再生巫女看護師は業務中7
勢いで婚約(偽装)しちゃったよ。
…なんかおかしいような…。
砦の医務室で話を聞いたオリビシア先輩に非難するような目でみられたのを思い出した。
「私、軽率かな。」
処置用のガーゼを切りながらダルテアおじさんにぼやいた。
「うーん、セリカちゃんが本当にオヤルル騎士が好きならいいと思うけどね。」
ダルテアおじさんが物品補充をしながらいった。
窓の外には綺麗な月が見えている、静かな夜勤の夜だ。
緊急事態に備えて夜勤は患者が居なくてもある。
「オヤルル騎士…ルークスさん。」
考えてみる…好き…わからない。
気になるのはなるんだけど…。
「戸惑ってるのなら…考え直した方がいいんじゃない?」
ダルテアおじさんがそういって椅子に座った。
カササダ竜騎兵団が帰りつつあるのでもう少し様子をみたら帝都に引き上げが命じられるだろうという話だ。
「そうだ、帝都に帰る前にライティーアに会って婚約解消させないと…。」
そのあとは…どうやって…あれ帝都に帰ったらなんか不味いことがあるような。
「帝都に帰る気があるのね。」
オリビシア先輩が入ってきた。
き、今日は夜勤じゃないですよ。
「もちろん、帰りますよ。」
オヤルル領に残る用はない…よね、婚約解消させたら。
ついでに自分の方も決着を…。
って誰と決着…。
「シュー様にどうに言い訳するつもりなのよ!その腕輪!」
オリビシア先輩が首から紐を通して下げて服のしたに入れてる腕輪の紐を引っ張った。
腕輪とか指輪とかは菌の温床で感染症のもとだから勤務時間内はつけられないんだよね。
「シュー様?シュー…あれ、忘れてた。」
シュー様ってシューお兄ちゃんだ。
なんで忘れてるんだ…おかしい。
「婚約者のシュースル様をなんで忘れるのよ!この贅沢もの!」
オリビシア先輩がドンと机を叩いた。
「シュースル皇子殿下?まだ幼児じゃなかったっけ?」
ダルテアおじさんが不思議そうに小首をかしげた。
あれ…ダルテアおじさんもおかしい…。
「ダルテアさん、あなたまでふざけてるの?」
オリビシア先輩が目を見開いた。
「え?だってうちの子と同じ歳だし…うちはまだ4歳だから幼児だよね、うちの子元気でね。」
ダルテアおじさんが楽しそうに笑った。
確かにおかしい…ダルテアおじさんは子供はいない。
天涯孤独だとか言ってた。
『くっ、滓の影響か…いやまだその時ではない…私の巫女、気を付けよ。』
一瞬だけエウリール様が顔を出して消えた。
いつもはもっとなんか…。
気を付けるって何を?
「セリカちゃん…シュー様の事忘れた?」
オリビシア先輩が心配そうに聞いた。
あのシューお兄ちゃんをなんで忘れてたんだろう。
あの腕輪を渡す瞬間までは覚えてたのに。
「う…ん、なんかおかしい。」
オヤルル騎士から預かった腕輪を見る。
なんのへんてつもない普通の成人の腕輪だよね。
…ありゃ…ライティーアって彫ってあるんだけど…明らかに男物の腕輪だけど。
婚約って正式なものだったんじゃないのかな?
それならこの腕輪、オヤルル騎士に返さないとね。
いや…そのわりにちゅうちょなく私にくれたよね。
本人も気がついてない?
「セリカちゃん!ダルテアさん!一度脳外に診察もらった方がいいわ!心配よ!」
気がつくとオリビシア先輩が血圧計を手に叫んでた。
ダルテアおじさんがまず血圧を測定される。
「別におかしくないよ、僕はまだ若いし血圧なんて…いやおかしい…息子はしん…。」
ダルテアおじさんが血圧測定されてない方の手で顔をおおった。
「…高くも低くもないわ。」
オリビシア先輩がそういって聴診器を耳から離した。
「オリビシアちゃん、やっぱりおかしい、どこの脳外がいいかなぁ?」
ダルテアおじさんが顔を上げた。
「そうね、帝立医療院附属病院でいいとおもうけど、はい、セリカちゃんも。」
オリビシア先輩がマンシェットの空気を抜きながら言った。
「いいですよ…。」
別に調子いいし…でもなんでシューお兄ちゃんを忘れてたんだろう。
結局強引に計られて血圧高いわよ~ゼセルハス先生に相談しなさい!と怒られた。
…け、血圧もそうだけど私も脳外いった方がいいかもしれない。
シューお兄ちゃん忘れたなんてばれたら怖いよ~。
今度こそ監禁?絶食ダイエット?
でもその前に…オヤルル騎士の事も何とかしないとね。
なんかおかしい気がする。
そういえばオリビシア先輩以外は何も言わなかった。
月を見上げる大分動いたみたいだ。
うん、夜勤明けまで頑張ろうっと。
看護師の不養生よってオリビシア先輩に言われた方がショックだ~。
本気で少し痩せようかな~。
でも食べるのやめられないよ~。
あれ?またなんかわすれて…ああ、シューお兄ちゃんだ。
やっぱり脳外かな?
本当に記憶がおかしいよ。
シューお兄ちゃんだけは忘れないようにしないとね。
あとが怖いもん。




