再生巫女看護師は帰省中(すぐ近くです)1
神殿帰るの気が重い……
石造りの神殿の通路にかけられたエウリール神の意外に血塗られた創生神話を見ながらつぶやいた。
オヤルル騎士がいないのを確認して廊下に出た。
私の実家と言うか、帰るところはもう、このエウリール大神殿しか無い……生まれたところはとある山奥の田舎町なんだけど、エウリール神の再生面の巫女として神殿に引き取られて以来帰ってない……
ある日、エウリール様の脳内通信を得た巫子が私を迎えに来たその日から……
まあ、本当に小さかったから時々会いに来る家族とやらに親近感とかあんまり感じないんだけどね。
それよりもあれだよ、なんであんなにさぁ……
考え事をしながらうつむいてるとなんか硬いもんにぶつかった。
あれ? 壁なんか………あったっけ?
「セ、リ、カ」
空恐ろしい声がして壁を見上げると……で、出た! 筋肉軍団!
目の前に見覚えがある筋肉質の男たちが立ちふさがってた。
「な、なに?」
思わず後ずさるとないはずの生暖かい壁に背中がぶつかった。
「本当に往生際が悪いよね」
聞き覚えのあるスパイシーな声がして筋肉質な腕が私の腹を片腕で捕獲した。
ティオラ巫子お兄ちゃんかい〜。
赤い短い髪と青い目人懐こい容姿なのに長身なティオラ兄ちゃんの顔を見て冷汗が背中に流れる。
「うん、お兄ちゃんたちを心配させてね」
緑の短い髪に青い目のケイアス神官お兄ちゃんが嫌なわらいを浮かべた。
「あの男はだれですか? 」
長め金の髪と紫の目のイリュゲス神官お兄ちゃんが眼鏡を光らせた。
この二人は身長が一緒なんだけど、ケイオス神官お兄ちゃんのほうが体格的にみて威圧感あるなぁと、ちょっと筋肉の壁に現実逃避をしながらなんとか、ティオラ巫子お兄ちゃんからの腕から逃げようとしてみるけどぴくりとも動かない。
わーん、筋肉つけすぎだよー。
「あの男? って誰のこと? 」
「しらばっくれる気か? セリカ」
赤紫の短い髪とオリーブ色の巨大筋肉の壁なジャイオス巫子お兄ちゃんが鋭い眼差しを向けられてますます冷汗が出るのを感じた。
わーん、なにそれ? いつもとなんか違うよー。
私が何をしたのさ〜 本当にあの男って誰さ。
さあ、ゆっくりと訳を聞かせてもらおうとティオラにそのまま引きずられて筋肉の壁ともども大神殿の尋問室に連行された。
もう一度言うけどさ、本当に私が何をしたのさ〜
「オヤルル騎士というのか?」
ジァイオス巫子お兄ちゃんがなぜか明かりが小さいテーブルの端に置かれた前の椅子に座らされた私の前に厳しい顔で迫った。
逃げようにも入り口はジァイオス巫子お兄ちゃん側だしカーテンが閉められた窓側は他のお兄ちゃんたち筋肉の壁ができてて圧迫感が半端ない。
私、善良な騎士団の看護師でエウリール様の再生面の巫女なだけなのに、なんで尋問されてるんだろう?
尋問室なんかはじめては来たよ。
戦い神の神殿だからこう言う部屋もあるらしいのは知ってたけどさ〜。
あの壁のしみなんだろう? 考えちゃダメ、セリカ。
少し寒気を感じながら……オヤルル騎士? なんで……オヤルル騎士? たしかに追いかけられたけど……どうしてお兄ちゃんたちが……と思った。
「丸達磨がそのオヤルル騎士とやらといちゃつきながら追いかけっこしてたと聞いたんだよね」
ティオラ巫子お兄ちゃんがいつも通りどこか人をくったようにため息をついた。
「別に同僚だよ」
いちゃつきながらって何さ、こっちは必死だったんだからね……って本当にどこから情報が……
「嘘はいけないぞ、アハハ、捕まえてごらんなさーいとかラブラブなのではないか? 」
ジャイオス巫子お兄ちゃんが渋い声で器用に片眉を上げた。
何その脳内変換?
