35・うたたね
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うららかな昼下がりも過ぎ、日差しが広場を暖かく照らしている。
おいしい軽食を取ったティサリアは、睡眠不足も手伝ってベンチに座ったまま心地よく寝息を立てていた。
「んん……」
寝返りで身じろぐ体が、そっと支えられる。
ティサリアはうたたねしていたことに気づき、ぼんやりとまぶたをこすった。
「まだ寝る?」
耳元で聞かれて、気怠く頷く。
「うん、もう少し……ん?」
手を伸ばせば触れてしまうほど近くで、美しく整った顔立ちの青年がティサリアを見つめていた。
「はわっ!!」
眠気も一気に吹き飛び、勢いよくのけぞる。
ふらつきかけたティアリアに気づいてクレイルドが自然と手を取り、座らせてくれた。
「突然立ち上がったら、危ないよ」
「は、はい……あの、その、私……」
ティサリアは広場で空腹を満たした後、暖かな陽気に眠くなったまま、記憶が途切れていることに気づく。
(わわわ……隣国の王子の元へ訪問中に肩借りて爆睡してた……)
青ざめていくティサリアに対し、クレイルドは気にする様子もなく聞いた。
「ティサリア、もう少し寝る? それとも疲れているのなら、そろそろ帰った方がいい?」
「い、いえ!」
王都の散歩を普通に満喫しすぎて、クレイルドの想い人の手がかりや彼の世話していた幼竜の話など、まだ何も聞けていない。
「すみません。もう少し、一緒に」
「一緒にいていいの?」
「はい、私はそうですが、その……」
申し訳なさそうにうつむいたティサリアの頭を見つめて、クレイルドは慈しむように手をそっと置いた。
「俺と会う前日まで夜更かしするくらい、今日までに調べて話したいことでもあったの?」
なかなか切り出せなかったことを言い当てられて、ティサリアは思い切って顔を上げる。
「もしご迷惑でなければ、あなたの大切な竜の話を……」
「竜? ヴァルドラのこと?」
「ヴァルドラ……」
「そう、俺が世話していた翼竜につけた名前だよ。あいつについて聞きたいなんて、ティサリアは竜が怖くないの?」
「怖いですよ。だけどそれだけではありません。ですがこちらの国では竜に襲われた過去のイメージが強くて、私が想像する以上に恐れられていると聞きました。マルエズ王国とは全く違うので、どのような歴史や事情があるのか知ってから話したいと思って。それでアルノリスタ地域に生息する竜と地理環境なども含めて調べているうちに、時間がどんどん足りなくなってしまって」
「それは無理しすぎだよ」
未だ頭に触れている彼のてのひらから思いやりが伝わってくるようで、素直な気持ちで頷いた。
「気をつけます」
「そうだよ。これからはしっかり眠っておいて。他の人に寝顔を見せないようにね」
「はい……い?」
「あ、でも俺は見たい」
「ええっ!?」
気の抜けた寝顔を見られていたと悟って動揺するティサリアの頭をぽんぽんと撫でてから、クレイルドはベンチから立ち上がる。
「さぁ、今日の終着点に行こうか」




