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再生巫女看護師は帰省中(すぐ、近くです。)4

お久しぶりです(泣)


赤茶の髪の女性が赤紫の目でこちらを見つめた。

そしてため息をつかれた。


『あなた……本当に……』

本当になんですか?

『……力の体現のせいなのかしら? こんなことで倒れてたら……様から逃れられないわ』

女性の桃色の衣の裾がみるみる濡れていく。

私も押し寄せる水に溺れた……苦しい……苦しくない。


深い水底に赤い髪が揺れる。

筋肉質の男性が目を閉じていた。


『……あ~なんか引きずり込まれたわね』

女性が困った顔をした。

引きずり込まれたんですか〜。


ど、どこにだろう?


『まあ、精神だけだから大丈夫よ』

女性の苦笑の後ろで赤い髪の男性がゆっくりと目を開けた。


ふぁーりー……

男性が水底から響くような声を出した。


『……覚えてたのね』

ふぁーりーしあ……よくもど……

『戻ってないわ』

女性がそう言って腕をふるった。

水が渦を巻く。


その水に巻き込まれた。


『ああーしまった、あの子まで流したわ〜』

女性の声かすかにした。


回る回る回る回る……


溺れちゃう?


私の巫女〜今助けに参る〜。

遠くでエウリール様のモコモコの赤い髪が見えたところで意識が浮上した。


赤いの天蓋が見えた。


「私……私の部屋? 」

違う…シューお兄ちゃんの部屋だ。

「セリカ、目覚めたか? 」

耳元に優しい声が聞こえた。

横を見ると灰色の目が見えた。

「シューお兄ちゃん」

「セリカ」

シューお兄ちゃんが横に寝ていた。

優しく背中をなでてくれてる。


そのまま下に手がおりて……


「セリカ、また肥ったな? 」

むにっと私の脇腹を掴んだ。

「……シューお兄ちゃんの馬鹿〜」

私は手をはねのけて立ち上がった。

「あんまり肥るなら私の部屋に監禁……おい、どこに行く!? 」

「もう、知らないー」

ベッドから飛び降りて扉を開けたところで後ろから捕獲された。


「離して〜」

「セリカ、逃げるな」

シューお兄ちゃんが私の脇腹をもみながら引きずり込もうとした。


横から剣が鞘ごとシューお兄ちゃんに斬りつけた。

シューお兄ちゃんが避けるかていで一瞬私を離した。


転びかけた私を誰かが支えた。


「俺の大事な丸達磨いじめるなっていったよね」

赤い短い髪と青い目の細マッチョの身体がすぐそばにあった。

「ティオラ巫子お兄ちゃん」

「どういうつもりだティオラ」

シューお兄ちゃんがティオラ巫子お兄ちゃんを睨みつけた。

「セリカが幸せになるなら構わない」

けどないやがってるじゃねぇかとティオラ巫子お兄ちゃんが力を剣にまとわせてシューお兄ちゃんに繰り出した。

シューお兄ちゃんが避ける。

かわりにあたった入り口の壁に穴が開いた。

「本気のようだな」

「もちろん、俺の大事な丸達磨を泣かした罪は重い」

「セリカもどれ」

シューお兄ちゃんがため息をついて私をてまねいた。

「だって肥ったって脇腹もんだ〜」

私はティオラ巫子お兄ちゃんのカゲに隠れて叫んだ。

「痩せる運動をさせてやるから」

「丸達磨に変なこと教えるなよ! 」

ティオラ巫子お兄ちゃんが剣の鞘を抜いてシューお兄ちゃんに斬りつけた。

シューお兄ちゃんが素早く避ける。


わーんなんか本気? でも……


「痩せる運動? 」

「気にするな! 」

小首をかしげた私にティオラ巫子お兄ちゃんが叫んだ。

「お前誤解してないか?」

シューお兄ちゃんが蹴りつけながらティオラ巫子お兄ちゃんをみた。

「下町でそういうセリフは聞き飽きたんだよ! あんたも男ってことだろ! 」

「下町で聞き飽きた? 下町ではダンベル体操が流行ってるのか? 」

シューお兄ちゃんの発言を聞いてティオラ巫子お兄ちゃんが体勢を崩した。


「あんた……本当に箱入り息子だな……」

