43・お願い
(そうだ。クレイは私のことを、見間違えたことなんてない)
ティサリアは、心が震える思いで頷いた。
「……まだ、信じられないくらいです。あなたがあれほど一途に探し続けていた人が、私だったなんて……。今まで人違いだと思っていて、ごめんなさい。そして私を見つけてくれて、本当に、本当にありがとうございます!」
嬉しさで声がかすれ、ティサリアの瞳には今にも溢れそうな透明な液体が揺れている。
クレイルドが息をのむと、ティサリアは涙をぬぐって晴れやかに応えた。
「心配しないでください。私のことを見つけられる人がいるなんて信じられなくて、ただびっくりしているだけです。だって、さっきまで絶望していたのに、それが嘘みたいで……!」
「絶望? ずいぶん重いね」
「はい。よく食べて立派な成竜となったヴァルドラの片足に、ぐりぐり踏みつけられていたような気持ちでした」
「重すぎるよ」
「重すぎました。でも今は大丈夫です。あなたが連れて行ってくれましたから! それで……実は私、どうしてもお願いしたいことがあるんです。その……」
緊張で口ごもりながらも、ティサリアは自分の胸の前で両手を握りしめると、切なる思いを満面の笑みで訴えた。
「お願いです! これからは、なんでも私に相談してください!」
きょとんとしたクレイルドと気合いの入ったティサリアの会話に、妙な間が空く。
「相談? 俺が?」
「そうです! 困ったこととか、悩んでいることを私に話して欲しいんです!」
「いいの?」
「はい! 聞いた話は誰にも言いませんので、誰にも知られません! 安心して言ってください!」
「……本当に悩みを聞いてもらえるの?」
「もちろんです! 人を笑わせるような話ではなくてもいいんです。私はあなたのことなら、どんな話でも聞きたいです!!」
クレイルドは少し考えた後、気恥しそうに笑った。
「よかった。実は結構困っていて、どうすればいいかわからなかったんだ」
ティサリアはぶんぶんと音が鳴りそうな力強さで頷く。
(やっぱりそうだよね。今までずっと、誰にも何も言えなかったんだから)
「なんでも遠慮せず、たくさん言ってください!」
「ありがとう」
「それで、悩みとは何ですか?」
「うん。どうすればティサリアに『クレイ』って呼んでもらえるだろう?」
思わぬ言葉に、ティサリアは目を見開いたまま固まった。
しかしクレイルドはその一言がきっかけになったのか、続けざまに悩みを打ち明け始める。
「二人でいる時は、ティサリアにもっと気楽な話し方をしてもらいたいのだけれど、どうすればいい? あと今度から外で手を繋いで歩くのは嫌かな? あと俺の振る舞いで不愉快に感じることとかはあるの? あと」
「っ、ちょっ、ちょっと待ってください!」
「ごめん。確かに欲張り過ぎた。だけど言ってみたら悩みがとめどなく出てきて」
「……あの、恐れ多くも申し上げますが、何かズレていますよね? 悩みが私の想像を超えるほど軽いというか。結構どうでもいいというか……」
「そんなことはないよ。俺の人生に関わる真剣な悩みだからね」




