表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

ガキ大将危機一髪 3

 何度か作戦を立て直すものの、尽く失敗。


『背の低い女の子が本屋(もしくは図書館)で本を取るのに苦労していると、憧れの彼が取ってくれる』


 と言う定番を実践した時も、鬼塚真琴の後ろから手を伸ばしたと同時に、何故かエルボーを食らわされた。

 何故だ…。

 ここはありがとうございます、っとぽっと顔を染めるシーンではないのか!?

 あ、間違えた、すみません。と鬼塚真琴は謝罪をしてきたが、この高貴な私を一体誰と間違えたのだ?


 くっ!流石だ、鬼塚真琴。こうなったら仕方がない。


「西園寺蘭です。よろしくお願いします」


 バイト仲間から恋愛発展という、捨て身の戦法を取るしかない。

 

 ふ、ふっははー!

 長期戦になるだろうが、成功率は高い!

 リスクはあるが、達成感が増すというものよっ!


 働いた事がない、働く必要がない貴族の私には初めての経験だ。

 最初は、仕事を覚えるのに手一杯で、作戦を立てる余裕などなかった。

 働くって大変なんだな、お金って大事なんだ、あぁ今日もいい汗かいたと健康的な日々を送る。


 しかし勿論、最大の目的を忘れたわけではない。

 まずは鬼塚真琴と親しくなることで下準備。

 最近読んで感動した少女マンガについて話を振る。


 ここで衝撃の事実が発覚。

 鬼塚真琴、少女マンガ全然読んでいない…。

 何ゆえ、何ゆえ、あの不朽の名作の数々を見ないのか!人生損しているぞ、と鬼塚真琴にセレクトしたマンガを貸す。


 面白かったです、と言われると作者でもないのにいい気分になり、じゃあ次はこれだ!と更なる布教活動。

 最近、鬼塚真琴とマンガの話で盛り上がっている。


 今日も今日とて、試作品のケーキを堪能しながら、マンガの話。

 憎い宿敵といえど、マンガの話をする時はただの仲間だ。


「もう遅い。送ってやろう」


 さて、そろそろ次の展開に進もう。

 最近私と鬼塚真琴は、友達のノリになってきた。ここらで流れを変えねばなるまい。


 バイト仲間と帰り道、何かが起こるのがセオリーだ。何を起こそう。とりあえず、薄着の鬼塚真琴に上着を貸し、女扱いをしているんだアピール。

 少女マンガでたまにあるシーンだ。

 寒さを我慢し、上着を脱いでスタンバイ。

 向こうから、鬼塚真琴がやって来た。



 ぶかぶかの上着を着て。


「…………………」


 何ゆえ!もう既に着用しているのか!?どっから出てきた、その上着ー!


「寒くないか?」


「うん、平気」


 台詞は予定通り進む。

 ただし、配役男のほう予定外。

 イレギュラーな輩が登場してきた。誰だ、貴様っ。私のシナリオを邪魔するとは…。


 雑魚キャラか?しかし…ビジュアル的には主役級だ。


 シナリオ変更は、受け付けない。

 私は、予定通り鬼塚真琴を家まで送ることにした。

 雑魚キャラが、疑わしそうな目で私を見る。

 主役に向かって失礼なやつだ。


「あ、この人。西園寺さん。最近入った新しいアルバイトの人。良くマンガ貸してくれるんだ」


「どうも。野田です」

 

 雑魚キャラは野田というらしい。

 くっそう。シナリオが上手くいかない。鬼塚真琴に少女マンガ抜粋の、胸きゅん台詞を言おうとすると、雑魚が邪魔をする。

 

 貴様!野田!雑魚キャラめっ!私に何の恨みがあるのだ!?

 

 公園を通りかかると、強い風が吹いて、木から何かが落ちてきた。


「やーっ!」


 叫んで、両手を振り回す鬼塚真琴。

 

 何だ?何が起こった?

 

 雑魚キャラ野田が、鬼塚真琴の肩に付いた何かを掴んで、放った。

 多分、クモだ。暗いので、おそらくといった感じだが、小さなクモに見えた。


「もう取ったよ」


 雑魚にしがみ付く鬼塚真琴。


 クモに?グロテスク度から言えば、ゴキブリの方が断然上だ。

 ゴキブリよりクモの方が苦手なのか?どの辺の理由で?

 足の数か?ゴキブリ6本、クモ8本。


「ふぇぇぇ~」


 情けない声を上げる鬼塚真琴を、良し良しと慰める野田。


 シナリオ通り、ただしミスキャストー!!

 おのれ~!重ね重ね邪魔しおって。しかもシナリオ横取りかっ!

 ぎろっと睨みつけると、明らかな敵意で返される視線。


 一体何奴っ!早速私は、雑魚キャラについて、調査をした。

 お金の稼ぐ大切さをひしひしと感じている今日この頃の私だが、それはそれ。これはこれ。お金の力に明かして、雑魚キャラ野田を身上調査。


「………まさか……」


 同じことを考えているやつがいるとは…!


 雑魚だと思った野田は、雑魚ではなかった。私と同じ目的を持つものだったのだ。

 鬼塚真琴に苛められた恨みを持つ野田は、私と同じように復讐を決意!

 鬼塚真琴を惚れさせて、捨てる計画を立てたのだろう。


 現段階で明らかに私より野田がリードしている。


「まずいぞ…これはまずいっ!」


 ライバル登場だ。

 作戦、大幅に変更!少女マンガを読み直しだ!

 と意気込んではいるのだが。

 

『不良の男の子が優しい顔で、捨て犬を拾うのを見てしまった優等生の女の子。それから男の子が気になり始める』

 

 と言う胸が温かくなるマンガの定番を試みたところ、こちらの手違いで失敗。

 捨て犬がいなかったので、ブリーダーに頼むとミニチュアダックスが届いた。

 

「ロッソ、マンガを齧るな」

 

 ロッソと名づけた捨て犬配役のミニチュアダックスが、私の部屋で暴れている。

 最近、落ち着いてマンガが読めない。 

 

 ロッソが遊んで!と玩具を銜えている。

 構ってやらないと、わぁぁぁーとばかりに私の大事なマンガを齧りに行く。

 恐らく確信犯だ。


 マンガを読むのを諦め、ロッソにボールを投げてやる。

 くっそう!完全にライバルに遅れを取っている! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