「いいえ、きっと、セリカの可憐さに負けたオヤルル騎士やらが襲いかかったのですよ。」
イゲリュス神官お兄ちゃんがと目を押し上げた。
「その男……」
締める……ケイアス神官お兄ちゃんが暗くつぶやいた。
「うん、うちの可愛い丸だるまをタブらかすなんて許せないよね」
ティオラ巫子お兄ちゃんが暗い微笑みを浮かべた。
たぶらかされてないから〜
わーん、洒落にならないよ、お兄ちゃんたちみんなエウリール神にお仕えするものとして鍛えてるし神官戦士と巫子戦士だし、オヤルル騎士、瞬殺されるよ……たぶん?
「お兄ちゃんたちたんなる意見の相違なだけだからや~めーて~」
「セリカをいじめるやつには天誅だ」
ジャイオス巫子お兄ちゃんが拳を振り上げてお兄ちゃんたちみんながオーと拳を上げた。
わーん、誤解を説かないとエウリール神殿とオダーウエ聖騎士団が全面戦争になりかねないよ~誰か、助けて〜
その時、尋問室の扉が開いて一番顔を合わせたくない人が入ってきた。
当代皇帝陛下の弟、エウリール大神殿の神官長、シュースル・キヌーネリ・オーレウス……黒い短い髪とグレーの瞳の体脂肪のなさそうな筋肉美丈夫が危険に目を細めた。
「お前ら、何をしている?」
冷たい美声が尋問室に響いた。
「冷たい婚約者が今さらお出ましですか? セリカを襲った、オヤルル騎士やらの処分の決定ですよ」
イリュゲス神官お兄ちゃんが眼鏡を光らせた。
「オヤルル騎士は肥巫女と話がしたかっただけと聞いた、危険は無い、放っておけ」
シュースル神官長……シューお兄ちゃんがそのままジァイオス巫子お兄ちゃんをどかして私の前に来た。
「な。なに? 」
冷汗が止まらないよ。
「肥巫女、また太ったな? 減量できぬなら、今度、私の部屋に監禁して絶食させるぞ」
私の頬をつまんでシューお兄ちゃんがそうに冷ややかにいうときびすを返して去っていった。
どうせ太りましたよ……気持ちが地のそこまで落ち込んだ。
「セ、セリカ、なにか食おうか! 」
ケイアス神官お兄ちゃんが私の頭をなでてくれた。
尋問室から出て、落ち込む私をケイオス神官お兄ちゃんとジァイオス巫子お兄ちゃんが手を繋いで他のお兄ちゃんたちも心配事そうについて、いつものサロンにつれていってくれた。
シューお兄ちゃん、やっぱり私のこと嫌いなんだぁ……
涙がこぼれ落ちる。
あの男、いつか締めるとティオラ巫子お兄ちゃんの声が聞こえたような気がしたけど、確かめる気になれなかった。
エウリール大神殿サロンは落ち着いたベージュ、茶色系の調度にエウリール神様の象徴の赤い色がところどころにあしらわれた、高級感あふれる空間で大きなソファーセットがいくつもある。
エウリール大神殿の巫女とか巫子とか神官戦士が自由にくつろげるところで、鍛錬場とも近くて、専属の使用人がいる。
いくつもあるサロンの中で比較的こじんまりと大神殿の奥のサロンがお気に入りでよくお兄ちゃんたちと利用してるけど……あんまり他の神官戦士とか、巫女とか巫子にあったことがないんだよね。
木出できたローテーブルには麗しい花籠と使用人が運んできてくれた、美味しそうな……私にとっては不味いお菓子の数々がおかれている。
