美貌の巫女はある意味一途。
あの巫女さん視点です。
私こそ神妃ファーリシアの化身じゃ。
思い出すのは神代の記憶……
赤い髪のかの人と戦場を駆け抜けた。
あの方こそ我が君じゃ。
われの背の君じゃ。
空からけぶる世界が見えた。
あの世界は我が君と私がまた治めるのじゃ。
やめ……ダメ……
うるさい腰抜けは引っ込んでいるが良い、我が君を守れぬ腰抜けめ。
あのデブの最高位の巫女よりも優秀な私こそ帝都のエウリール神殿がふさわしいのじゃ。
寝所より身を起こし鏡に姿を写した。
さあ、これが今の私の姿じゃ。
「私こそ神妃ファーリシアじゃ」
うっとりとみつめた先にピンクゴールドの豊かな巻げと赤みの混じった琥珀の瞳の美女が同じ表情でうつっている。
「ライティーア様を神官長はお迎えに参ったのでございますね」
側巫女のエレファが素敵な殿方でしたわとうっとりとした目をした。
そなた、先日まで都落ちのアイオスをうっとりと見ていたでないか……帝都から来た方は洗練されてると言って……この多情め。
まあ、たしかに神官長……シュースル皇子殿下はいい男だがの、短い黒髪と冷たい灰色の瞳の美丈夫はあのデブ女にふさわしくないがの。
私が我が君と並べて可愛がってもよいかもしれぬ。
「確かに招待状をお渡しいたしました」
スッとあの男が現れた。
「さようか、で参るのか」
私は関心がないように羽根扇で自分を仰いだ。
「巫女ファリシアは受けるとおっしゃっていました」
「ふん、それで神官長はどうだったのじゃ」
もったいつけおってデブ巫女など関心ないわ。
「巫女ファリシアを抱えて帝都に逃走中です」
あの男がニヤリとした。
なんじゃと私の誘いを蹴ってブタ巫女と逃走じゃと……いい度胸じゃ。
「捕えよ」
「かしこまりました」
楽しそうにかの男が礼をして消えた。
『そうだ、求めるが良い……愛子にこそふさわしい』
我が神が赤い長い髪を深い青に揺らめかせ囁いた。
ゴボっと泡が上に上がっていくのが見えた。
最近よく聞こえる……
『我が愛子よ、力をわれに捧げよ……血を……戦を……さすればそなたも力と麗しさを増そう』
我が神の真紅の瞳が開いた。
そう……私は強く麗しくなるのじゃ、我が君を守るために……
もう、後戻りはできぬ。
深い深い青の底に我が神は……
扉がそっと開いてエレファが声をかけた。
「ライティーア様、ルークス・オヤルル様がお見えです」
「さようか、今にお通しするが良い」
私はウキウキと着替えに行った。
我が君と会うならばあの衣装が良い。
透けたピンクの絹を何枚も重ねた衣装にしよう。
居間には愛しい我が君が不機嫌そうに座っていた。
何故? 何故なのじゃ?
「ライティ、セリカをどこにやった」
我が君がたちあがった。
セリカ……セリカとは誰のことじゃ?
「我が君……セリカとは?」
「とぼけているのか! セリカは俺の婚約者だ! 」
我が君がよくわからないことを言った。
オレノコンヤクシャ……我が君の伴侶は今も昔も私だけじゃ……
「セリカにライティの胡散臭い使いの者が接触したのを見たものがいる! 」
「私の使いは神官長と豚巫女に招待状をわたしただけじゃ」
「セリカは豚巫女ではない! 」
我が君が怒鳴った。
そんなに大事なら我が君のもとよりさらしてやろう。
我が君は私だけ見ておれば良いのだ。
「そのセリカとやらは知りませぬ」
私は艶然と微笑んだ。
「お前の使いの者と会った後から見たものがない」
「私はセリカとやらはしりませぬ」
「……セリカはお前より高位のエウリール神の巫女だ」
我が君が話が通じないとはどういうことだとつぶやいた。
高位の巫女もついてきたのじゃな……我が君の自称婚約者は巫女ファリシアではないのか?
『そなたが気にすることではない』
ゴボゴボという泡の音と共に我が神様が囁かれた。
そうでございますよね。
「そのセリカとやらは逃げたのではありませぬか? 」
我が君の輝かしい御姿に恐れをなし自分の醜い姿をかえりみて逃げたのじゃ。
「……そういえば帝都から来た天竜がいなかった……帝都に使いに出したのかと思ったが……まさか……しかしセリカは責任感が強い」
呆然と我が君がたち上がった。
「私がおります」
帰したくなくてその腕にしがみついた。
「…………ライティ……君は変わった」
我が君が私の腕の中から腕を引き抜いて歩きだした。
ルー……きがつい……
うるさい腰抜け黙れりゃ!
「私は何も変わっておりませぬ」
私は去りゆく我が君を見つめた。
腰抜けが表面に出てないだけじゃ。
「気がついてないだけだ……」
振り向きもせず我が君は去っていかれた。
私と我が君は幼馴染の恋人同士であったはずじゃ。
変わったつもりなど少しもないのじゃ……
ちが……ルーはだいじな……
うるさい! この亡霊めが!
