再生巫女看護師は帰省中(すぐ近くです。)2
それ、私のせいじゃないからね。
ティオラ巫子お兄ちゃんとセシルア神官お姉ちゃんがエウリール様に捧げる模擬戦闘を祭壇前の闘技場で行ってるのが私がいる席からよく見える。
本物の戦闘さながらの迫力だ。
石の柵から身を乗り出して怪我がないかみてると押された。
「あら、失礼いたしますわ。」
振り向くとオピアーノン令嬢が侍女と格下の令嬢たちを引き連れ真後ろにたっていた。
また、あんたかよ。
「いいえ、大丈夫ですから。」
愛想笑いを浮かべて石壁にぶつかって痛い腹をさする。
まあ、肉ついてるからダメージも薄いけどさ。
「あまりにも障害物が大きかったものですから、通れなかったのですわ。」
艶やかにオピアーノン令嬢が扇で口元をおおって笑うと令嬢たちがクスクス笑った。
まったく、いくらディオラ巫子お兄ちゃんが好きだからって私をいじめるの止めてくれないかな?
今日は月に一度のエウリール様に模擬戦闘を捧げる儀式の日でどうしても『巫女ファリシア』は出ないといけないらしい。
「少し大きくなられたかしら?」
オピアーノン令嬢が嫌みったらしく言った。
クスクスの渦がますます大きくなる。
「成長期ですから。」
本当はとっくに終わったよ。
兄ちゃんたちみたいに巨大化すれば、体重も目立たないのかな?
「あら、そうですの?」
さげすみの目で私を見てからオピアーノン令嬢は私の真横の柵の前を陣取った。
「ティオラ様~、頑張ってくださいませ~。」
さっきと違う態度で黄色い声をあげる。
そう、オピアーノン令嬢はディオラ巫女お兄ちゃんの事が大好きで、私の事は目障りらしい。
ティオラ巫子お兄ちゃんはチラッと見て完璧無視した。
まあ、模擬戦闘とはいえ戦闘中だからね。
「余裕だな、ティオラ。」
セシルア神官お姉ちゃんがそういって蹴りを繰り出した。
「別に、へんな鳥が鳴いたから見ただけだよ。」
ティオラ巫女お兄ちゃんがそういってうまく避ける。
へんな鳥ってなんだろう?
辺りを見ても鳥なんて飛んでないよ?
最近流行りらしい鳥の羽根を赤く染めた髪飾りを盛大にもったオピアーノン令嬢はいるけどさ。
「ふん、あの鳥はセリカを突き飛ばしたぞ。」
セシルア神官お姉ちゃんがそういいながら今度は剣でティオラ巫子お兄ちゃんを攻撃した。
「うん、だから懲らしめにいかないとね。」
ティオラ巫子お兄ちゃんがセシルア神官お姉ちゃんの足に剣の甲を叩きつけて転ばした。
「これで終わりでいいよね。」
剣を起き上がろうとしたセシルア神官お姉ちゃんの首もとにティオラ巫子お兄ちゃんが突きつけた。
「降参だ。」
セシルア神官お姉ちゃんが腕を上げた。
闘技場が歓声に包まれる。
神事ですけどね…皆様。
で、でも怪我してないかな?
「セシルア神官お姉ちゃん!」
私は柵の出入り口から闘技場に出た。
石畳の向こうでセシルア神官お姉ちゃんがディオラ巫子お兄ちゃんにかたてをとられて軽やかに起き上がった。
「セリカ、また、肥ったか?」
セシルア神官お姉ちゃんが腰を押さえながら言った。
「私はいくよ。」
ティオラ巫子お兄ちゃんがそういって私の方に来て頭をなでてから観覧席の私が来た方へ歩いていった。
何をする気?
