78・竜騎士の正体
「お話を聞いてみると、傷ついている人がたくさんいるようです。その方たちに謝って、困っていることがあれば助けてあげて欲しいです! もちろん人だけでなく、竜のヴァルドラにも!!」
ヴァルドラは乗せていたクレイルドを甲板へ下ろしながら、あっけらかんと告げる。
『ティサリア、俺が弱き人の子の世迷い言になど、傷つくわけもないだろう』
「……そうなの? ヴァルドラは今回のことで傷ついていたり、お願いしたいことはない?」
『ない。俺がそんな弱者になど傷つくはずもないし、現状困っていることもない。あったとしてもそいつに俺を助けられる能力があるようにも思えない。もっと言えば奴のことは心の底からどうでもいい。何かを望む気など起きない。全く興味がない』
フォスタリアをそう評価するヴァルドラから降りたクレイルドは、ティサリアの隣に立つと、その本音を探るようにまじまじと見つめた。
「真っ先に他人を案じるのはティサリアらしいけれど、一番大変な目に遭ったのは君でもあるんだ。自分のことをおろそかにしてはいけないし、みんな君のことを案じているんだよ」
そう言うクレイルドが一番心配してくれているように見えて、ティサリアはくすぐったい気持ちになる。
「ありがとうございます。でも、見てください!」
ティサリアは両手を広げて、にっこりと微笑んだ。
「私もヴァルドラと同じで、全く傷ついてなんかいません。すごく元気なので、みなさんも心配なさらないでください!」
素直な思いで笑顔を振りまくティサリアに、あちらこちらから穏やかな拍手が起こり、あたりを満たしていく。
「みなさん……?」
「君に敬意を示しているんだよ」
そう教えてくれるクレイルドも含め、甲板にいるザックや弓騎士たち、そしてモニターからも拍手が溢れ、鳴り続ける。
ティサリアは驚きのまま周囲を見回してから、心を込めて礼をした。
「ありがとうございます!」
しばらくすると拍手は止んだが、先ほどまでの殺伐とした空気は、ティサリアへの好意で和やかなものに変化していた。
ザックが笑顔で一礼する。
「ティサリア様の考えはわかりました。では俺がこの上なく傷ついているということで、色々やっておきます」
意味深な言葉を残し、ザックはフォスタリアを積んだ台車を押して船内へと去っていった。
クレイルドはティサリアとヴァルドラへ向き合う。
「飛空船に乗る者として、改めて感謝するよ。この危機を無事乗り越えることができたのは、ふたりの協力があったからだ。本当にありがとう」
甲板に立つ弓騎士たちを始め、モニターのラウンジからも、次はにぎやかな拍手が巻き起こる。
晴れやかな笑顔をふりまくティサリアと、どうしていいのか分からずじっとしているヴァルドラは、再び敬意の波に包まれた。
やがてラウンジにいる一人の男性が手を上げると拍手は収まり、モニター越しに声をかけてくる。
『竜騎士様、重ね重ねにはなりますが、私たちを助けてくださって、本当にありがとうございました。突然ですが、一つお聞きしたいことがありまして』
「はい、何でしょうか?」
『モニターであなたを拝見している間、ラウンジには竜騎士様のことを知っていると言う者は数多いましたが、みな名前が違いまして。一体、あなたはどなたなのでしょうか?』
「私は……」
ティサリアが自然と顔を上げたその先には、まっすぐ自分を見つめている、いつもと変わらないクレイルドがいた。
ふたりは何かを伝えあうわけでもなく、自然と微笑み合う。
そしてきれいにそろって一礼すると、クレイルドが声を上げた。




