プロローグ ぽっちゃりさんの休日
新作です。
よろしくお願いします。
昔から体型は丸々しいんです。
ええ、太ってました…ダイエットかぁ……
小さい感じのいいレストラン『勇者の食卓』から見える帝都オダーウエの風景は賑やかでどこか慌ただしい様子が見えて落ち着かない。
可笑しいな?私、オーレウス帝国の帝都オダーウエに何年すんでるんだっけ?まあ…はっきりいって外にはそんなに出てないけどさ…。
「セリカ、どうしたの? 」
親友のアンジェラ・ラニーハ・キリーアエゼが心配そうに言った。
名門キリーアエゼ家の若奥様は今日もおれるように細い身体を上質なコーラルピンクのワンピースで包んでいた、凝ったレースの飾り襟がかわいい。
「べつに、なんともないよ」
私はそういいながら自分をかえりみた。
まあ、背中の中程までのびた赤みがかった茶髪と赤紫の瞳は綺麗といえなくはない、顔立ちもお兄ちゃんたちはかわいいっていってくれる、問題は太ってることかな…。
服も大きいサイズの赤いフリフリチュニックに太もも太めの藍色のズボン……これしか無難なの無いんだよね…あとはフリフリしすぎだしな…あの人たちの趣味でさ。
「セリカはいいな、あこがれのオダーウエ聖騎士団の看護師だなんて! 」
「ええ? 怪我は多いし、天竜にはなめられるし、外出許可は機密保持でなかなかとれないし大変な職場だよ」
そんなに憧れるような職場じゃないよと思いながらハンバーグのクリームソースを付け合わせのポテトフライに絡める。
国家公務員だから外出許可が出ないのもあるけど私が特殊な事情をかかえてるせいもあるんだよね。
他のオダーウエ聖騎士団医務隊の人たちはきちんと外出届さえだして守秘義務保持符を貼ればよっぽどのことがないかぎり外出許可でるもんね。
今日はもぎ取ったけど医務隊の事務員さんに涙目でみられたよ。
「良いじゃない! 格好いい竜騎士様! ロマンスはないの?」
夢見がちな親友が指を組んで私を見た。
「まったくない」
そんなもんあるかい、こっちはその竜騎士様とやらの身体の隅々までみてるんだよ。
欲情もせんわ不味いところみても。
まあ、相手も太った私をみて、なんとも思わないだろうけどね。
そう思いながらパンをちぎって口にいれた。
しっとりもっちりのパンをかみしめる。
美味しいな…自家製なのかな?
どっかのパン屋なら聞いて買って帰ろうかな?
「もう少し夢みなよ、カッコいい騎士様がセリカだけを守ってくれるとかさ」
アンジェラがキラキラした目で身を乗り出した。
「別にやつらの実態はしってるし夢なんてみないよ」
寮父のピエーラスさんが連中の部屋は汚いしエロ本とか隠してるし、酒盛りは勝手にするしと嘆いてた。
女性連れ込んだ奴はさすがに減給処分されたらしいけどね。
それにアンジェラはしらないけど婚約者持ち
なんだよね…言うとうるさいから黙っとこ。
「それより、旦那様はどうなの? 」
私はハンバーグにソースをたっぷり絡めて食べながら聞いた。
アンジェラの旦那さんは皇帝陛下の側近だから同じ皇宮にいてもほぼ会わないし、格好いいって女聖騎士のチズさんはさわいでたけどさ。
「うん、元気だよ」
アンジェラがおざなりに返事をした。
「そう、よかったよ」
あんなにラブラブだったのに、年月たつとこうなるのか。
というかあんたら新婚だよね。
「あんなやつのはなしより、騎士団の話聞かせて? 」
アンジェラが水をあおった、酒じゃないんだしさ。
「悪いね、守秘義務があるんで話せないんだよ」
減給は嫌だしそれを理由に外出禁止された日にゃストレスでまた食べまくって太っちゃうよ。
秘密保持符で制限もされてるしね。
いったい何が聞きたいんだろう?
「だから、そういうのじゃなくて、誰が格好いいとか」
アンジェラが相変わらず、女子力皆無ねぇとため息をついた。
そんな乙女みたいなこと…チズさんに聞いてほしい。
「いや、その辺もよくわかんないな」
皇宮職員の女の子がキャーキャー騎士たちを見ていってるのも知ってるけどね。
内情知ってるだけに……
あ、あのポスターのチョコレートケーキ美味しそう追加注文しようかな?