周りは筋肉美丈夫だらけだけど……
この筋肉美丈夫ども、けっこう大人気なんだよね。
しかも高位の巫子戦士と神官戦士……私も最高位の再生面の巫女なんだけどさ、けっこう嫌がらせされるんだよね。
あの人……シューお兄ちゃんとの関係もあるんだけどさ。
再生巫女ファリシア何て言う称号なんぞ、お嬢さん(男性もいたような……)方の恋心の前にはチリにも等しいんですよ。
うん、小さいときから面倒見てくれてるからその延長なのにね。
あとから入ってきた中位の神官とか巫子とかにはわかんないんだよね。
ため息をつくとご機嫌をとるようにケーキが目の前に出された。
「セリカ、このパイは皇帝陛下御用達の店のパイだぞ」
ケイアス神官お兄ちゃんがきれいに切って苺のカスタードパイをフォークに乗せて差し出した。
私、ちび幼児じゃないのに。
「ケイアス神官お兄ちゃん、私食べないよ」
美味しそうだけど太るもん。
監禁は嫌だしね……シューお兄ちゃんどうして……そうおもいながら甘くない紅茶を飲んだ。
「セリカ、やせ我慢はいけない」
ジャイオス巫子お兄ちゃんが耳元で囁いた。
あー……ジァイオス巫子兄ちゃん、渋くて素敵って騒がれてるのに私ばっかかまってるから恋人がいないんだよね。
「こっちのパフェが方が良いですよね、セリカ」
イゲリュス神官お兄ちゃんが美しいクリスタルのガラスに盛られた至高のブルーベリーパフェを使用人の女性から受け取って光にかざした。
ああ、素敵と使用人の女性が見てるのはパフェじゃなくてイゲリュス神官お兄ちゃんだよね。
眼鏡男子の癖に細マッチョってなにさ。
知的で素敵って参拝のお嬢さんがうっとり見てたのと一緒?
「飲み物はカフェモカにする? 丸達磨? 」
ティオラ巫子お兄ちゃんがそう言いながら男性使用人に注文した。
ティオラ巫子お兄ちゃんは人懐こくてお年寄りまでファンがいるんだよね。
「なんで、みんな私を太らせようとするのさ」
食べたいけど……シューお兄ちゃんに失望されたくない……
「抵抗は無意味だぞ」
ジャイオス巫子お兄ちゃんがぽいっと私の口にレモンラスクをほおりこんだ。
美味しい……なにそのサクサク感、爽やかな柑橘の香り。
「ああ、太る、肥える、もうだめ」
えぐえぐ泣きながらパフェを手に取った。
ブルーベリーソースが美味しい。
「再生巫女ファリシアへと皇帝陛下がパティシエに命じて作らせたパフェは美味しいですか? 」
うん、なぜか皇帝陛下は私に甘いんだぁ〜シューお兄ちゃんは冷たいのに……
「美味しいけど……太るのいやー」
乙女心は複雑なのです。
「丸々しくて可愛いよ」
ティオラ巫子お兄ちゃんがツンとほっぺを突いた。
嘘つき! 痩せてるほうがいいくせに。
ティオラ巫子お兄ちゃんの相手は……あれ? ぽっちゃりだ?
いや、待て、今の彼女さんと何年付き合ってる?
あの人に行き会うまで……うん、ティオラ巫子お兄ちゃんはそのまま結婚する。
ジァイオス巫子お兄ちゃんとかイリュゲス神官お兄ちゃんとか、ケイオス神官お兄ちゃんが彼女さんいないのが問題かい?