コヤツがうるさいのもきっと邪魔者のせいなのじゃ。
おのれ……セリカとやら許すまじ……
「エレファ、アイオス神官を呼べ」
私はお茶を片付けに来た側巫女に命じた。
「なぜ震えるのじゃ?早く行ってまいれ」
心を落ち着かせる為にネックレスを引きちぎった。
水晶細工の花が床に転がり落ちる。
やめて……たいせつな……
腰抜け亡霊、さっさと潜むが良い。
セリカとやらどうしてくれよう。
ふ、ふははは……
扉がノックされた。
入室の許可を与えた。
都落ちしたと評判のどこか愛嬌のある紫の頭の筋肉のよくついた神官戦士アイオスが静かにはいってきた。
コヤツは気配が薄い……
「あんなぁ、セリカはわいの妹巫女ですわ」
ポリポリと紫の頭をかきながらアイオス神官が答えた。
「その妹がなぜ我が君をたぶらかすのじゃ」
私は机をどんと叩いた。
ルー、ルー助けて……
亡霊が叫ぶ。
我が君はもうおらぬは。
「セリカとオヤルルはんが同じ部隊に配属されてるからやないですかい? 」
アイオス神官が今度は鼻をポリポリかいた。
ルー……夢叶えたのね……
亡霊がなぜか喜んだ。
自分のことでないのになぜじゃ?
そしてこやつもなぜ妹とも思う女を我が君に近づけるのじゃ?
じゃが……同じ部隊に所属とはオダーウエ聖騎士団のことかえ……セリカは巫女騎士ということか……つまり我が君は強い女が好きなのじゃな!
「そなたは神官戦士であったな、私に武術稽古をつけてくれぬか? 」
さすれば我が神のお望み通り戦乱も起こしやすくなろう。
神代のように戦場を我が君と駆け抜けるのじゃ!
ルーを巻き込まないで!
うるさい黙れや。
「どういう風のなん? 巫女はんは他のもんに護られてればいいんとちゃうんですか? 」
アイオスが愛想笑いでごまかそうとした。
「セリカに教えられて、私に教えられぬのか? 」
一介の神官戦士ごときが生意気な。
「肌が荒れますよって」
どうにかことわろうとする気が見え見えじゃアイオス神官慌てた。
たしかに肌が荒れるのは困るのう。
逃げて! 逃げるの!
亡霊があわてた。
「我が君は強さをお望みじゃ、それならばそなたの強さをよこすが良い」
そうじゃ鍛えるなど無粋なことやらぬ。
力を溜めた。
亡霊がやめてやめてと叫んでる。
うるさすぎじゃ。
「な、なんやて!? 」
腰を浮かして逃げようとするアイオス神官に我が神様の力をふるう。
アイオス神官より力が流れ込んだ。
破壊のための力……なんと素晴らしい捧げものと我が神様が囁くのが聞こえた。
気がつくと床に小さな紫色髪のひょろリとした少年が倒れていた。
つまりこのあたりから鍛錬したということなのだろう。
じゃが完璧に取り込めぬのは亡霊が邪魔したせいじゃな。
ごめんなさい……
亡霊がつぶやいた。
「マッチョ巫女……なんやようわからん」
ボソっとつぶやいた動けない少年……アイオス神官を我が力で作った時空空間に送った。
あそこは時が止まっている。
ついでに弱った亡霊も押さえ込んだ。
当分は出てこれぬであろう。
アイオスは豚巫女とセリカとやらをなんとかしたら取り出して愛でても良いかもしれぬ。
可愛らしい少年であった。
それまでに亡霊も消さねばならぬのしのう……
しばらくしてエルファがやって来たので入室の許可を与えた。
「失礼いたします、ライティーア様?」
エルファが目を見張った。
「なんじゃ? おかしいか? 」
私は鏡を見に行った。
筋肉の適度についた……それでも美しい私が写っていた。
ピンクの衣装は似合わぬが……新たな衣装が必要か?
戻るとライティーア様、かっこいいとつぶやくエルファがおったので衣装の調達を命じた。
やはり多情だのう……まあ、そのおかげでよい下僕じゃが……
「軍服とか騎士服とか似合いそうですね」
わくわくしながらエルファが端末をひらいた。
「チエアイス武王国の軍服も良いの」
エルファの後ろから覗くと錆鼠色の高襟軍服を着た白銀の髪の短い髪の男が写っておった。
チエアイス武王国の国王らしい……いい男じゃ。
ラルーナと申すのか、好戦的な黒銀の瞳が魅力的じゃ。
今度の事が片付いたら誘惑しても良いかもしれぬ。
我が神も取り込めといっておる。
ところでアイオス神官はとエルファが言いかけたので睨むと口をつぐんだ。
サッシの良いものは長生きするのう。
「とりあえず、神官戦士か巫戦士の服の予備をもらってきますね」
ちらりと筋肉でパッツンパッツンの服を見てエルファが部屋を出ていった。
さて、私はこの筋肉で我が君を喜ばせる準備をしようかの?
このような身体になったことがない身としては何をしてよいかわからぬが……
それにしてもいかにして我が君を出しぬいて神官長と豚巫女とセリカとやらは抜け出したのじゃ?
まあ、かのものが連れ帰ればわかるであろう。
我が神様の言う通りにすればきっと我が君も助かるのじゃ。
ゴボリと泡が浮いて我が神様が笑った。
そうだ、もっと争いを……われに力を……我が愛子よ。
そうにいつも囁いてるのが聞こえる。
はい……きっと……私は我が君と一緒になります。
そのためには手段を選ばぬのです。
きっと聖心のままにいたします。
豚巫女とセリカを排斥するのじゃ。
そして亡霊をかんぷなきまでに消滅させるのじゃ。
それが我が君と私の幸せのためなのだから。
私こそ正しいライティーアにして神妃ファーリシアなのじゃ……
そして我が君と幸せに世界を駆け巡るのじゃ。
駄文を読んでいただきありがとうございます♥




