59・再び
「ティサリア、ずっと君のことを想っていました。俺の妻になってください」
あの夜会の日に告げられた言葉を再び受け、ティサリアの頭の中は真っ白になった。
しかし胸が震えていても、いつかのように痛みはしない。
迷いもない。
あの時は振りほどいたその手を、自然と握り返していた。
「はい、なりたいです」
その返事を受けて、クレイルドは瞬きもせずティサリアを見上げている。
二人は見つめ合い、ふとティサリアから笑顔がこぼれると、クレイルドは眩しさにはっとするように顔を伏せた。
一瞬見えた表情が、照れているようにも、困っているようにも、泣いているようにも思える。
しかしそれは誰かのために向けたのではなく、心のままのものだった。
(笑ってた……)
彼は笑顔だったというのに、切実な想いがひしひしと伝わって、ティサリアは改めて実感する。
(ずっとひとりで、がんばってたんだよね)
自分と関わったために相手を傷つけることを恐れ、孤独を選び続けていたクレイルドが、ひたむきに探し続け、様々な課題と向き合い、勇気を出して今この手を取ってくれた。
その先にいるのが自分なのだと実感すると、ティサリアの瞳に熱いものが込み上げてくる。
(この人と、一緒にいたい)
ティサリアは繋いでいない方の手で、彼の手の甲を包んだ。
「私、クレイに渡したいものがあるんです。最近は特に忙しいようですので、お守りになるようにと心を込めました」
ティサリアはドレスのポケットからハンカチを取り出すと、中に忍ばせていた首飾り型のアミュレットを持ち上げた。
鎖の先には紺碧の竜鱗がつけられていて、澄んだ空に浮かぶ無数の星雲のように、金の粒子がきらめいていた。
「この竜鱗は体の毒素を浄化して、自己の治癒効果も高めてくれるそうです。少し鎖を長めにして作ったので、服の内側にも隠して、人目を気にせず身につけることもできます」
差し出されたアミュレットのたたずまいに、クレイルドは目を見張る。
「俺もつき合いだからと言われて、世界各国の宝飾店を覗いてきたけれど、これは……」
希少な宝石類に興味を示さないクレイルドですら、ティサリアの持っているその神聖な力強さに囚われて、しばらく言葉を失った。
「よく見ると……加工の難しい竜燐に、何か処置がされているように見えるけれど」
「はい! 私は以前に孫と間違えられて知り合った、結界術師のおばあちゃんがいるんです。その方からアミュレット製作を学んで、この竜鱗の効果を最大限引き出せるように手を加えることができたと思います! でもよく気が付きましたね。もしかして装飾品を作られたりすることがあるんですか?」
「あるよ。こういうやつ」




