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【完結】地味顔令嬢は平穏に暮らしたい  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆


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43・お願い

(そうだ。クレイは私のことを、見間違えたことなんてない)


 ティサリアは、心が震える思いで頷いた。


「……まだ、信じられないくらいです。あなたがあれほど一途に探し続けていた人が、私だったなんて……。今まで人違いだと思っていて、ごめんなさい。そして私を見つけてくれて、本当に、本当にありがとうございます!」


 嬉しさで声がかすれ、ティサリアの瞳には今にも溢れそうな透明な液体が揺れている。


 クレイルドが息をのむと、ティサリアは涙をぬぐって晴れやかに応えた。


「心配しないでください。私のことを見つけられる人がいるなんて信じられなくて、ただびっくりしているだけです。だって、さっきまで絶望していたのに、それが嘘みたいで……!」


「絶望? ずいぶん重いね」


「はい。よく食べて立派な成竜となったヴァルドラの片足に、ぐりぐり踏みつけられていたような気持ちでした」


「重すぎるよ」


「重すぎました。でも今は大丈夫です。あなたが連れて行ってくれましたから! それで……実は私、どうしてもお願いしたいことがあるんです。その……」


 緊張で口ごもりながらも、ティサリアは自分の胸の前で両手を握りしめると、切なる思いを満面の笑みで訴えた。


「お願いです! これからは、なんでも私に相談してください!」


 きょとんとしたクレイルドと気合いの入ったティサリアの会話に、妙な間が空く。


「相談? 俺が?」


「そうです! 困ったこととか、悩んでいることを私に話して欲しいんです!」


「いいの?」


「はい! 聞いた話は誰にも言いませんので、誰にも知られません! 安心して言ってください!」


「……本当に悩みを聞いてもらえるの?」


「もちろんです! 人を笑わせるような話ではなくてもいいんです。私はあなたのことなら、どんな話でも聞きたいです!!」


 クレイルドは少し考えた後、気恥しそうに笑った。


「よかった。実は結構困っていて、どうすればいいかわからなかったんだ」


 ティサリアはぶんぶんと音が鳴りそうな力強さで頷く。


(やっぱりそうだよね。今までずっと、誰にも何も言えなかったんだから)


「なんでも遠慮せず、たくさん言ってください!」


「ありがとう」


「それで、悩みとは何ですか?」


「うん。どうすればティサリアに『クレイ』って呼んでもらえるだろう?」


 思わぬ言葉に、ティサリアは目を見開いたまま固まった。


 しかしクレイルドはその一言がきっかけになったのか、続けざまに悩みを打ち明け始める。


「二人でいる時は、ティサリアにもっと気楽な話し方をしてもらいたいのだけれど、どうすればいい? あと今度から外で手を繋いで歩くのは嫌かな? あと俺の振る舞いで不愉快に感じることとかはあるの? あと」


「っ、ちょっ、ちょっと待ってください!」


「ごめん。確かに欲張り過ぎた。だけど言ってみたら悩みがとめどなく出てきて」


「……あの、恐れ多くも申し上げますが、何かズレていますよね? 悩みが私の想像を超えるほど軽いというか。結構どうでもいいというか……」


「そんなことはないよ。俺の人生に関わる真剣な悩みだからね」

 



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