3-24 悪役令嬢の誤算
スキルを作ろうとして失敗する回
「魔法のステッキは私が使わせていただくとして、スキルはどうするおつもりです?」
「それなのよねー」
「魔法のステッキは、この本体と石が有れば魔法が使えるわけですが、これは私だけが使わせていただく形になるのでしょうか」
「とりあえず、そうね。あまり他人に教えるつもりは、ないわね…」
「その方がよろしいかと思います」
アナスタシア以外でも魔法を使えるようにするステッキを作り出す事に成功した。
何の対価もなく魔法を使い放題、威力も制限なし、と言うのは普通ではないらしい。
魔物から搾取した魔力と思われるエネルギーを消費する事によって簡単な魔法が使える。
魔力が直接物理現象を誘引するのか、神が魔力を要求しているのかは不明だ。
酷い話だが、元の世界での魔力で魔法を使えたという経験から作っただけなので魔力については良く分かっていないのだ。
アナスタシアも元の世界では普通の魔法使いであったから、普通の魔法も使えたし、魔力を操る事も出来たのだが、いつの間にか普通の魔法使いの道から脱線していた事に気づかされる。
どうしてこうなった。
「この、魔石ですか。これの入手はどの様にすれば良いのでしょうか」
「既にちょっと火を付けるぐらいならしばらく保つくらいの量はあるから、特に考えてないわ」
テーブルの上に10個ほど並べる。
「妖精さんが見つけたら拾っておいてくれる事にはなっているけども」
現状、魔石の存在もその利用価値も知られていないから問題ないが、魔物を討伐して魔石を集めましょうなどと考えだすと、色々問題が発生しそうな気配が濃厚だ。ちなみに妖精さんは魔物と戦ったりはあまりしない。あまり。
ちなみに、魔石の元になる結晶の生成などはダンジョンコアが行っているので、自動的にダンジョン周辺の魔物に埋め込まれる事になる。すでに十箇所のダンジョンが稼働し、魔物の数も1000は超えているため、何らかのアクシデントで活動を停止する魔物だけでも年に数十体にはなるだろう。
エネルギー源の問題を置いておいても、この道具で使える簡単な魔法と言うのが難しい。一瞬風を吹かせたところで何をするのって言うところだし、燃えやすい木に火を付ける、ランプを灯す、辺りが無難な使い方だろうか。アナスタシアであれば何もないところから水を出す、くらいの事もなんとなくで出来てしまうが、汎用魔法ステッキの能力では魔石をいくつも使って少量の水を出すのが精精だろう。
簡単な魔法の定義を「既にある現象の発生理由に魔法を追加する」と言う意味で考えれば、雨が降りそうな時に確実に降らせるとか、湿気がすごい時に霧を発生させる、とかだろうか。何に使うのか良く分からない。
そんな便利なのかそうでもないのか微妙な上に常識の範囲外にある物を大っぴらに使うのはどうだろうか。
と言う話だ。
「魔法で有れば、一部の人間が秘密裏に使う、でも特段問題もないと思いますが、スキルの方は聞いた限り大勢でそのシステム?を共有しない事にはあまり意味がない気がしますね」
「その通りだわ…」
痛いところを突かれて返す言葉もない。
「そして、超高度な技術を持っている人にはあまり恩恵がない」
「うぐぐ」
自分の経験を経験値に置き換えプールして、それを誰かが持っている他の経験と交換する事で本来得られない技術を取得する。もしくは同じ技術でもより効果的に能力をアップする。基本的にこれから技術を取得するためのシステムだ。
基礎となる魔法を作っただけなのでまだ損害はないが、こうも使えないと断言されるとちょっと寂しい。
「普及させるので有れば、宗教などを巻き込むのが早いかもしれません」
「え?」
問題点を指摘しただけで否定したわけではないらしい事にちょっと驚く。
よくよく考えてみればアーニャがアナスタシアのすることを完全に否定することはあまりない。
アナスタシアの身に危険が及ぶ行為には容赦ないが。
「そのスキルと言う能力共有グループに参加するためにお嬢様か、同等の能力を持つ方のところに一度行く必要がありますよね。こちらから全員の元を回るのは効率が悪過ぎますから、相手から集まってくれるのが効率的です」
「確かに…」
「まあ、そんなつてはありませんが」
「だよねえ」
教皇辺りが神の思し召しだから技術を共有してくださいと言えば聞いてくれる人も多そうだ。
とは言え、実際それを実現してくれるのが神だとは言え、そもそもそれを証明する方法がない。
「お嬢様が教皇にお成りになればよろしいのです」
「それはなんか嫌だなぁ。実際に神様と交信しているだけに…」
アナスタシアは実際に神と契約を取り交わしている。
だがそれは普通ではないらしいし、何より契約は交わしているが、なぜか一方的に搾取している。
とても宗教を通して人を導く様な人間ではない。
と思っている。
実際にはあちこちの世界や国で聖女と呼ばれ敬われたり、魔王と呼ばれ畏怖されていたりするわけだが。
「いっその事、帝国を作って皇帝に即位されると言うのはいかがですか?」
「洒落にならないからね、それ…」
何故か誇らしげなアーニャに眉を顰めるアナスタシアだった。
せっかく侍女のアーニャが出てくる回なんだから、もっとメイドムーブさせたら良いんだろうなぁ、などと




