25・予後と散歩
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「アレイクス第一王子の予後は、問題無さそうでした」
ティサリアはクレイルドに手引きされ、隣国アルノリスタの王城にいる。
第一王子は婚約者エリザベートと談話中だったため、こっそり覗いての観察を終えたところだった。
「彼の身体から呪いの気配は消えています。いたって健康そうでしたが……その」
ちょうど第一王子はデート中で、婚約者に「デザートを食べさせて!」と甘い声でおねだりされているところだったため、はじめは目のやり場に困ったのだが。
エリザベートの囁く「失敗しないでね」の言葉にこもる妙な圧力と、スプーンを持つ手を震わせながら青ざめている第一王子との間で交わされる、親密と脅迫のはざまを目撃したことが罪悪感となっていた。
「あのお姿を確認して、安心できたと言っていいのか。盗み見したのは、すごく申し訳ないというか……」
ティサリアとは対照的に、クレイルドは気にする様子もない。
「気にしない方がいいよ。二人はいつもああだから」
(あれがいつものこと……婚約者ができると色々あるんだな)
思いながら、ついまぶたをこする。
「ティサリア、眠そうだね」
「あっ、いえ」
「忙しいのに無理して来てくれたの?」
「違うんです。ちょっと調べ事をしていたら、夢中になってしまって……」
父から話を聞いた後、ティサリアはクレイルドが育てていたという竜のことが気になっていた。
それがきっかけになり、アルノリスタ王国に生息する竜の生態や環境、さらに国と竜との因縁などを調べているうちについ、睡眠時間を削る日々が続いている。
血色の悪さは多少なら化粧でごまかせるが、やはり寝不足の雰囲気が現れているらしい。
「ひどい顔でお会いすることになってすみません」
「まさか。ひどい顔だなんて、思ったことすらないよ。ただティサリアが疲れているのに、俺の都合で長居させて負担になることは避けたかったから」
「私のことなら大丈夫です。第一王子の解呪の予後を確認できて安心しましたが、今日はクレイルド王子に会いに来たんです。色々と聞きたいことがあって」
「それなら、まだ君といてもいいんだね」
クレイルドの精悍な顔が、幸せそうに柔らかくなる。
「疲れているのなら、他の談話室も空いてるよ。外の空気を吸いながら話す散歩も楽しいけどね」
「散歩ですか?」
「うん。俺は時間が空いたとき、ふらりと歩くのが好きなんだ。ティサリアは?」
曾祖父の敷地内にある、広大で豊かな庭を悠々と散策したことを思い出して、ティサリアは大きく頷いた。
「好きです。今は座っていると、ぼんやりしてしまいそうだし。それに」
「天気のいい日は空を見上げるのが好き?」
ティサリアは眠気も飛んでクレイルドを見上げると、いつもの笑顔が返ってくる。
「それなら行こう。秘密の場所があるんだ」
「はい……」
(やっぱり、私とクレイは会ったことがあるのかな? だけど青空を見上げるのが好きなのは、特別話題にするようなことでもないから、誰かに言ったことなんてないし……。会う会わないとは関係ない気もする)
ティサリアは一抹の疑問を抱えたまま、壮観なたたずまいの王城を出て、クレイルドと街路を歩いた。
(散歩しながらだと、何気ない話をしやすい気がする。クレイの探している人の手がかりについて、聞けるといいけど)
思案しながら、ちらりと後ろをうかがう。




