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【完結】地味顔令嬢は平穏に暮らしたい  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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68/86

68・現れたのは

 フォスタリアのうめき声が聞こえて、クレイルドは振り返る。


「大丈夫ですか、フォスタリア閣下。ひどい揺れでしたね。お怪我は……」


「で、殿下の心配には、及びません……。私は百戦錬磨の戦士ですから、怪我とも無縁です」


 フォスタリアがシリアスな表情で顔を上げると、その鼻の両穴から血の筋が覗いていた。


「……」


 クレイルドは冷静になろうと深呼吸をしてから、フォスタリアの側に膝をついてハンカチを差し出す。


 フォスタリアは受け取ると、それで鼻をおおった。


 そしてもう片方の手で胸元に隠し持っていたスプレーを突きつけ、クレイルドに至近距離で噴射する。


 クレイルドはフォスタリアから意識的に視線をそらしていたため、反応が遅れた。


 鋭い刺激が顔面をおおう。


「っ……!?」


(しみるような刺激と、苦みのある匂い……アドーラ毒草を利用した、安価だが強力な催眠薬か。触れれば即効性があったはず)


 丸一日は目覚めることも出来ない睡眠薬を連射され、クレイルドはすでに意識が回らなくなっているのを感じた。


 床に手を突き、気を失うように崩れ落ちる。


 フォスタリアは睡眠薬を吸い込まないように、クレイルドから離れた。


「……殿下に教えてあげましょう。魔獣を退治する英雄は、私一人で十分なのですよ」


 フォスタリアは常に持ち歩いている手鏡を取り出すと、鼻の下に伸びる赤い筋を丁寧に拭き取る。


「そしてこれだけはしっかりと覚えておいてください。私が鼻血を出したことは忘れるように」


 どちらなのかわからないことを言いながら、フォスタリアは会議室を出た。




 *


 空にたゆたう大きな白雲の影に、こそこそ隠れている緋色の翼竜の姿があった。


 その背には竜騎士の鎧兜を身につけた人を乗せている。


 互いの視線の先には、青空を泳ぐ飛空船があった。


『あそこにクレイがいるのか……』


 ヴァルドラは興味津々な様子で見入っている。


『飛空船から、加工された強い魔力を感じるな』


「魔力は動力として利用されているんだよ。立派な船だから魔法防壁も作れるし、設備も充実しているんだって」


『しかし、防壁は張り巡らされていないぞ。それに機体がほとんど前進していない』


「本当だね。故障しているようには見えないけれど、どうしてだろう。もしかしてあの場所は絶景ポイントで、みんなで景色を楽しんでいるとか?」


『景色を楽しむ……。も、もしかしてクレイも甲板に出ているのか!?』


 ティサリアとヴァルドラは飛空船に目を凝らす。


 しかし甲板に人影はなく、代わりに翼を生やした大形の猿のような生き物が、飛空船の周囲に群れをなして飛んでいた。


『……あれはクレイではないな。ガーゴイルだ』


「ガーゴイル? あれも魔獣?」


『人が石と魔力から作り出した生命体だと、クレイと暮らしていたとき聞いた。アルノリスタの研究所から逃げ出した個体がいるらしいから、おそらくそれだろう。あいつらの魔力は人造の匂いがするしな。野生化しているのは幾度か目撃したが、これほど集まっているのははじめて見た』


「十頭くらいいるよね。もしかして飛空船が進んでいなかったり、魔法防壁が張られていないのは、ガーゴイルがいたずらをして、設備が故障してしまったとか?」


『ありえるな。しかしあいつらは、わざわざ飛空船に近づいて何をして……ん?』




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