第10話 一張羅を託して
ナニを投げつけられたのか気づいた鬼灯は、ものすっっっごく嫌そうな顔しながら、俺の一張羅を頭に、コチラを見た。
青い光に飲み込まれていく俺を見て、その表情が驚愕へと変わる。が──俺は一張羅がその本文を全うするところを見て、満足した。
黒く大きな塊が、鬼灯に直撃したかと思うと、別の方向へと弾き飛ばされていったのだ。それが、俺の見た、遠い未来の最後の瞬間だった。
◇◆
「なー赤。勝負はどうするよ?」
洞窟の入り口近くにある大岩の上で、俺は仰向けになって空を眺めていた。そこへ鬼長がやってきて、覗き込んで言ったのだが……。
「あー……そんな気分になれねぇんだよなー…………」
あの不思議な出来事以来、俺は腑抜けになったかのように、グッタリとダラダラして過ごしていた。
もう、あれから何日経ったのか。未だに俺は、色のない世界にいるように、何にも感情を示すことができないでいた。美味いものにも、美しいと感じていたはずの星空にも。
あの日、奇妙な服で草原に立つ俺を見つけた鬼長は、珍しく俺を心配してか、勝負は日を改めよう、とその日は何も聞かずにいてくれた。
あのトラの一張羅は、もちろん手元にはなく。また手に入れにいこうか、ともまだ思えないし。
俺はこのまま朽ちていくのか……と、ぼぅっと考えていると。遠くから、聞き覚えのあるような声が聞こえてきた。
「お、今日だったか、本島の一族が交流にくる日」
長がそう言って立ち上がり、港のある方を眺めた。
俺もガバっと起き上がり、そちらを見る。
すると、長い黒髪を一つにまとめ、蒼色の着物を着た、一人の女が目に入る。その大きな瞳は深い緑色で、吸い込まれそうに深く────
隣に立つ男が彼女に何か話しかけている。
「あの男は……⁈」
「そいつは本島の鬼長の稲五郎だ。隣にいるのは、妹だとかいう鬼灯さんだな」
「鬼灯…………!」
「美人だと思わんか? ん?」
茶化すように言ってくる鬼長なんぞ、相手する余裕は俺になかった。
なぜあそこに飛ばされたのかは分からないが。きっと――彼女と出会い、気づく為だったのじゃないか…………?
「鬼長、俺は彼女に────」
そして俺の世界には色が戻ってきた。




