37・秘密の場所
「もしかしてここ、散歩をしている時に見えた時計塔ですか?」
「そう。アルノリスタ王家で所有しているんだ。ほとんど魔法で調整されていて、時折管理人や調整師が来る程度だから、普段は俺の秘密の場所だよ」
「私、こういう場所に来ると隠れ家みたいでわくわくします。もっと高い所に上ることもできそうだし」
「……まさか行きたいの?」
「はい!」
「それならまた今度の楽しみにしよう。今日は君を連れ回しすぎたから。下に残してきたあいつらが心配してるよ」
「そうですね……」
あからさまなほど残念そうにするティサリアに、クレイルドは笑った。
「君は……控えめに見えるけれど、実際は驚くほど活動的なんだな」
「言われてみると、そうかもしれません。最近は少し運動不足ですが、そこの階段の手すりの上を駆けのぼったり、滑り降りたり……二階から飛び降りるくらいなら今でも出来そうです」
「……エイルベイズ家では娘にそんな教育を受けさせているの?」
「あっ、いいえ! このことはお父様とお母様には内緒でお願いします。特に妹には……」
「へぇ、意外だな。ティサリアはなんだって家族に話していると思ったよ」
「そうですね。今の話を知られても、私が両親に怒られることはないと思います。だけど私はちょっとしたことでも不安になって、話すことを苦手に感じてしまうんです。お父様とお母様はそんな私に無理強いをしないようにと、本当に気を配ってくれています。そのおかげで気弱な私も、自分から話せることが増えてきました。妹に秘密にしているのは、絶対に真似したがるので……そうするとまたお父様とお母様の心配を増やしてしまうと思って」
「そうか。ティサリアは本当に家族を大切にしているんだね。俺もこの間わずかに会っただけで、素敵な家族だと思ったよ」
「ありがとうございます! 私の家族のことをそんな風に言っていただけて、すごく嬉しいです」
(……あれ?)
ティサリアはふと、クレイルドの瞳に憧れにも憂いにも思えるものが浮かんだような気がした。
「俺は小さい頃、ここでヴァルドラの世話をしていたこともあるよ」
「この塔で? 子どもの王子でも、意外と簡単に街へ出られるものなのですか?」
「あの城は古いからね。忘れ去られている隠し通路なんかは、子どものほうが見つけやすかったりするんだよ」
「なるほど……もしかして、そうやってよく外に遊びに行ったりしていたんですか?」
「いや。あの頃は剣を振ることばかりに夢中になっていたし、自分だけの秘密にしていたよ。まだ君と会う前だったしね」




