83・楽しい予定ばかり
(最近転移石で会いに行っても、ヴァルドラは自分のねぐらにいることが減っていたけれど……お散歩だけじゃなかったんだ。私にそのことを言わないのは、みんなと仲良くしてるって自分から話すのが照れくさいのかな。それとも騎竜として人と暮らすようになったら、以前のようには会えなくなるって言い出しにくいのかな……)
ティサリアは日の差し込む窓へ目を向ける。
そしてヴァルドラとふたりで飛び回った遠い景色を思い出しながら、ずっと願っていたことが形になっているのだと実感した。
(だけど、会えなくなるわけじゃないよね。それ以上に、これから忙しくなりそう!)
「ティサリアはアルノリスタにいる間、誰かと行きたいところはないの?」
婚儀の準備や打ち合わせのため、ティサリアは近々、アルノリスタの王都に滞在する予定がある。
「マイリーはアルノリスタの珍味グルメを食べつくしたいって胸をときめかせてたから、一緒に探してみようと思って。お母様はもふもふ工芸館に行きたいって言っていたし、お父様はやっぱりお酒……って言いながらも仕事ばかりになりそうだけど」
「俺でよければ案内するよ」
「ありがとう! そういえばカル兄からもらった手紙に、『ティサの都合がついたとき、みんなを連れて遊びにおいで』って書いてあったんだ。しばらくアルノリスタで過ごすし、そのときヴァルドラにパウンドケーキをおみやげにして持っていきたいな。かわいいリボンもまた作ってあげたいし……。クレイも時間が取れそうだったら、一緒に行かない?」
「もちろん、予定は空けるよ。他には誰を誘うの?」
「リンを連れていくとヴァルドラも喜ぶと思うんだ。それにケリスもヴァルドラに会いたがっていたから、お休みが取れたら一緒に行きたいな。私が飛空船で体験した色々なこと、たくさん話したいし!」
わくわくしているティサリアの様子に目を細めながら、クレイルドはつやつやとした甘いリンゴのコンポートを頬張った。
「飛空船で大変な目にあったのに、君はいつだって、楽しい思い出にしてしまうんだな」
「もちろん、今はね」
ティサリアは幼い頃、人違いから悪い誤解を生むたびに家族の後ろに隠れていた自分を思い出すと、今でも胸がざわつく。
しかし曾祖父の邸館で泣いているときに差し出された、あの幸せな味を知ってしまうと、以前の自分には戻れなかった。
(クレイにも、あんな気持ちになって欲しいんだけどな)
何度もそう思ったのだが、ティサリアは自分の人生を変えたあの味をどうやって作ればいいのか、全く分からない。
(色々調べたし、それらしいレシピは全部試してみたけれど、何か違うんだよね)
「うーん……」
突然悩ましげに呻りだしたティサリアに、クレイルドは微笑む。
「そうだ。今日は俺から、ティサリアに渡したいものがあるんだ」




