、儂の里で造ったとっておきの酒を振舞ってやろう」
おっさんはそう言うと、背負っていたどでかいリュックを床にドシンと下ろし、中をごそごそと探り出した。
え? ちょっと待って? お酒飲むの? ここで? 酒癖悪いドワーフが?
ちょっと勘弁して~!
第二章です。
この章からもふもふも登場します。




