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皇子神官長は溺愛中(ただしツンデレ。)3

天竜が空をかける。

私の腕の中のセリカがぴくりとも動かないのは心配だが早く帝都に帰りたい。


何かが後ろからおってきているようだ。

オヤルル邸から気配消しの術をかけているのに……

なぜ追える?


「一度、旋回します! お気をつけくださいね」

聖竜騎士が天竜に指示を出しながら叫んだ。


やはり気がついていたか流石、聖騎士……悪しきものの気配は読めるか。


竜が旋回する、後ろに赤黒いものが見えた。


「なんだあれは? 」

私はおもわず目を見開いた。

まるで瘴気の塊のようで不気味だ。


竜……なのか?何かが頭? に乗っているのが見えた。


「逃げられるとおもってるのでございますか? 」

招待状を持ってきた男が不敵に嗤った。


思わずセリカを抱きしめる。

セリカが身じろぎした。


「招待など受けない! 」

私は男を睨みつけた。

「貴方様は私にとっておまけでございます」

男が優雅に礼をした。

「セリカは渡さん」

私はしっかりセリカを抱きしめた。

「私はその稀有なるお方を渡していただければ見逃すといった覚えは無いですが」

ニヤっと男が嗤った、印象が違うな。

「もとより渡すつもりはない」

私は神聖術を練った。


神官戦士としてこのくらいは出来る。

だが……巫戦士たちの本能的な力が今切実にほしい。


「槍を出せ」

私は聖騎士に叫んだ。

「は!」

短く言って聖騎士は槍を構えた。

そこに神聖術をかけて威力を上げる。


「おや、そのくらいで私倒せるおつもりか」

楽しそうに男が杖を出した。


クロスボウを構えて神聖術で威力を上げる。

地上であれば普段の武器が使えるのだが。


赤黒い竜? が口を開けた。


「しっかりかの人をお護りくださいね」

ニヤニヤしながら赤黒い竜? から黒いブレスが吐かれた。


くるりとまわって聖竜がブレスを避けた。

ついでに聖騎士が頭の上の男に攻撃を仕掛ける。


「おっと恐ろしい恐ろしい」

スルリとソリかえって避けられた。

そこにクロスボウを打ち込む矢は神聖術の矢だ。


避けるそばから打ち込んでいく。


その間に聖騎士が槍を付き出していく。


「らちがあきませんね」

男が視界から消えた。


次の瞬間セリカのいる前に逆さに顔を出した。

なぜか動けない。

術か?術にかかったのか?


「かの人は頂いていきます」

セリカに手を伸ばす。


動け私の指動け! 私の身体!


あの男の手がセリカに届くのがスローモーションのように見えた。


「わたしに触らないでください」

セリカが顔を上げた。


今まで意識がなかったのに何故?