「あいつ、遠慮なく叩きつけやがった。」
セシルア神官お姉ちゃんがそういいながら足をなでた。
見事な内出血ができている。
「セシルア神官お姉ちゃん、すぐ治すね。」
私はセシルア神官お姉ちゃんの内出血に力を集中させる。
新陳代謝が活性化してみるみるうちに内出血が薄れていった。
「相変わらず、見事だな。」
セシルア神官お姉ちゃんがそういったところで観覧席の方が騒ぐこえがした。
「ひどい!あの豚巫女のほうがいいと言うんですの?!」
オピアーノン令嬢がヒステリックに叫んだ。
みるとティオラ巫子お兄ちゃんが柵の向こうからオピアーノン令嬢に冷笑を向けているのが見えた。
「あの熊だるまは私の可愛い巫女だからね。」
ディオラ巫子お兄ちゃんがそういって柵を片手でもって飛び越えた。
「ティオラ様は悪趣味ですわ!」
ご令嬢たちがわめきたてる。
「悪趣味?それは誉め言葉ととっておくよ、ところで…。」
ティオラ巫子お兄ちゃんが獲物を狙う目をした。
「な、なんですの?」
オピアーノン令嬢がこのごのおよんでも赤い顔で言った。
「可愛い、うちのマルパン巫女を突き飛ばしたのはあんただね。」
ティオラ巫子お兄ちゃんがそういってオピアーノン令嬢に近づく…確実に仕留めるように…。
「ええ、大きい豚を押しましたわ。」
それなのに…オピアーノン令嬢は気がつかない。
「君は私の敵だよ。」
ティオラ巫子お兄ちゃんが人懐こくでも冷ややかに笑った。
そのまま、攻撃にうつろうとしてる。
「ティオラ巫女お兄ちゃん~やめて!」
私は遅い足で走った。
オピアーノン令嬢なんかどうでもいいけど危害を加えたら不味い。
絶対に間に合わないよー。
「ティオラ巫子、やめなさい。」
アルリーア副神官長おばちゃんがディオラ巫女お兄ちゃんの腕を押さえた。
一緒に来た、シューお兄ちゃんが私を冷ややかに見つめた。
「動けないほど太るな肥巫女。」
シューお兄ちゃんが言った。
「そ、そうですわ。」
オピアーノン令嬢が少し怯えながら言った。
私は息を整えるために下を向いた。
石畳がすり減ってるのが見えた。
シューお兄ちゃんは今日も冷たい。
「オピアーノン令嬢、ティオラが失礼した、ところで…あなたの席はあちらの貴族席ではないか?」
シューお兄ちゃんが静かに聞いた。
確かにここは神殿関係者の席ですぐ近くで対応が可能となってる席だけど。
貴族席はもっとよく見えるすり鉢の席の上の方できちんと日除けがついてる少し豪華なところだよね。
一番戦士と近いのはここだけど。
「もっと、神事を近くで堪能したかっただけですわ。」
オピアーノン令嬢が今度はシューお兄ちゃんにボーッとしながら言った。
よくみると他の令嬢たちもシューお兄ちゃんをうっとりみてる。
「ティオラ巫子、貴族席に案内してさしあげて。」
アルリーア副神官長が穏やかに微笑んだ。
「……わかったよ、おばちゃん。」
ティオラ巫子お兄ちゃんがため息をついて勝手に歩き出した。
「ついていっていただきたい。」
シューお兄ちゃんが微笑んだ。
「神官長様の方が良いですわ。」
オピアーノン令嬢が調子をとりもどして艶やかに微笑んでシューお兄ちゃんを見上げた。
「喜んで案内しよう…。」
シューお兄ちゃんがそういいながら私の前を通った、チラッと私を見て完璧無視してオピアーノン令嬢に並んだ、オピアーノン令嬢はシューお兄ちゃんの腕に手をかけた。
令嬢たちがお似合いですわとか騒いでる。
『哀しい心、寂しい心が伝わってきたぞ、我が愛しい巫女。』
エウリール様が言った。
シューお兄ちゃんが…きにしないでください。
『お前は私の大事な巫女だ、いずれあの男など覚えていないほど囲いこんでやる。』
エウリール様が甘く言った。
いつか…シューお兄ちゃんに好きな人が出来たら邪魔しないように…エウリール様のところにはまだまだいかないけど、囲いこんで慰めてもらいたい気分だよ。
もっと仕事しようっと。
そうすれば、忘れられるよね。




