再生巫女看護師は業務中6
砦の食堂は量勝負な感じで凝ってないけどそこそこ美味しい。
広い食堂はそこそこ混んでた。
勤務にあわせてとるから全員じゃないけどね。
「はい、大盛二つお待ち。」
カウンターにドンとトレーが置かれた。
今日のご飯はハムカツが三枚の下にキャベツの千切り具だくさんスープに大盛はパンは二本つくけどおかわり自由だ。
作戦中だから支給されてるんだしね…大盛に別料金請求されなくて良かったよ。
「お疲れ様です。」
間が持たずえへへと笑って目の前のオヤルル騎士に言った。
「ファリシア看護師も。」
オヤルル騎士が微笑んだ。
「混んでますね。」
オヤルル騎士の精悍な顔にドキドキしながら言った。
「セリカちゃん、ルーさん、邪魔だからさっさと持っていってくんな。」
食堂のおじちゃんが忙しそうにトレーを顎で指した。
「ごめんなさい。」
私が慌てて持とうとするとオヤルル騎士が二つ持ってくれた。
「飲み物を持ってきてください。」
オヤルル騎士がにっこり微笑んだ。
カッコいい男性と食事ってなんかドキドキする。
例え出張先の砦でも。
セルフのところでオレンジジュースと紅茶と水を二つずつ入れてオヤルル騎士が確保した席にトレーに入れて持っていった。
「ファリシア看護師…母が申し訳ありません。」
テーブルについたとたんオヤルル騎士に頭を下げられた。
「…あの、どういうことですか?」
戸惑う気持ちをかくしてハムカツを切り分けた。
「オレの体質に問題があるんですよ。」
ため息を付きながらオヤルル騎士がパンを手に取った。
「体質ですか?」
私はハムカツを特製ソースにつけた。
「ええ、この赤い髪と赤茶色の瞳は長年のなやみのたねでした。」
そういいながら、オヤルル騎士はパンにかじりついた。
「綺麗な髪と目だと思いますけど…。」
私はオヤルル騎士の顔を見た赤い短い髪が顔を彩って精悍さを引き立てている。
真剣な赤茶色の瞳にドキッとした。
「オレの父親は青い目と黒い髪です。」
ため息をついてオヤルル騎士が言った。
そしてあのお母様は…黒い髪に緑の瞳だった。
ま、まさかう…浮気?
「まるわかりですよ…オレと父親は色以外瓜二つなので浮気じゃありませんよ。」
オヤルル騎士がそういいながらハムカツをかじった。
「…隔世遺伝ですか?」
私はそういいながら、パンにハムカツとキャベツを挟んだ。
「ファリシア看護師も親と違う髪と目の色なのではないですか?」
オヤルル騎士が笑った。
「…さあ?わかりません。」
だって親と会うときって緊張してるし…ここ数年あってないもん。
でも…茶色の髪色だったと思うけど。
「あなたはずっと皇宮のエウリール大神殿におられたのですね。」
オヤルル騎士がため息をついて水にてを伸ばした。
「ええ、ほとんどの時間がそうですけど…。」
小さいときに家で顔もよく覚えてないお兄ちゃんにいじられたのは覚えてるんだけど…。
「オレは…オヤルル領の次男ですけど…昔からエウリール神の生まれ変わりとか言われてました。」
オヤルル騎士が少し視線を落として言った。
「………ええ?大神殿はなんで召喚しなかったのですか?」
私が再生巫女ってわかったときすぐに来たって聞いたけど?
「両親が隠したんですよ、神の化身がいればいずれ大きな力になるとね…まあ、おれはエウリール神と意思の疎通がとれませんけどね。」
オヤルル騎士がスープをかき混ぜた。
ええ?それで大丈夫なら私も大神殿に来る必要ないじゃん。
『私の巫女…こやつはたしかに私の化身だ…姉上にいざというときのために…まあ、言えないが…だが、そなたの力は…死にかけた者さえ戻すからな…両刃の剣なのだ…これもそれも…。』
エウリール様がよくわからないことを言った。
私はそんな力はないですよ。
『世界がもとめし…グラ…もう言わない…お前また自分の巫女を怒らせたな!なんだその雑草サラダは!』
エウリール様がなにかをごまかしながら去っていった。
「ファリシア看護師…セリカ、大丈夫か?」
目の前に赤茶色の瞳があった。
「オヤルル騎士…ちょっとエウリール様と話を…。」
私はこそばゆくなって笑った。
「あなたは…本当にエウリール神の巫女なのだな。」
私の目をのぞきこんでオヤルル騎士が驚いた顔をした。
「華麗なるライティーアもそうなのではないですか?」
確かシューお兄ちゃんに大神殿にめしあげろとか要求したって聞いたけど。
「そうだな…たしかにそういう瞬間もある…ライティーアは…いつでも自信満々だが。」
オヤルル騎士がそういいながらも心配そうに私のてを持った。
「それで…ライティーアとの関係は?」
それにどうやってばれないように化身なのを隠したんだろう?
