2-28 決戦
正確には決戦前の準備ですー
「わんわんは戦闘が始まる前に避難してね。みんなが魔獣と間違えちゃうといけないから」
「………そうだな」
「貴方は本当に、本物の貴族であり、王の横に立つべき人物なのですね。いえ、あなた自身が王の風格を持っていると言うべきかしら」
会議が終わり、会議室から出ようとするアナスタシアに王女が話しかけた。
「?」
自覚がないアナスタシアは不思議顔だ。
「正直王女である事が恥ずかしくなってしまいます」
王女もこれまでずっと王族としての教育を受け、王侯貴族として生きてきたつもりだったが、アナスタシアを見ると、それがなんとも表面だけ貼り付けられた作り物に思えて仕方ないのだった。
「そんな事はありませんよ。現に貴方のもとにこれだけの騎士やそれを支える人たちが集まっているのですから」
「…」
「王とは指導者でもありますが、象徴であり指標なのです。貴方がそこにいることこそが重要なのですよ。…それと、もう貴方は王女ではなく王、女王ですよ」
そう言ってアナスタシアはとても14歳の娘とは思えない表情でにっこりと微笑んだ。
「…そうですね、もっとしっかりしなければ」
言いたい事は山ほどあったが諦めて首を振るセフレだった。
結局、会議も基本的に騎士団が主導権を握る形で、何か有った場合、主人であるセフレの指示を尊重すると言う形で落ち着いている。それこそ戦争の指揮など経験もなければ座学も受けては居ないのだ。それでも皆、セフレが居るからここに集まり戦うのだと言う。
「と言うか、ほんと、なんなの…」
ここはアナスタシアが個人的に使わせてもらっていた部屋。
命は腰に手を当てて肩を竦め呆れていた。
そこには大量のポーションが積み上げられていたのだ。
部屋の壁から壁に張られた縄には薬草やキノコが吊り下げられていて、まだまだ材料はあるようだが、すでに完成している分だけでもかなりの量だった。
「なんだかこう、楽しくなってしまって」
アナスタシアが恥じらいながら答える。
「………」
どうみても戦争の準備をしていたとしか思えない状況だが、あくまでポーション作りが趣味で作りすぎてしまったから良かったら使ってくださいと言うスタンスに言葉が出ない。
とりあえず、手の空いている者で運び出し分配などをするために命やシリアナに来てもらったのだった。
「すみません、アナスタシア様のポーションは通常の物とは分けたいので、こちらにお願いします」
資材管理の担当者のところにポーションと緩衝材が詰まった木箱を置く。
勇者補正のかかった命が木箱を両肩に担いで持ち、シリアナや男たちはひとつづつ、アナスタシアとリョナは2人で一箱、でありつつ、みんなが二往復している間にどうにか辿り着けた、と言う感じだった。
「どぅはー、作ってる時は気がつかなかったけど、まとめてあると結構な重さですね」
一番働いていないアナスタシアが愚痴をこぼす。
そもそも運搬作業を発生させた張本人である。
アナスタシアが用意したポーションは、ちょっと酷い傷を治せる中級ポーションが大半で、骨折や大きな傷も治せる上級ポーションが少し。少しと言っても各部隊に配布できる量があるので、結構な本数だ。金額にしたら相当な物だろう。
「後の管理運用はお任せしますね」
丸投げである。
「はい、お任せください」
見ると他にも剣や鎧、弓や矢、馬具などが運び込まれては持ち出されていく。
本当に決戦が間近に迫っているのだと言うことが否が応にも感じられた。
いつの間にか要撃の騎兵は100近くおり、冒険者なども含む歩兵と、城壁の上で構える弓兵も相当な人数になっている。当然、それらの人たちをサポートする人たちも同じくらいいるので、最初にアナスタシアたちが野宿同然に泊まった時とはまるで別の場所のようになっていた。
当然、砦だけで全てをまかなえるわけでも、防衛線を張れるような立地でもないので、ここがこれだけ機能していると言う事は、ここ以外の街や村なども存在しており、そこを守っている人たちがまだがんばっていてくれている事を示していた。
ついに敵の集団が接近してきたと言う知らせを受け、迎撃のための騎馬隊が砦の前に整列する。
城壁の上には弓兵が並び、奥の建物の上から王女たちも様子を伺っていた。
砦の前は広い荒地になっていて、その先に森が見える。
森の正面は比較的広い道になっていて、それなりの距離まで見渡す事が出来る。
左右は森の木々や大きな岩などで塞がれており、周りを囲まれる心配はあまりないようになっている。
とは言え、相手は魔物なども操る事が確認されているのだから油断は出来ないが。
素直に森を抜ける道を進んできた敵国の騎兵は荒地に出ると隊列を変え、正面に壁を作るように並んだが、ある程度荒地に並びきると中央を開けるように左右に移動した。
左右に開かれた騎兵隊の隊列の間を通って前に出てきた馬は、立派な装備を取り付けられた白い馬で、その上に乗る騎士は重装のプレートメイルに立派なファーの付いたマントを羽織り、その頭には王冠を頂いていた。
「くっ」
その姿を見て王女や騎士たちが眉を顰める。
この国の前国王であった。
キャラクターに変な名前をつけると、後で自分が辛いと言う事を学んだ(オ