「あんたはイケメンに囲まれてるからわかんないのよ」
アンジェラが人差し指立ててを振った。
注文した温卵のせキノコのドリアが確実に冷えていくのがわかる。
イケメンって……うちの兄ちゃんズのことかなぁ? 筋肉まみれだけど
「ご飯食べないの? 」
それよりも食べないんなら少しほしいな、ああ、でも太る。
ハンバーグを味わう、美味しい、皇宮職員食堂は安い早いうまいけど繊細さにかけるんだよな…。
「うん、ああ食べるわよ、それより私も結婚しないでオダーウエ聖騎士団に就職すればよかった」
「なにいってんのさラブラブなくせに。」
何夢みたいなこといってんのさ、あの大貴族の旦那にどれだけ迷惑かけられたことか……
すごく迷惑したんだからね。
あの旦那、アンジェラに結婚するか無理心中するか迫ったって言う噂があるんだけど……看護学校の授業中にアンジェラを連れ去るしさ。
「うーん、あのね……」
アンジェラがいいかけたとき私の通信機が鳴った。
着メロは職場だよ!緊急呼び出しかい?!
「ごめん、アンジェラ、私帰るね」
じぶんの分のお金を置いて私は席をたった。
それしか考えられないよね、私休みなんだから。
「もう、忙しないんだから! またね」
アンジェラが手をふった、もっと話したかったな。
何だかんだいって親友だしね。
特殊な私の事情に引かなかった稀有のね。
「うん、また連絡するね」
直ぐに通信機を確認する。
『緊急要請! ファルシア看護師、すぐ帰還されたし』
オダーウエ聖竜騎士団からの緊急呼び出しメールが赤々と入っていた。
やっぱり緊急呼び出しだったよ。
機密保持だからって情報もう少し入れてよ!
ごめんねとアンジェラに片手で拝んでお疲れ様と彼女から手を振られて席を立った。
店の近くのバス停をみると次にくるのは30分後だった。
仕方ないタクシー止めるか。
「すみません!」
私は高速タクシーを呼び止めた。
あとで経費請求書出してやる!
キューとないて地竜はすごい勢いで走り出した……よ、酔う、絶対に酔う〜
気持ち悪と思いながらよたよたと職場にいくとオダーウエ聖騎士団詰め所はバタバタしてた。
あそこに騎士団のキーニウス事務官がいる! 気持ち悪いけど情報の確認……医務隊の方は……いないよ……今日の勤務だれさ。
「呼ばれたけどどうしたの!? 」
「ファルシアさんよかった!ウエルサ君が訓練中に怪我して!」
キーニウス事務官が勢い込んで私の手をつかんで駆け出した。
つ、ついてけない〜早すぎ〜
なんとか訓練場にたどり着いて息切れを起こしながらあたりを見回すとウエルサ騎士が砂が敷かれた地面に横向きに倒れ込み、オヤルル騎士がお腹を押さえてた。
周りで騎士たちが取り囲んでいる。
クーアス騎士が血のついた模擬槍を茫然自失で地面に落とした。
うわー意識ヤバそう、顔色悪すぎ〜、しかも血まみれ〜
「どうしてこうなったのさ」
私は慌ててウエルサ騎士のそばに膝をついてだらんとした腕を持った。
脈は取れるけど、弱いし腹部をみると血まみれ状態だ。
あそこでもう一人倒れてるけど脳貧血だよね、騎士の癖に血が怖いんかい。
「模擬槍が当たった、辺りどころが悪かったようだ」
オヤルル騎士が脱いだ上着で圧迫して止血しながら答えた。
「ウエルサ騎士!」
声をかけると薄目を開けた。
冷汗をかいてるし、呼吸も早い。
うわーもうろう? ヤバすぎ、縫合かな?
「止血するから、ゼゼルハス医師を呼んで! 」
私はついてきたキーニウス事務官に叫んだ。
「それが……ギダルラーシア騎士団の方の野外訓練で怪我人が何人もでまして、応援要請で出払っちゃったんですよ」
だからセリカさんを呼んだんですと事務官が悲壮な顔をした。
だから非番でしかも外出中の私に連絡が来たらしい。
ギダルラーシア騎士団の医務隊も人数少ないし……日頃、持ちつ持たれつだからな……
「先生に通信機繋いで口頭指示で細胞再生術かけるから」
医師がいないんなら私がするしかないよね。
明日、起きられないかも?