「そんなつもりはないが」

ティオラ巫子お兄ちゃんは深いため息をついて剣を鞘に戻した。

どういう意味だと不思議そうな顔をシューお兄ちゃんはしている。


もう、いいよと呆れたようにティオラ巫子お兄ちゃんがため息をついて闘気を収めた。

シューお兄ちゃんはやっぱり訳の分かんない顔をしている。


私もよくわか……ダンベル体操……ええっシューお兄ちゃんの持ってるダンベルなんてひとつ数十キロのしろもんじゃないさ。


今のうちに逃げないと……

そろりと廊下を歩きだした。


「たしかによく肥えたよね」

ティオラお兄ちゃんが腰に剣をさしながら私を横目で見た。

「ああ、素晴らしい肥巫女(コエミコ)ぶりだろう」

シューお兄ちゃんがやっぱり私を見た。


ふ、二人が獲物を狙う捕食者の目をしてる……

命の危険以外をかんじるよ。


「丸達磨、ちょっと鍛えようか? 」

「私のやったダンベルは使ってなそうだな」

妙に色気のある顔で二人が笑った。

お菓子をうばわれて渡されたあれですか? 重いんだよね……


ジリジリと壁際に追い詰められた。

わーん過酷な鍛錬(ダイエット)いやだよ〜。


「さあ、セリカの知らない世界へ」

「筋肉つけようね」

捕食者達が極上の笑みうかべた。


い、いやー。

私はあともみず逃げた。

エウリール様〜お兄ちゃんたち〜誰でもいいから助けて〜。


「往生際が悪いぞ」

「そうだよ」

後ろから二人に捕まえられてシューお兄ちゃんの部屋に連行された。


「痛くないよ」

「そのうち気持ちよくなるから」

嬉しそうな二人のお兄ちゃんに冷汗が止まらなかった。

そ、そのダンベル……本当にダンベルなんですか?


巨大ダンベルを持ち上げた二人に私はふるえるしかなかった。



「セリカ、そんなに激しかったのか? 」

ケイアス神官お兄ちゃんが神殿の居間のソファーでぐったりしている私の背中をなでた。

「すごかった……ティオラ巫子お兄ちゃんも一緒に……」

「あのムッツリ……セリカに興味がないふりして何をしてるんです」

イリュゲス神官お兄ちゃんがいきりたった。

「え……だ……」

駄目だ疲れすぎて……

「だ? だってなんだ? 」

ジァイアス巫子お兄ちゃんの美声が耳元で聞こえた。


……ダンベル……ダンベル……ダンベル体操なんて……嫌いだぁ。


「ダンベル……」

私はやっとつぶやいた。


「神官長、せっかくの機会に何やってんだよ」

「あのお方なら間違いなく食い尽くすだろうな」

「案外本命にはヘタレかもしれませんよ」

お兄ちゃんたちが察したように口々に言った。


シューお兄ちゃんのダンベル集めの趣味は周知の事実だ。


「どちらにしろ神官長はヘタレだ」

「ティオラは邪魔もんだしな」

「いいではありませんか、セリカは私が優しく可愛がりますから」

お兄ちゃんたちの声が遠くなるほど疲れてる。


過酷な修練(ダイエット)なんてしばらくしたくないよ……


「セリカ、聖騎士団長が来てる」

セルシア神官お姉ちゃんの声がした。

「え……どういう……」

「ルークス・オヤルルがセリカが行方不明だと帝都に駆け込んだらしい」

「ルークス……さん? 」

そ、そういや放置してきたね。

「オヤルル領地のライティーア巫女もファリシア巫女に招待状を送ったのに来なかったとお具合はいかがですという問い合わせが参りましたわ……素晴らしい筋肉の女性でしたけど」

うっとりとした副神官長の声まで聞こえる。


わ……なんとか起き上がらないと……

……筋肉? ライティーアって……


『私の巫女、確かにあの者は貧相であった』

頭にエウリール様から通信が来た。


はっきり華奢っていってもいいんですよ、エウリール様。


『私の巫女のふわふわまるまるの体型のほうが好きだ』

エウリール様が笑った。


エウリール様はなんか特殊な趣味の人らしい。


『私の巫女は謙遜しすぎだ』

いえいえ、謙遜じゃありませんから。

そういえばあの桃色の女性……誰だろう?

