ガキ大将危機一髪 3
何度か作戦を立て直すものの、尽く失敗。
『背の低い女の子が本屋(もしくは図書館)で本を取るのに苦労していると、憧れの彼が取ってくれる』
と言う定番を実践した時も、鬼塚真琴の後ろから手を伸ばしたと同時に、何故かエルボーを食らわされた。
何故だ…。
ここはありがとうございます、っとぽっと顔を染めるシーンではないのか!?
あ、間違えた、すみません。と鬼塚真琴は謝罪をしてきたが、この高貴な私を一体誰と間違えたのだ?
くっ!流石だ、鬼塚真琴。こうなったら仕方がない。
「西園寺蘭です。よろしくお願いします」
バイト仲間から恋愛発展という、捨て身の戦法を取るしかない。
ふ、ふっははー!
長期戦になるだろうが、成功率は高い!
リスクはあるが、達成感が増すというものよっ!
働いた事がない、働く必要がない貴族の私には初めての経験だ。
最初は、仕事を覚えるのに手一杯で、作戦を立てる余裕などなかった。
働くって大変なんだな、お金って大事なんだ、あぁ今日もいい汗かいたと健康的な日々を送る。
しかし勿論、最大の目的を忘れたわけではない。
まずは鬼塚真琴と親しくなることで下準備。
最近読んで感動した少女マンガについて話を振る。
ここで衝撃の事実が発覚。
鬼塚真琴、少女マンガ全然読んでいない…。
何ゆえ、何ゆえ、あの不朽の名作の数々を見ないのか!人生損しているぞ、と鬼塚真琴にセレクトしたマンガを貸す。
面白かったです、と言われると作者でもないのにいい気分になり、じゃあ次はこれだ!と更なる布教活動。
最近、鬼塚真琴とマンガの話で盛り上がっている。
今日も今日とて、試作品のケーキを堪能しながら、マンガの話。
憎い宿敵といえど、マンガの話をする時はただの仲間だ。
「もう遅い。送ってやろう」
さて、そろそろ次の展開に進もう。
最近私と鬼塚真琴は、友達のノリになってきた。ここらで流れを変えねばなるまい。
バイト仲間と帰り道、何かが起こるのがセオリーだ。何を起こそう。とりあえず、薄着の鬼塚真琴に上着を貸し、女扱いをしているんだアピール。
少女マンガでたまにあるシーンだ。
寒さを我慢し、上着を脱いでスタンバイ。
向こうから、鬼塚真琴がやって来た。
ぶかぶかの上着を着て。
「…………………」
何ゆえ!もう既に着用しているのか!?どっから出てきた、その上着ー!
「寒くないか?」
「うん、平気」
台詞は予定通り進む。
ただし、配役男のほう予定外。
イレギュラーな輩が登場してきた。誰だ、貴様っ。私のシナリオを邪魔するとは…。
雑魚キャラか?しかし…ビジュアル的には主役級だ。
シナリオ変更は、受け付けない。
私は、予定通り鬼塚真琴を家まで送ることにした。
雑魚キャラが、疑わしそうな目で私を見る。
主役に向かって失礼なやつだ。
「あ、この人。西園寺さん。最近入った新しいアルバイトの人。良くマンガ貸してくれるんだ」
「どうも。野田です」
雑魚キャラは野田というらしい。
くっそう。シナリオが上手くいかない。鬼塚真琴に少女マンガ抜粋の、胸きゅん台詞を言おうとすると、雑魚が邪魔をする。
貴様!野田!雑魚キャラめっ!私に何の恨みがあるのだ!?
公園を通りかかると、強い風が吹いて、木から何かが落ちてきた。
「やーっ!」
叫んで、両手を振り回す鬼塚真琴。
何だ?何が起こった?
雑魚キャラ野田が、鬼塚真琴の肩に付いた何かを掴んで、放った。
多分、クモだ。暗いので、おそらくといった感じだが、小さなクモに見えた。
「もう取ったよ」
雑魚にしがみ付く鬼塚真琴。
クモに?グロテスク度から言えば、ゴキブリの方が断然上だ。
ゴキブリよりクモの方が苦手なのか?どの辺の理由で?
足の数か?ゴキブリ6本、クモ8本。
「ふぇぇぇ~」
情けない声を上げる鬼塚真琴を、良し良しと慰める野田。
シナリオ通り、ただしミスキャストー!!
おのれ~!重ね重ね邪魔しおって。しかもシナリオ横取りかっ!
ぎろっと睨みつけると、明らかな敵意で返される視線。
一体何奴っ!早速私は、雑魚キャラについて、調査をした。
お金の稼ぐ大切さをひしひしと感じている今日この頃の私だが、それはそれ。これはこれ。お金の力に明かして、雑魚キャラ野田を身上調査。
「………まさか……」
同じことを考えているやつがいるとは…!
雑魚だと思った野田は、雑魚ではなかった。私と同じ目的を持つものだったのだ。
鬼塚真琴に苛められた恨みを持つ野田は、私と同じように復讐を決意!
鬼塚真琴を惚れさせて、捨てる計画を立てたのだろう。
現段階で明らかに私より野田がリードしている。
「まずいぞ…これはまずいっ!」
ライバル登場だ。
作戦、大幅に変更!少女マンガを読み直しだ!
と意気込んではいるのだが。
『不良の男の子が優しい顔で、捨て犬を拾うのを見てしまった優等生の女の子。それから男の子が気になり始める』
と言う胸が温かくなるマンガの定番を試みたところ、こちらの手違いで失敗。
捨て犬がいなかったので、ブリーダーに頼むとミニチュアダックスが届いた。
「ロッソ、マンガを齧るな」
ロッソと名づけた捨て犬配役のミニチュアダックスが、私の部屋で暴れている。
最近、落ち着いてマンガが読めない。
ロッソが遊んで!と玩具を銜えている。
構ってやらないと、わぁぁぁーとばかりに私の大事なマンガを齧りに行く。
恐らく確信犯だ。
マンガを読むのを諦め、ロッソにボールを投げてやる。
くっそう!完全にライバルに遅れを取っている!