「下賤な男に身を任せているのに私の手を拒むのですか? 」

男が悲しそうな顔をした。

「あなたの手を取ることはありません」

見知らぬ女性……いや神聖な女神のようにセリカが毅然と答えた。

「貴方様はいつもそうだ、私を拒絶なさる……」

「私にあなたが必要ないからです」


静かに言い放たれる男が気の毒のようだ。


動く……動き出した。


「その下賤な男は貴方様にとって何なのです」

男が鋭い目で私を見た。


また、身体が動かなくなる。


「何者でもないです」

セリカが静かに微笑んだ。


そうか何者でもないのか。

力が一気に抜ける。


「でも、セリカにとっては愛しい相手ですね」

セリカの形をした何かが私にしなだれかかった。

おもわず腕が動いた愛しい女を抱きしめて男を見据えた。

天竜が宙返りしてそのまましっぽで男跳ね飛ばした。


「反撃成功!」

聖騎士が爽やかに笑った。


男は空中で止まってこちらを見ていた。


「下賤な者共の味方をするというのなら次は容赦なく回収させていただきます!」

「私はセリカの思う通りにしか動けません、あなたの主に伝えてください」

セリカが顔を上げて答えた。


男は次は必ずといって赤黒い竜? と共に去って行った。


なんだったのだろう……

ふと気が付くと下から目線を感じた、セリカ……ではないかの人? が見上げていた。


「重き運命サダメをもつかの方の血脈の皇子殿、セリカを愛していますか? 」

セリカの顔をしたかの人が微笑んだ。


セリカなのにセリカじゃない……


「なぜそんな事をきかれるのか」

素直に答えられない。

「あなたしだいで私のとるべき行動も変わるからです」

穏やかにでもしたたかな顔をかの人は言った。


ここで選択を間違ったら何かしそうな表情だ。


「私は……セリカをこの世の何よりも愛している」

少し冷汗をかきながら答えた。


赤紫の瞳が楽しそうに細められる。


「良かったですね、セリカあなたの想いは通じるようです」

そうかの人は言って気配を消した。


そして困ったように目をそらしたのは……


「セリカ、聞いていたのか?」

私はセリカが逃げないように腕の力を強めて耳元で囁いた。

「し、シューお兄ちゃん……わーん」

セリカが下を向いたまま顔を覆った。

「セイカはどう思っているんだ」

まあ、答えはかの人から聞いているがたとえ違っても離すつもりはない。

「……す、好き」

絞り出すようにセリカが言った。

「良く聞こえないぞ」

意地悪く囁いて耳たぶをアマガミした。

「シューお兄ちゃんの意地悪! ……シューお兄ちゃん大好き! 」

セリカが顔をあげて涙ぐんだ赤紫の瞳で私を見上げた。


ああ、なんて愛しいんだ……私も重き運命サダメを持つかの方の血をひいていると言う事か。

誰にもセリカを見せたくない、全て自分のものにしたい。


「そうか、では帰ったら覚悟しておけよ」

もう、離せる自信はない。

セリカの可愛い唇に口づけを落とした。


「神官長……独り身にきついんでいい加減自重してくれませんか」

聖騎士がうんざりしたような声を出した。

無視してセリカに再び口づけながら頬をつついた。


「セリカ、また太ったか? 」

プニプニの頬が気持ちいいが……エウリール神の所に早く還さないためにも健康で長生きさせないとだからな。


もちろんエウリール神に死後も渡すつもりはないが……現世でなるべく長く一緒に居たいからな。

ついでにわき腹ももむとやはり太っていた。


「セリカ……やせないと本気で仕事を辞めさせて私の部屋に監禁するぞ」

それは……いいなセリカを誰にも見せずに囲い込んで……

まあ、その前にセリカのお兄ちゃんを自称する連中が本気で邪魔するだろうが。

「わーん、シューお兄ちゃんのいじわる」

愛しい恋人が本気で泣いたのが可愛すぎるとはいい加減私も残酷な男だな。


帝都が下に見えてきた沢山の家々の立つ中央に各神の神殿や各省庁等を内包した皇宮が一つの町のように広大な敷地を誇っている。


天竜が皇宮の竜の門に向った。

竜の門は通常の門の上にあり飛んだまま入れるようになっているがもちろん警護は天竜に乗った聖騎士がいつでも配備されていて不正侵入は出来ないようになっている。

あらかじめ帰城申請がしてあるので手続きも簡単にすぐ通される。

そのままエウリール神殿の竜止めに舞い降りる。


聖騎士をねぎらってセリカを抱きあげたままおりて歩きだした。

一刻も早くセリカを自分のものにしたい。


「シューお兄ちゃん、あるけるんだけど」

セリカが可愛く文句を言った。

「……おとなしくだかれてろ」

いまさら離すつもりはまったくない。


セリカが黙った、なんか考え込んでるみたいだ。

まあ、おとなしくなったのならいいか。


「あのさ……シューお兄ちゃん、アミリアーナさん連れてきた? 」

セリカが小首を傾げた。


あ……聖槍アミリアーナ……忘れてた。


「……オヤルル領だろう、そのうち帰ってくる」

聖槍だから動けるしな。


まあ、嫌味タラタラだろうが。


「あそこに残しておくの心配だな……それにライティーアさんの招待うけちゃったし一度戻らないと」

セリカがぶつぶつ言いだしたので黙らせるために口づけた。

シューお兄ちゃんのバカとセリカが真っ赤になって涙ぐんだ。


可愛いな……ああ、やっとセリカを私のものに出来る。



めんどくさい自称セリカの兄どもが向こうからやってきた。

「お帰り、セリカ、怖かったでしょう」

イリュゲスがニコニコとセリカの頭を撫でようとした。

「どこのどいつが丸達磨をいじめたの、倍返しだね」

ティオラが好戦的な表情で拳をもう片手を叩いた。

別にいじめられてないよティオラ兄ちゃんとセリカがなだめた。

「神官長、お疲れのところ申し訳ありませんがオヤルル領からファリシア巫女の所在について問い合わせがきております」

アルリーア副神官長が何故か混じっていた、お邪魔はしたくないのですけどと小首をかしげる。

「セリカは私が面倒見ますから神官長はお仕事へいってください」

イリュゲスが眼鏡を光らせた。

私は思わずセリカを抱きしめる腕に力を込めた、この男がヤサゼシス叔父上の次に危険だ。

「あ……俺が面倒みるわ、神聖皇帝陛下がセリカの再生術をまたお望みなんで連れていかないかないとだしな」

ケイオスがポリポリ頬を掻いた。


重い運命サダメをお持ちのかの方の頼みならしかたない。

心の癒しのあの聖なる剣の化身の為なのだろう……


愛しいものを失いたくない気持ちはよくわかる。

だが……セリカは大丈夫なのだろうか。


「明日にはできないのか? 」

ゆっくり休ませたい……だが私のものにもしたい。


なんて自分勝手なんだ、私は。


「……それは一応セリカ自身から言わないと納得されないんじゃないですかね」

ケイオスが困った顔をした。


たしかにかの方はそういう方だ。


「俺とジァイオスが責任もって連れて帰ってくるからオヤルルさんの方をかたずけてきてくれよ」

ケイオスがそう言ってジァイオスを見ると任せろとジァイオスが短くうなづいた。


「シューお兄ちゃん、私大丈夫だよ」

だからおろしてとセリカが言ったのを無視してケイオスに渡した。


おい、セリカ重くなったな、太ったんじゃねぇかと笑いながらケイオスが子供抱きをした。

そのままジァイオスをひきつれて歩きだした。


ケイオス神官お兄ちゃん酷いと言う声が遠くなっていく。


あ、私が抱きますよとイリュゲスもおって行った。


「神官長、丸達磨をいじめたやつは本当に俺が許さないよ、おぼえておいてね」

ティオラがそうに言い捨てて神殿の方に去って行った。


「あらあら、お兄ちゃんたち過保護ね」

副神官長が笑った。

「オヤルルの方をかたずける」

そう言って私は歩きだした。


なるべく早く片付けてセリカを私の手に抱きたい。

やっと心が通じ合ったのにこれ以上まてない。


そのためにも障害は全て取り除いてみせる。

神も人間もすべてだ。


この世のすべてよりセリカを愛してる。

なんといわれようとセリカは私のものだ……


誰にも見せずに囲い込みたい。

駄文をよんでいただきありがとうございます。

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