なんでかっこいいのに彼女さんいないのさ。
「気にしなくてもいいだろう、婚約者がいるんだから。」
ケイアス神官お兄ちゃんがパイを自分の口にも運んだ。
「あのさ、なんでオヤルル騎士に追いかけられたの知ってるの?」
その言葉聞きたくないから無視するよ、ケイアス神官お兄ちゃん。
お兄ちゃんたちはエウリール神戦士団の所属だからオダーウエ聖騎士団の事知らないよね。
私も本当ならそこの再生巫女として所属しないといけないんだけど……看護師資格とったし、外に(たいして出てないけど)行きたかったからね。
大騒ぎにはなったけどね……いいんだ職場でまで筋肉男どもを侍らせたくないし。
「医務室の看護師が教えてくれたんですよ、いつも情報ありがたいですよね。」
イリュゲス神官お兄ちゃんがニヤリと指を立てた。
「ああ、オレはオダーウエ聖騎士団の事務官から聞いたぞ、オヤルル騎士がすごい勢いでセリカに迫って申し訳ありませんと」
ジャイオス巫子お兄ちゃんが視線をずらしてコーヒーを飲んだ。
どうやら脅したらしい……この過保護ず〜
「まったく、いつまで子供扱いするのさ」
「冷たい婚約者からセリカを解放出来るまでかな? 」
そうじゃないと心配で俺は結婚もできないとティオラ巫子お兄ちゃんが頬を指でかいた。
「それじゃ、一生じゃない」
つぶやいてなんか泣きそうになった。
冷たい婚約者との婚約は政略なんだよね。
サロンの扉が開いてくだんの冷たい婚約者……シューお兄ちゃんが再登場した。
「どうして部屋にいない、肥巫女、いい加減に休まないと今度こそ私の部屋のベッドに縛り付けるぞ」
シューお兄ちゃんが冷たく私を見下げた。
「神官長、なにげに過保護だな」
ケイアス神官お兄ちゃんがつぶやいた。
「未熟練な婚約者の体調管理も私の役目らしいからな」
シューお兄ちゃんが冷ややかな視線のまま腕を組んだ。
冷たい婚約者はかつて一番優しかったシューお兄ちゃん……婚約が決まった途端、塩対応どころかブリザード対応になってさ……私は大好きなシューお兄ちゃんが婚約者になって嬉しかったのに……
政略結婚なんか嫌だよね、たとえ再生巫女ファリシアの血を皇族に取り込んでのこすためでも……きっと素敵で好きな人がいたよね。
なんか涙が出そうになって目元を拭った。
「お兄ちゃんたち、私、休むからね」
ソファーからおりてあるきだすとため息をついてシューお兄ちゃんが私の手を握った。
「相変わらず、ずるいな、セリカ独占ですか? 」
イゲリュス神官お兄ちゃんが冷たい眼差しでシューお兄ちゃんを睨んだ。
「途中で倒れられると厄介だからな、部屋に帰るぞ」
シューお兄ちゃんが冷たく横目で見て私を引っ張った。
指を絡ませなくても逃げませんよ。
視界が突然変わって赤いモコモコ頭の美丈夫が見えた。
『私の巫女、冷血漢のことなど気にするな、悲しければ、早く私のところへ来ればよい』
エウリール様が甘く誘いかけた。
このまま……シューお兄ちゃんが冷たければ……
舌打ちが聞こえる、厄介なとシューお兄ちゃんがつぶやいて腰を支えた。
エウリール様の脳内通信を受けてよろけたらしい。
迷惑かけてごめんなさい見上げるときれいなグレーの目が忌々しそうに見返した。
「見上げてもなにもでないぞ」
「ごめんなさい、お兄ちゃんたちありがとう」
私はお兄ちゃんたちに手をふって廊下にシューお兄ちゃんに引っ張られるように出た。
お兄ちゃんたちが不満そうにしながらも見送ってくれた。
本当に過保護なお兄ちゃんたちだよ。
いくら、私があの人たち世代の唯一の女性再生巫女だからってしたの世代にも可愛い女の子少しはいるんだから構ってやんなよ。
綺羅綺羅ダメージだよ、隣の人はそれ以上のダメージだけど……
開放してあげられるように頑張んないと……なんか涙が出てきたよ。
すみませんyas様からご指摘があったので巫女→巫子に変更いたします。
すべて物知らずで未熟な私が悪いのです。
申し訳ございません。