『私の巫女気にするな〜』

エウリール様がすごい勢いで逃げた。


ああ、知られたくないんだ……愛人? 正妃様? まあいいけどさ。



「ダンベルしすぎで死にそうですか?」

「いつもの頭に通信だろう」

「それより騎士団長がうるさいから通していいか? 」

お兄ちゃんたちが頭の上で話してる。


扉が開く音がして足音がまたした……迷いない足音……

お兄ちゃんたちが一瞬黙った。

ついでに生暖かい硬いものの上に頭を乗せられた。


「いい加減起きろ」

甘い声で囁かれて私はひっと悲鳴を上げた。

「なんでシューお兄ちゃんいるのさ」

私はやっと目を開けてぼやいた。

生暖かい硬いものはシューお兄ちゃんの筋肉質な膝枕らしい。

「あのくらいでへばるなどダイエッターの風上にもおけぬぞ」

「ダイエッターじゃないもん」

「今度もっともっと軽いダンベルを用意しておこう」

シューお兄ちゃんが小さく笑って私の額にくちづけた。


このダンベルマニア〜。


「シューお兄ちゃんのバカ〜」

私は涙ながらに硬い太ももをペチペチ叩いた。

シューお兄ちゃんが笑って騎士団長を通すが良いと告げた。


イリュゲス神官お兄ちゃんが不満そうに鼻を鳴らした。

そこに勢い良く扉が開いて紫の短い髪に緑の目の男性……メイーセント・キリニア・チリアエシ騎士団長が仁王立ちしていた。


怖くてシューお兄ちゃんの腕を持った。


「ファリシア看護師、無事に帰還したならなぜ報告に来ない! 報連相は基本だ! 」

どこかで死んだんかと思ったぞオヤルルの奴は要領をえないし神殿付きの聖騎士は謎の赤黒い物体に襲われたと連絡あげるし混乱の極みだ。 そうに騎士団長続けた。

「すみません、すみません、すみません」

私は起き上がって謝った。

本当は騎士団長のところで跪いて謝りたいのにシューお兄ちゃんがはなしてくれないんだよね。

「チリアエシ騎士団長、連絡を入れず申し訳なかったが……どこに目があるともしれない」

シューお兄ちゃんが私を抱き上げて騎士団長にゆっくり近づいた。

「シュースル皇子殿下に申し上げます」

騎士団長が騎士の礼をとった。

「私はエウリール大神殿の神官長だ」

「……未だチエアイス武王国の動きよめずアイルパーン竜騎国に嫁ぐ予定のハブータエ皇女殿下の婚姻進みません」

真剣な眼差しで騎士団長がシューお兄ちゃんを見た。


そうだよね……きちんと話してから帰れば良かったよ。


「おば上になにか言われたか?」

シューお兄ちゃんがふっと笑った。

「騎士団ちょ……ハブータエ殿下はこんなに進まぬならちょっとこちらに遊びに……いえそのともかくオヤルルとの婚約騒動を何とかして通常営業に戻したいのです」

騎士団長があわてた。


ああ、そういやハブータエ前騎士団長、そういう人だったよ……アイルパーンの国王陛下が息子の婚約者にご執心って聞いたような……どこのメロドラマだよ。


「オヤルル騎士にはきちんと謝ります」

そして婚約解消するんだ……それに偽造だったよね。

「きちんと引導渡してやってくれ」

騎士団長がため息をついた。

「あの腕輪は私のものだから早めに返してもらえ」

シューお兄ちゃんがニヤリした。


わー、神官長えげつない

男の純情踏みにじってますよ

そうですよ

いい筋肉ですわね

とうみんなから声が上がった。


いい筋肉ですわねって副神官長……


「ライティーアさんにも謝らないと」

「あの女は……私がなんとかしよう」

私のつぶやきにシューお兄ちゃんが答えた。


ついでにほっぺぷにぷにしないでくださーい。

ダンベルいりませーん。


うん、きちんと謝って仕事にもどらないとね。

そう、次は脇腹をもみだしたシューお兄ちゃんの手をどかそうとしながら決意した。


でも、私、忘れてたんだ……あの桃色の女の人とあった謎の水中の男性の事を……

世界は少し、ほんの少し澱がたまりはじめていた。


覇王がうまれそうになったり聖剣が巻き込まれたりするくらいには……


そして……エウリール神最高位の再生巫女の私もその騒動に巻き込まれてた。


あのグラ様のせいじゃないよね。

世界は知らない間に動いていくみたいだ……


ともかく今は現実をなんとかしようと心に誓った。


だから、ダンベルいらないってシューお兄ちゃん。

脇腹もまないで〜。

読んでいただきありがとうございます♥

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