「両親はオレと結婚させてオヤルル領の力にしようとしていた。」
オヤルル騎士がため息をついて私のてを握った。
「それで旦那様か…ところでどうやって化身だって隠したんですか?」
今だってそんなに気配を感じない。
私はなんとかオヤルル騎士からてを外した。
オヤルル騎士が少し傷ついた顔をして、心がずきんとしたよ。
「まあ、隠したと言うか…普段は全く力の発現はないんですよ。」
オヤルル騎士が私が抜いた方のてを見つめて言った。
「え?力とわかるんじゃないんですか?」
私なんて故郷で一回使っただけで迎えが来たって聞いたけど
「オレは個人は力の発現はできないんですよ、今のところは、巫女に使ってもらうと言うことです。」
オヤルル騎士はそういってからスープカップを握ってをイッキ飲みした。
「ライティーア巫女の力の源って。」
もしかしてオヤルル騎士?
「ええ、もちろんライティーアも力はあるのでしょうが…オレに執着している理由です、ライティーアは神妃の化身は自分だといっているのです。」
オヤルル騎士が困った顔をした。
「…そうですか、それで、私に婚約者のふりをしてほしい訳は?オヤルル騎士。」
私はさっきの悲しい目を思い出さないように聞いた。
「ライティーアにこれ以上力を持たせたくないのです。」
オヤルル騎士の真剣な眼差しと目があった。
食べようとパンにハムカツを挟んだものを持ち上げたところで動作が止まった。
「な、なんで…力って。」
別にエウリール様の巫女に力の増減はないはずだけど。
「あなたはやはりライティーアとは違う。」
いつものセリフをオヤルル騎士がいう。
でも…なんか体型のことじゃないのはわかった。
「…私はあの実は婚約者がいるんです。」
シューお兄ちゃんの冷たい眼差しがよみがえる。
皇室と国の利益を護るために結婚しようとしてるから…事務的なんだよね。
「婚約者がいるのですか。」
オヤルル騎士が驚いたらしくスプーンを落とした。
床にカランと音がする。
「はい、シュースル神官長がそうです…議会で決まった。」
それ以来冷たいシューお兄ちゃん…昔みたいに妹に戻りたい。
オヤルル騎士が考え込んだ。
諦めてくれるかな。
でも本当に…本当に、妹に戻りたい。
あの冷たい眼差しなんかみたくないよ。
「泣いているのですか?オレのせいですか?」
オヤルル騎士が気がつくとうつむいた私をのぞきこんでいた。
「…ち、違います、シュースル神官長が冷たいのを…やっぱり政略だから…。」
私はちょっと慌てて微笑んだ。
オヤルル騎士が立ち上がった。
スプーンでも取りに行くのかな?
私の席に近づく?
次の瞬間抱き締められた。
「オレはあなたを大事にします、そんな寂しい笑みは二度と浮かべさせない、セリカ、どうか婚約者になってください。」
オヤルル騎士が耳元で熱く言った。
「あ…あの。」
どうしたらいいの?
「このまま連れ去りたい。」
オヤルル騎士が甘く言った。
「おー、ルーがんばれー。」
誰かが応援した。
オヤルル騎士が気がついた顔をした。
「すみません、でも本気です。」
オヤルル騎士が私を離して言った。
あの…このままみられ続けて食事って恥ずかしいんですけど…。
本気で『婚約者』のふり頼まれたよ。
そんなに嫌なのかな?演技するほど…。
「あの…少しなら協力します。」
うん、ライティーアとの縁が切れるくらいまでならふりしてもいい。
「少し?……ありがとうございます、では婚約者ということでさっそく腕輪を受け取ってください。」
オヤルル騎士が成人の時に渡される腕輪をさしたした。
生と死の地母神オーラダー様は婚姻の守り神だから成人すると名前を刻んだ腕輪を授けられる。
結婚する(婚約時の時も多い)時に交換するんだよね。
そういえば…まだシューお兄ちゃんと交換してない。
やっぱり私結婚したくないんだ。
私は悲しくなって自分の腕輪をとりだしてオヤルル騎士にわたした。
オヤルル騎士が嬉しそうに腕にはめて私の腕にオヤルル騎士の腕輪を通した。
「これで、婚約者同士ですね。」
オヤルル騎士が微笑んで私を抱き締めた。
「ルーさん、良かったですね。」
誰かが言ったのが聞こえてざわつきが聞こえた。
「きっと幸せにします。」
オヤルル騎士が耳元でささやいた。
あの…婚約者のふりなんですよね。
本気のはずないよね。




