第10話 読んでみたいな! 異世界ゴシップ本!
もし、リアさんが転移魔法を使えたとしたら?
難しいと言ったけど、無理と言う訳でもない。
いや、確実なことは言えないけど。
術者の実力に直結する話だしね。
対応する触媒アイテムの片方が既に設置済みだった場合、残りのもう片方に魔力を通すと時空間を越えて結び付く……と言うゲーム内設定。
ただ何処でもOKと言う訳でもなく、魔力値の高さによって接続可能範囲が制限される。
だから、いくら時空間を越えて繋がるとは言え、異世界同士で繋がるかはやってみないと分からないんだよね。
興味は有るけど、神聖魔術師のリアさんではどだい無理な話なので、残念がらせても可哀想だから言わないでおこう。
時を待つ……この言葉はただ単にリアさんと一緒にお喋りしていたいから言った訳じゃない。
いや、まぁずっと喋って言いたいとは思うんだけど、ちゃんとした理由はあるんだよね。
さて、ここでもう一度石の中に飛ばされた際のおさらいをしよう。
このトラップは、俺がやっているMMORPGの中でも凶悪な物の一つだ。
一つという事は他にも凶悪な仕様は幾つか有るけど、それをいま語る必要な無い。
と言うか、これから先も語る機会なんて無いだろうけど……多分。
『石の中』に飛ばされたら、バカ高い課金アイテムを持っていない限り死が確定する。
このゲームにおいてのプレーヤの死とは、1分間のカウントダウン中に魔法やアイテムで蘇生出来なかったら、1レベル分の経験値が減らされると言うものだ。
そして、1レベル分と言っても高レベルになればなるほど必要経験値がべらぼうに高くなっていくのでかなり辛いペナルティとなる。
『石の中の死』が、ゲームの中でも凶悪と言われる理由だけど、既に語った運が悪いと無慈悲にも貴重な装備が消滅するペナルティだけじゃないんだ。
死ぬと1分間のペナルティ回避の猶予が与えられる。
そして、『石の中』に飛ばされたキャラクターは、ダンジョンの入口に排出される。
そう、排出されるんだけど、それは直後って訳じゃない。
画面には『現在石の中、しばらくお待ち下さい』と表示されて、その間はメニューも開けず、チャットくらいしか操作が出来なくなってしまうんだ。
しかもそれはトラップにハマった際のダンジョン深度に比例して、排出されるまでの時間が長くなっていく。
ちなみに入口付近で飛ばされても、排出まで数分はかかるのでレベルダウンは確定だ。
要するにダンジョン外に排出されるまでの間、レベルダウン確定の失意の中、ログアウトも出来ず、運営への罵詈雑言をフレンドにぶつけながら歯軋りして待つしかないと言う精神衛生上よくない代物なんだよ。
あ~そう言えばリアさんが、迷宮には意思があると言っていたけど、もしかして『石の中』から排出されるのって、本当にダンジョンが腹の中の異物が気持ち悪くてボミっているのかもね。
開発者がそんな事考えて設定してるのか知らないけど。
「え~とですね、さっき突然迷宮の入口に現れる死体が『石の中』被害者と言ったじゃないですか。その死体ですが、発見された時期と行方不明になったとされる時期に時間差が有ったりしませんか?」
「確かに……。そう言えば『ナゼ? ナニ? 迷宮の未解決事件簿 第三巻』や、『意味が分かると怖い迷宮の話』にも迷宮入口に突然現れる死体について、『その人物は何年も前に行方不明になった探索者だった!』とか書いていました。しかも『死んだ当時のままで、まるで先程まで生きていたかのような死体だった』とか……。ただの怪談だと思っていたのに……」
え? そっちの世界にもそんなオカルティックなゴシップ本が有るの!?
しかも何処かで聞いた結構軽めの題名だな、おい。
死が隣り合わせな世界っぽいのに、そんなチャラくて良いのか?
色々ツッコミたいし、掘り下げもしたいけど、取り敢えずリアさんを安心させるほうが先決だな。
「怪談じゃなく本当のことだと思いますよ。だから安心して下さい。ここが『石の中』なら、その内迷宮の入口に帰れると思います。しかも生きたままね」
最後の言葉は、俺の希望的観測では有るけど、多分大丈夫だと思う。
リアさんが降ってきた光の塊を見て、これは扉だと確信したのと同じで、彼女は無事に元の世界に戻れると言う事を何故か俺は知っている。
本当に意味が分からないけど。
「ありがとうございます! タモツ様!」
俺の言葉に安心したのか、リアさんが目に涙を浮かべながら俺の手を握り感謝の言葉を述べてきた。
いや、俺は何もしていないんだが? ただ単に知っているゲーム知識を喋っただけだし、実際にはまだ何も解決していない。
「感謝は、本当に戻れるってなった時にして下さいって。俺がいま言ったことは、あくまでただの仮説なんですから」
「でも、でもっ! 死んだと思っていたのに生きてて、もうとても不安で。だけどタモツ様が相談に乗っていただたおかげで……」
あ~、そう言うことか。
死を覚悟して仲間を救ったのに、理由の分からない所に飛ばされて、『石の中』とか意味不明な状態に陥って、これからどうなるんだろうと不安でいっぱいだったんだろう。
だから俺の言葉が、一筋の光明のように希望となった。
彼女の心の支えに少しでもなれたのなら、俺は満足だわ。
しかし、今更だけどこの子ってば純粋過ぎないか?
こんな狭くて古く薄汚れた部屋に、男女二人だけって言う結構ヤバい状況なのに、俺の事を全く警戒してないんだもん。
普通『襲われるーー!』とか身構えてもいいだろうに。
やっぱ、アレかな? 襲われても勝てると思われてんのかな?
……実際そうだと思うけど。
神聖魔法使いにも攻撃呪文は有るし、『リフレッシュ』使えるレベルなら、一般人の俺なんて瞬殺だわ。
まぁ、とても美人で大人びていても、なんだかんだで泣いたり喜んだり年相応な可愛らしい仕草が、姪と被るので手を出そうなんて考えは浮かんでこないけどね。