けっこう高レベルの術にしないといけないしね。
「了解しました」
キーニウス事務官がすぐに通信機で連絡をする。
『セリカちゃんきいたよ、すぐにかけて』
ゼゼルハス医師が通信機の画面に出ていった。
画面越しに向こうもバタバタしてるのがわかる。
人が倒れてる。
こりゃ当分帰ってこないよね。
私は持った手首から力を流した。
目を閉じて瞑想するとウエルサ騎士の身体の情報が入ってきた。
右腹部に創部がある血管は少し傷ついてるけど、良かった、これなら一人でできるレベルだ。
ウエルサ騎士の腹部に力を集中させる。
細胞を活性化させて組織を復元し血管も塞がった。
よかったよ、内臓は傷ついてないみたいだ。
「すごいな」
オヤルル騎士が呟く声がした。
ウエルサ騎士の呼吸が落ち着いてきたみたいだ。
病室にはこんで様子をみようか。
発熱するかも知れないしね。
「直ぐに病室にはこんでください」
私は周りで見守ってた騎士たちに指示すると何人かで勢いよく持ち上げた。
筋肉集団半端ない、立ってるもんは騎士でも使わないとね
あんなでかい男もちあがらないもん、看護助手さんいないしね。
『造血剤投与しといて』
ゼゼルハス医師が画面越しに指示した。
「造血術の指示を」
その方が早い。
もう一回くらいならなんとか使えるし。
『だめ、いくらセリカちゃんでも術の単独連続使用は許可できません、こっちが片付きしだい帰るからね』
センセーと呼ばれてゼゼルハス医師が通信機をきりやがった。
まったくそのくらい大丈夫だって言うの。
「……ファルシア看護師はそんな術まで使えるのか?」
やや血まみれのオヤルル騎士が言った。
動揺する訓練相手の代わりに止血してたんだよね。
「知らなかったんですか? ファルシアさんは、戦神エウリール様のもうひとつの属性の再生の方の巫女です」
キーニウス事務官が病室の鍵はと言いながらこちらを向いた。
まあ、隠すことでもないけどね。
それが外出許可がでない一因です。
それだけじゃないんだけどね。
「エウリール神の巫女だって? 」
オヤルル騎士がビックリした眼差しでみた。
まあ、太った私がエウリール様の巫女なんて信じられないよね。
「キーニウス事務員、領収証です」
ほいっとタクシーの紙を渡すとキーニウス事務官がニコニコ受け取った。
想定内らしい。
悪かったね、巫女って全体的に華奢なイメージだしね。
私は小さいときに帝都の戦神エウリール様の大神殿に入った。
エウリール様の天啓を受けて再生面の力が授かったから。
再生面の巫女は珍しいんだ。
まして、戦いと再生の神の巫女は男が多い。
小さい子は少ないし、女の子は私一人だった。
以来、私の実家は皇宮と繋がるエウリール様の大神殿だ。
家族とあったのは数えるほどなんだよね。
だって、貴重な巫女を逃したくないから。
秘密保持と守秘義務もあるけど。
私に外出許可がでないのは……
まあ、仕方ないんだよね。
ここに就職するときも一悶着あったし。
「じゃ、病室にいくから」
帰ってくるまで一人で面倒みないとだよ。
ああ、代休請求してやる!外出許可もぶんどってさ。
私はそうおもいながら医務隊の詰め所券兼病室に向かってあるきだした。
「ありがとうございます、お疲れ様です」
タクシー代は後で精算しますとキーニウス事務官が病室の鍵を開けて騎士たちに抱えられたウエルサ騎士を入れた。
『私の巫女、無理するな』
ってエウリール様がいってるけど。
無理です、人いないから仕事いってきます。
ええ、私は珍しい戦神エウリール様の再生面の巫女です、さらに言うと、常時エウリール様と交信できる、稀有な巫女らしいです。
私にしてみれば、うるさいお兄ちゃんなだけなんだけどな。
『私の巫女、あまり、粗末にすると予定より早く神宮に召す、お前は私のものだとわからせてやる』
エウリール様がいつもどおり脳内通信した。
はいはい、そんなこといってくれるのは
エウリール様だけですよ。
きちんと来るときがきたらお仕えしますから。
さてと、休日出勤がんばるよ。
駄文を読んでいただきありがとうございます♪




